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幸せな側妃様

 きっかけは、幼い少女のひとことだった。お茶会で親しくなった親友のまだ幼い娘。



「アルフィージ様を、よく見てあげてください」




 最初、なんのことかは解らなかったけれど…アルフィージを観察してみてすぐに理解した。アルフィージはアルディン様を心から大切にしている。(わたくし)が悪し様に言うのを、辛そうにしている。



 愕然とした。



 (わたくし)は、ちゃんと息子を見ていなかったのだ。アルフィージより幼いあの娘…ロザリンド嬢の方が息子をよく理解していた。

 (わたくし)はずっと…何をしていたのかしら。息子に理想を押しつけて、息子に感情を殺させて……



「最低だわ…」



 だからせめて、アルディン様と和解した。アルディン様は歩み寄ってみれば、素直で弄りがいがある可愛い子だった。忌み嫌っていた(わたくし)にすら素直になついてくる。(わたくし)は、下らないことに意地をはっていた。本当に大切なのは、息子の幸せだ。歪めた分も償うと決めた。





 あれから7年。アルフィージと(わたくし)は、恒例になったお茶会をしていた。


「あの件はどうなったの?」


「問題ありません。母上に仲介していただいたおかげでスムーズにいきました」


 おかしいわ…母と息子というか、これじゃ上司と部下の会話みたいじゃない!もっとこう………アルディン様と正妃様みたいな会話が欲しいわ!


「…アルフィージ、そういえば、お前もそろそろ結婚を考えなくてはね」


「…そう、ですね」


 おや?反応が微妙だわ。これは話が嫌というか…言いにくいのね?つまり…!


「まああ!ついに好きな女の子ができたのね!どちらのご令嬢なの!?言いにくいということは、平民!?」


 アルフィージが盛大に動揺してむせた。


「な、なんでそうなるんですか!?」


「え?観察と考察の結果かしら」


「才能の無駄遣いしないでください!」


「あら?大事な息子に2度と無理を強いないためにも、(わたくし)はちゃんとアルフィージを見ると決めたの。無駄になんかしてなくてよ」


「……………」


 どうやら今度は照れたらしい。解りにくいが、可愛いものだわ。


「で、誰なの?平民でも反対はしないわよ。アルフィージが選んだ娘ですもの」


「母上………ありがとうございます」


 アルフィージは幸せそうに微笑んだ。王家としては正しくはない。でも、(わたくし)は母親として間違ってないと思ったわ。




 アルフィージの想い人は、ラビーシャ=ワルーゼという平民の獣人だった。これは確かに言いにくかろう。平民だけでなく獣人なのだから。そして、影に探らせようとした。




「「「申し訳ありません」」」




「…………そう」


 影に探らせようとしたが、皆して見事に返り討ちにあった。かなり手練れの影であっても気配を察知し返り討ちか撒かれる。しかも加減されており、いずれも軽傷である。俄然興味が湧いてきた。


 唯一探れたのは、ラビーシャ=ワルーゼがウサメガネという名前で小説を広めている、社交界でも大評判だということだ。

 ラビーシャ=ワルーゼを理解する、いい判断材料になるだろう。本人が何を好むのかが読み取れるかもしれない。とりあえず、全巻揃えて暇なときに読み進めることにした。








 徹夜した。








 いや、面白かった。甘酸っぱい恋愛だけならば珍しくないが、ご令嬢を傍観する専属メイドという第3者目線。更に、ご令嬢は自分から婚約者を口説き、愛し、甘やかし…女性が受け身であることが美徳とされるクリスティアにおいて、革新的である。


 しかし、惜しいのはこれの良さを全力で語れる相手がいないことだ。






「正妃様」


「…フィージア様?」


「貴女、こういった本が好きでしょう?差し上げますわ」


 正妃様は(わたくし)に怯えていたけれど、かまわず本を渡した。絶対、正妃様(あのひと)なら気に入るわ。間違いない。




 翌日。




「フィージア様っ!!」


「!?」


「あああ、フィージア様申し訳ありません!ルディニア様、落ち着いて!」


 朝一番で(わたくし)の私室に駆け込んできた正妃ことルディニア様。(わたくし)は予想通りだったから驚いていないけど、(わたくし)とルディニア様の侍女達は蒼白だ。大丈夫よ、叱ったりしなくてよ。


「ありがとうございます!あんなに素晴らしい小説を貸していただけるだなんて!何度も何度も読み返しましたわ!婚約のシーンがまた素敵で…!」


「わかりますわ!それから、ルディニア様、その本は差し上げますと申しましたわよ。ちゃんと(わたくし)の分はありましてよ。それより…こんな朝早くから来るなんて、ちゃんと朝食は食べましたの?まだでしたらご一緒しましょう」


「喜んで!ああ…フィージア様!今日は隣に座ってもよろしいかしら!是非あの小説について語らいたいですわ!」


「仕方ないですわね……」


 ふっ…作戦成功!普段はやかましいから相手にしたくないルディニア様ですけど、こういったモノを語らいあう時の彼女はなかなか興味深い意見をくれる。さらに(わたくし)が熱く語らっても同じく熱く語らうのだ。


「…………妃達よ。何が起きた。明日は槍か?」


「「明日は晴れるらしいですわ」」


 珍しく朝食に同席した陛下が何やら驚愕していた。陛下が知らないだけで、(わたくし)最近はたまにルディニア様とも話すんですのよ。


「ルディニア様…」


「はい」


「続き…読みます?」


「喜んで!!」


 こうして、(わたくし)達は共通の趣味により急激に仲良くなった。


「本当に何があったんだい?」


「母上達が仲良しで嬉しいです」


「……謎ですね」


 陛下とアルフィージが困惑し、アルディン様は素直に(わたくし)達が仲良くなったのを喜んでいました。特に陛下はルディニア様暗殺でも企んでるのかと心配していましたわ。失礼な!今は企んでませんわ!






