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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第16話『燃え盛る執念』

日差しを背に、漆黒の人影が、同じく漆黒の剣を振り下ろす。

「う__おぉぉぉぉぉっ!」

そうして、将真の手によって振り下ろされた渾身の一撃が、その先の猛が構えた剣と接触。一瞬だけ硬直するが、次の瞬間に猛が、将真の一撃に耐えかねて吹き飛び、地面へと叩き落される。

「がぁ__っ⁉︎」

その衝撃で地面にはクレーターが出来上がり、その中心で猛は、肺の空気全てを吐き出すような呻き声を上げる。

「フッ__!」

「っ……!」

だが、目の前に迫る光景を目にして、苦しんでいる場合ではないと意識を切り替え、すぐにその場を待避する。

そしてつい今まで猛がいたクレーターの中心に、黒の刃が突き立てられた。ただでさえそれなりの大きさだったクレーターが、更に大きくなり、眼前の光景を目に一瞬血の気が引いたような気さえした猛は、忌々しそうに将真に声をかける。

「随分元気になったじゃねぇかよ、オイ」

「誰のせいだと思ってんだ、誰の」

「テメェの実力不足だろ?」

「それも一理あるとは思うけどな……」

納得いかないと言いたげな表情で、将真が不満げに言う。

これが正々堂々の真剣勝負だったなら、使わないと決めていた、そして使うなとも言われていたこの力を出してしまったことに対する批難は甘んじて受けよう。

だが、今は状況が違う。

勝ち抜くことが試験の究極的な目的であるとはいえ、望まぬ戦闘を強要され、リンの安否をすぐにでも確認したい彼にとって、猛の邪魔は非常に鬱陶しいことこの上なかった。

しかも、本気を出した猛は平時の将真よりずっと強い。それもそのはず。何せ、魔導師としての経験値が絶対的に違うのだから。たった数ヶ月の将真と、何年も魔導に関わりを持っていた猛。ここに実力差が出るのは、誰から見ても明らかなのだ。

そうして追い詰められた将真は、しかしここで退くこともできず、魔王に身体を乗っ取らられそうになり、魔王の力が表に出てきてしまったとはいえ、戦いを続けている。

それなのになぜ責められなければならないのか。追い詰めたのは猛で、勝手に出てきたのは魔王の方だ。魔王の意識は、他人が思うほど簡単には振り払えない。

むしろ、必死こいてなんとかこの程度の顕現で抑え込んでいるのだ。

とは言え、こんな状況になりながらも、将真は猛に勝つ気がなかった。将真はあくまで、猛が道を開ければそれで十分なのだから。

まあ、それでも倒すしかないのなら手加減はしないが。

「こんな戦闘は無意味だ。互いが消耗して何も得ることなく終わるだけだろ。俺はそこを退いてくれればそれでいいんだよ。戦う理由も、その気もないんだ、俺には」

「テメェになくとも、オレにはあんだよ……!」

「……お前は俺よりつよいけど、魔王の力を顕現させた俺には敵わない。敵うはずがないんだ」

何故なら、絶大的な力を持ち、畏怖を抱かれる、魔導師にとって最強最悪の存在。それが魔王なのだから。

だから__

「……そのくらい、わからないお前じゃないだろ?」

「だったら、なんだってんだよ!」

「だから、無意味だって言ってんだよ!」

「っ……!」

猛が怒りに身を任せて吠えるが、同じように大きな声を上げる将真を前に口ごもる。

「俺だってお前とはいずれ真剣勝負で決着。つけたいけど、魔王の力なんてフェアじゃないし、そもそも今はそれどころじゃないんだって、何度も言ってるだろ」

「んなこたぁどうだっていいんだよ」

その言葉に、将真は絶句。

そこまでして、なぜ戦う必要がある?

何があそこまで、彼を駆り立てる?

