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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第9話『迫る危険』

肉を断ち、骨を砕く音が何度も鼓膜を打って、その嫌な感触に顔をしかめながらも戦斧を振り回す。

魔族たちの断末魔も耳障りでしょうがなかった。暫くして全滅させた魔族たちの群れは、やがて塵へと変わって虚空にサラサラと溶けていく。

その様子を眺めながら、塵が完全に消えた頃、大きなため息をついた。

「はぁ……」

「どったの?」

「杏果ちゃんお疲れモード?」

「そういう訳じゃ……ううん、やっぱり疲れたかもしれない」

盛大にため息をついた杏果に声をかけたのは、彼女の小隊に属する響弥と静音だ。彼女たちの問いかけに素直に答えると、2人は顔を見合わせて意外そうな顔をした。

「珍しいな」

「何がよ」

「素直に認めるところ?」

「そこは嘘でも違うこと言っときなさいよっ」

「いって!」

反射的に蹴りが出る杏果。蹴られた響弥は、その場所を手で摩っている。

「何すんだよー」

「あんたが悪いんでしょ」

「まあ素直に認めたってのもそうだけど、杏果ちゃんがこの程度で疲れるなんてちょっと意外だねぇ」

からかい半分の響弥と違い、本当に意外そうな反応を見せる静音。まあ、杏果としては、響弥の意見が肯定されたあたりに納得がいっていないのだが。

「別に体力的には問題ないわよ」

「じゃあ疲れたってどういうこと?」

「そんな意味深じゃないわよ。ただ単に精神的に疲れただけ」

そう言って、先程まで屠った魔族たちが散らばっていた場所を見る。自分でやったとはいえ、幾ら何でもあれだけグロテスクなのが続けばうんざりもするというものだ。

それだけではない。

「それに、なんかやけに数が多くなかった?」

「言われてみれば……」

「そんな気がしねぇでもねぇなあ……」

静音と響弥が手を組みながら先程の光景を思い出してのんびりと言う。

自分の予想に少し不安になった杏果は、その心の内がそのまま声になったように小さく呟く。

「他のみんなは、大丈夫かしら……」

「……まあ」

「問題ないんじゃない?」

呑気な2人を睨みつけるように視線を向け、ため息と共に視線を外す。

「まあ、何もなければいいんだけど……」

嫌な予感というものは、どんな予感よりも当たりやすくてたちが悪い。

杏果は、そんな嫌な予感が当たらないことを願うしかなかった。

杏果の呟きは、森を抜けた草原を吹き流れて掻き消えた。


日はすでに、沈みかけている。




3人は、息を荒げていた。

周りには、杏果たちと同様に魔族たちの死骸が転がっていた。それが黒い塵へと変貌し、それを吸い込まないように口元を覆う。

「け、結構、いたっすね……」

「そうだね……」

「2人とも無事か?」

「うん、まあなんとかね……」

「疲れはしたっすけど」

彼らの言葉が示す通り、魔族たちの数は思った以上に多かった。

加えて、将真たちはここの戦闘能力が高い反面、まだ小隊としては未熟だった。原因は色々考えられが、何よりも将真が連携などに慣れていない事が大きな原因だった。

そんな訳で、結局ここの戦闘能力による力業というかゴリ押しというか。そんなこんなで切り抜けたのだ。疲弊するのは無理もない事だった。

息を整えながら、唸るように将真はボヤいた。

「にしても、なんだったんだろうなあの数は」

「偶然……って事はないかなぁ?」

「まあ、この数ぐらいなら偶然とも言えなくはないっすけど」

リンの楽観的な想像に、莉緒が渋い顔をして苦笑を浮かべる。その表情からは、納得は感じられなかった。

その時、莉緒の端末に通信が入る。端末の電源をつけると、そこに表示されていた名前は美緒のものだった。

