幸せな王子様達
俺の主、アルディン=クリスティアは幸せな王子様らしい。ロザリンドが俺達をつけた理由は解る。アルディンは危うい。素直さは美徳だが、白は黒と違い、他の色に染まりやすいものだ。
アルディンに小肥りした貴族が近づいてきた。俺達…俺とヒューは離れた位置から観察していた。
「アルディン様~!これはこれはご機嫌うるわしゅう!」
「ああ、久しいな」
小肥り貴族は挨拶もそこそこに本題に入った。
「しかし、アルディン様。新入りのあの派手な近衛。アレはよくありませんぞ。毛を派手に染めて、気持ち悪い」
「貴殿も染めているが?」
「……」
うん。小肥り貴族は白髪染めな。俺はウイッグな。
そういう問題じゃねぇぇぇ!!と内心盛大につっこむ俺。笑うな、ヒュー!声だしたら殺す!
「えー、私はあのように奇抜ではないと思いますが…」
「あれは公式の場ではきちんとしている。普段の姿は皆もう慣れたから、誰も気にしてない」
「しかし、あのようなおかしな騎士を連れていてはアルディン様の評価が下がります!」
「アデイルは賢い。俺にとてもわかりやすく勉強を教えてくれて、ヒューと共に俺が最も信頼している近衛だ。アデイルの格好程度で評価が落ちるなら、俺の努力が足りんということだな!助言、感謝する」
小肥り貴族はポカーンとしている。でたよ、驚きの白さ。何がスゲーって、あれ嫌みでもなんでもない。素だ。天然なんだよ。小肥り貴族は毒気を抜かれて去って行った。
「アデイル、ヒュー!俺は皆に認めて貰えるよう頑張るからな」
「はいはい」
「期待してるよ、ご主人様」
そんなある日、アルディンに大仕事が任された。普段なら外交関連はアルフィージに任されるものだが、期待してるよとアルフィージから直接頼まれた。当然アルディンはやる気で、頑張って準備した。
仕事内容は魔術大国ウィザードリィの外交官との交渉。外交官の名前を聞いて、ヒューが顔をしかめた。
「あいつかぁ…」
「何か問題が?」
「性格が超悪い。アルフィージ並。アルフィージと相性悪いだろうな」
「……」
アルフィージ並に性格が悪い…か。大丈夫かね、アルディンは。
そして当日。たどたどしいながらもアルディンはウィザードリィの言葉で外交官に挨拶をした。
しかし、外交官は性格が悪かった。相手がたどたどしい話し方だから解らないと知った上で早口で母国語を使い会話する。通訳も早口だから聞き取れなかったようだ。聞き取れたヒューが言い返そうとしたのを目で止めた。
アルディンは目を伏せたが、きちんと外交官と目を合わせて会話した。
「申し訳ない。早口過ぎて解らなかった。貴殿は語学が得意だと聞いている。クリスティアの言葉は解るだろうか」
「問題ありません」
なら最初からクリスティア語で話せよといらついたが、アルディンはさすがだった。
「そうか、貴殿はすごいな!流石は外交官だ!!」
アルディンはキラキラしながら尊敬の眼差しを外交官に向けた。怯んでる怯んでる。うちの王子様には皮肉も嫌がらせも通用しねーぞ。
「え…う…」
「貴殿の発音は素晴らしいな!クリスティアの民と変わらない。何か覚えるコツはあるのか?」
「私はクリスティアに留学しておりました。その国で暮らせば嫌でも覚えます」
「留学か…貴殿は他の国にも行ったのか?」
「はい」
「そうか。貴殿は自分の国が好きか?」
「はい。でなければこんな面倒な仕事はいたしません」
言外にお前みたいなガキの相手したくねーと言っている。しかし皮肉が通じるアルディンではない。
「そうか。貴殿に愛されて、国も王も幸せだな」
「なんでそうなる!?」
おい、外交官。敬語飛んだぞ。
「何か変な事を言っただろうか?国が好きで、面倒な仕事をも王のためにこなしているということではないのか?」
「…ああ、もうそれでいいです」
外交官のメンタルが確実にゴリゴリ削られている。
「うむ。貴殿のように優秀な外交官が居て、王も誇らしいだろうな。では、仕事をするとしよう」
「…そうですね」
結果。かなりクリスティアにとっていい条件で条約を結べた。
「貴方の今後に期待します。いい王様になって、今後も我が国と仲良くして下さい。今回は貴方への期待もこめて譲りました。次はこうはいきませんよ」
底意地悪そうな外交官は優しく笑ってアルディンを撫でた。
「ああ、礼を言う。だが、こちらに良い条件すぎやしないだろうか。貴殿は大丈夫か?」
「馬鹿正直っつーか…いいんですよ。今回だけですから。アルディン様がいい王様になれば、我々にとっても利益があるんです。期待をこめてと言ったでしょう」
「ああ!約束しよう!俺はよき王になって、貴殿の国のよき隣人となる!ありがとう!」
素直に笑うアルディン。すっげーな、お前。あんな性格悪そうな奴を浄化しやがった。浄化と言いたくなるぐらい、外交官が爽やかだ。ビフォーアフターで変わりすぎだろ。
ちなみに結果報告したら、アルフィージもびっくりしてた。
「ええ!?あの狐…じゃなかった、あの外交官にこの条件で!?偉いぞ、アルディン」
「えへへ」
兄に褒められ嬉しそうなアルディン。後で聞いたら、アルフィージはわざと難しい外交官にあたらせ、改善点を考えさせる予定だったらしい。しかし、さすがはアルディン。斜め上である。外交官浄化の話しを報告したら、アルフィージが爆笑していた。
俺達が仕える幸せな王子様は『皆の幸せを考えて、結局自分も幸せになる王子様』である。
そして、アルフィージは『かわいそうな王子様』らしいがアルディンがいる限り、かわいそうになることはないだろう。
クリスティアには『幸せな王子様達』が居る。それはきっと、これからも変わらない。
そして白は染まりやすいが、アルディンの白は漂白の白だと思う。周りも白くしてしまうんだ。いつかは俺達も灰色ぐらいになれるかな?と思った。




