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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
適応能力試験、襲撃
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第3話『怪物出現』

海中探索。

唐突に出たその言葉に、将真たちはポカンとした表情を浮かべる。

「遊びに来たはずなのに、いったい何してんの」

「いやー、それはっすねぇ」

「……実はちょっとした任務を受けてたの」

「初耳っ⁉︎」

のんびりと告げる美緒。それを聞いて、思わず将真は声を上げた。

遊びに来たと見せかけて、実は何をやらされるのか。だが、そんな懸念は必要なかった。

「心配しなくとも、個人的なものっすから」

「2人で受けてきたの。ついでだったから」

「……一体、何の任務を受けたんだよ」

「だから」

「海中探索」

「それがわからないんだよ⁉︎」

だから、と言われてもと将真は再び叫びをあげる。すると2人は顔を見合わせて、しょうがないというようにため息をついた。

「煽ってんのかそうなんだな⁉︎」

「なんか今日の将真さん、いつもより面白いっすねー」

「やっぱり息抜きして正解」

うんうんと莉緒と美緒は頷き、次いで莉緒が口を開く。

「この海は『日本都市』内のエリアでちゃんと結界に囲まれてるっすけど、実は海洋性の魔物とか魔獣がいつの間にか侵入してることがあるんすよねー」

「呑気に言うな、それ結構危ないだろ?」

「うん。海蛇シーサーペントとか、上位種の大海蛇リヴァイアサンとか特に危ない」

「加えて海の上だもんね。戦おうにも戦いにくいと思うな」

そこにリンも加わって意見を言う。その顔は少しだけ不安そうだった。

さらに杏果が、莉緒に問いかける。

「それで、どうだったの? 調べた結果は」

「よく聞いてくれたっす」

そこで、ビシッと莉緒と美緒が、それぞれ対の手の人差し指を立てる。

そして、

「実は3体くらい……」

『いるの⁉︎』

思わぬ告白に、思わず絶叫する将真たち。その顔は引きつっていた。

「いやぁ、生で見たの初めてっすよ。ビックリしたっす」

「……大っきかった」

2人は感慨深そうに呟く。そんな呑気な反応をしている場合じゃなかろうに。

「な、何がいたんだ?」

「んー……まあ、10mちょいくらいだったと思うんで、多分海蛇シーサーペントじゃないっすかねー」

大海蛇リヴァイアサンだったらサイズ的に5倍って聞いてるし」

「デカイな大海蛇リヴァイアサン⁉︎」

恐らく将真以外は既知の情報だったのだろうが、初めて知った将真はそのサイズに驚きを隠せない。

だが、無理も無いだろう。なにせ、この双子の言うことが本当なら。

大海蛇リヴァイアサンって、50m越えってことかよ……」

地球上最も巨大な動物シロナガスクジラですら真っ青の巨体だ。そんなものが牙を剥いて、意思を持って襲ってくる。そう考えると、もはや脅威以外の何でも無い。

幸い、今回下にいるのは海蛇シーサーペントらしいが、それにしたって10m越えの怪物が3体も。その強さは知る由も無いが、そんな危険な生物が近くにいるというだけで、危ないことこの上ない。

「それで? 目は覚めていたのか?」

「猛?」

戦慄を覚えている将真を放置し、猛が美緒に問いかける。

「目が覚めてたら、殺さなきゃやばいだろ」

「お前、殺すって……それに、海底にいるやつをどうやって倒すんだよ?」

「まあ、殺すという言い方は置いといて、その選択肢は正解だと思うっすよ」

猛を見ながら顔をしかめていう将真。そして莉緒は、その猛の意見を肯定した。

そして、「なにせ」と付け足して、続きを美緒がつげる。

「あの怪物は、近くに生き物の気配があれば、捕食せずにはいられない、正真正銘の危険生物だもの」

「なっ……」

別に、何も珍しいことはない。それを将真も予想はしていた。だから、将真が声を上げたのはそんな事ではない。

今ここに、一体どれだけの人間が遊びに来ているだろうか。もしかしたら、この場にいる全員、海蛇シーサーペントに食われかねない。

そして、莉緒が最悪の答えを口にする。

「あ、そうそう猛さんの質問にまだ答えてなかったっすね__バッチリ起きてたっすよ」

「お前らよく無事だったな?」

「まあ、海蛇シーサーペント大海蛇リヴァイアサンほど危険じゃないっすし、特別ヤバイというわけではないんすよ。ただ、やけにデカくて耐久値たっかいだけで」

なるほど、と将真は安堵の息をつく。最悪だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。だが、そんな将真の安堵はひっくり返されることになる。

