綺麗な『君』が、君の『綺麗』が好きなんだ
君は、そこに居た。
純白の、大きな羽を持ち、それは君の心を移すかのよう。
ふわり、舞う。
心が、揺れた。
胸のあたりが軽くなって、ハート形が飛んでゆくような……。それはまるで、花の香りに誘われる蝶のよう。
「ねえ、君はなんで。何でそんなに美しい羽を持っているの?」
「えっと、あ、ありがとう、ございます」
「……」
頬を、愛らしい桃色に染めて、ふわり、羽のように笑む。
……言うまでもなくこれは、僕の質問に対する答えではない。
「貴方は、その、綺麗ですね」
「……僕が綺麗」
君の言葉を口にする。『綺麗』だなんて言葉は、僕とはかけ離れた言葉だ。
僕の心は『経験』に黒く染められて『何も知らない』微笑みをたたえる君とは違う。
「君の好きなものは何?」
「私は……綺麗なもの、が好きです」
君の好きなものは綺麗なもの。僕は『人』というのは、自分と違うものを求めるものだと思っている。勿論自分だってその仲間。だって僕は人間だから。
でも、君は『天使』だから。だから君は、自分にあるものも無いものも等しく欲しいのだろう。
「天使って不思議」
「そうですかね」
僕の言葉に、君はこてん、と首を傾げてふわっと羽をゆるく動かす。
君の羽は、本当に綺麗だ。
「ふふっありがとうございます」
「え」
「私、読めるんです。人の心が」
何で、と聞けば天使だから、と当然のように返ってくる。
まあ、確かに。そう言ってしまえば納得出来なくもない。
「ありがとうございます。私はこんなにも褒められたことは無いです。だから、とても嬉しいです」
ふんわりと浮かべた笑顔。
何もかもが純白で綺麗だ。そんなふうに思っているのも、きっと、君には分かってしまう。
別に嫌ではないけれど、恥ずかしいとは思うのである。嫌ではないけれど。
「あら、もうこんな時間です。お別れしなきゃ、ですね……」
眉の端を下げて薄ら、涙を浮かべた。きらり光る涙がこれほどまでに美しく見えたことはない。
今にも消えてしまいそうな君。
「嫌だよ」
僕がそう言っても、君は涙を浮かべたまま首を横にふる。それもまるで幼子のように。
「貴方に会えてよかったです。私は存在していていい天使。貴方のおかげでそう気づきました。貴方のためにも、私は天使として存在し続けます。だから」
――だから、貴方も強く、強く生きて
あれは、僕の夢だった。
なんだ、夢オチか。でもいい夢を見た。そんなことを思いながら毎日を過ごし、やがて僕は幸せな最期を迎えた。
別に、家庭を持ったわけでもないけれど。それでもいい終わりだった。
こんな僕には勿体ないくらい。
「貴方に相応しい最期だと思いましたけどね、私は」
振り返る。
君がいる。
ああ、やっと会えたよ、君に。どれだけ待ったと思っているんだ。
『やっと、会えた』
あれは、一時の夢なんかじゃなかったみたいだ。今も目の前で、こうして君は存在している。
僕の背にも羽が生えて、金色の輪が頭の上に浮かんでいる。
君も僕も、同じ格好をしている。
綺麗な羽を付けている。隣でずっと笑っている。
僕の本当の幸せは、綺麗な、すごく綺麗な君の隣にいること。ただ、それだけのこと。
ご愛読ありがとうございました。
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