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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第10話『莉緒小隊VS美緒小隊』

4日目が開始されようとしていた早朝。

学園長の柚葉は、今回の試験を管理している自警団の人間に呼び出されていた。

彼女は特別朝に弱いわけでは無いが、かといって強いわけでもなく、午前4時という時間に起こされたことを若干不愉快に思いながらも、自警団本部の廊下を歩いていた。

そして、呼び出した彼らのいる部屋へと辿り着いて、静かに扉を開ける。

「片桐柚葉。呼び出しを受けて只今参りました」

「柚葉さん。すいませんこんな朝早く呼び出して」

そう言ったのは、研究者然とした姿の男だった。

柚葉は彼の事を深くは知らない。知っているのは、出雲華恋の部下であるという事だけで、つまるところ、彼は正確には自警団の人間とは言いがたいのだが。

柚葉は小さな欠伸を手で隠して、不機嫌そうに男に言う。

「本当よ。こんな時間に私を呼び出したからには、当然理由があるんでしょうね?」

「それはもちろん。貴方ほどの身分の方をこのような時間に何の用もなく呼び出すほど、僕は無礼者ではありません」

芝居掛かった態度とは裏腹になんだか皮肉じみたような物言いだった。その様子を見て、柚葉はため息をつく。まるでいつかそんな事があったかのような言い振りだが……。

「まあいいわ。それで、用ってのは?」

適応能力試験サバイバルテスト脱落リタイアした生徒たちのことについて、耳に入れておいて欲しい事が一つありまして」

いいながら、男は柚葉の耳元でその内容を他の人間に極力聞こえないように告げる。と言っても、周りに人はほとんど見当たらないが、念のためというやつだ。

そして、それを聞いた柚葉は、当然のように驚きで目を見開いた。

「うそ……」

「もしかしたら、まずい事が起きようとしてるんじゃ無いかと思いまして、報告させていただきました」

そんなご丁寧な男の言葉遣いも、今の彼女の耳には届いていない。渋い表情のまま、柚葉は男に問いかける。

「……イズンは?」

「今は寝ておりますが、起こしますか?」

「……いいえ。起きてからでいいわ。でも、私はここで待ってるから、イズンが起きたら教えて頂戴」

「了解しました」

男は一礼をし、その場を立ち去っていく。

近くの椅子に座り込んだ柚葉は、考えるように顔の前で手を組んで、難しい顔で唸り始める。

「起きようとしてるんじゃない……多分起きてる。もう既に」

ボヤくように呟いた彼女の中に、小さな不安が芽吹いた。




今試験中の彼らの朝は、いつもと比較すると若干遅い。まるで休日気分、緊張感の薄さが目に見えていた。

それはさておき、目を覚ました将真たちは、すぐに新たな拠点を置くに相応しい場所へと移動を始める。

例の如く出現する魔物たちの群れを難なく斬り倒して先を急ぐ。暫く歩いて森を抜けると同時に、

「わぁ……!」

リンが、無邪気にはしゃぐ子供のような、キラキラとした笑みを浮かべて呟いた。

「綺麗……」

「普通の川だろ?」

「ようやく水の確保ができるっすねー」

「……うー」

だが、将真と莉緒の素っ気ない回答に、拗ねたように頬を膨らませる。

その表情を向けられた将真が、戸惑いを見せる。

「な、なんだよ……?」

「……いいもん、別に」

「だからなんだよ」

「いいのっ」

そう言って、プイッと顔を背けるリン。妙に子供っぽいその仕草に、将真は思わず苦笑を浮かべる。

すると、今度は莉緒がリンに問いかける。

「でもリンさん、水浴びしたいって言ってたじゃないっすか」

「それはそうだけど……」

「何か不満があったんすか?」

「だって……折角綺麗な景色に感動してたのに、台無しにするんだもん」

「誰が?」

「2人がだよっ」

途中、割って入ってきた将真に、憤りながら怒り気味の口調で迫ってくる。

その勢いに、将真は若干反り気味になって、少し顔を引き攣らせながらも「お、おう……」と短く返した。

「そんなこと言っても、別段珍しい景色でもないだろ?」

「珍しければいいってものじゃないんだよ」

「そういうもんかね」

「そういうものなの」

その言葉に強い意志を感じて、将真はそういうものだと納得することにした。

だがそもそも、さっきは素っ気ない返事を返したが、この世界に来て以来将真は、口に出すことはなくとも幾度と同じことを思っている。

例えば、今目の前にある川も、『表世界』では、ここまで澄み切った川は世界的に見ても少ない。

それがここでは比較的普通の川だというのだから、今では当たり前の風景とはいえ、いつ見ても内心僅かながら感動を覚えているのは事実だった。まあ、わざわざそれを口にしたのは初めて見たときくらいだが。

「それで、どうするっすか?」

「どうするって?」

「水浴び……ていうか、お風呂っすね。その辺の一角を石で囲んであっためれば、簡単なのくらいは作れるっすよ?」

「うーん……入りたいけど、まだお昼だしなぁ」

リンは困ったような笑みを浮かべる。確かに、人目に映る可能性のあるこの時間帯に、こんな開けた場所で風呂なんて、余程豪胆な精神を持っていなければ恥ずかしくてとても無理に違いない。

