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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第4話『海獣討伐』

海の上へと跳ね上がった海蛇シーサーペントが、そのまま不自然に空中で滞空。そして、巨大な顎を大きく開いた。

海蛇シーサーペントの口に魔力が凝縮されていき、次第に高魔力の球体が生まれる。

「アレくらいなら……!」

それに気づいた紅麗がいち早く動き出す。それと同時に、海蛇シーサーペントの口から高魔力の光線が放たれる。

その威力を見て__

「やっべ……!」

思わず将真は呟いた。将真だけでなく、リンたちもまた、戦慄に声を上げ、表情を歪めている。

あんなものが直撃すれば、いくら魔導士といえど無傷では済まない。それをみんなも悟ったのだ。

だが、その一撃は紅麗が張った深紅の盾により阻まれた。もちろん紅麗もノーダメージではないが、多少押された程度で目立つ外傷は無い。

「う、くぅ……重いぃ!」

そう言って、顔をしかめてはいたが。

すぐに遥樹もその場に駆け寄って、紅麗に声をかける。

「紅麗、大丈夫か?」

「ええ、私は大丈夫よ。だけど、流石にあんなのが連発されたらキツイわよ……」

そう言って、深紅の盾を解除する。その瞬間、リンが叫ぶ。

「ダメッ!」

「えっ……?」

紅麗は気付けなかったのだ。深紅の盾で前の視界が遮られていたから。

彼女たちの目の前に__再び、高魔力の光線が放たれていた。流石の紅麗も、その顔から表情が消える。

そして、紅麗の後ろにいた遥樹はと言うと。

「フッ__!」

「っ……!」

光を帯びた剣を、静かに息を吐いて振り下ろす。その剣から放たれた光の斬撃は、目の前にいた紅麗の右腕を斬り飛ばして、彼女目掛けて迫ってくる魔力の塊と接触。

浜に到達する前に、会場で爆発した。

「うおっ」

その爆風に煽られた将真たちは、よろめいて声を上げる。

風が止んだ時、将真は怒りの形相で遥樹の方へズンズンと向かっていく。

「お前、何やってるんだよ!」

「何って?」

「惚けるな、仲間の腕を切るか普通⁉︎」

「ああ。……悪いとは思っているよ。でも、これが1番手っ取り早く、1番被害が小さくできたんだよ」

「小さい被害だと……?」

それでも治らない将真の怒りの感情を、遥樹は正面から受け止める。彼の言っていることが正しいということは、遥樹にも当然わかっているのだ。

ただ、遥樹は間違ったことをしたとは思っていなかった。

この世界は弱肉強食。正しくあることが、正しい選択とは限らない。

今回の場合においては、遥樹の判断は正解だった。それを、将真も思い知らされる。

「ごめん。大丈夫かい、紅麗?」

「っ……、ええ。やっぱり、痛いものは、痛いけど……」

遥樹の謝罪に、苦痛に顔を歪めて応じる紅麗。その、斬り落とされたはずの右腕が、少しずつ元に戻っていた。

再生、していた。

「は……?」

「……何よその顔は」

その様子を見た将真は、惚けたツラをする。それを不愉快に思ったらしい紅麗が、その顔を睨みつける。

だが、驚くのは仕方がないことだ。

確かに、魔導士は一般人に比べて遥かに傷の治癒が早い。それは、魔力が肉体を強化しているが故に傷が最小限に抑えられる事と、体が活性化させられる事で傷の治りを早めているからだ。

