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かわいそうな王子様とカーティス

 俺の主になったアルフィージは『かわいそうな王子様』なんだとさ。近衛になった俺に、同僚は言った。


「どうせ近衛になるなら王になるアルディン様の方がよかったよな」


「アルフィージのが面白いから、俺はアルフィージがいいなぁ」


「……変わってるな」


 変わってるっつーか、俺壊れてるもんなぁ。人間としても暗殺者としても出来損ないだし。




「なぁ、アルフィージってかわいそうなの?」


 アルフィージは眉をひそめた。意味がわかんなかったかな?説明しようとしたが、アルフィージはため息をつくと他を下がらせた。


「誰が言っていた?」


「んー、たくさん。俺もかわいそうって言われたけど、俺はアルディンよりアルフィージがいいんだけど」


「…なぜだ?」


「面白いから」


「…………そうか」


 微妙そうな表情だ。アルフィージは何でかわいそうと言われるかについて話してくれた。


 アルディンが産まれるまで、アルフィージは国の第1王子で唯一の王位継承者だった。しかしアルディンが産まれた。アルディンの母は正妃で身分が高い。当然継承権は上だから、皆アルディンにちやほやした。待遇も激変したらしい。本人は2歳だからよくわかんなかったけど、アルフィージの母ちゃんがそれはもう耳タコだよってぐらい話したみたい。

 アルフィージの母ちゃんは身分が低くて、後ろ盾もない。でも息子を王にするのを諦められなくて、息子にとても高いレベルの要求をし続けた。それに応え続けた結果が今のアルフィージなわけだ。周りの色々いうやつは実力で排除するか黙らせて、完璧な王子様を演じている。

 能力は高いが、決して王になれないかわいそうな王子様とアルフィージは言われているらしい。


「ふーん。王様になれないってそんなに不幸?」


「……そう言えなくもない。お前もアルディンの近衛になるか?あれの方が将来有望だ」


「有望って、なんかいいもんなの?」


「……そこからか」


「俺はアルフィージがいい」


「面白いからか」


「うん。俺が殺せないぐらい面白くなれよ」


「……今なら殺せるか?」


「気は進まないけど、多分」


「そうか。努力しよう」


 アルフィージは俺を『俺』として扱う。俺の異常さを理解している。


「あとさ、俺はアルフィージだから言うこと聞いてるからな」


「うん?どういう意味だ?」


「アルディンは俺を当たり前に人間扱いするけど、アルフィージは俺を『俺』扱いするから」


「ああ…」


「俺はお前といると楽なんだよね。アルディンはなんつーか綺麗すぎ」


「そこが可愛いだろう」


「否定しないけど遠目でいいわ」


 アルフィージはアルディンの話しをすると穏やかだ。いいことだ。









 廊下を歩いていたら香水臭いオバハンが現れた。


「アルフィージ、元気にしていた?きちんとよき王になるため勉学に励むのですよ」


 オバハンは好き勝手言うが、正直アルフィージは超頭よくて有能すぎるぐらいだ。更にアルディンに負けるなと囁くオバハン。まるでアルフィージに呪いをかける魔女のようだ。

 なぁ、オバハン。ちゃんと見てよ。アルフィージが辛そうだよ?俺にもわかるんだから、オバハンにもわかるだろ?本当にアルフィージを愛しているなら、わかるだろ?


 あんまりアルフィージが辛そうだから、俺は怒られるつもりで余計なことをした。


「お話し中失礼いたします、奥方様」


「お前は?」


「新しくアルフィージ様の近衛になりました、カーティス=ブランと申します。無粋な真似をいたしまして、申し訳ありません。しかし、アルフィージ様は有能で勤勉なお方。陛下からも頼りにされておりまして、これから政務があるのです」


「まぁぁ、そうなのね!邪魔したらいけないわね!お仕事頑張って、アルフィージ」


 オバハンは上手く撃退できたようだ。舌かまなくてよかった。頑張ったよ、俺。


「アルフィージ、ゴメンな」


「は?」


「俺さ、お前が辛そうだから余計なことしたわ。メシ抜きでもなんでも、罰受ける」


「私は辛そうだったか」


「うん」


 アルフィージは少し考えて、俺に夜中に来るよう告げた。今日は不寝番をしろとさ。軽い罰だなぁと頷いた。






 アルフィージの所に行ったら、人払いされていた。


「内緒話?誰か殺す?」


「…とりあえず、私の話しを聞け」


「はいよ」


 話を要約すると今城はアルディン派とアルフィージ派に割れてて、よくない。オバハンがアルフィージ派を率いていてこのままではアルディン暗殺とか馬鹿をやらかす危険もあるんだと。