将真にとっても避けたい事だ。彼に、裸体をさらす趣味はない。

「それじゃ、とりあえず拠点作ってサバイバルらしく一狩り行くっすかねー」

「狩りって……なんかいるか?」

「鹿とか鳥とか?」

「別に肉に限る必要もないっすけどね」

リンの思いつきに、苦笑して返す莉緒。それを聞いたリンは少し顔を赤くした。

「そ、そうだよね……」

「まあ、それは歩きながら考えればいいだろ」

「そうっすね」

将真の意見に莉緒が同意。そうして3人は、森の中で拠点にできそうな手頃な場所を探して歩き始めた。


問題が起きたのは、川の周りを散策して暫くした頃だった。


「……え?」


惚けたようなリンの呟き。

その原因は、足元から発生した黒い水溜りが発生したせいだった。リンの足がその沼のような質感をもつそれに足を取られて、ズブズブと沈んでいく。

「は、ちょ、おい⁉︎」

「リンさん⁉︎」

将真と莉緒が、戸惑うように声を上げる。だが、追い打ちをかけるように黒い沼から伸びてきた触手のようなものがリンに巻きついて、一気に彼女を絡めとって沈めた。

将真が、呆然としながらも慌てたように呟く。

「な、何が起きたんだ……⁉︎」

「今のは……おそらく影属性の魔法っすね。設置型みたいっすから、性質的に考えて、何処かへ強制的に転送とばされたのかも」

「そんな事わかるのか……にしても、強制転送って……ん?」

莉緒の知識的能力に感心しながらも、難しい表情を崩さなかった将真。今度はそんな彼の足元に影が生まれた。それだけではない。莉緒の足元にも、水溜りのような黒い影が蟠る。

「は……⁉︎」

「ちょ、自分たちもっすか⁉︎」

2人の絶叫もあえなく、影の中に消えていった__莉緒だけが。

「……な」

呆然と声を漏らしたのは将真自身だ。いったい何が起きているのかわからない中で、新たに、この場に誰かが現れる。

「なるほどな。やっぱ効かねぇか」

「……お前」

将真はその声に振り向いて、驚愕と僅かな怒りで声を荒げる。

そこにいたのは、猛だった。将真に対して彼は、静かながらも獰猛な笑みを浮かべていた。

「ちょっと付き合ってもらうぜ、将真」

「……上等だ」

将真は静かに怒りを押しやって、漆黒の刃を生成する。

吹き抜ける風が木々の葉や枝を揺らしていた。余りにも静かな森の中で、2人は剣を向けて睨み合う。

すると、何処かで爆発音が響いた。それを合図に、猛が猛然と特攻を仕掛けてくる。

「くっ……!」

反応が遅れた将真が、猛の攻撃に耐えきれずに押されて後退する。だが、猛の猛攻は始まったばかりだ。


「感謝するぜ__こんなにも早く、リベンジする機会が来たんだからなぁ!」


猛の剣が、将真の漆黒の刃を叩き潰した。




その頃、転送された先。

リンは、ゆっくりと目を開く。

視界が、取り入れた光で一瞬見えなくなるが、徐々に慣れてきて鮮明になっていく。

そして、目の前に立っていた意外な人物に、彼女は目を見開いた。

「……佳奈恵ちゃん?」

「うん。ちょっとぶりだね」

佳奈恵は、リンの呼びかけに反応し、微笑を浮かべて頷く。

リンは考える。

こう言っては失礼だが、彼女は臆病な人間のはずだ。だがこうして待ち構えているということは、戦うつもりでいるのだろう。だから、彼女の性格をある程度知っているリンは、彼女のとった意外な行動の真意が掴めずにいた。

佳奈恵から、こんなにも戦おうという意思を強く感じるとは、思っていなかったのだ。

「……どうして?」

「どうしてっていうのは?」

「らしくない、と思ったんだけど……やっぱり、失礼かな?」

「そんなことは無いわよ。私も驚いてるんだもの。やろうと思えばやれるってところに」

リンの評価に佳奈恵は苦笑を浮かべて肯定した。

「私だって積極的に戦う気は無かったけど……猛のお願いだから」

「猛くん?」

何故そこで猛の名前が出るのか。リンは怪訝そうな表情を浮かべる。すると佳奈恵は、リンの疑問に、静かに回答した。

「猛がね、サシで将真くんと勝負したいんだって」

「っ……、そういう事」

リンは、彼女が自分で出張って来た理由を理解した。簡単な事だった。小隊仲間チームメイトの猛の頼みを聞いただけの事だった。

猛は、初めて将真と戦ったときの事を根に持っている。負けたわけでこそ無いが、それは二回目の序列戦の時に将真に負けた事で完全に屈辱へと変わっている。

彼は何が何でも、将真に勝ちたがっているのだ。つまり佳奈恵が出てきたのは、単純に足止めだ。

だが、それを理解したからといって、律儀に時間稼ぎに付き合うつもりは毛頭無い。

リンは、長槍を生成して、佳奈恵に向ける。

「悪いけど、足止めされて上げるつもりは無いよ」

「いいえ、足止めさせてもらうわ。倒せると思うほど自惚れては無いけど、絶賛不調中のリンちゃんを行かせない事くらいは、私でも出来るわよ__!」

佳奈恵が叫び声を上げる。

「……っ⁉︎」

瞬間、リンの足元に無数の淡い光が放たれて__森の中に、爆発音が轟いた。

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