そもそも、強い奴との戦闘を望むなら、将真なんかよりももっと強い奴がいるだろうに。

「……何で、そうまでして俺に勝ちたいんだよ」

「テメェらと共に戦ってわかったんだよ。オレァ弱えんだ。まだ足りねぇんだ。そんで、テメェの力が不愉快だった。テメェのものじゃねぇってのに、その力でヤバい奴らも倒してきた。助けられることさえあった。目の前で見ていたオレが、どれだけ屈辱を覚えたか、それがわかるかよ?」

「……」

「だから、テメェにだけは勝たなくちゃ、先に進めるかよ!」

「その勝負はまた今度にしろよ! どうせ、美緒や佳奈恵だって、邪魔することはないだろ!」

「今度? そしたら次は一体、いつ遭遇できるんだろうな?」

その言葉を聞いた瞬間、将真は眉をひそめて怪訝そうな表情を作る。

今の彼の言葉はまるで__

「お前まさか、この試験を生き抜く気が……」

「どんだけ怪我しようと、例え死んだとして、それもなかったことになるんだぜ? なら、そんなこと気にすることもねぇ。テメェに勝てりゃそんでいい。そんだけの、事だ」

何という執念か。ただ将真を倒すためにここまでやって、あらゆる現実を否定して、ただ目の前の目的にのみ突っ走る。それはある意味では強さなのかもしれない、と思った。

だが、将真は首を振ってそれを否定。そんなものは強さではない。自己満足、或いは思考停止だ。

そしてそんな猛のことは放っておけないし、何より邪魔立てするなら押し通らなければならないのだ。

もはや、猛を倒すのは必須条件となってしまった。だが、決めて仕舞えばあとは楽だろう。猛が、魔王の力を使う将真に勝てるわけがないのだから。

「仕方がない……猛、悪く思うなよ」

「テメェこそ、ボコボコにされたところで泣き散らしたりすんじゃねぇぞ__!」

猛が威勢良く吠える。

だが、それだけだ。猛が振り下ろした剣は、魔属性魔力を帯びた漆黒の剣によって、一瞬で断ち切られる。

「__“黒切”」

「な、んだと……」

「この程度で、動揺するなよ」

驚愕に目を丸める猛の胴体に、将真は強い蹴りを叩きこんだ。魔王の力を顕現させた、容赦のない回し蹴り。

無論耐えられるものであるはずがなく、吐き出すような声と共にくの字で地面ギリギリを飛んでいき、やがて全身を打ち付けながら地面に引き摺られるようにして止まる。

それでも立ち上がり、敵意と闘志の消えない目を見て、その意地だけは尊敬にする値するのかもしれない。

「たった一撃でそのざまかよ。もうちょっと耐えられなかったのか」

「う、るせえよ……」

声を怒りで震わせながら、猛は立ち上がる。フラフラと、戦う力が残ってないのは明白なのに。

将真には、彼を殺してまで勝つ気は無い。

死んだ事実すらなかったことになるだけのこの結界。だが、殺す必要はどこにも無いのだ。

最も平和的に終わる方法は、降参してもらうことだ。そしてそれは今の猛を見ていれば、そんな選択肢が無いことは一目瞭然だ。

ならば、戦闘不能に追い込めばいい。降参しようとしまいと、どういうシステムかは知らないが、戦闘不能__というよりは、不可能と判断された時点で、強制脱落させられるのだから。

戦闘不能にすれば、殺さずに済む。将真の中には、そんな甘さがまだ少し残っていた。

そして。

「……最後通告だ。そこをどけ」

「断る」

「……そうかよ__」

瞬間、将真を知る者にとっては驚くべきことだろう。その表情が、異様に冷たいものへと変貌した。

だがそれは、まるで彼の意思とは関係なく、大きな力に飲まれかけているようにも見えた。

「だったら、さっさと寝てろ__っ⁉︎」

そして、一瞬で猛へと接近した将真が、無慈悲にもその腹を右の拳で殴り付けようとした。魔王の侵食は右手から来ている。そんな手で殴りつければ、最悪猛は死ぬだろう。

だが、そんな結果にはならなかった。横槍を入れてきた者がいたからだ。

その人物は、氷の杭ともいうべきものを、将真に向けて無数に発射。不意を突かれた将真は躱すのが遅れて、右肩に僅かな切り傷をつけられる。そして踏鞴を踏んだ足元が発光して、直後魔法陣から鎖のような物が伸びてきて、将真の動きを一時的に止める。