莉緒は、応答のマークを押す。すると、開かれたウインドウの中に美緒の顔が映る。

「どうしたんすか?」

『うん、ちょっと聞きたいことがあって』

「聞きたいことっすか?」

『ヤケに魔族とか魔物が襲ってくるから、そっちは大丈夫かなって』

その表情から心配している様子は見受けられないが、まあ美緒は普段からこんな感じだ。もしかしたら本当に身を案じているのかもしれない。

「そっちも沢山襲ってきたんすか……となると、偶然という線は薄いかもしれないっすねぇ」

『莉緒たちは今、どの辺りにいるの?』

「今はそうっすね……北西辺りっすかね」

『そう……本当に大丈夫?』

「心配しすぎっすよ。そっちこそ、気をつけてくださいっすね?」

『りょーかい』

美緒の、気の抜けるようなぼんやりとした声を最後に、通信が切れる。莉緒は軽く溜息をついて、

「……そういうことらしいっす」

「偶然って線は……」

「まあ、薄くなっただろうな……」

リンの呆然とした呟きに、残念ながらというように将真は返す。その返答に、リンががっくりと肩を落とした。

「じゃあこれって、狙われてるってこと〜?」

「うーん、そうは言っても、俺らが今こんな事をしてるって知らないと思うんだけどなぁ……」

そんな的確にこちらを狙えるものだろうか、という将真の疑問は、莉緒によって答えを得る。

「いや、不可能じゃないっすよ」

「出来るのか?」

「なんで今なのかはわからないっすけど……この試験はだいぶ前からやってるんすから」

「……っ、そうか! 偵察を続けていれば……!」

「この時期にこの試験があるってわかるんだ!」

将真が理解して声を上げる。同じく理解を得たリンが、納得のいったようにハッと顔を上げる。

莉緒が一つ頷き、渋面を浮かべる。

「となるとマズイかも知んないっすよ。これで終わりとはむしろ思えないっすけど」

「雑魚ばっかならいいんだけどな……」

吸血鬼や鬼人なんかが出てきたら厄介というほかない。

最近力をつけてきて、相手が少なければ対抗可能な将真たちはいい。また、序列上位者も同じだ。

だが、そうでない生徒たちが果たして、高位魔族を相手にどこまで抵抗できるだろうか。

そう考えると、状況はあまりよろしくない。初日からのハプニングにうんざりとしながら、将真は何か無いのかと考えを巡らせる。

「こんな危険な状態なんだ、今すぐ中止には……」

「多分……できないっすよ。こっちの方がむしろ試験としての本質をより強めてる感じっすから」

「そうだね……それに、この結界内で死んじゃっても、学園に転送されてなかった事になるんだし……」

「それはまあ、そうだが……」

莉緒とリンの意見により、将真は自身の提案が意味の無いものである事を理解する。

妙な不安が、込み上げていた。

それが何かはわからないが、何か良く無いことが起こる__そんな感じがしているのだ。

焦る様子を見せ、爪を噛む将真。そんな彼を見て、莉緒が小さい声で呟く。

「……とりあえず、この場を移動した方がいいっす。もっと確実に、安全が確保できるところに行けるまで」

「……そうだな」

「まずはそこからだよね」

2人の同意を得て、莉緒が先導しようと探知魔法を展開する。

「じゃあ、行くっすよ」

将真とリンは、顔を見合わせて頷き、莉緒の方を向く。莉緒もまた頷き、3人は移動を始めた。




想定していたよりも魔族や魔物の数が多い。それを感じ取れている生徒が、一体何人いるだろうか。

実際探してみると、それは思っていた以上に少ない数だった。

だが、相手がそんなに強くない魔物であったり、低位魔族であったためか、被害はそう大きなものにはなっていなかった。流石にその程度であれば、そう序列の高くない生徒たちでも抗うことは可能なのだ。

