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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第21話『エラー発覚』

莉緒小隊と虎生小隊の衝突。

激化寸前のその時、学園長の柚葉から、試験中の生徒全員に対する一斉送信の通信が入ってきた。

「驚かすなよ、全く……」

「せっかくいいところだったのににゃぁ」

将真と虎生は、それぞれに愚痴をこぼす。画面の向こうの柚葉は、それを聞いてムッと表情を顰める。

『バカ言わないの。緊急事態だからちゃんと私の指示に従いなさい』

「歯向かうと言った覚えはないけどな」

「だにゃぁ」

『後でしばくわよ』

「うぃっす、さーせん」

にっこりと黒い笑みを浮かべてこちらを見る柚葉。堪らず将真は両手をあげて降参の意を示す。

「でも、緊急事態ってなんだよ学園長?」

そこに、遠くから弓で狙い撃ちしていた序列6位の少年が、異変に気がついてすぐそこまで歩いて来ていた。

『異変、という話だけなら、数日前からわかってたんだけど……大変な事態になってるって気付いたのは昨日ね』

「勿体ぶってないで早く話してくれよ」

『もちろん、そのつもりよ__』

将真の文句にジト目を向けながらも頷く。真剣な面持ちで柚葉は、僅かに間をあけて言葉を続けた。

『結界が、解除されてるわ』

「……は?」

彼女が言う大変な事態というそれを耳にした将真は、しかし理解ができずに首を傾げる。

『正確には、ただの魔壁レベルまで結界が弱くなってるだけだけど』

「……それが、一体どう危ないんだ?」

「……お前、やっぱ経験値低いからか馬鹿だにゃあ」

「誰が馬鹿か⁉︎」

将真の疑問に、呆れたように頭を振る虎生。それを見ると同時、将真はカチンと来て怒りを露わにする。

「お、落ち着いて将真くん!」

「そうっすよ。今のは将真さんが悪いっす」

「いや待て、何で俺が悪いんだよっ⁉︎」

将真を抑えるリンはいいとして、むしろ将真を責めにくる莉緒。それが余計に腹立たしく、更に怒ってしまう将真。だが、莉緒が将真の質問に対する答えを告げると、

「将真さんの発言が自分たちからするとあまりに馬鹿すぎるからっす」

『あんたは呑気でいいわねって事』

「ぐっ……」

どうやら事態の深刻さを理解していないのは本当に自分だけなのだということを理解し、その上で柚葉にかけられた追い打ちに打ちのめされて口籠る。

それでも納得いかずに救いを求めてリンの目を見るが、リンは言いづらそうに目を背け、

「い、今のは……ごめんなさい。ボクもみんなと同意見」

「俺が悪かったよ! 早いところ説明してくれ!」

ようやく諦めがついた将真は、声をあげて事態の説明を囃し立てる。

画面の向こうで盛大に溜息をついた柚葉は、気を取り直して説明を始める。

『この試験にどんな結界が使われてるか、ちゃんとわかってる?』

「どんなって言われても……死んでも死んだ事にならない、とか」

『浅いけど、まあそれで間違っちゃいないわ。要するにこれは、結界内での時間の流れがリセットされる仕組みなの』

だからどんな怪我をしても治るし、致命傷ですらなかった事になる。死んでもなかった事になり問題なしと来たら、驚くべき効果だ。

「ご都合主義ここに極まれり、てか?」

『あのね、そんな不可思議現象じゃないわよ……。この機能は、試験のために用意されたと言ってもいいわ。試験を行うことを決めたかつての学園長が作り出したものらしいから私は詳しく知ってるわけじゃないけど。試験相手は同じ学園の生徒だから、そんな相手に本気を出せない子もいるでしょう?』

「けど、そうなった場合、それはそいつの甘さじゃねーかにゃぁ?」

途中で口を挟む虎生。彼の考え方は最もなものだ。命のやり取りの最中、些細な甘さが命取りとなることだってあるのだから。

そんな彼の疑問は、柚葉が横に首を振ると同時に否定される。

『確かにあなたの言う通りだけど、これは本来、魔族や魔獣、他国の敵意ある魔導師を想定して行われる試験だもの。甘さ故に本来の力を発揮できないならそれまで……言うのは簡単だけど、そういうわけにも行かないのよ。この試験は、『本来の実力を知る』ためにあるのだから。まぁ、逆に容赦の欠片もない子だっているけど』

相手を傷つけたとしても、間違って殺してしまっても、それがなかった事になる。この結界に備わったそれは、重要にすぎる機能だった。

例え本気でぶつかり合って、何かが起きてしまっても、それがなかった事になる。ならば全力で戦える。

そう思える生徒たちは、自身の全力をぶつけ合うことができたのだ。まあ、割り切れない生徒もいたにはいたが。

ともあれ、採取した戦闘データと生徒たち各々の結果は、その後の『日本都市』に大きく役に立った。

実は、その最もたる成果と言うのが日本が誇る最強の魔導__『神気霊装』である。

今までずっと続けていた試験。その歴史は50年を回るはずだ。そして、今まで死者が出た試しはない。どころか、傷を負った生徒すら。いたとすれば、少しの間意識を失っていたという程度のレベルだ。

だが。

『今回初めての脱落者から、全員が多かれ少なかれ負傷しているわ。それこそ、医療魔導師の人たちが来るのが遅くなっていれば、命に関わるような傷を負っている子だっていた』

