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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第7話 『おんぶ』

「ね、ねぇ、片桐くん」

「な、何だ?」

「お、重くないかな……?」

「まあ、鍛えてるからな。女の子1人くらいなら全然平気だよ」


嘘だ。

いや、嘘ではないが、重さとはまた違う、別の意味で平気ではなかった。

どの道、リンくらいの女の子1人を背負うくらい、魔導師であろうがなかろうが、将真としては問題はなかった。

そうしてダメージが癒えきっていないリンをおぶってここまで来たわけだが、冷静になってみるとやはり気恥ずかしい。

夜道とは言え、人目が全くないことはないだろう。どこかで見られているかと思うと余計に恥ずかしかった。

まあ、おぶわれているリンの恥ずかしさは、将真の比ではなかろうが。


「や、やっぱり恥ずかしいよ……」

「ま、まあ、寮までの辛抱だ。頑張れ」

「う、うん。頑張る、ね……」


か細い声で、リンが答えた。

何気なく後ろを振り向くと、赤面して、涙目で将真の背中にしがみつくリンの顔が目の前にあった。

正直、可愛いと思った。心臓が、早鐘のように打ち始める。


(静まれ、俺の心臓っ!)


リンの吐息が耳にかかって、妙にくすぐったい。

リンは、どちらかというと小柄な少女で華奢だ。

もちろん無論全体的に発展途上なのだが、それでも背中に押し付けられる予想外の弾力があった。正直、変な気を起こさせようとしてるようである意味恐ろしい。

そして、思わずそんな事を意識してしまい自然と顔が熱くなる将真。

それでも気になって、どうしても後ろを向いてしまう。

顔がとても近い。ぱっちり開いた大きな目。そして小ぶりな桜色の唇が、リンの可愛らしさを引き立てているような気がする。


(改めて見ると、小柄だけど間違いなく美少女なんだよなぁ)


結構親しみやすい性格をしていたせいかあまり考えなかった。

加えて、まだ二日関わった程度だ。仲良くはなっても、こんな美少女と、こんな至近距離。意識しない男子がいたら、そいつはきっと天性の馬鹿か、男好き(ゲイ)に違いない

すると、そんな将真の視線に気がついたのか、リンが顔を上げる。


「……どうかした?」

「い、いや、別に……!」


慌てて将真は前を向きなおす。


(何か、気まずいなぁ)


こう見えても将真は、『表世界(むこう)』で学生最強の剣道選手だったのだ。

女子と仲良くなる機会は決して少なくなかったし、告白されたことだってある。

だが、将真は特別イケメンなわけでもなく、当時は、そういうのは煩わしいと思っていたので、将真のほうから女の子と仲良くなる機会を捨てていたわけだ。

だから結局、あまり女の子にあまり慣れていないのだった。


「……調子狂うぜ、全くよー……」


リンにも聞こえない程度の小声で、将真はぼやいた。

その声が聞こえたわけでもあるまいが、リンが話しかけてくる。


「ねぇ……片桐、くん……」


ただ、何か口調がたどたどしくなっていた。

もしや体調が悪くなったのでは、と将真は少し不安を覚える。


「どうした?」

「ちょっと……寝てもいい、かな……何か、すごく眠くて……」

「あ、ああ。そんな事か。いいぜ。休めるときに休んどけ」


大したことではなかった。将真は安心してホッと息をついた。ちなみに今の言葉は、将真のモットーと言ってもいい一言だった。


「それじゃあ、おことばに、あまえて……」

「……時雨?」

「……」

「はやっ」


(寝るの早っ!)


思わず、心の中で突っ込んでいた。無論、声には出さない。起こしてしまうだろうから。とは言え、将真からすれば、非常に羨ましい、この寝付くまでの速さ。


(俺なんてなかなか寝付けないもんだから、休めるときに休むべきだと思ってたのに!)


そんな将真の心の叫びなど聞こえるはずもなく、リンが心地よさそうにすぅすぅと寝息を立てている。


(やばい、超可愛い!)


女の子の寝顔など、滅多に見られる者ではない。あどけない寝顔が特に可愛らしかった。


(まって、やっぱ寝ないで! 自分の理性がどこまで耐えられるかわからないよ!)


