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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第25話『暁鷹虎、推参』

遠くで立ち上る光。設置型魔術によって引き起こされたその爆発を、ギガントが一体、まともに直撃する。

そしてその爆発の光が消えると同時に現れた無傷のギガントを見て、将真は目を見開いた。

「どういうことだ……? あいつ、まるで聞いてないぞ⁉︎」

「嘘……そんなの、あり得ない」

同じようにその光景を見ていた美緒が、その瞳に恐怖を宿す。

美緒の説明からして、あの設置型魔術は本来、将真に対して使われるはずだったもので、どうやら魔属性魔力に反応して発動するらしい。

今の爆発を見た後では、あんなものを自分に向けるつもりだったのかという憤りは当然あった。だが、そんな些細なことは、その爆発を受けたギガントが無傷という衝撃的な事実の前に雲散霧消した。

「ど、どうすんだよこれ……」

このままでは、リンたちに危険が及ぶのは間違いない。だが、こちらもこちらで他を気にしていられるほどの余裕は微塵もない。

切羽詰まった状況に思わず硬直する将真。そこに、さらに追い討ちをかけるようなことが起きた。

すぐそばに遥樹が後退してくる。それに習うようにして、虎生と杏果、紅麗も戻ってくる。

そうして合流するなら、遥樹が苦い表情で言う。

「これは、ちょっとまずいね」

「な、何かあったのか?」

「どうもあのギガントたち、普通じゃない。生半可な攻撃じゃ時間稼ぎはできるけど、決定打にはなり得ない」

「つまり、どう言うことだ?」

「うん。どうやら彼らは、かなり高度な再生能力を持っている」

『っ⁉︎』

遥樹の予想を耳にして、その場にいた全員が驚愕を示す。

「まさか、あいつらの体の中に、吸血鬼とかの血でも混じってるんじゃ……」

魔族の中でも、高度な再生能力を持つ種はかなり少ない。だが、もしかしたらギガントの中に、再生能力の高い魔族の血が混じっていれば、可能なのかもしれない。

そんな予想さえも、今度は紅麗の言葉で粉々に打ち砕かれる。

「私の血で少し探って見たけど、それはないわね。あいつらは、純血の巨人種ギガントよ」

「おいおい、それってつまり、どうなってんだこいつら……」

例え体が丈夫だとしても、あれだけの猛攻を受けて無傷というのはあり得ない。

ならば吸血鬼などの高い再生能力を持つものに由来する治癒力かと思いきや、その手の魔族の血__いや、そもそもギガント以外の血は流れていない。

あの並々ならぬ再生能力の理由わけはわからないが、このまま攻撃を続けても埒があかない。足止めになるかも怪しいところだ。

持ち堪えてほしいという柚葉から受けた依頼の時間は5分。そして残りは後2分程度。そんな短い時間が、今は長く感じる。

そして、ただでさえ厳しい現状に、更なる困難が降りかかる。

「__へぇ、思ったより抵抗するね。学園生が」

「……貴方は」

「マッドか……っ!」

ギガントたちと将真たちの間に現れたのは、1人のマッドだった。

「如何にも、私はマッドだ。そして、この襲撃を実行した張本人でもある」

冗談めかした、キザったらしい仕草を加えて、マッドは言った。その不気味な笑い顔に、将真たちは思わず戦慄を覚える。

「だが、その抵抗ももう終わりだ__」

『っ⁉︎』

マッドの言葉を合図に、地面が鈍く揺れ始める。その現象はまるで、ギガントたちが出現した時のようだった。

そしてその感覚は、間違いでは無かった。

「うそ、でしょ……」

「これは……」

「何てことだ……」

口々に呻くその表情には、驚愕や動揺が浮かび、あの遥樹ですら苦笑いを浮かべていた。

マッドは、大きく手を広げて、嘲笑を浮かべる。


「より大きな絶望を持って、楽に終わらせてあげよう」


マッドの背後に、新たに5体のギガントが出現する。雄叫びが響き渡る__。




「リンさん、後ろ! 危ないっす!」

「うわぁっ!」

リンの髪の毛を、ギガントの巨大な手が掠める。それだけだというのに、リンの体は強い風に煽られたかのように錐揉み状態となって地面に落ちて行く。

そんなリンに、ギガントが更なる追い討ちをかけるように手を伸ばす。

だが、リンに手が届く前に、ギガントの腕にいくつもの裂傷が生まれる。ギガントの体を這うようにして駆けたのは実だった。その刀さばきは、虎生のサポートをしているというだけあって、疾く、切れ味が良い。

