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手紙  作者: Pー龍
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追憶

 病院へ向かう途中、白田さんがあの頃好きだったはずの菓子を見つけたので買い求めてみた。病院についたのは午後4時過ぎ。病室の番号はさっきお母さんに教えてもらっていたのでわかっていたが、ナースステーションに声を掛けてから病室へと向かう。

 病室は大部屋で、その入り口の壁に掲げられていた表示によると白田詠子は窓際にいるようだった。


「失礼します。」

 どんな顔をして彼女に会えばいいのか、いろいろと考えてみたんだが特段これといった名案を思いつかなかった。いったい俺はいまどんな顔をしているんだろう。彼女と顔を合わせたとき、俺はどんな風に思うんだろう。

 緊張を抱えて病室内に入りベットに近寄ってみれば、彼女は静かに横になっていた。

 白田詠子はあの頃の面影を残したままの幼い顔で幸せそうに眠っていた。

 サイドテーブルの上に持参した菓子を載せ、彼女を起こさぬようにそっと椅子に腰をかけた。

 彼女の寝顔を見つめてみた。

 思い起こすことはたくさんあった。若い頃、彼女と一緒に行った旅行。もちろん大勢の仲間たちも一緒だ。大声で歌いながらはしゃいでいた彼女。夜中に元気な彼女に引っ張られて星空の下を駆け回った思い出。仲間たちと一緒にロケット花火で遊んだ夜。一緒に行ったクラシックコンサート、デパートの展示場で見た現代アート美術展、何も知らされず連れて行かれた映画、それを見て号泣する彼女。仲間たちに促され古着屋で買ってきたウェディングドレスを着た彼女と並んで写真を撮ったこと。彼女に引っ張っていかれたラーメン屋で大盛りを頼んでみたら量が多すぎたこと。店内にあった女優のヌードポスターに彼女が過剰反応していたこと。その多すぎるラーメンをかなり無理をしてどうにか食べきったこと。その日は

お腹が苦しかったこと。いつも元気すぎるほど元気な彼女に振り回されていた俺。それでいいと思っていた。あの頃あんなに元気だった彼女がこうして目の前にいる。彼女は入院している。ベッドの上の彼女の無邪気な寝顔は今でも俺に何か悪戯をしかけてきそうな顔なのに。

 さっきお会いできた彼女のお母さんは俺の記憶の中の姿からすればかなり老けてしまっていた。寝ている彼女の顔にだって時の経過した記録がしっかりと刻まれている。そりゃそうだ。あれからもう随分と時間が流れてしまった。あの頃はまだ産まれてもいなかった陽夏ちゃんがあれだけ大きく成長しているのだから。時は誰に対してもわけへだてなく同じだけ流れて行った。


 俺の気配を感じてしまったのだろうか、ベッドの上で横たわる白田詠子の目が開いてしまった。


「・・・・・・あれ? タツくん? なんで?」

「よぅ白田さん、ひさしぶり。」

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