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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第6話 『神技』

「とりゃっ」

「うっ……!」


いつの間にか自身のすぐ隣まで迫っていた莉緒が、その手に持った小太刀で切り上げてくる。

咄嗟に反応したはいいものの、リンは莉緒の動きに恐ろしさを感じていた。


(この人、一体どこまで速くなるの⁉︎)


リンは神技を継続して発動したまま、本来の一撃を発動せずに

その影響を受け、肉体活性されている為、一時的だがリンの身体能力は、尋常じゃ無いほど向上している。だが、今や再び、追い縋るので精一杯。

途中まで手を抜かれていたとはいえ、まだまともに打ち合えていたところを考えても、先ほどより不利なのは目に見えていた。

神技使用中の魔導師の速度を更に上回る方法は、思いつく限りでは二つしか無い。


一つは、元々スピード特化の魔導師である事。

それならば、莉緒が本気を出した結果として今の状況というのは納得がいく。


だが、リンよりも格上である時点で、もう一つの可能性の方が有力だった。

それは__


「莉緒ちゃんも、神技が使えるの……?」

「さぁて、どうっすかね?」


リンは生唾を飲み下す。

莉緒の回答は曖昧だったが、間違いない。莉緒もまた、神技が使えるのだ。でなければ、魔導師の切り札である神技を使って、こんなに圧倒されるはずが無いのだ。


(くそっ……、こんなところで、ボクは立ち止まりたく無いんだ!)


リンはその手に持った長槍に、より強力な魔力を流し込んでいく。やがて長槍は、発火したように赤く揺らめくオーラを放ち始めた。

神技を本来の形で放つ。その覚悟はできた。


「おや、本気で来ますかね」

「うん。勝たせてもらうよ……!」


両手で柄を強く握り、腰を下げて低い体勢をとる。

魔力の余波で地面にひびがはいる。溜め込んだ魔力が頂点に達した時、長槍から一際強く魔力を吹き出した。

リンは深呼吸をして、莉緒を見据える。


(確実に当てる!)


