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手紙  作者: Pー龍
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焦心

 白田詠子が娘を産んだこと、その娘の名前を陽夏(はるか)と名付けたのだと聞いたのは白田詠子本人からだった。あの頃の彼女は苗字を替えていたはずだ。なんという苗字だったのかまでは覚えていない。

 あの頃の彼女は幸せだった。俺の知らない男性と幸せな家庭を築いていた。結婚前の彼女から頻繁に携帯に電話を受けていたのが、やがてその回数が減り、更にそれが年に1回か2回の手紙となり、彼女から届いていた幸せの報告は10年前にすっかり途絶えてしまっていた。彼女の幸福な家庭を(おもんばか)り、俺から彼女に連絡を取ることも無かった。

 俺と白田詠子の関係は特にこれといって何かがあったというわけでは無く、あの頃一緒に過ごしていた他の仲間たちから言わせれば、“仲のいい異性の友人同士”だと応えることだろう。実際その通りなのだ。彼女は俺にとって無二の親友だったと言っていい。石井は悪友だが、彼女は親友だ。いまでもその思いは続いている。

 それがこんな形で彼女の入院を知ることとなった。昔彼女から聞いていた携帯の電話番号を探してみたが、どこを探してみてもそれは見つからなかった。あの当時使っていた携帯電話はとっくに処分してしまっている。記憶の中のどこを探ってみたところで、そもそもどこかにメモをした覚えなど有りはしなかった。ひょっとしたら、既にその携帯番号すら変えてしまっているのかもしれない。彼女の実家の電話番号ならどうにか昔の記録からわかったんだが、そこへ掛けても誰も出やしない。彼女の母はきっと今ごろ入院中の彼女の世話をしていることだろう。

 彼女が今もカメラマンをしているとすれば、業界関係者から何かが聞けるだろうと片っ端から知り合いに連絡をしてみたんだけれど、わかったのは彼女が2年前くらいから仕事を受けていないということだけだった。ここから俺が想像できることと言えば、彼女が2年もの間ずっと体調を崩しているのかもしれないということだけだ。

 居ても立っても居られない、そんな気分に駆られた俺は石井宛の郵便物に記された差出人の住所を尋ねていた。


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