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アルフィージ母VSアルディン?

 魔法で常に適温にされたはずの室内で、私は冷や汗をかいていた。


「フィージア様、こちらへどうぞ」


「…アルフィージ?」


 席をすすめるアルディンを無視して、これはどういうこと?と母が睨んできている。私はそっと目を逸らした。


「…今日のお茶会はアルディンも参加します」


 どうにかこれだけ伝えた。


「今日のお茶菓子はスゴいんですよ!あのロザリンド嬢が腕によりをかけて、フィージア様のためだけに作った、まだどこの茶会にも出していない逸品です!」


「…………まあ」


 アルディンとロザリンド嬢のナイスアシストにより、母は多少機嫌を直したらしい。ロザリンド嬢の茶菓子は王城でも、貴族の社交界でも一種のステータスになっている。母のためだけに、しかも他の茶会で出されていない品だ。自慢になるし、母の自尊心も満たされる。


 ロザリンド嬢はもはや都市伝説的存在と化しているが、本人はそれを知らない。半分以上………いや、大体事実を足してみると、ロザリンド嬢は断罪の魔女王から始まり、肉の聖女やらレシピの女王やら…謎な称号がありすぎる。おまけに公爵を潰すわ、騎士の内通者を炙り出すわ、ウルファネアは救うわ………あれは人間かが怪しい。


 思考がそれた。視線を戻すと、アルディンが甲斐甲斐しく母に構っていた。冷たく視線を逸らされようと、アルディンはニコニコしている。


「こちらがチョコという珍しい菓子を使ったケーキです。フィージア様の好みに合わせて甘さは控え目。こちらはブランデーを使用したケーキです。もし気に入られましたら、保存がきく品ですので是非お持ち帰りください。ロザリンド嬢から、フィージア様は白百合のように清楚で凛としているからとフィージア様のイメージでラッピングしたものも預かっております」


「…まああ」


 可愛らしく上品にラッピングされたブランデーケーキとやらも出される。ロザリンド嬢、かなりのサービスだな…母の機嫌はかなり上向いた。


「あの、クリームはお…私が絞ってもいいでしょうか?今日のためにロザリンドに教わって、何回も失敗して、ようやく上手く出来るようになったんです!」


 初めて母がアルディンを見た。ため息を吐くと、苦笑した。


「勝手になさい」


「!!はい!」


 アルディンは嬉しそうに白いクリームを絞り薔薇をつくり、黒いクリームで茨を描いた。


「いかがですか?」


「…まあまあだわ」


 初めて母がアルディンに微笑み、頭を撫でた。アルディンもびっくりしたらしく、固まっている。


「…貴殿方、いつまで(わたくし)を待たせるつもりなの?席につきなさい」


「はい!」


「…はい」


 アルディンと並んで席についた。


「…アルディン様がいいこだってことくらい、(わたくし)だって知っていますわよ…」


 母の拗ねたような僅かな呟きが聞こえた。


「すいません、母様。アルディンを…好きではないと知ってはいましたが、私はアルディンと母様も仲良くしてほしいと…我が儘な考えを……」


 上手く言えないが、これが本心だ。母に私が王位を継ぐのを諦めさせた挙げ句、更に望むなど強欲だと思う。でも辛かった。大好きなアルディンを悪く言わないで欲しくて、こんなにいい弟なんだって…知って欲しくて…こんな、騙し討ちみたいな真似をした。


「お、俺もすいません!俺もフィージア様と仲良くしたくて、騙しました!ごめんなさい!」


「……………ぷっ」


「「は?」」


「あははははははは!もう!おかしいったら!あっはっはっは!!」


「母様?」

「フィージア様?」


「まったく。貴殿方の仲がいいのは嫌でも理解しているわ。聞こえてくるもの。アルフィージ、不満があるなら直接おっしゃい。(わたくし)に遠慮し過ぎなのよ…いえ、そう仕向けたのは(わたくし)ね。思えば、(わたくし)がお前の心からの笑顔を見たのは…あのお茶会ぐらいだもの」


 母が苦笑して立ちあがり、私のそばに来た。私に手を伸ばし、優しく抱きしめる。こんなふうにされたのは…いつぶりだろうか。


「ごめんなさいね、アルフィージ。ずっと…辛い思いをさせて。(わたくし)が間違っていたわ。あなたは王様になるより、アルディン様と仲良く暮らしたかったのにね」


「は…あ…」


 言葉にならない。何かいわなきゃ。頭が、まとまらない。


「兄上!?」


「見ないふりしてやんな」


「え?わかった!」


 カーティスがアルディンに何か言ってる。わからない。


「あ…あ…あ…あああああああ!うああああああ!!」


 自分が泣いていると自覚したのは、途中からだ。感情が制御できない。初めてだ。


「あああああああ!あああああああ!!」


 泣くことなんて許されなかった。偽の笑顔ばっかり上手くなって…本心を忘れてた。忘れたふりをしてた。


「アルフィージ…ごめんなさい…そうよ、泣きたいなら、泣いていいの」







 しばらく泣き続け、ようやく涙は止まった。


「ひっく…………う……も…らいじょうぶれす」


「…そう。それにしても、アルフィージはいいお友達をもったわね」


 母が微笑む。そこで、私の頭がフル回転した。いや、してしまった。そんな…まさか…!?


「出てらっしゃい、ロザリンドちゃん、ルーベルト君」


「フィージア様鬼畜…」


「あ…なんか…ごめんね…アルフィージ」


 予想通り、ロザリンド嬢とルーベルトが茂みから出てきた。


「……………………母うえええ!!!」


「あははははははは!」


 半泣きになりながら叫ぶしかなかった。ロザリンド嬢とルーベルトに前回の反省を活かして今回の事はあらかじめ相談していた。彼らはお節介だと思いつつも…特にロザリンド嬢は母と仲が良くなっていたから『私』をよく見て『嘘』に気がついてほしいと話したらしい。母は馬鹿ではなかったので、それで理解したらしい。


「あ、兄上…ごめんなさい」


 そして、アルディンもグルだった。実は母が主体で巻き込んだらしい。流石は元派閥のトップ。こんなところで無駄に才能を発揮しないでほしい。


「うう…」


 もう頭を抱えるしかない。


「ま、まぁ…結果オーライってことで…」


 確かに、母とアルディンは予定通りすっかり仲良し…というか…いつのまにそんな仲良しに……アルディンはすまなそうにチラチラしているが、母は楽しそうにアルディンをいじっている。確かに予定通りだ。予定通りだが……………


「納得がいかないぃぃぃぃ!!」


「ぎゃははははははは!!」


 室内に私の叫びとカーティスの爆笑が響いた。

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