「__『魔槍(ゲイボルグ)』!」


長槍が爆発し、恐ろしい速度で莉緒に一直線に向かう。

あまりの速さに、莉緒に当たる前に、既に直撃したような幻すら見えていた。観ていた生徒たちも、この一撃は当たる。そう思っていた。

だから、リンはすぐに信じることができなかった。自身の最高の一撃、神技がこうもあっさり躱されるなんて。


「お、おっかない速度と破壊力っすねー。危なかったっすよー」

「くっ……!」


莉緒の声が、再び背後で聞こえて、慌てて振り向く。

莉緒の顔には、相変わらず笑みが浮かんでいた。

そこに余裕は最早ないが、それでも変わらず、不敵な笑みを浮かべていたのだ。


「__でもまあ、当たらなきゃ意味無いっすね」

「何でかわせるの……⁉︎」

「だから、まだ貴女の神技は未完成なんすよ。どうせ習得したばっかでしょ? いやまあ、この歳で神技を使える事自体凄いっすけどね?」


それはそうだろう。

神技は魔導師の切り札。いくら才能があっても、高等部を卒業してようやく習得できる魔導師の方が圧倒的に多いのだ。


「ひとつ言わせて貰えば、リンさんはとても強いっす。十席を狙える実力は充分にある。でも……」


莉緒が、声を潜めていう。


「自分、こう見えても、中等部最後の序列テストまで、学年序列6位だったんすよ」

「__っ!」


その一言に、幾つもの記憶が蘇る。

リンは、まだ中等部の頃は今ほど強くなかった。とは言っても、数週間前までは中等部の生徒だったのだが。

リンは中等部時代、そこまで強くなかったために、莉緒と戦うところまで勝ち残ることができなかった。

更に、実力的に勝てないとわかっていたリンは、あえて近づかないようにしていた。

だが、言っていたではないか。名前は『莉緒』だと。

中等部時代から噂になっていた、超スピードの炎属性使い。実際の実力はもっと上と言われている。


「__『日輪舞踏』の莉緒……!」

「思い出してくれたみたいっすね。それじゃあ神技を見せてくれた貴女に敬意を表して、自分も神技で決着をつけてやりますよ。まあ、見せるのはほんの一部っすけど」


そう言って、莉緒は両手を前に出す。

現れたのは、二振りの小太刀。


「さあ、決着をつけるっすよ」

「くっ、『魔槍(ゲイボル)』……っ⁉︎」


再び、リンは長槍を構え直す。しかし、突然全身に走った激痛で膝をついた。

痛みのあまり膝が震え、全身が途方もなく重かった。

莉緒のほうを見るが、まだ彼女は何もしていない。

これは単純に__


「魔力、切れ……」


未完成の神技は非常に燃費が悪く、使用者のリスクを増大させる。

話には聞いていたが、まさかこれほどとは想像もしていなかった。

莉緒は、不服そうに頬を膨らませる。


「むぅ、このタイミングで、すか? 後味悪いんすけどー」

「……う、くぅ」


何とかして立ち上がるも、全身を苛む激痛と倦怠感で、今にも意識が飛びそうだった。


「まあ、いいや。観念してくださいっすねー」


気の抜けた口調でそう言うと、再び短刀を構え直した。

彼女の背後には、紅蓮の炎が燃え上がって、まるで太陽のようだった。


「咲き誇れ、無数の華美羅(はなびら)よ__!」


太陽のように燃え上がる炎から舞い散る火の粉は、まるで風に吹かれる花びらのようだった。だが、その火の粉一つ一つにも、攻撃判定があるらしい。

その証拠に、地面に落ちた火の粉が、地面を焼いて窪みを生み出していた。

そして、莉緒が踏み込む足に力を入れる。


「『日輪舞踏』、“三輪華”」


余りに速すぎるその一撃を、リンは目にする事ができなかった。抵抗する事さえできず、気がついた時には、壁に叩きつけられていた。


「か、はっ……」


強烈な衝撃に、肺の中の空気が全て押し出され、全身が軋む。

何が起きたのか理解できないまま__リンは意識を失った。




「……ん」

「おっ」


呻き声を上げ、目を覚ますリン。リンが目覚めた事に反応した声で、自分以外の誰かがいることに気がついたリン。

その視線が、将真へと向く。


「あ……、片桐くん」

「おう。体、大丈夫か?」

「えっと……うん、何とか」


少しずつ意識が鮮明になっていく。すると、気を失う前のことが頭を過ぎり、試しに手を閉じたり開いたりして、体を起こして見る。

神技を使った影響で激痛があったにも拘らず、今は思った以上に、痛みはなかった。


「だいぶ派手に吹っ飛ばされてたからなー」

「そうだった? 片桐くんよりも?」

「いや確かに俺も吹っ飛ばされたけどさ? 吹っ飛ばされた時の技の威力が段違いだからな?」

「あ、あははー……」


リンが乾いた笑みを浮かべる。

それにしても、凄い戦いだった。とてもじゃないが、学べるようなものではない。

高度な技が、フィールドを交差し、衝突しあっていた。

特に、リンが喰らった相手の攻撃は、凄まじい威力だった。相手の姿が消えたと思ったら、リンが壁に叩きつけられていたのだから、何よりも速さが尋常ではない。

まさに一瞬の出来事だったのだ。


「なあ、お前らが使ってたあの凄い槍、何なの?」

「えーっと……、もしかして、神技のこと?」

「神技?」

「うん。片桐くんも、神話くらいは知ってるよね?」

「まあな」

「神技って言うのはね__」


そして、リンは初心者の将真にもわかりやすいよう説明を始める。


本来、神話というものは、昔から言い伝えられていた伝説や逸話。

だが、その内容の殆どが常軌を逸している為、本当の話かもわからない。そんな、信用に足るかもわからないものばかりだ。


だが、『裏世界』における神話は、『表世界』における神話とは違う。かつて本当に存在した出来事が、伝説として語り継がれているというのだ。


神技とは、その神話で語り継がれたものの力を呼び起こし、自身の魔力によってそれを制御し、神の如き必殺の力を一時的に使用するものだという。


「でも、未完成だと身体にかかる負担がとても大きいから、使えると言ってもかなり制限があるし、燃費も相当悪いんだけどね」

「だから途中で蹲ってたのか」

「うん。習得したばかりだから、とてもじゃないけどまだ使いこなせそうもなくて……。やっぱり、負けるのは悔しいね」

「そりゃあ、な……」


リンは、ただ負けたのではない。

やっとの思いで習得した神技は通用せず、逆にその神技によってとどめを刺された。

その分、余計に悔しいだろう。


「けど、惜しかったと思うぜ。やっぱりお前は強いよ」

「そうかな……」

「自信持てよ。あんなレベルと比べてもしょうがないと思う。むしろお前20位以上じゃん。超いいじゃん」

「そっか……。うん、そうだよね。前までのボクじゃ絶対ここまで来られなかった。間違いなく、ボクは強くなれたんだ」

「あぁ。まあ、以前のお前を知らないからどうこう言えないんだけどな」

「ううん。元気でたよ。ありがと」


明るさを取り戻して微笑むリンの顔を見て、将真は思わず顔をそらした。

無性に恥ずかしくなってきたのだ。

不思議そうな表情を浮かべるリン。慌てて将真は話題を変える。


「そ、それで、どうすんだこの後」

「どうするって?」

「ずっとここにいるわけにもいかないんだろう?」

「あー、うん。そうだね」


この学園の医務室は結構広いというのは将真の個人的な感想だ。実際にどうかは知らないが、少なくとも、学校の保健室、というレベルではない。設備も病院に近く、魔導医師もいるらしい。