そしてそんな将真の葛藤さえも知る由もなく、リンが時折「んっ……」とか声を漏らしたり、身を捩ったりしている。

とても危険だった。天然だろうが、小悪魔じみている。


(す、少しくらい触ってもいいんじゃないですかね……)


将真は、そんな心の声を聞いた気がした。

しかし頭をブンブンと降って、その煩悩を払い落とす。

時雨相手に限った話ではないが、いきなり手を出すようなことがあれば、真っ先に犯罪者だ。

変態のレッテルを貼られ一生を過ごす。勿論、そんな不名誉を被るつもりは微塵もありはしなかった。


「と、とにかく帰ろう。迅速に帰ろう」


飛んだら跳ねたりできたら楽な事この上ないのだが。一応そういう魔法は存在するらしいが、悲しい事に、将真は魔導師として、非常に未熟なのだった。


(……こっち来たばっかだからな⁉︎ 俺が落ちこぼれてるわけじゃねえよ⁉︎)


誰に突っ込まれたわけでもないのに、心の中で言い訳をする将真。

将真はなけなしの理性を振り絞り、できるだけ振動を立てずに、それでいて素早く寮に帰るのだった。




「……って」


(どうすんだよこれぇぇぇぇぇっ!)


将真は、寮の自室まで来て遅まきながら気がついた。というか、遅すぎである。

リンの部屋がわからない。

もちろん、わかったところでリンの部屋には入らないのだが。


ここにきて、ようやくリンを寝かせたのが失敗だった事に気がついた。

手遅れにもほどがある。


(誰だよ気がつかなかったの! 俺だよ、バーカ! 俺のバーカ!)


将真は頭を悩ませる。

疲労がかなり溜まっているだろう。あの戦いがなくとも、今日は序列戦で連戦続きだったのだから。

とても頑張ってたし、今から叩きおこすのは非常に心苦しい。


「……しかたない」


将真はリンを起こさないように、そっとベッドの上に横たえた。

一瞬、一緒に寝てしまおうかという邪な考えが浮上したが、幸いにも生きていた理性がそんな考えを潰してくれた。

そして、将真がとった選択は、リンを布団の上で寝かせて、自身は床で寝る、というものだった。


将真は、寝息を立てて眠るリンの顔を見る。

そのあどけない表情が、小柄な少女を余計に幼く見せる。

やはり触ってしまおうか、などと思い始める自分がいたが、いい加減抑えるのも辛かったので、頭を撫でるだけでもして、何とか収めようと試みる。


(髪の毛やらかいなー)