「させないわよ!」

「実ちゃん、ちょっと離れて!」

その背後で、静音が地面に手をつける。瞬間、ギガントの足元に展開されたのは、佳奈恵の得意な設置型の魔術だ。自分でいうだけあって、何でも出来る、器用な少女である。

そして、設置型魔術から放たれたのは、燃え盛る炎だ。

腕だけでなく、全身にいくつも存在する裂傷を伝って、炎がギガントの全身に回り、覆い尽くす。

「よしっ」

「やったっすか⁉︎」

雄叫びをあげながら倒れるギガント。そのまま苦しみ悶え、暴れ始める。

そして、ギガントの動きが止まり、炎が消える。

確実に決まった。そう思った彼女たちの目の前で、だがギガントは何事もなかったかのように立ち上がった。

その体にあったはずの無数の裂傷や火傷は一切見当たらない。

「そんな……!」

「何なのこいつっ」

「……これは間違いなく、再生能力持ちっすね。それもかなり高度なレベルの」

『えっ⁉︎』

莉緒の口にした推測に、リンたちは揃って驚きを示す。

「ギガントって、確かに高位魔族だけど……」

「そうっすね。吸血鬼とは違って、普通はそんな出鱈目な再生能力は持たないはずなんす」

「じゃあ……!」

「でも、さっきの爆発から無傷で生還したことや、確実にあったはずの傷がなくなっていることから考えても、間違いなく再生能力だと思うっす」

「嘘でしょ……?」

思わずリンの口から、弱々しい声が溢れる。

恐らく今、この中で最も恐怖を感じているのはリンだ。どうにか足手纏いにはなっていないものの、本調子と比べると遥かに弱い事に変わりはなく、焦燥感も相まって、余計にいつもより弱気になってしまうのだろう。

だが、無理もない。莉緒たちもまた、同じように絶望的な状況に内心では沈んでいた。

ただのギガント一体ならどうにかなる。いや、先ほどの爆発で倒していたはずだ。なのに、攻撃は効かない。厳密には効きはするが再生するだけだが、ほとんど同じ事だった。

「こんなの、どうすれば……」

「っ、静音さん!」

「__っ⁉︎」

半ば放心状態だった静音に、ギガントの蹴りが直撃する。その体が、バウンドするボールのように弾き飛ばされて、転がった。

「あ、がふっ……」

「静音ちゃん!」

「リンさんも、気をつけるっす!」

「そんなことはわかって……あぐっ⁉︎」

莉緒の分かりきった忠告に、苛立たしげに答えたリン。その背後でギガントの拳が落とされ、撒き散らされた瓦礫が背中を直撃する。

静音よりはマシで、行動不能なレベルではないものの、無駄に大きなダメージを負ってしまったのは痛恨だった。

「くっ!」

「仕方ない、神技使うっすよ!」

まだ普通に動ける実が、そして莉緒が、ギガントに攻撃を加えるべく跳躍する。

そんな中、ギガントは腰を落として頭を上にあげ、空を見る。何をするのかと思えば、離れているリンからでも聞こえるような音を立てて、息を吸い込むギガント。そして、限界まで吸い込んだ後、一度体を反らして、一気に地面に向けて体を起こす。

