居酒屋
「よぅ、甫、遅くなってすまんな。今更広報活動でも無いと思うんだけど、さっきまでプロデューサー様のご命令でラジオ番組に出てたんだよ。遅れちまって悪い。」
「おぅ、評判なかなか良いらしいじゃない。どうだ? 売れっ子映画監督様になった気分は?」
「うん、悪くない。まだそれほど顔が売れてるわけじゃないからね。街でエッチな本も自由に買おうと思えば買えるし。これで世間に顔が割れてコンビニで買い物するたびに『アレ冴木監督じゃね?』とかなったらそれはさすがにやばいよな。――――水割りロックでお願い。それとモツ煮込みと焼き鳥二人前。」
「本当にそうなったら超売れっ子じゃねえか。金ガッポガッポ稼いで、さっさと引退して海外でセレブ生活すりゃいいんだよ。――――すいません、俺生ビールおかわりで。」
「俺が英語全然しゃべれないの知ってるじゃねーか。日本語しかしゃべれねーよ。」
「お前知ってるか? 金払えば通訳雇えるんだぞ。」
「四六時中、通訳なんぞ雇ってられるか。それにそんだけ売れるためにはまだまだあのプロデューサーの下で鞭打たれ続けなきゃならんだろうさ。」
冴木竪と石井甫、この2人の映画監督は日頃から互いのスケジュールを調整しては安居酒屋に集まり、一緒に酒を飲んでいた。1人は実写映画の世界で活躍し、もう1人はアニメ映画界で活躍とその仕事は似ているようで似ていない部分も多く、互いにライバル心が無いわけでもないのだけれど、刺激を受け与えるいい関係を続けていた。
この日も2人の男は互いの近況を報告し合うため居酒屋に腰を下ろしていた。
「冴木、これさぁこの前知り合った女の子から届いた手紙なんだけどな、お前に貰ったあの映画のチケットその子にあげたんだよ。で、その子さっそくお前の映画を見に行ったらしくてな、その感想が少し書いてあるんだ。どうだこれ読んでみるか?」
「そりゃいいな。生の観客の声は貴重だからな。特に若い女の子の意見はより一層貴重だね。でもいいのか? それお前宛の手紙なんだろ。」
「別に構わんだろ。見せて問題のあるような手紙じゃねえよ。要約するとだな、あの映画のエンディングが気に入らないって書いてあるぞ。」
「そうか。早く見せてみろ。おい、これお前の写真か?」
「おぅ。その女の子が撮ってくれた写真なんだ。その子のママ、カメラマンなんだってよ。」
「ふーん、そうなんだ。・・・白田・・・白田・・・」