「ん……んぅ……ぅ」

「……」


余計に辛くなった気がした。

その時、タイミングよくピピピッと何かが鳴る音が聞こえて、思わず飛び上がった。


「うおっ……何だ?」


音の正体は、腕時計だった。正確には、腕時計の形をした何かだった。

柚葉が送ってきた荷物の中に入っていたのだが、使い道が分からずに机の上に置きっぱなしにしていたものだ。


「何だよ、脅かしやがって……」


少し不機嫌ながらも、将真は腕時計を手に取る。

画面は小さいが、どうやらタッチパネル式のようだ

。将真はとりあえず、そのボタンらしき部分を押してみる。

すると、ホログラムウインドウが現れた。

そこに映ったのは、なんと柚葉だった。


『……ねぇ、将真?』

「何だよ?」


柚葉が、唐突に何か言いたそうな顔をする。


『貴方、これ持ち歩いてないでしょ』

「これって?」

『腕時計みたいな奴。それ大事なものなんだから、常に持ち歩くようにしなさい』

「……以後気をつける。そんで、何の用?」

『ちょっと、私の家まで来なさい』

「どこだよ」


突然そんな事言われても、将真も疲れていたし(色々な意味で)、そもそも柚葉がどこに住んでいるのかを知らない。


『そうね。言ってなかったわね……はい』


少し間が空いたかと思うと、ホログラムの画面に地図が表示された。


『そこに示されてるところね。用はそんなに長くないから早めにね』

「……わかった。ちょっと待っててくれよ」


将真は、通信を切る。

そして、制服を脱ぎ捨て、クローゼットから黒いズボンと長袖パーカーを着て、自分の部屋を後にした。




「ここか……」


柚葉の家は、学園の近くにあった。当然と言えば当然かもしれない。

取り付けられたインターホンを押すと、部屋の中からパタパタと足音がして、少しすると柚葉が出てきた。


「思ったより早かったわね」


柚葉の方も、学園長として身につけている服装ではなく、ゆったりとしたパーカーを着ていた。


「まあな。それで、どうしたんだよ」

「とりあえず上がって」


柚葉は、特に説明もせずに、将真を中へと招き入れる。

学園長をやっている割には余り大きくない、普通の一軒家だった。家の中も、特別変わった様子はない。

将真は、柚葉の案内でリビングまで来た。そしてそのまま、ソファーに座らせられる。


「それで、学園長がこんな時間に何の用だよ」

「今は普通に呼んでもいいよ」

「じゃあ、姉貴」

「……もっと他の呼び方はないの?」

「んー……、じゃあ、柚姉(ゆずねぇ)

「……まあ、それなら」


柚葉は少し考えて、その呼称を許可する。


「そんで、柚姉はなんで俺を呼んだんだ?」

「そろそろ帰ってるころかなって」

「まあ、確かに」


そして何故か、悪戯っぽい笑みを浮かべる柚葉。


「そんで、リンちゃんに手を出そうとしてるんじゃないかなーって」

「み……」


(見てたのかよ⁉︎)


と言いかけそうになって、それでも何とか抑え込んだ。だが柚葉は、将真の行動などお見通しだ、とでも言わんばかりの態度である。


「実は、使い魔つけてたの」

「……何それ」

「んー、わかりやすく言うと、貴方の近くに小型カメラを飛ばしてたの」

「俺のプライバシー⁉︎」


思わず絶叫した。見られて困るような事をしているつもりはないが、それを置きにしても、まさか毎日監視されていたのか。


「あ、安心して。寮についたら自然消滅する仕掛けにしてあるから」

「あんまし安心できねー……」


だが、プライバシーの侵害という最悪の状況では無かったので、とりあえずはよしとする。そして将真は、改めて柚葉に問い質した。


「それで?」

「ん?」

「なんで呼んだの?」


先ほどから、繰り返している質問。その答えは、中々口にしてくれないので、こうして何度も聞く羽目になっている。

すると、柚葉が将真の目の前まできて、何を思ったのか、将真をぎゅーっと抱き締める。


「な、何して……」

「……ごめんね。ずっと置いてきぼりで、ほっときっぱなしで」

「柚姉……」

「こっちに来てからも、忙しかったしで全然ちゃんと話せなかったもんね」

「……べつに、気にしてないよ。それに、あんだけ早くいなくなったもんだから、完全に姉離れできてるしな」


将真は、軽く舌を出して片目を閉じて、悪戯っぽく言う。柚葉は、苦笑を浮かべた。


「そうね。私の方はちょっと寂しかったけど……」

「……そういや、柚姉言ってたな。だいぶ前のことだけど」


『また会えるから』

柚葉は昔、将真にそう言っていたのだ。


「うん。言ったねそんな事」

「本当にまた会えたんだよなぁ。もう冗談だとばかり思ってたくらいだ」

「ごめんごめん。でも、これからは絶対守るから」

「んー、姉貴に守ってもらうってのもなぁ」

「ふふっ。まあ、これからは頼りにしてくれていいよ」

「頼りに……か」


姉であることを抜きにしても、学園長という立場の人間が、頼ってくれと言っているのだから、こんなに頼もしいことはない。


「そうだな。これからは、色々頼らせてもらおうかな」

「うんうん。存分に頼りにしてくれたまえ」

「なんで偉そうなんだよ」


言いながら、将真と柚葉は笑い合う。


長らく離れて、溝が開いていた2人だったが、この日を境に、少しずつ仲を取り戻していく。


まだこの世界については、わからないことばかりだ。だから、この世界に来て良かったと思えるほど、何かいいことがあったわけでもなく、世界についての知識もない。

だが、それでも将真は思っていた。


この世界に連れられた時は、戸惑いしかなかったけれど。こんな面白い世界に来られて良かった、と。

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