似たようなことは以前にもあったが、それとは比べ物にならないほど脆い鎖は、最もあっさりと、将真に触れて少しすると自分から砕け散った。

だが、その一瞬でことは十分に足りていた。

猛を守るように立つ2人の少女。その2人を見て、将真は唸るように、だがある程度の冷静さを取り戻して呟く。

「美緒に……佳奈恵か」

「邪魔して悪いわね」

まるで悪びれた様子もない美緒を前に、将真は若干不機嫌そうに睨みつける。

「何しに来たんだよ?」

「そ、それは……猛を助けに……」

「……そうか」

佳奈恵が、怯えるように声を震わせながらも将真に立ち塞がる。

その言葉聞くと同時に、将真の中で少しずつ萎んでいくものを感じた。そうして少しすると、顕現していた魔王の姿が空気に溶けて、後には普段通りの将真が立っていただけだ。

それを見た美緒は、再び口を開く。

「莉緒とはすでに休戦協定を結んだわ。私たちにあなたと戦う気はない」

「美緒……、テメェ、勝手に決めてんじゃ……ねぇよ」

「そんなボロボロのくせしてそんなセリフが吐けるなら、存外平気なのかもしれないわね。でもとりあえず黙ってなさい」

「チッ……クソがっ」

美緒は呆れるようにため息をつく。そして猛は、悪態をつきながらもその指示に従って黙り込んだ。

すると今度は、将真が少し驚いたように口を開いた。

「莉緒と休戦協定? それはつまり……俺たちとはもう戦わないってことか?」

「あれ、嫌だった?」

「……いや、そういう事なら、さっさと猛を連れてってやれ」

「た、助かります……」

「同期なんだから、敬語なんて使わなくていいんだぜ?」

「別に、四六時中敬語ってわけでもないでしょ?」

「それはそうだけどな」

将真は、ため息をつきながら佳奈恵の言葉に肯定を示した。そして美緒が、猛に肩を貸しながら立ち上がり、

「それじゃあ、私たちはもう行かせてもらうよ」

「__転移」

それを最後に、美緒たちの小隊は姿を消した。


見届けた将真は、その直後暫く、周りの気配を探っていた。そして、何もいないことを確認すると、将真は端末の電源を入れた。

その相手は__

『__はい、時雨リンです』

「リン、俺だ。わかるか?」

『っ、将真くん?』

リンは、将真の姿を確認すると驚いて声を上げた。それには取り合わず、将真は質問を重ねる。

「無事か? なんともないか?」

『ちょっと魔力を使いすぎちゃったけど、取り敢えず無事だよ』

「……そうか」

リンの無事を確認すると、将真は安堵の息を吐いた。その真意がわからなかったリンは、言葉を発しようとして__次の瞬間、森の中に響いた轟音で遮られた。

驚いて将真が上を見上げる。将真のいる場所からそこそこ離れたそこにたちこめるのは、光と電気の残滓。

今の一撃はまさか……と思いながら、更に一つのことに気がついた。リンとの通信で、やけに近場から音が聞こえた気もする。

一体今、彼女はどこにいるのだろうか。

「リン、お前今どこに……」

『そ、それが……』

問いかけると、端末の向こうのリンは少し困ったような顔をして、後ろを見る仕草をする。そこに、何があるというのか。

リンは告げる。


「一位と二位の小隊が、ボクの眼の前でぶつかり合ってるんだよね……」

最近遅いばかりで申し訳ありません。もう早めにとか言いません。残業が想像以上にきついんです……という訳で、週一で投稿できるように頑張ります。多分、基本は土日更新です。

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