「オバハン、殺す?苦しまないよう一撃で殺すよ」


「私は…」


 多分オバハンを殺すのが手っ取り早いけどしたくないんだな。よくわかんないけど、親って大事らしいし。でも俺考えるの苦手だし、アホだからいい案出せない。特技暗殺ぐらいだしなぁ…頭いい奴…


「ロザリンドに聞くか」


「……は?」


「頭いいし、俺分の貸しがあるから相談に乗ってくれるよ」


 いい考えだ。アルフィージを軽々と抱えて、俺は窓から飛び出した。


「ちょ、ま………!?」









 しかし夜中だからロザリンドは寝てるかな?窓をコンコンしたら、ロザリンドは窓を開けて目を見開いた。


「とりあえず入って」


 ロザリンドの言葉に従い、素直に窓から部屋に入る。


「や、夜分にすまない」


「え」


 一応マントで隠してたアルフィージを見つけて、ロザリンドは俺達を室内に入れると結界をはって俺をシバいた。


「王子様誘拐してくんな、バカタレが!」


「いや、アルフィージが用事あるんだよ」


「はい?」



 ロザリンドはあったかい紅茶を出してくれた。アルフィージは腹を括ったのか、俺にしたのと同じ話しをした。ロザリンドは少し考えるとアルフィージに話しかけた。


「…アルフィージ様はどうしたいんですか?」


「私は…解っているんだ。母を殺すのが早い。みせしめにもなる…でも、あんな人でも母なんだ。殺したくない」


「なら、説得」


「……は?」


「私よか頭いいし、付き合い長いんだから言いくるめちゃえ。イケるイケる。オバサン1人手玉に取るぐらい簡単ですよ、アルフィージ様なら。周囲にも兄弟仲良しをハッキリと示すとか…いっそ継承権放棄しちゃえ。」


「…簡単だな」


「簡単ですよ、案外。大事なのはアルフィージ様がどうしたいかだけ」


「紅茶、ご馳走様。貸しはこれでなしだな」


「いいえ、こんな厄介なの引き取りしてもらいましたし、足りません」


「では、また何か頼むとしよう」


「はい。お待ちしてます」


 俺はアルフィージを担ぐとへらりとロザリンドに笑った。


「ありがとな。俺アホだから上手く答えらんなかった」


「どういたしまして。上手くやってるようで何よりだわ」


 ロザリンドは笑って手を振った。アルフィージの部屋に戻ると、アルフィージは俺に話しかけた。


「ありがとう、カーティス」


「俺?なんもしてないけど」


「ロザリンド嬢の所に連れていってくれたろう」


「うん」


「私では自分から彼女に相談しようとは思わなかっただろう。彼女は不思議だな。本人は多分覚えてないだろうが、アルディンが王で私が王の補佐になれば何があってもこの国は大丈夫だろうと言ったんだ。その何気ないひとことが、私の夢になった」


「ふーん。叶いそうな夢だな」


「叶えるさ」


「俺も、ロザリンドに言われたから暗殺者やめて『俺』になったんだよね。私にあんたを殺させないでって言われたからさ。本人全く自覚ないけど影響力あるよね」


「確かにな」


 アルフィージが笑った。いい笑顔だと思った。







 アルフィージは早速オバハンとお茶会をすると決めた。俺は日時を確認して休みをもらい、ロザリンドに相談しに行った。


「何言うかはアルフィージが考えるけど、オバハンが喜びそうな菓子とか作ってくんない?あと飾りとかさ。大事な話し合いなんだ」


「アルフィージ様のお母様か…うちの母様なら好みを把握してるかしら。とりあえずプリンは外せないね」


「おー、ぷりん!アレいいよな」


 ぷりんは甘くてプルプルでウマイ。アルフィージも大好きだからきっと喜ぶはずだ。


「ところで、アルフィージ様が私にお茶菓子作るのとか頼んでるの?それともカーティスの独断?」


「いんや、俺が勝手に頼みに来た」


「なるほど。なら、アルフィージ様をビックリさせよう。素晴らしいお茶会にしてやるわ!母様!兄様~!!」


「あらあら、任せて~」


「アルフィージは友だち…みたいなものだから手伝ってあげるよ」


 ロザリンドの母ちゃんと兄ちゃんも参加することに。詳しく事情を聞かなくても手伝ってくれるとか、アルフィージって人望あるんだな。




 そして、当日。




「まぁ、素敵!!」


 お茶会を予定してた庭園は白バラで見事に飾られ、椅子やテーブル、食器や菓子も宝石みたいにキラキラしている。成金ぽく見えないのは、多分ロザリンド母ちゃんのセンスがいいからだ。女はこーゆーきれいなの好きだよな。


