病(やまい)
あの日ママは車の運転中に、突然頭の痛みを強く感じたようでした。その痛みは次第に増していったようで、耐えられるものではなくなっていきました。横で見ていた私にもその辛さは伝わってきました。
私たちは家に帰るのを止め、急遽病院へと戻ることとなりました。この時、ママは頭痛薬を処方してもらえればいいやと簡単に思っていた節があります。“夕食をどうしようかしら?” “この後買い物に出掛けるはずだったのに間に合うかしら” “今日は特売の牛ステーキ肉を買ってきて” “キャベツがもう無いのよ” そんなことを話していたような気がします。
病院ではママの精密検査が行われました。とてもとても長い時間が掛かりました。
「ねぇ陽夏、あなたは明日学校があるんだから、もう家に帰ってなさい。お母さんは夕食に間に合わないかもしれないから、これで帰りにコンビニの弁当でも買って、タクシー代5,000円もあれば足りるわよね。」
「ママ痛い? 痛いよね。ママを1人にするのは私、心配なの。だから、一緒に傍にいるよ。」
「ありがとう。でもやっぱり帰った方がいいわ。明日学校もあるんだし。」
「やだ、帰らない。私ママの傍にいるから。」
どうしてなのでしょうか、頑なに帰宅を拒んだ私でした。
ママは私の態度に呆れ果て、結局私が意志を通した形となりました。
精密検査が終わったのは夕方6時頃だったと思います。診察室でも更に1時間ほど待たされました。その間ママは痛みに苦しみました。ようやく感じの悪いおばさんナースに案内され、ママは診察室に入って行きます。30分程して診察室から出てきたママの顔は笑っていましたが、青白く儚げな笑顔だったと思います。
「陽夏、ママ入院しないといけなくなっちゃったみたいなの。」
「えっ?」
「心配しなくてもいいのよ。検査のために2、3日ちょっと入院するだけだから。」
「検査? さっきやってたんじゃないの?」
「そうよねぇ。私もそう思ったんだけどね、お医者様が言うには、あれよりもっと詳しい検査が必要なんだって。だから、今日は悪いんだけど陽夏、1人で家に帰っててくれるかなぁ。」
「・・・うん。」
「じゃ、これね。いまタクシーを呼んでもらってるから。」
そう言ってママは5万円を私に預けてきました。額が多すぎると言ったのですが、3日間何があるかわからないからとママは言い、私はそれを受け取りました。
「ママ、私明日お見舞いに来るね。何か持って来てほしいものある?」
「そうねぇ、下着とかかしら。あとは歯ブラシセットとお風呂セットかな。お願いできる?」
「うん。わかった。」
私はこのママから受けた使命をなんとしてでもやり遂げようと心に誓い、独りタクシーに乗って帰宅したのでした。