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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第5話 『鬼嶋莉緒』

試合を観戦していた将真は、その光景に素直に驚いていた。

リンの相手をしていた生徒は、少なくともリンよりは強そうだった。

見た目美少女のリンは、体はあまり大きくなく、そんなに強くは見えない(ちょっと失礼)。そんな彼女が、縦横無尽にフィールドを素早く駆け回り、相手の攻撃を跳ね返し、魔術に対しては魔防壁(バリアー)で対処する。

かなり魔導戦に手慣れている様子だ。


主装は、武器生成魔法で創り出した長槍。

リンの身の丈を優に超え、全長2mはありそうなくらいだ。

アニメなどでよく見る長物をグルグルと回す器用な技。実際にやろうとしてもほぼ不可能と言うような話を聞いた気がするのだが、リンはそれを難なくやってのけていた。しかも動きを見ている限りだと、リンにとってはルーチンワークの一種のようだ。

目の前の光景に唖然としながら、将真が聞いた話は嘘だったのか、それとも、これが魔導の『不可能を可能にする』という特殊性の影響だろうか、と考えたものだ。


リンは、難なく2戦目を勝利で収め、3戦目も問題なく勝ち進んだ。

準決勝では、多少手こずった様子を見せたが、それでも危なげなく勝利を飾った。

そして__




「時雨ってさ」

「うん?」

「実はめちゃくちゃ強くないか?」

「そ、そうかな?」


リンの決勝戦を間近に、2人はそんな話をした。リンは少し照れたように頭をかく。


正直、謙遜だろうと思いたい。

確かに、リンの強さは無双と言うほどではない。

相手も同じく、魔導戦に慣れている生徒ばかりだった。強さに違いはあれど、魔法と魔術をうまく使い分けた、器用なコンビネーション技。それに反応するのは正直、難しいと思う。

それに、これもずば抜けているわけではなかったが、リンの動きは結構速かった。

目で追うことはできるが、その速さは『表世界』の『世界最速の人間』とか言うのが大したことないように見えるくらいではあった。

しかも、そんな速さで動く中、殆どミスなく長槍を使いこなしていた。

魔法で創ったというのだからできないことではないのだろうが、何と魔術を弾くという芸当までみせてくれた。


すごいと思うのは自分だけかとも思ったが、それを目の当たりにした相手も驚いていたところを見ると、将真が魔導師として未熟だからだけではなく、純粋にリンが強いからだろう。


「そうだろ普通に。来たばっかの俺じゃあまりわからないけど、俺みたいな下手くそ相手なら敵わないくらいには」

「そっか。そんなに強かったんだねボクは」

「ああ」

「……そっか。ちゃんと強くなれてたんだ」


そう呟くリンの目は、どこか懐かしそうでさえあった。

昔に何かあったのか。

聞いてみたい気もしたが、リンは聞くのを憚られるような雰囲気を漂わせていた。仕方なく将真は、ため息をするにとどめる。


「ところで」

「ん?」

「ボクの戦いを見て、何か学べた?」

「……いや、俺にはまだちょっとレベルが高いっていうか、何ていうか……」

「ダメだったんだね」


ジトー、と半顔で睨んでくる。

将真は慌てて、誤魔化すように話題を変えた。


「そ、そろそろ、時間じゃないか?」

「……はぁ。うん、そうだね」

「決勝、頑張って勝てよ。応援してるから」

「あはは、ありがとう」


リンは笑って、そう答えた。


(なんか、誤魔化そうとしたのバレバレっぽいよな……)


