クリスマス特別SS3
※ジェンド視点でお送りします。
クリスマス、か。夢のある話ではあるが、もう自分も小さな子供ではないから関係ない。さんたの正体は、きっと親なのだろうな。そんなことを考えながら、寝ようとした。しかし、寝れなかった。
なぜなら、壁と窓が轟音とともに吹き飛んだからだ。
「はははははは!!ウルファネアマ……じゃなかった!さんた参上!!」
壁と窓を吹き飛ばした超弩級の大馬鹿野郎は高笑いをあげている。さんたはそっと枕元に下げた靴下にプレゼントを入れていくのであって、こんなド派手な登場はしないだろう。しかし、壁と窓を吹き飛ばしたことよりも放置できないことがあった。
「それはさんたじゃなく変態だ」
ナニをとちくるったのか…いや、うちの馬鹿親父の事だから話を適当に聞いていたのだろう。白いポンポンがひとつと縁に白いファーがついた真っ赤な帽子は合っている。
白いファーに縁取られた、赤いマントもいいだろう。問題は、その中身。
馬鹿親父は赤いビキニパンツしか着用していなかった。
馬鹿から変態…いや、変質者へと残念すぎるクラスチェンジをはたしていたのである。
「で、何しに来たの?変態丸出しの格好で」
「ぬ?これが由緒正しいさんたスタイルだぞ!」
後に、この話は本当だったと裏が取れてしまったのでロザリンドに報告した。余談だが、ウルファネアのさんたはよい子にはプレゼントを持ってくるが、悪い子はしばき倒すらしい。おかげでウルファネアの子供達はくりすます前限定でお利口さんになるそうだ。
ロザリンドがきちんと調査した結果、救世の聖女による茶目っ気爆弾だったことが発覚した。流石はロザリンド…というかリン?の身内。意味がわからない。
リンカの身内でもあると思ったら、なんか納得した。
とりあえず、寝たかったので対親父戦における最終兵器を起動することにした。
「おかーさぁぁん!!お父さんが壁壊したああああ!!」
ドアを開けて叫ぶ。うちの母は馬鹿ではないのでこの部屋の轟音を聞いた時点で予測していたのだろう。すぐ鞭を持って駆けつけてくれた。
「で?なんで壊したのかしら?」
「いやその……ジェンドをビックリさせたくて……」
「寒いのに壁を破壊されたこの部屋でジェンドは寝るわけ?少しは考えなさいよ!この、駄犬!!」
「キャイイン!」
史上最強の英雄も、怒る嫁には敵わないらしい。後ろ手に縛られて母に鞭打たれる父を眺めながら、今夜の僕の寝床をどうしよう…と考えていた。
すると、こんな夜中なのに呼び鈴が鳴った。両親はまだSMプレイ中なので、警戒しつつ僕がドアを開けた。
真夜中の訪問者は、いつも部屋を修理してくれる魔法大工さんだった。
「あ、すいませ~ん。壁直しに来ました~」
「…父の依頼ですか?」
「え?はい。そうですね~。時間指定の依頼…しかもこんな夜中なんて初めてだからど~しようかと思いましたよ~。お得意様じゃなかったら断ってましたね。深夜料金までいただきましたし~」
「………そうですか」
馬鹿親父は馬鹿なりに気を遣ったらしいが、別のところに気を使えよ。しかし、今夜の寝床は問題なさそうだ。
「あ、すいません。少しお待ちください」
いくらなじみの魔法大工とはいえ、両親のSMプレイを見せたくはない。
「は~い。もう1ヶ所の時間は大丈夫かなぁ」
「……………もう1ヶ所」
嫌な予感しかしなかった。しかし、大切な家族の平穏のため、見て見ぬふりはできない。ただでさえ幸薄い異母兄の不幸と心労を見過ごすわけにはいかない!
そして、予想は大当たりだった。
「もう1ヵ所は行かなくて大丈夫かもしれません。すいません、キャンセル料として代金は納めてください」
「え?な、なんかジェンド君怒ってない!?」
「大丈夫です…あの馬鹿親父に全てをぶつけますから!!馬鹿親父ぃぃ、覚悟おお!!」
そして自力で縄をちぎった馬鹿親父と僕の熾烈なるおいかけっこが始まった。
「わははははははは!父はそう簡単には捕まらぬぞおお!!」
すでに目的を忘れている馬鹿親父。そして、僕は捕まえたいのではなく馬鹿を全力で殴りたいのだ。
「……なんの騒ぎだい?父上!?寒くないんですか!?」
「うむ!寒い!!」
「……ですよね。その格好はウルファネアのさんたですよね?」
そして、兄はとんでもない情報を教えてくれた。
「くりすますは明日ですよ?」
僕は倒れた。馬鹿親父も倒れた。やだもうこの馬鹿親父。お母さんにしばき倒してもらおう。そうしよう。
そうして疲れきった僕は修理された自室で横になったのだが…………よく考えたら翌日また戦わねばならないのだと気がついて余計に疲れてしまった。
そして、翌朝。僕と兄さんは作戦を考えることにした。壁が壊れるのは仕方なくはないが、未然に防げない………いや!まだ手はある!!
「……話は解りました。責任持ってジェラルディンさんはなんとかします。最悪、一日監禁します」
「「よろしくお願いします」」
馬鹿親父をどうにかできるのは、ロザリンドと母さんだけだ。母さんにもよくお願いしておいた。
二人から叱られて悲しげに鳴く父を見て、馬鹿親父ざっまあああああ!!と思ったのは言うまでもない。
翌朝、起きたら枕元にプレゼントがあった。部屋を確認したが、どこも壊れてなかった。ただ、馬鹿親父に気がつけなかったのがかなりショックだった。修行がまだまだ足りない…。
追伸・プレゼントはまともでした。僕のは新しい旅用マントで、兄さんのは万年筆。無理だとは思いますが、来年からは普通に渡して欲しいと思います。
さんたにお礼の手紙を書いたら喜んでました。ほんの一瞬気の迷いでちょっとかわいい気がしました。気のせいです。




