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お前らみんなゴミ虫だ!

作者: 志水ミコト



「本の虫と本能寺って似てると思わない?」

「思わない」

 ユナはリエが言った言葉にうんとは言わなかった。

「や、似てるでしょ。だって文字数いっしょだし、最初『本』から始まるんだよ?」

「断固として似ていない。というか見た目からして違う」

 妹のリエはあまり頭がよくない。小学五年生で始まった歴史の授業が苦手らしく、本能寺と本の虫を間違えて書くわ、中臣鎌足はお約束通り生ゴミの塊になっているし、ペリーは何をしに日本に来たでしょうという質問には「カステラを持ってきた」と答える有様だ。

「ネタに走ってるでしょ、リエ。そんなんだと中学に入って置いてかれるよ?」

「だって、ただ暗記するなんてできないよ。語呂合わせで覚えたほうがずっと楽だと思ったら……なんか語呂合わせのほう書いちゃったんだもの」

 ユナは中学三年生。リエの言い分もわかるが、中学に入ってからの勉強の大変さは熟知しているつもりだった。ここで甘やかしちゃいけないと、自分に言い聞かせる。

「ほらほら、生ゴミの塊は何やった人?」

「大化の改新をした人」

「なくようぐいす?」

「へーあんきょう」

「北条時宗はどこと戦ったの?」

「えーと……」

 自分のおさらいもかねて、妹の記憶力チェック。やっぱり人の名前を覚えるのが苦手なようだった。

「ねーちゃん、本能寺で信長はどうして死んじゃったの?」

「明智光秀が下克上したから」

「悪い殿様だったの? 信長って」

「知らない。鳴かぬなら殺してしまえほととぎすってくらいだから、怖い人だったんだよ」

「猿は? 猿はどうして朝鮮を攻めたの?」

「ボケたんだよ」

「ねーちゃんはどうして色々そんな教科書にのってないことまで知ってるの?」

「そんなの本読めば載ってるの! もう、ちゃんと勉強する気になれば、やさしく書いてある本なんていっぱいあるんだからね」

 ユナはお姉ちゃん気取りでリエにそう言った。リエはユナが自分より頭がいいと思っていることを察してかちょっとご機嫌斜めである。

「本能寺と本の虫は似ていると思う」

「どうして?」

「どっちも燃やせばなくなるし」

「大きさ全然違うじゃん。本能寺どれくらいの大きさか知ってるの?」

「お姉ちゃん知ってるの?」

「知らない」

「本の虫だってもしかしたらアマゾンの蛭くらい大きいかもなんだよ?」

 ユナはリエの主張に「そうねえ、」と言いかけてはたと気づいた。

「リエ、あんた本の虫って、本にくっついてる虫だと思ってる?」

 そのときのリエといったら、ユナが言ってることが全然わからない、本にくっついてる虫でなかったら何だというのだという顔をしていた。

「リエ、座りなさい」

 テストを横に置いて、ユナは座布団の上に正座して、リエと向き合った。

「今から本の虫というのがどういうものか教えるために」

 リエがごくんと喉を鳴らす。

「漫画喫茶行こう」

「へ?」

「あそこにいっぱい本の虫いるから」

「きもちわるい!」

「うん。オタクはある種きもちわるいって言われるよ。さあ行こう!」

ぎゃあぎゃあ抵抗するリエのことを引っ張っていき、さあ受験勉強から逃げて漫画を読む口実ができたぞと思ったユナだった。


「ねー! みんなここにいる人たちみんなゴミ虫なの!?」

 しかしリエの一言によって、漫画喫茶は十分で退室しなければいけない羽目になったのだ。


(了)


本の虫 答え合わせ

『タイムマシン』『本の虫』『答えあわせ』『また会う日まで』『はらから』『薄紅』

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