「な……、それ大丈夫なのかよ⁉︎」

『いや、だからヤバイってさっきから言ってるじゃない⁉︎』

言っていたが、その中身が理解できていなかったのだから仕方があるまい。

「ようやく将真さんも事態の深刻さに気づいたようでなによりっす」

「何にも良くはないにゃあ」

「ぐっ……し、仕方ないだろ」

続く莉緒と虎生の少々辛辣な口調の物言いに、将真は口籠る。

そんな彼らの様子を見た柚葉が、気を取り直すように手を叩く。

『その話はもう後で。ついでに言えば、加えてさらに問題が起きてるわか』

「まだ何かあるのか?」

『ええ。妨害電波の方は強力ではあったけど自警団のみんなが頑張ってくれたから何とかなったけど、そもそもこの結界のシステムにハッキングがあったみたいで、脱落時の転送システムまで止められてる』

「にゃぁ⁉︎」

今度声をあげたのは虎生だった。その目は驚きを隠せずにいる。そして、彼の小隊にいる2人の生徒もまた、それぞれ驚きを示していた。

「そりゃあおかしいにゃぁ! さっきオレらは鬼嶋美緒の小隊を倒して脱落するところも確認して……」

『それは、いつ頃?』

「……ほんの10数分前くらいだにゃぁ」

『信じられないタイミングだと思うけど、その不具合が生じたのはちょうどその頃なのよ』

「ってことは、俺たちが負かした相手がちゃんと脱落していたのは、間違いじゃないみたいだな」

虎生と柚葉の会話に、むしろ納得しながら将真は小隊仲間チームメイトの方を向く。彼女たちは、軽く顔を合わせた直後頷いて肯定。

彼らと遭遇する前に、リンと莉緒の判断でその場を離れたのだが、その間丁度そのくらいの時間が経っていたはずだ。

将真たちの反応を見た虎生たちはますます混乱を極める。

「ど、どういう事だにゃぁ?」

「__つまり、こういう事」

『っ⁉︎』

唐突に現れた別の声に、皆が驚きを示す。

その声の主は、虎生たちの後ろの茂みから現れた。

「な、テメェは……⁉︎」

「確かに、倒したはずなのに……」

「一体、何をしたんだにゃあ?」

その声の主は、虎生が倒したと思っていた美緒だった。

「私だけじゃない。意識はないけど、佳奈恵も猛もまだいる」

「あそこから、どうやって逃げられたんだにゃぁ」

「偽装したの。私の魔術で」

そういって彼女が目の前に出した右手。そこに、淡く青い光が舞い始める。

「ちょっとした偽装工作。簡単な魔術だけど、それなりのレベルであれば、簡単には見抜けない」

「丁度転送されるときに似ているから、か。舐めた真似してくれるにゃぁ」

「やっぱり簡単に諦められなくて。それに、今回の場合はこれで正解だったんじゃない?」

『そうね』

美緒が画面の向こうの柚葉に問いかける。柚葉はそれを肯定した。

『緊急事態だもの。あなたたちだけに偶然繋がったのはおそらく虎生がなんかしたんでしょう。この後他の生徒たちにも繋げなきゃいけないけど、今のうちにあなたたちには伝えておくわ』

「何を?」

『このあと何が起きるかわからないから、生徒同士での戦闘を禁止します。他の小隊とも合流して、できる限り安全な状態を保つこと。いい?』

「戦闘禁止って……じゃあ試験は」

『一時中断、場合によっちゃ中止にするけど、問題が解決しない以上仕方ないでしょ。とにかく、魔族とかとの戦闘はあるから、ちゃんとみんなで戦うこと。少人数は危ないからね』

将真は、柚葉の言い分に多少納得いかないところはありながらも、頷いて了解を示す。

柚葉が正しいのは間違いない。彼女は、生徒たちの安全を考えてそういう答えを出したのだから。

納得がいかないのは、単に自身の我儘だ。

「わかった。他の小隊と合流すればいいんだな?」

『ええ。こっちもそれなりに対策を考えるから、せめて試験終了の9日目まではもう誰も傷つかないようにね』

「了解」

将真たちが頷く。それを確認した柚葉は、一先ずホッとしたというように息を吐く。

『後はそっちの判断に任せるわ。それじゃあ私はこれで』

その言葉を最後に通信が切れる。

将真たちは顔を見合わせて、示し合わせるように小さく頷く。

「暫定的なパーティって事になるけど」

「まあ、わかってるにゃぁ。今はこうすべきなんだろうよ」

その反応に、将真は少し驚いたように目を見開く。

それでも尚戦う、と言いそうなタイプだと思っていたが、どうやらそれなりに聞き分けのいい方らしい。冷静な判断だ。

「それじゃ、他の小隊探しに、しゅっぱぁーつ」

「お、おぉ?」

「ぉ、おー」

「おー!」

「にゃぁー!」

「おー」

「行くぜー!」

唐突な美緒の気の抜けた掛け声に、統一感のない声を上げて、将真たちはその場を離れた。

まだ見ぬ脅威が、すぐ側まで迫っている事など、彼らは知る由もない。




「柚葉さん!」

「何、どうかしたの⁉︎」

「巨大な魔力反応が、結界付近に出現! それも、3つです!」

「巨大な、魔力反応……?」

職員の発言に首を傾げて思考を巡らす。

丁度通信を切断したタイミングだったが、例え出現する前だったとしても、それだけ大きいのならば気づけるはずだ。仮にこちらからわからなくても、向こうで気づいくはず。それなら先ほどの通信で連絡してくれても良かったのではないか。

考えた末、柚葉は職員に指示を出す。

「……そこの映像、映し出せる?」

「や、やってみます」

そういって職員たちは、一斉に前に向き直りキーボードを叩く。最新の電子タイプでカタカタという音はないが、指で叩く音だけは妙に響いて聞こえた。

暫くして、管制室の画面が切り替わり、荒い画質が徐々に綺麗になっていく。

そこに映っていたのは。


「……や、山?」


大きく盛り上がった、小山だった。

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