 アルフィージと侍従が固まっている。予定だと普通のお茶会だったからな。目線でお前か?と確認する。侍従は素直なんで首を振る。


「まさか…カーティス?」


「ロザリンドとロザリンド母ちゃん・兄ちゃんプロデュース。お前の母ちゃん喜んでるし、つかみはいいんじゃね?説得がんばれ。後はお前次第だ」


「ああ」


 アルフィージは背筋を伸ばして深呼吸をした。


「母様、席へどうぞ。私の話を聞いていただきたいのです」


「まぁ…珍しいこと」


 アルフィージは頑張った。オバハンがキレても、何度も何度も根気よく説得したよ。アルフィージの意思が揺るがないことと、それが本当に国のためなんだってこと。感情を爆発させて認めないオバハンを宥めて、何度も何度も説得した。

 余計なことと知りながら、どうしても黙ってられなくて俺は口を出した。


「奥方様、アルフィージ様は奥方様を心配しておいでです。このままアルフィージ様を王にと望めば、派閥の筆頭たる貴女の身も危うい。貴女に死なないで欲しいとアルフィージ様は望みました。そして、王の補佐はアルフィージ様の夢だと語られました。ご子息を愛しておられるならば、どうか…どうか認めてはいただけませんか?」


「え…」


 よっしゃ!思わぬ援護射撃にオバハンが初めて揺らいだ。アルフィージ、今だ!やれ!!


「母様、最初で最後の我が儘です!聞いてください、お願いします!」


「………そうね。お前が私に何かねだるなんて初めてだわ。認めてもよいけど、条件があるの」


「なんでしょう」


「またここで私とお茶会をしてちょうだい。このお茶菓子も、とてもおいしかったわ」


「…はい!」


 よかったな、アルフィージ。いい顔だなー。


「それとお前」


「へ…はい!」


 やっべ!へいとか言いそうになったわ!気を抜きすぎたと慌てる俺に、オバハンは笑った。あ、笑った顔アルフィージにめっちゃ似てる。


「…ありがとう」


「へ?」


 オバハン…アルフィージの母ちゃんは俺に返事を求めてなかったらしく、さっさと行ってしまった。


「これ成功!?成功だよね!」

「ああこら、ロザリンド!」



「うわぁ!?」


「多分成功ー。協力さんきゅー」


 茂みから出てきたロザリンドとハイタッチする俺。ロザリンド兄ちゃんは苦笑してる。実は親子ってこじれると面倒だって聞いたから、非常時に備えて2人にスタンバイしてもらってたんだよね。


「…2人がこの庭園を整えてくれたのか。茶菓子もありがとう、心から感謝する。母を殺さずに済みそうだ」


「よかったね」

「は!?お母様を殺すって何!?」


「「あ」」


「え?」


「ゴメン、アルフィージ。俺ね、ロザリンド母ちゃんと兄ちゃんには仲直りに協力してとしか言ってない」


「…………早く言え!いや、最初から相談しろ!!」


 アルフィージにめっちゃ怒られました。しかし、アルフィージの背後にもっと怖いのがいた。


「アルフィージ?僕も同感だなぁ。僕、君を友達だと思ってたんだけど…説明しろ」


 こ、怖ぇぇぇぇ!!

 さすがはロザリンドの兄ちゃんだ!ルーだっけ?超怖ぇ!!アルフィージも引き攣ってるよ!


「す…すまない」


「説明。謝罪は後で。説明して」


 洗いざらいはかされた俺達。俺もまとめて説教されました。ルー超怖い!


「次からはちゃんと相談してよね!」


 でもさ、アルフィージ。怒られたけどよかったな。俺、お前がかわいそうな王子様じゃないと思うよ。だってお前の味方はちゃんといるし、夢も叶えるんだろ。だからどっちも幸せな王子様でいんじゃね?


「ね、カーティス、アルフィージ様は殺せる?」


「ん?無理」


 ロザリンドとお互いにへらっと笑った。殺せないモノ、大切なモノが増えていく。こんな楽しい毎日が続くといいなって思った。

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