だが、その広さは万が一のために確保されているものであり、深刻な怪我でもしていない限り、いつまでも人を置いておくわけにはいかないらしい。


『大した怪我もしていないなら、医師に甘えるな』


この医務室の主の、ポリシーだそうだ。

従って、そこまで大きな怪我を負っているわけでもないリンは、早いところ出て行かなければならなかった。


「立てそうか?」

「ちょっと待ってね……っ、いったぁ……」


リンは立ち上がろうとしたが、痛みがまだ引いてないようで顔をしかめる。体を起こそうとした時は特に痛みはなかったが、歩けるまで回復するには、もう少しかかりそうだった。

どうしようかと将真が頭を悩ませていると、突然柚葉が医務室に入ってきた。


「あら、まだいたの貴方たち」

「えっと……まだって言うのは?」

「ん」


リンの問いに、柚葉はくい、と親指を立てて窓側を指す。

つられて2人は外を見る。日は既に落ちて、もう真っ暗になっていた。


「うわぁ、ボク、随分と長いこと眠ってたんだね……」

「確かに、思ったより遅くなったな」

「あ、そうだ。あの、ゆず……学園長」

「うん。なぁに?」

「申し訳ないんですけど、ボク、もう暫く動けそうになくて……」


リンの訴えを聞き届けると、柚葉は顎に手を当て、少し考えるそぶりを見せる。

そして、何かを思いついたように顔を上げる。


「将真」

「ん?」

「おぶっていきなさい」

「……え」

「お、おんぶですか……?」


ビシッと指を指す柚葉に、将真は間抜け顏で、リンは戸惑った様子でそれぞれ反応する。

それに応えるように、柚葉が頷く。


「そう。おんぶ」

「いや、それはなぁ……」

「流石に、この歳でおぶってもらうのは抵抗が……と言うか、恥ずかしいです」

「ふーん……。リンちゃん、全く動けないわけじゃないわよね? もう校舎閉めるけど、腹這いとどっちがいい?」

「……」

「……えっと」


黙り込む将真を、上目遣いでリンが見てくる。その目は少し涙目だった。

流石に、歩けない少女を、まさか腹這いなどさせられない。それを知っていて見過ごす外道になるつもりは、将真はにはなかった。

仕方がないとため息をついて、将真は了承を示す。


「……わかった。おぶってく」

「ご、ごめんね片桐くん」

「いや、いいって。気にすんな」


そんなわけで、将真はリンをおぶって帰ることになった。それがどういうことなのか、深く考えもしなかった。




リンが目を覚ます前。そして将真が席を空けていた時の事。

医務室にいたのは、リンだけではなかった。


「いって、痛い! 痛いっす!」

「このくらい我慢して。そもそも、らしくもなく無茶した貴女が悪いのよ」


そこにいたのは、莉緒と美緒だ。

美緒が莉緒の身体中に包帯や絆創膏で傷を塞いでいく。傷薬が沁みるようで、時折莉緒が涙目で喚いていた。


「にしても、珍しいわね。負けるとは元々思ってなかったけど、もっと楽に勝てると思ってた」

「いやー、自分的にも大誤算っすねー……いて、いてて……。まさかリンさんが、神技を使えるなんて思わないっすよ」


相手はつい数ヶ月前まで上位に名を並べることのなかった少女だ。だから知らなかったし、調べることもなかった。結果、対策ができなかった。

加えて、リンが使用した神技は、相当強力だった。


「『魔槍(ゲイボルグ)』……ってことは、クーフーリンの神話っすよね、やっぱり」

「それって……神技の中でも、かなり攻撃力高くなかった?」


美緒のいう通りだ。

ただでさえ、槍や弓といった武器は貫通特性を持っているから、殺傷能力が極めて高く、結界等で守っても破られやすい。神技ともなれば尚のことだ。

しかも、クーフーリンの神話は、『裏世界(こちら)』ではかなり有名だ。

神技の特性は、あらゆるものを穿つという魔槍。部類としては、超攻撃特化型だ。

むしろ、あのタイミングで咄嗟に防御して、無傷で乗り切れる者がいるというのなら、是非とも見て見たいものだ。


「しかも、自分が神技を使わなきゃ勝てない相手も珍しいっすしねー」

「そうだね。それにしても、莉緒の神技は相変わらず速すぎるわよ」

「抑えろって言いたいんなら無理っすねー。むしろもっと早くってならいけるけど、無理に速度抑えると負担かかってしんどいんすよー」

「まあ、今日使った神技も、比較的強くないほうのだから良かったけどね」

「何で美緒が安心してるんすか」


何故かホッとしている美緒の様子に、眉をひそめながら莉緒が苦笑する。


「ま、何にせよあの2人は面白そうっす」

「あ、じゃあもしかして……」

「ええ、まあ、あの2人が良ければっすけどねー」


美緒の含みのある言い方に、ニヤリと笑みを浮かべて応える。

莉緒の笑みは、実に楽しそうなものだった。

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