そんなこんなで、眠れた小隊と眠れなかった小隊とそれぞれありはしたが、少なくとも1日目、2日目は不安が拍子抜けなほどあっさりと終わった。

現時点でリタイアしている小隊の数は、100あるうちの6つ。2日目終了時点でこれは例年と比べると少し早い方らしいが、別段おかしなことはない。


そして、これまた拍子抜けするほどに、3日目も無事に終わりつつあった。




日没直前。

奇襲を仕掛けてきた見覚えのない小隊(単にクラスが違うだけである)と将真たちは交戦していた。

だが、相手の数は既に1人欠けていて、リンと莉緒が張った簡易的な結界で逃げ場を塞がれていたのだ。ちなみに将真は先ほど1人を倒した以外の貢献はできていない。

結界を生成するのもそうだが、そうした魔導的技能が、今の将真ではまだ拙過ぎるのだ。

実力は着実に、それも目に見える速度でついてはいるが、所詮はまだ、魔導に精通して半年も経っていない未熟な魔導士。上昇しているのはあくまで戦闘技能の方だから、こういった器用な真似は、もはや任せるしか無いのである。

「くそ、せめて1人だけでも倒してやる!」

ヤケを起こしたように、相手小隊の残った2人のうち1人の少年が、将真目掛けて剣を振り下ろしてくる。

だが、それを冷静な目で将真は見て、

「そんなんじゃ何年たっても当てられないぜ」

繰り返し自分へと向けられる刃を、悉く躱していく。

魔導に疎い将真だが、逆に純粋な戦闘面で言えば、そこんじょそこらの魔導士よりも将真の方が数枚上手だ。赤子の手をひねるようには行かないにしても、あまりに単調なその攻撃は、例え連続で向けられようとも躱すのになんら苦労はいらない。

相手が疲れてきて動きが鈍くなったところを狙って、将真が相手の武器を弾く。そして、無防備になった少年を蹴り飛ばす。

少年はなす術もなく地面を転がった。停止してゆっくりと顔を上げると、目の前には漆黒の刃が突きつけられている。

「……俺の勝ち、だな」

「……降参だ」

少年は悔しげに両手を上に上げる。それと同時に、淡い光に包まれて、やがて少年はその場から消えた。

軽く息をつくと、将真はリンたちの方を見る。すると、彼女たちがその視線に気がついてこちらに手を振っていた。どうやら、向こうも片がついたらしい。

「これで+6pt。自分たちの小隊が持ってるポイントは7ptになったっすね」

「流石にそろそろ狙われやすくなった頃合いじゃ無いか?」

「かも知れないねー」

将真の問いに、リンが気を緩めて答える。

3日目にしてリタイアした小隊は、なんと+21チーム、合計で一気に27チームとなった。残るは73チーム。そして例年最も減りが早いのは、4日目から6日目にかけてらしい。

むしろ、明日からが正念場というところだろう。

「じゃ、今日はそろそろ休んておくっすかね」

「そうだな」

将真が同意を示し、リンもまた頷いてみせる。

こうして、莉緒小隊の3日目は終わった。




その頃。

「……よし」

佳奈恵が1人、妙に納得したような頷きを見せる。そしてそれを気配もなく見つめていた美緒が、彼女に声をかける。

「終わった?」

「うひゃぁぁぁぁあっ⁉︎」

瞬間、佳奈恵が涙目で飛び上がって、数メートル後ずさった。だが、無理も無いことではある。

美緒は莉緒と違って隠密が得意なわけでも無いのに、不思議と気配を消すことに関してはズバ抜けているのだ。そしてそんな気配の無い彼女の声が耳元すぐ側で聞こえてきたら、佳奈恵出なくても飛び上がる。ましてや、彼女は臆病なのだから余計にだ。

「お、驚かさないでよ……」

心臓止まるかと思った……と胸に手を当てて涙目で睨む佳奈恵。彼女らしからぬ目つきに、流石の美緒も少し反省をした。

「ごめん。ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど」

「せめてもうちょっとマシなおどかしかたにしてよ……」

「ごめんなさい……それで、準備はできたの?」

「……うん」

佳奈恵は少し納得いかないという様子でため息をついて、次いでこくりと頷いた。


「__準備万端だよ」

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