最愛
私が冴木竪、タツくんが『本当に大好きな人とは結ばれない』と言っていたのを聞いたのは直接では無かったと思う。2人の共通の友人がタツくんと私の仲がいいことを指摘して、『お前ら、そんなに仲がいいのなら付き合っちゃえよ』と言ったときに彼が発した言葉がこれだったように思う。偶然近くにいた私はそれを聞いていた。タツくんはその後別の機会に直接私に、『白田さんのことは保護者の気分で見ているから、恋愛とかそういう気分にはなれない。でも大好きだよ。困ったことがあったらいつでも声を掛けて欲しい。』と言ってくれた。これを聞いてとても複雑な気持ちだったのを覚えている。
彼が言うには私は年の近い娘のような存在なのだそうです。私はそれを聞いて密かに怒った。だって私の方が誕生日半年も早いんだよ。あなたは私のかわいい弟だと思っていたのに。
あの頃のタツくんには彼女がいたんだ。私とはまるっきり別のタイプの女性で大人っぽい人。私は一度だけ聞いてみたことがある。『タツくんは彼女のこと大好きなんじゃないの?』そしたら、『大好きではないと思う。』こんな答えが返ってきた。あり得ないって怒った私を見てタツくんは困っていた。しばらくして、タツくんは彼女と別れていた。
その後私も人並みに恋をして、娘が生まれた。その頃まではタツくんとも連絡を取っていた。だんだん離れて行ったのはなんでだろう。
あれから色々とありました。こころは今でもあの当時のままだけど、私はあの頃みたいに元気娘じゃないし、タツくんもすっかりおじさんになっちゃったね。頭の上がすっかり白くなっちゃってて随分苦労したのかな。私の頭もあんなに白いのかしら?
でもやっぱり私の中でタツくんはタツくんなのであって、あなたが今日お見舞いに来てくれたのは本当にうれしかったんだよ。
「タツくん、いまでも私のこと好き?」
「あぁ、大好きだよ。あの頃からずっと今でもね。」
「ありがとう。さっきも言っていたようだけど、タツくんは今でもやっぱり大好きな人とは結ばれないでもいいって思ってるのかしら?」
「こころが通じ合えていればそれでいいんじゃないかなって思っていますが。ダメですか?」
「もしここで私がそれじゃダメって言ったらどうする?」
ここは病室なんだよ。タツくん、いきなり私のことを抱きしめないでほしいな。ねぇ、もうそろそろ離して欲しいんだけど。私は病人だよ。向かいのベッドのお姉さんが生暖かい目でこっちを見てるよ。