「■■■■__っ!」

「っ⁉︎」

「しまったっす!」

ギガントの口から放たれた、凄まじい風と衝撃波。それが、跳躍した2人を直撃し、受身を取らせる間も無く地面へと叩きつける。

「ぅぐっ⁉︎」

「がはっ……!」

「莉緒ちゃん、実ちゃん……!」

リンが、背中の痛みを堪えながら、よろよろと2人の元へと向かう。今の一撃で、莉緒はともかく、実も行動不能なレベルのダメージを負ってしまった。

辛うじて動ける莉緒は、声を絞り出してリンに告げる。

「来ちゃダメっす……!」

だが、その忠告は間に合わない。

既に2人の頭上高くに、ギガントの拳が振り上げられ、最も高いところに到達したと同時に降り下ろされる。

今度こそ終わった。

そう思った瞬間、横殴りの衝撃がギガントを襲い、吹き飛ばした。その何かしらの攻撃は、先ほどのギガントの攻撃のように、暴風と衝撃波を撒き散らしていった。

「……な、何だったんすか、今の?」

「な、何だろう……?」

莉緒の問いかけに対し、リンは同じように疑問符を浮かべて首を傾げる。

まだ1番動けるリンが、莉緒に肩を貸す。そうした2人は、危険だとわかっていながらもギガントに接近する。

だが、2人が接近しているというのに、ギガントに反応がない。

そして、すぐそばまできて、彼女たちはようやく気がついた。あれだけの爆発、あれだけの猛攻を受けて、全く意に介さなかったギガントが、絶命しているという事に。

その事実に気がつくと、更にもう一つ、気がついたことがあった。

ギガントの心臓がある辺りだろうか。そこに、光る何かが突き刺さっていた。

2人は、ギガントの死体の上に乗り、その光の元へとたどり着く。リンが、恐る恐るその光る何かに手を伸ばした。

「何だろう、これ……っ、あづっ!」

「ちょ、大丈夫っすか⁉︎」

触れた瞬間感じた熱量に、リンは思わず手を離して飛び上がる。そして、光る何かに触れた手を見て見ると、少し火傷になっていた。

「莉緒ちゃん、これ、すごく熱い」

「……光の、矢っすかね?」

莉緒の呟きは果たして、すぐに正しかったことが証明される。

光は徐々に弱くなり、そこから矢が現れたからだ。

今度は莉緒が矢を手にとって見る。すると、特にどうということもなく、スポッとギガントの肉体から抜ける。

大きさとしては少し大きめの矢だが、どうやら魔導器の一種であること以外に特別変わった点はない。

「こんなもので、このギガントを倒したっていうんすか?」

「あっ!」

「どうしたんすか?」

矢を見ながら疑問を浮かべている莉緒の背後で、リンが声を上げる。

「莉緒ちゃん、あれ!」

「ん?」

リンが指をさした上空を、莉緒も見る。すると、かなりの速度でこちらに向かってくる影が見えた。そしてそれは、彼女たちの元へ来ることもなく、その上空を通り過ぎ去っていく。

「もしかして、あの人がこれを?」

「そうかもしんないっすね__っ!」

その影が目指しているのは、ギガントの集団だ。そして、そちらを見たことでようやく将真たちの方で深刻な事態が発生している事に気がついた。

ギガントの数が、合計10に増えている。

「まずいっす! 自分たちも静音さんと実さんを連れて向かうっすよ!」

「う、うん!」

莉緒は魔力を強制的に循環させて、1人で動ける程度まで体を回復させる。2人は急いで、動けない静音と実を抱えて、きた道を戻っていった。




「おいおい、幾らそういう仕事だからって、戦力使いすぎじゃないのか?」

「どういう意味だい?」

更に増えたギガントの集団を目にして、将真は苦々しげに質問を投げかける。

「ギガントは高位魔族なんだろ? しかも、50メートル級もそういないって聞いてるぜ」

実際、100メートル級は以前魔導師の手で倒されて以来目撃されていないと言われている。現状、ギガントの中でも最高戦力とされている50メートル級とて、その数は限られているはずなのだ。

だが、みんなの意見を代弁したかのような、そんな将真の考えに対して、マッドは鼻で笑う。

「ハッ、考えが甘いな、学園生」

「どういう事だよ」

「確かに、ギガントはこんな図体のせいもあって、魔族の中では数が少ないというのは事実だ。だが、我々の戦力をなめてもらっては困る」

「っ!」

マットが、行けと手で合図をすると、ギガントたちは動き出して、将真たちを殺さんと襲って来る。

マッドは続けた。

「例えここにいる奴らがやられても、まだギガントの総戦力の1%程度__1000体前後の50メートル級連中がいるからな?」

「……は?」

__今、なんて言った?

将真は、自分の耳を疑って、内心で自分に問いかけた。

ここにいるギガントの50メートル級10体を相手にしても、生き残れるかどうかは時間の問題だというのに、それが1000体。しかも、彼の言ったことが本当であれば、そもそもギガントの総戦力数は10万体前後。

幾ら無知で馬鹿な将真でもわかる。あの遥樹でさえも膝をおる状況。今度こそ、皆が希望を捨てた。

そんな絶望に浸る将真たちをみて、マッドは口が裂けそうなほどの笑みを浮かべる。

「いい顔だ。さぁ、終わりにしよう」

ギガントたちが、マッドの指示のもと襲い来る。誰もが諦めたその時、遠い空から閃光が走り、ギガントの心臓を的確に貫いた。

「……何だ?」

「ふん、何だって知るものか。この程度でこいつらが倒せるとでも__」

マッドが嘲笑を浮かべるその背後で、地響きを立てて全てのギガントが倒れた。

「なっ__!」

しかも、ただ倒れただけではない。確実に、死んでいた。あれだけ将真たちが色々やってどうすることもできず、数が増えて絶望する有様だったというのに、それをたったの一撃で、それも10体纏めて。

動揺や困惑が広まる仲、何者かが木の上に着地した。

その姿を確認して、初めに安堵を浮かべたのは透だった。そして次に同じようにホッとしたような表情を浮かべた遥樹が、一言。

「よかった、きてくれたんですね」

「まさか……」

対して、マッドはその姿を見て、忌々しそうに表情を歪める。

ハッとして将真は、時間を確認する。時間稼ぎを頼まれたから、およそ五分弱。そして透と遥樹が知る人物。

間違いなく、彼が助っ人だった。

「……どうやら、ちゃんと間に合ったみたいで何よりだ」

「この人が__」

この男が、自警団序列3位にして、副団長3人のうちの1人。

「暁、鷹虎……!」

マッドが、ギリッと忌々しげに歯ぎしりをした。

できれば今回で二章前半終わらせたかったんですが、やっぱりあと1話だけ続きます。

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