だが、彼女は腕を斬り落とされるという大怪我を負った。それほどの傷を、目に見えるほどの速度で、それも個人の力で治癒できる魔導士がこの世界にいるのだろうか。

将真は、視線で莉緒に問いかける。どうなっているんだこれは、と。だが、莉緒はその意図を理解しながら、その上で首を振る。

すると、何かを理解したかのように紅麗はハッとして、次いで嘆息した。

「傷の治りの早さが、そんなに物珍しいの?」

「……どんな仕組みで治ってるんだよ、それ」

「意外と物分り悪いのね。治癒能力が高い生命体と、あなたは既に何度か殺しあった事すらあるはずだけど」

「……え?」

「それってまさか……」

将真が惚けたように声を上げ、リンが声を震わせる。そして将真は思い出す。治癒能力が高い生命体とやらを。何度か殺しあったその、化け物の正体を。

「お前、魔導士じゃない……吸血鬼⁉︎」

「よくできました。……と言っても、半分人間半分吸血鬼、つまり混血ハーフなんだけどね」

ようやく出てきた答えに、紅麗が呆れたようにため息をついた。そして、未だに驚愕の表情を作る将真たちを見て、

「安心しなさい。私は人間側だから」

「いや、その心配はあんまりしてないけど……」

実際、魔族側だったらタダで済んじゃいないだろうし、何よりスパイを見逃すほど、この国のセキュリティは低くないはずだ。

まあ確かに、半分吸血鬼と聞いては、全く不安を覚えるなというのは難しい話なのだが。

そんな会話をしているうちに、彼女の腕が完全に再生していた。

海蛇シーサーペントは、再び海中に姿を隠したまま、上がってこない。

「……去ったのか?」

「いいや、多分海中の中を進んで、すぐそばまで来るつもりだよ」

「何でそんな回りくどい真似するんだ? 仮にもあれは魔物だろ?」

「魔獣だけどね。奴らは、魔物に比べたらかなり知能が高い。奴らは知ってるんだ。人間にとって、この結界領域で守られている海がどれだけ大切なのかってことを」

海蛇シーサーペントを今倒そうと思ったら、海に大きな被害を生みかねない。それは、決められた領域内でしか生きられない人間にとって、とても致命的だ。

何せ、領域外は死の海。超高密度の魔属性魔力を帯びていて、人が触れれば瞬く間にチリになる。魔族や魔物たちのみが生きていける、そういう世界うみなのだから。

「……真那、行ける?」

「無理。距離は気にしなくてもいけるけど、海の中に潜られたら」

「あんまり強いのも考えものだね」

遥樹の小隊チームがそんな事を言った。そしてその会話を聞いて、将真の頭にふと、アイデアが浮かぶ。

「……なあ、一ついいか?」

「なんだい、片桐将真」

「こんな切羽詰まった状態なんだから、まともな意見出せなきゃ海に放り投げるわよ」

「鬼畜だなおい⁉︎ ……えーっと、確か、名草真那だったよな?」

「うん」

真那が、眠たげな目で将真を見上げてゆっくりと頷く。それを見て、次に将真は確認を取る。

「奴らを海の上に引っ張り出せば、どうにかできるのか?」

「よゆー」

そして真那は、短く、気の抜けそうな口調で肯定した。そんな会話をしている2人を、紅麗が怪訝そうな表情で見てくる。

「……何するつもり?」

「要は、海の上に誘き出せばいいんだろ?」

珍しく将真が口元に笑みを浮かべる。

それに疑問符を浮かべる一同。それを気にせず、将真は目を閉じて、両手を前に突き出して構える。

そして、次第に不自然な風が吹き始める。その正体は、将真の手に集まっていく風の塊だった。魔力によって、風が引き寄せられ、球状になっているのだ。

「え……?」

「これはもしかして……『風弾かざたま』っすか?」

惚けるリン。それに対して莉緒は冷静に分析して言った。

『風弾』は、別になんの珍しさもない、『火弾』の属性違いの魔術だ。

だが、つい最近まで彼は、その程度の魔術ですらうまく行使できなかったのだ。魔導士なりたてという事を考えれば、当然なことなのだが。むしろ実績が魔導士見習いにしては異常に高いだけだ。

それはともかく、だから将真がこうして基礎魔術を行使している光景というのはそれなりに珍しいものだったのだ。

「前の序列戦の時も思ったんすけど、よくそんなことできるようになったっすね」

「いや、まだ不完全だし、よっぽど集中しないと無理だよ。けど、今向こうは攻撃してこない。だったら、少し時間はかかるけど……」

そう言いながら、彼の目の前に大きめの風の球体が完成する。

「それで、それをどうするつもり?」

「理論上これって風属性魔術だけど、俺の魔力の属性は『魔』だろ? それを海中にぶつければ」

「釣られて出てくるってこと?」

「そんな上手くいくかぁ?」

響弥の言う通り、上手く釣られてくれるとは限らない。高すぎる威力で海をメチャクチャに、なんて事にならないのは、風の弾を見ればわかる。だからその点はクリアーしているのだが。

「やってみればわかるだろっ!」

将真が、両手に力を入れて、『風弾』を放つ。それは将真の狙い通り飛んでいき、海中にぶつかったところで強風となって海上を強く吹き散らした。

それが落ち着いた数秒後。これまた将真の狙い通りに、誘き出された海蛇シーサーペントが海上へと飛び上がった。

「よっし!」

「真那!」

「やってる」

将真がガッツポーズを作り、紅麗は真那の方を振り向いて叫ぶ。それに対して真那は、普段の気の抜けた表情を少し吊り上げて、静かに答える。

彼女が両腕に構えていたのは__砲台のような、現代的な重火器だった。

「……は?」

「__充填、ライジング

彼女の呟きと共に、砲台が稲妻を纏い始める。そして。

発射ファイア

真那の合図と共にドンッと轟音を立てて、純粋な雷がビーム状に収束されたような、恐ろしい速度で飛んでいくその一撃。

それは、見事なまでに海蛇シーサーペントを飲み込んで、雷の高エネルギーによって焼き払う。

ビーム砲が光の筋となって細くなり、消滅したその先に、もう怪物はいない。

「……うそん」

思わず将真は、そんな風に呟いた。

そんな将真の様子を、相も変わらず眠たげな双眸が見つめてくる。

「……そんなに意外?」

「いや、何ていうか、なぁ……」

上には上がある。そんな言葉を思い出した将真である。

リン達も同様に、その光景を見て惚けた顔を晒していた。

それが、数分くらい続いた。


その後、自警団メンバー達が遅まきながら到着。事情聴取を受けた将真たちは、2時間くらいしてようやく解放された。




「悪いわね。まさか本当にいるなんて思わなかったから、思わぬ苦労を強いちゃったでしょう?」

「気にすることもないっすよ」

苦笑して謝罪を口にする柚葉に対して、莉緒は気にした様子もなくひらひらと手を振る。

あの後ちゃんと遊べたのだから、文句はない。いい休暇になったと言えばなったのだから。

「それより柚葉さん」

「うん?」

「ずっと聞きたいことがあったんすけど」

「何かしら?」

不思議そうな顔で柚葉がこちらを見てくる。莉緒は、最近ずっと渦巻いていた疑問を彼女に問いかける。

「リンさんの調子が、おかしいんすけど。何か心当たりとかないっすか?」

「……あなた達から受けた報告の通りなら、あなた達が気にするほどのことはないから、安心して」

その言葉に、莉緒は顔をしかめる。

「……じゃあ、これで失礼するっす」

莉緒は、ゆっくりと学園長室を出た。


まただ。またはぐらかされた。

柚葉は何か知っている。その上で隠している。

だが、それを追求する術はない。

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