第4話 召喚師
「腕利きの魔導師とはいえ、まだ魔導書を頼りにしねぇと使えねぇなんて…もしかして噂は偽モンかー?」
「あんたに何を言われようと関係ないよ、ただ私はこの本を信頼している。」
顔色が悪く、倒れているアルディアを隅に寝かせ、自身の上着をかける。
にたにたと笑う相手には目もくれずルシアは魔導書を開いた
「さぁ…おいでなさい、静かなる世界よりこちらに来たれ…我が友よ」
そっと目を閉じ、ルシアは言葉を紡ぐ
「お前…まさか召喚師かぁ!?」
「炎の精霊…ポイニクス…!」
ルシアの背後に、両手が翼、足は鉤爪、燃えるような赤い髪が特徴的なポイニクスと呼ばれる召喚精霊が現れた
『ボクを呼んでくれるなんて…久しぶりだね』
「お前、最初私のことを魔法使いだと言ったな?…噂はそう広がっていたが残念だったな。…私は元々、召喚師なんでね」
余裕の表情を見せるルシアとは真逆に、先程までの気味の悪い笑顔が消え
どこか焦るような表情を相手は浮かべていた
「毒使いなら、解毒剤の一つや二つ…持ってるだろ?あとあんたの主人の居場所、教えてもらおうか」
にやっとルシアが笑えば、後ろにいたポイニクスの翼が燃え壁に燃え移り辺りを囲んだ
「ぐっ…誰が解毒剤なんかやるかよぉ!せっかく勇者さんが殺れるっつーのにんなことするかぁ!」
薙刀をルシアに向かい振りかぶる
ルシアはその場を動かず静かに相手を見る
「右…手始めに」
次の瞬間、辺りの炎がアバドンの右に巻きついた
「ぐっあぁっ!」
相手はその場に倒れうずくまる
焼かれた右腕にはひどい火傷を負い見るにも堪えない程だった
「いくら魔族で傷が治るとはいえ、痛みはあるだろう…」
一歩一歩ゆっくりと相手に近づく
アバドンは怯えた目でルシアを見ては逃げようともがくも周りの炎は消えることなく、逃がさないと意思表示がされていた
「…全身真っ黒に焦がされて、これより痛い思いをするか。解毒剤を渡して魔王の場所をはくか選ばせてやるよ…でも、拒否するんならあっさり死ねるとは思うなよ」
いつものルシアからは想像もできないほど目が据わっていた
冷たい目でうずくまる相手を見下ろし冷たい声で聞いた
相手は静かに頷き、武器を置けばポケットから小瓶に入った青色の液体を取り出した
「げっ…解毒剤…です。…そのまま飲ませれば…だ、大丈夫です…。魔王様の城は…み、南に行けばきっとあります」
ルシアの姿にビクビク怯えながらしっかりと白状した
完全に信じられはしなかったが、相手がこの期に及んで嘘をつくとも思えなかった
そうか。とだけ返せばまだうっすらと意識のあるアルディアの元へ急いだ
「アル、苦いかもしれないが我慢しろよ」
と言えば瓶の蓋を開けアルディアの口に乱暴に押し込んだ
ほぼ無理やり解毒剤を飲ませると、顔色はみるみる戻りルシアは胸をなでおろした
「アル。…アル!早く起きろ!」
胸ぐらを掴み頬を数回叩けば、ハッと目を開けた
「っゲホゲホ…っはぁ……死んだかと思った」
「私がいなかったら確実に死んでたんだから感謝しろよ」
胸ぐらから手を離すとそのまま後ろに倒れ後頭部を打ち痛そうに唸る相手を見て、またため息をつく
「あんた、まだ聞きたいことが…」
後ろを振り向くとアバドンの姿はなくそこにはルシアの召喚したポイニクスしかいなかった
「逃げたのか…?」
『そうみたいだねぇ』
「なんで追わなかった」
『命令には追えなんてなかったから』
ひねくれた返答をするポイニクスに深いため息が漏れる
もういいと言えばポイニクスはそっと姿を消した
「…なんか…ごめん。…めーわくかけたみたいだし」
「そんなの、幼少期から数えれば何百回巻き込まれたと思ってんだよ。気にすることない」
アルディアは自分よりも勇敢さを兼ね備えている彼女の方が勇者ではないかと思うも、どうせ冷たく返されるだけだと思いそっと胸の内にしまった
「とりあえず、情報がほんとか嘘かは分からないが…魔王がいるのは南の方向らしい、これ以上この街に滞在してさっきみたいなのが増えたら困る。早く移動しようぜ、勇者様」
いたずらっぽく笑えば魔導書をカバンに直し歩き出す
「今の…絶対馬鹿にしただろ」
不機嫌そうな表情を浮かべればルシアにつづき歩き出す
アルディア達はまだ知らなかった、魔王が勇者のことを聞きつけ…数々の刺客を送っているというのを…知る由もなかった