第3話 毒とアバドン
倒されてくれよ
そう言い笑う相手を見て
アルディアの足は動かなかった
「隙だらけだぜぇ…勇者さんよ!!」
相手は薙刀のようなものを振りかざした
薙刀には怪しげな注射にのようなものが付いている
咄嗟に剣を抜き守るも相手の方が力が強く
頬が少し切れてしまったがなんとか堪えている
「へぇ、流石は勇者って呼ばれてるだけはあるなぁ…非魔法使いのくせに。でも傷が付いたなら俺の勝ちかもな〜」
「っ…魔王の刺客か…」
相手はニヤッと笑い後方へ扉を距離を取る
切られたところの血が止まらない
「あったりぃ〜俺はアバドン、魔王様の刺客さぁ…魔王様の幻獣が倒されて今度は魔王様を倒すだぁ?そんなの無理無理、魔王様の元へは行かせねぇぜ」
「っ俺は…魔王なんか興味なんてない…倒そうとなんて…っ」
突然体の変化を感じた
声が出なくなり呼吸がしにくくなった
喉が詰まるようだ
苦しい
目の前がくらくらする…
その場に立っていられなくなり膝をつき意識を保とうと強く唇を噛む
「おー?毒回ってきたかぁ」
相手は楽しそうににたにたと笑う
毒?
「お前のその頬の傷から毒が入ったんだぜ?俺の武器はただの薙刀じゃねぇ…特注品で刃の部分からは後につけられた容器から毒が垂れ流されている…デスストーカーっつー蠍の強力な毒さぁ」
まずい
逃げないと
立ち上がり逃げようとするも足に力が入らず路地から通りにすら出れない
「苦しいかぁ?痛てぇかぁ?…安心しな、今すぐ終わらせてやるからよぉ!!!」
相手はケラケラと笑い俺の元へ近づく
その笑みを貼り付けたまま持っていた薙刀を振りかざす
死を覚悟し目を閉じる
「アル!」
声が聞こえ目を開けるとルシアとアバドンが剣を交えていた
「なんだなんだ?お仲間さんかよぉ」
「アルの帰りが遅いから来てみれば…っ…ほんと、昔からトラブルメーカーだなおまえは!」
剣を交え戦う二人を見るも意識が薄れここから俺の意識は途絶えた
何回か俺の呼ぶ声が聞こえたが毒が回り始めているのかもう答えることも体を動かすことも苦しかった
あぁ死ぬのか
それしか頭になかった
「アル…?アル!どうした!!アル!」
ルシアは急いで駆け寄りアルディアの肩を揺する
だがアルディアからの返事はなく顔色が悪くなる一方だった
「無駄無駄…もう毒回ってんだよ。あと数分も経たずに死んじまうかもなぁ」
「っ貴様ぁ…っ」
「情報は入ってるぜぇ勇者のお供さん、あんたは魔法使いなんだってな…しかも結構腕利きの。なぁ、あんたこっち側に来いよ…魔王様もあんたを気に入るぜきっと」
相手はにたにたとした笑顔をルシアに向け、勧誘の言葉を投げかけた
ルシアはその言葉を聞き鼻で笑った
「私はアルとあんたの主人を倒すって約束したんだ、約束を破るほど落ちた人間じゃないんだ。だから…」
ルシアは腰につけていたカバンから分厚い魔導書を取りだし相手に向ける
「お引き取り願うぜ、悪魔のアバドン。元いた地獄に帰りな」
「そうっこなくちゃあなぁ」
アバドンはニヤッと笑う
アルディアの絶命まで、あと10分