 ラビーシャ=ワルーゼの小説、最新作。それは息子がモデルとしか思えない話だった。設定が男同士の恋愛で少しかわっているが、面白かった。


 (わたくし)は、早速正式にラビーシャ=ワルーゼを呼び出した。ラビーシャ=ワルーゼは可憐な少女だった。


「な…なんのご用でしょうか…」


 影を使っているのが(わたくし)だと知っているのだろう。怯えたように見せながら、警戒しているのがわかった。兎の耳は周囲の音を探って…………うさぎ?


「………氷王子と白兎?」


 まあ!きっと最新作はアルフィージとこの子がモデルなんだわ!外見上は無表情だが、あの話から察するに充分脈ありだと内心浮かれていた。


「すいませんでしたああああ!!」


「は?」


「あ、アルフィージ様に憧れてまして、妄想全開の話を書きました!なんでもしますから、どんな罰も受けますから、アルフィージ様にだけは内密に……!」


「あらあら、うふふ」



 ラビーシャ=ワルーゼの弱味を手に入れた(わたくし)は、時間が空くと彼女を呼び出した。


 当初は警戒していた彼女だが、今はそれなりに会話もしている。そして、(わたくし)の着せかえ人形にさせられている。

 実は(わたくし)は可愛らしいものが大好きだ。似合わないから自分では着れない可愛らしいドレスをラビーシャに着せて満足している。彼女は息子の妻に…つまり義娘になるのだから、ドレスはいくらあっても無駄ではない。むしろ今から多少準備しておくべきである。


「あの……フィージア様、楽しいですか?」


「このドレスだと…こっちのリボンかしら………ええ、楽しくてよ、とても楽しい。これも捨てがたいわね」


「フィージア様、こちらのコサージュはいかがでしょうか」


「まあ!流石だわ!これにしましょう。ではこれをつけてお茶にしましょうか。ラビーシャ、(わたくし)のことはお義母様と呼んでもよくってよ」


「お母さま…」


 ラビーシャの瞳から涙がこぼれた。


「ラビーシャ?」


 (わたくし)が母だなんて嫌だったのだろうか。仲良くなれたと思っていただけに、ショックだわ。


「あの…すいません。こういうの…なんか嬉しくて、うちの母さん脳ミソまで筋肉みたいな人だったけど、生きてたらこんな風にドレスを一緒に選んだりしたのかなって思ったら…」


 なんと可愛らしいのかしら!感激してラビーシャを抱きしめる。優しく背中を撫でていたらアルフィージが来てしまった。


「何をしているんですか、母上!」


「抱きしめているわ」


「見たらわかります!」


「なら聞かないでちょうだい。ラビーシャは(わたくし)とこれからお茶をするんだから」


「…なんで泣いているんです」


 アルフィージが明らかに苛立った様子だ。こんなに表情がわかりやすいのは珍しい。本気でラビーシャを愛しているのだろう。


「あの…自分の母親を思い出したら泣けてきちゃって…」


「そうよ。ラビーシャは(わたくし)の友人で(わたくし)に招かれたからいるの」


 ラビーシャの様子からも嘘はないと判断したらしく、アルフィージは表情をゆるめた。


「ところで、ラビーシャ嬢のドレスは母上が?よく似合っているな」


「ぴゅいっ!?ありがとうございます…」


 まあ…やはりかなりの脈ありだわ!ラビーシャが嬉しそうだもの!


「あ!大変だわ!(わたくし)としたことが、これから大切な用件があったのよ!アルフィージ、(わたくし)の代わりにラビーシャ嬢を歓待してくれるかしら」


「かしこまりました」


 こっそりと『感謝します』と囁かれた。ラビーシャの兎耳がぴくりとしたから、彼女にも聞こえたようね。


「ではまたね、ラビーシャ」


 さて、急ぎではないが、仕事はある。ラビーシャを息子が口説いている隙に、外堀を埋めていかなくてはね。どう見ても両想いだから、ラビーシャが落ちるのは時間の問題だわ。身分差については、あらかじめどうにでもなるよう、準備しておかないとね。





 そして、現在。


「お義母様!かくまってください!」


 無言でテーブルクロスを捲るとテーブル下に隠れるラビーシャ。


「母上、ラビーシャは来ませんでしたか?」


「見てないけど?可愛い義娘をいじめたりしてないわよね」


「いえいえ、まさか。全力で愛でてますよ」





 それが逃げた原因ね。




 妙に納得してまい、ゆったり紅茶を飲む。アルフィージは別のところを探しに行った。


「助かりました…ありがとうございます、お義母様…」


「どういたしまして。愚息が申し訳ないわ」


「い、いえ…すいません。アルフィージ様は悪くないんです。甘やかされすぎると恥ずかしくて……」


 息子が幸せで、可愛い義娘ができて…かつて望んだものとはまったく違う未来になった。

 今がかつて望んだ結末よりも幸せだと思う。


「そう…あの子は貴女が好きで仕方ないの。あの子をお願いね」


「はい!ところで例の件なんですが…」


「あら…ふふ…」


 策謀も嫌いじゃないんだけど、なんでこう…アルフィージとラビーシャが相手だと上司と部下みたいな会話になるのかしら?まあいいわ。


 だって(わたくし)、今とても幸せだもの。


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