訪問
「はじめまして、冴木竪と言います。君が陽夏ちゃんかな。」
「はい。そうですけど・・・」
封筒の裏に書かれていた差出人の住所に行き、表札を確認した。そこに建っていた家の呼び鈴を鳴らした結果、出てきたのは陽夏ちゃんだった。
白田詠子の娘と出会うのはこの時が初めてだったんだが、産まれたばかりの頃の話を何度も彼女から聞かされていたので、俺としては彼女のことをどことなく懐かしく感じられた。目元や全体的な雰囲気なんかは白田詠子にそっくりだ。
陽夏ちゃんからみれば、いきなり初対面のおじさんがやってきて自分の名前を親しげに呼んでいたら警戒するのが当たり前だろう。
「おばあちゃんは家にいるかな?」
「はい、居ます。おばあちゃーん、お客さんが来た~。」
「(ちょっと待っててもらってね、いま出ていくから。)――――あら、懐かしい顔ね。ごめんなさい、すぐには名前を思い出せないわ。」
「いえ、当然です。冴木竪と言います。あの頃は随分とお世話になりました。実は俺もお母さんの名前を知りません。」
「いいのよ。私は詠子の母でいいの。陽夏のおばあちゃんでいいのよ。今日は詠子の件かしら?」
「はい。彼女が入院していると聞きまして、お構いなければ入院先の病院を俺に教えていただけないかと思い、こちらに寄らせていただきました。」
「よくここがわかったわね。」
「実家の方に何度か電話させて貰いましたが、どなたも出ないので少し調べさせていただきました。申し訳ありません。」
「いいのよぅ。冴木さんがそれだけ詠子のことを心配してくれてるってことですもの。娘は幸せ者だわ。実はさっき私たち病院に行って来たところなのよ。ちょっと待ってて、いまメモに書いてお渡しするから。」
白田の母親には学生の頃、何度かお会いしたことがある。俺のことを覚えていてくれたようだった。すっかりおじさんになってしまってあの頃の面影などそれほど残ってはいないと思うんだが、気付いてもらえたのはとても嬉しい。
陽夏ちゃんも少しだけ俺への警戒を解いてくれているように見えた。得体の知らないおじさんから、おばあちゃんとお母さんの知り合いのおじさんになれただろうか。
「冴木さん、ここにメモしておいたわ。今日これから出掛けるの?」
「はい。一度病院に電話してから行ってみようかと思います。」
「電話は私の方からしておくわ。早く詠子にあなたの顔を見せてあげて頂戴。」
「わかりました。ありがとうございます。」




