通りすがりの救世主
ベンチでこれからいよいよ自転車を置いてタクシーに乗るべきか、それともこのままひたすらに自転車突いて進むべきかを真剣に悩んでいたら、目の前に立ちどまった車の中から声が聞こえてきました。
「お嬢さん、どうしたの?」
「・・・・・・」
知らないおじさんに声を掛けられたら、反応に困るのが女子中学生(学校には行ってませんけども)というもの。これは逃げるべきでしょうか?
反応に困って固まっている私を余所に、おじさんは車から降りてきます。私はいよいよ大声を出して逃げようかとその心の準備に入ります。まずは呼吸を整えましょう。
「あぁ、自転車パンクしてたんだね。ちょっと待ってて。」
このおじさんは、バス停のベンチに座る不審な脱力少女を心配してわざわざ声を掛けてくれただけみたいです。警戒してしまって申し訳ない限り。おじさんは何やら車の中を捜索中。こんな私を助けてくれるんでしょうか。藁よりはきっと縋り甲斐がありそうなので、おじさんに期待しちゃってもいいのかな。
「あったあった。」
おじさんは色々持って来てくれましたが、私には何が何やらさっぱりです。ちらちらと見る限りではおじさんのお顔は意外と私の好みのタイプでした。ナイスミドル風。サングラスとひげが似合いそう。
「お嬢さん、この自転車おじさんが治してもいいかな?」
「おじさん、自転車屋さんですか?」
「違うよー。おじさんは映画を作ったりする人。壊れたものを治すのはおじさんの趣味なんだ。」
「へー、そうなんだ。」
「どうだろう、治してもいいかな? この自転車、おじさんに治させてくれるかな。」
「どうかよろしくお願いします。」
おじさんは持ってきたバケツにペットボトルの水を入れ始めました。腕まくりをして、なんだか楽しそうです。あっという間に自転車のタイヤを外してチューブを取り出していきます。すごく活き活きとしたおじさんの顔。これは・・・
「おじさん、写真撮ってもいいですか?」
「写真かい? 別にいいよ。でもこんなおじさんなんか撮ってもしょうがないだろう。」
「いえ、面白いです。」
急いで一眼レフを取り出します。もっと早くに声を掛けるべきでした。チューブ外してるトコロの写真が欲しい。でもさすがにやり直しを求める度胸はありません。
「いいカメラ使ってるね。」
「ママのカメラを借りてます。」
「そうか、大切に使うんだよ。道具はプロの命だから。壊したらママ泣いちゃうぞ。」
「ママがプロのカメラマンだってわかるんですか?」
「そんないいカメラ使ってる女性なら素人じゃないって思ったんだよ。おじさんもカメラ大好きだからね。」