「まあ、今すぐここのみんな逃がさないと、食べられちゃうかもしれないけど」

「しれっと怖いこと言うな美緒」

つまるところ、一般市民にとっては脅威であることに変わりはないらしい。それに、さっきリンが言っていたが、どうやって海の上で戦えというのか。

無理とは言わないが、それは結構難しいことだった。

「とりあえず、今すぐ柚葉さんに連絡して、自警団に取り合ってもらうのが賢明っすかね」

そう言って、莉緒は腕時計のような形をした通信端末の電源をつけ、そして柚葉に連絡を入れる。

通信がつながると、ホログラム画面に柚葉が映る。

『__あら、莉緒。休暇は楽しんでる?』

「それが、海蛇シーサーペント見つけちゃって」

『ぅげっ……』

画面の向こうで、柚葉が女性とは思えない呻き声を上げて顔を顰めていた。

「というわけなんで、自警団に取り合ってもらえないっすか?」

『ええ、わかったわ。……まさか本当に入ってきてるなんて』

そんな言葉を最後に、プッツリと通信が切れる。

莉緒は顔を上げて、少しだけ真剣モードになった。

「さて、じゃあどうやって対処するかっすね」

「単純な話、ここは海だろ? じゃあ俺の神技ぶっ放せば……」

「まだ完全じゃないとはいえ、そんな高電圧のものを海に打ち込んだら、海蛇シーサーペントどころか海中のあらゆるものが滅茶苦茶になるっすよ」

「マジかよ」

「大マジっす」

響弥はそう告げられて肩を落とす。まあ、役立たず宣告されたも同然なので無理もないと言えばそうなのだろうが。

「じゃあボクの神技なら……」

「まあ確かに、海中の被害は少ないっすけど」

「今のリンさんの体調からして、まずちゃんと制御コントロールできるかどうか」

「うっ……」

美緒に痛いところをつかれたリンが、落ち込んだように膝を丸めて、砂浜に『の』の字を書く。

「……で、他に方法ないのか?」

そんな落ち込むリンに同情しながら、将真はため息まじりに問いかける。

まだ自身の力では空中戦をできるほどに到達していない将真では、恐らく役に立てないだろう。だとすれば、残るメンバーに頼るしかないが。

「海中の敵……まあ、海上に現れてくれれば幾らか楽になるけど、それでもやっぱり、距離もあって威力のある一撃じゃないとつらいわね。となると、私の場合は距離が足りないし、静音は火力が足りないかしら」

「じゃあ私なんてダメダメだよ……。猛も、流石に海上でなんて無理だと思うし」

「……じゃあ、お前らは?」

将真の中で、じわじわと不安が膨れ上がる。

まさかとは思うが……。

「私は無理。私の神技なら届くし火力としても申し分ないけど」

「響弥さん同様、海に深刻な被害をもたらしかねないっすからねー。ちなみに自分も無理っす。まだ空は飛べないっすからねー」

「じゃあ誰がやるんだよ⁉︎」

「将真は無理なの?」

呑気に笑う莉緒に、今日何度目かわからない将真の絶叫。そこに意見を上げたのは杏果だった。

「将真のあのヤバそうな技の中に、届きそうな攻撃あると思うんだけど」

「それがそう簡単なことでもないんすよー」

莉緒が否定気味に首を振る。

普段なら杏果の方が莉緒よりだいぶ頭がいいのだが、こういう時頭が冴えているのは莉緒の方だったりするのだ。

「将真さんの攻撃直後、実は周囲の魔力が不安定になってるんすよね」

「え、そうなの?」

「まあ、そういうデータが取れたらしいんで貰ってきたから知ってるってだけなんすけど」

将真も初耳だった。だが、それとこれとでどういう関係があるのか。

「将真さんの魔力って魔属性じゃないっすか」

「まあ……そうだな」

「言っておくっすけど、魔属性ってあらゆる属性の中で最も強烈なんすよ?」

「いや、そう言われてもな」

「そこで考えてみるっす。将真さんの技の中でも、特に強烈な奴ならまず間違いなく倒せるっすけど、何らかの魔導的処置を施さないと回復不可能なほどに海が荒れるっすよ」

「……」

つまり、響弥や美緒何かよりももっと危ないと。将真が誰よりも役立たず、を通り越して害悪だった。

それを知覚すると同時に襲ってきた精神的ダメージに思わず絶句。

その時、ようやく警報が鳴り始める。

『海中に危険生物の存在を確認。海にいる人達は急いで避難してください。あと、近くにいる魔導士は避難の誘導及び危険生物の駆除協力に尽力して下さい。繰り返します__』

そのメッセージを聞いた途端、少し慌ただしく遊んでいた人々は海から出て、魔導士の避難誘導に従って、少し焦り気味な雰囲気を出していた。

その様子を見ていると、街の方から駆け寄ってくる数人が、将真たちを見て声を上げる。

「何をしてるのあなたたち! 早く逃げなさい__って、アレ?」

「……黒霧くろきり紅麗くれい?」

その姿を見て、将真は彼女の名前を呆然と呟いた。名前を呼ばれた少女もまた、彼らを見て少し硬直した。

その後ろには、1人の少年と1人の少女がいる。

1人は学園序列入りすらしている、学年序列トップの風間遥樹かざまはるき。そしてもう1人は、これまた学年序列十席に入ってる名草真那なぐさまなだ。

遥樹は将真を見て僅かに笑みを浮かべると、

「やあ、元気そうで何よりだよ。片桐将真」

「そりゃどうも」

将真は少し不機嫌に返事を返す。

あの対戦で、事態をややこしくした1人でもあり、将真に直接牙を剥いた少年。彼には一応、途中まで敵意はなかったらしいが、別段仲間意識があったわけでもないらしい。

「以前は申し訳ない。ちょっと珍しく、僕も気分が高ぶっていてね。戦闘意欲が抑えきれなかったんだ」

「そんくらい抑えろよ学年トップだろ」

「残念なことに、とりあえず目立つ唯一の欠点がこれなんだ」

本当に残念そうに、遥樹は肩を竦める。そんな彼を、将真は恨みがましく睨みながらも、口を噤んだ。

よくもまあそんな事をと思わなくもないが、彼にも事情があるのだろうし、そもそも自分に原因があった以上、将真は深く追求できなかったのだ。

「まあ、それはそれとして、君たちもいるのなら丁度いい」

将真が黙り込んだのをどう解釈したのかは不明だが、遥樹が話を進めに入る。そして、遥樹の言葉が終わった直後、少し遠くの海から水柱が高く噴きあがった。

何事かと思って将真たちはそちらを見る。水柱は、その後も立て続けに何度も起きた。

その正体は、この距離でも目視できる大きさの怪物、海蛇シーサーペントだった。


「__アレを退治するのに、君たちも協力してもらおうかな」


遥樹は、その怪物たちを見据えながら、そう呟いた。

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