2人はその場で一旦別れた。

将真は観客席へ。リンはフィールドの方へ。


「……俺も、頑張らなくちゃな」


何か一つでも、学べるものがあれば。

少しでも、魔導というものが体感的に理解できれば。

もっと、強くなれるはずだ。




フィールドには、2人の少女が立っていた。

1人はもちろん、銀髪の可憐な少女、リンだ。

そしてもう1人、リンの前に立つのは、紅い髪をうなじで2つに結い分けた、紅い瞳を持つ少女だ。

今も見てわかる通り、余裕そうなニヤニヤとした不敵な笑みが印象的である。


「……あの」

「ん、なんすか?」

「あなたの名前は?」

「あー、わざわざ名乗ってからやるタイプっすか? まぁ嫌いじゃないっすけど」


少女は、少し呆れた様子を見せながらも、興味深そうにもう一度、ニヤリと笑みを作る。


「自分の名前は莉緒(りお)鬼嶋莉緒(きじまりお)っす。呼び方は何でもいいっすよ、以後よろしく。……それで、貴女は?」

「ボクは時雨リン。こちらこそ、よろしく。あと、別に名乗り合う主義なんじゃなくて、これから仲良くしたいと思っただけなんだけど……」

「あ、そーでしたか。何かすいませんっす」


たっはー、と苦笑を浮かべながら、莉緒は頭をかいた。

あらゆる所作から余裕が滲み出るその姿を見て、一体リン以外の人には何がわかるだろう。

少なくとも、リンは理解していた。見誤ることはなかった。


(隙なんて、まるで無い……)


へらへらとした見た目とは裏腹に(ちょっと失礼)相当手練れと見える。

今までの試験は、相手には悪いけれど楽に勝てたものだ。だが今度は流石に、簡単にはいかないだろう。苦戦を想像して、リンは少し顔を顰める。

すると今度は、莉緒の方から声をかけてくる。


「いやー、実は早く戦ってみたくてしょうがなかったんすよ。保健室で貴女と……あの、観客席の少年を一緒に見ていた時から」


莉緒は、少しキョロキョロと観客席を見渡すと、将真の姿を見て呼びを指した。


「……あの時の気配は鬼嶋ちゃんだったんだね」

「呼び方好きにしていいとは言ったっすけど、莉緒でいいっすよ。双子の妹がいるんで、苗字で呼ばれるとややこしくて」

「そう? ならそうするね」

「それにしてもまさか、気づかれるとは思わなかったっすよ。いや、見つかっては無いんすけど、勘づかれるのも中々珍しくて」

「そうなんだ……」

「あの時、リンさんが自分に気づいた時、急いで天井に張り付いてやり過ごしてたんすよ」

「……莉緒ちゃんって、忍者か何かなの?」


気配を消すだとか、天井に張り付くだとか、思わずリンは思ったことを口に出していた。その様子は、少し呆れていた。

そうして少し雑談をしていると、試合開始まで残り1分の表示がでる。


「お、そろそろみたいっすねー」

「そうだね」

「準備は万端っすかー?」

「……うん、問題なし。ボクは大丈夫だよ」

「そっすか」


試合開始の時間は少しずつ迫ってくる。

たった1分。それなのに、時がゆっくりと動いているような錯覚すらあった。

試合開始まであと、3、2、1__


合図が鳴らされた。

それと同時に、リンは武器生成魔法で長槍を創り、さらに、自分自身に肉体強化魔法をかけて一瞬で接近した。

予想以上の速さに、莉緒は目を見開いて驚いていた。


「おお⁉︎ さっきまでの試合は本気じゃなかったんすか⁉︎」

「こう言っちゃうと対戦した人たちには悪いけど、アップよりも本戦で本気出すのは普通でしょ」

「なるほど。自分と戦うために温存してたわけっすか!」

「その通りだよ!」


正確には、莉緒と戦うために温存していたわけでは無いが、元よりいずれ当たる強者との戦いのための温存だ。間違ってはいない。


__ギィン!


莉緒が慌てて創り出した小太刀が、リンの長槍と衝突し、金属音を響かせる。

反発して、お互い少し交代するものの、リンは着地の瞬間、その一瞬のみに魔力を注ぎ込み爆発的に加速する。

更に、莉緒の懐まで潜り込んだところで、今度は全身に肉体強化の魔法をかけ、数連発の突き攻撃を放つ。

音速並みの速さで放たれる超高速の、しかも魔法で作られた槍だ。攻撃力も手数も十分だった。

だが、驚くべきことに、莉緒はそれを紙一重でかわしていく。そして、一撃一撃が強くても、当たらなければ意味がなく、むしろその反動は自身に帰ってくる。

リンは攻撃終了後、僅かに硬直する羽目になった。無論、あの攻撃を躱せる莉緒が、そんな隙を見逃すはずも無い。


「__せいっ!」

「かふっ……」


思いっきり背中を打ち付けられて、ボクは地面を少しバウンドする。


「いっっっ、たぁ〜……」

「いやぁ、予想以上っすわ。ここまでやれるとは思ってなかったっす」

「……よく言えるねそんな事」


リンはゆっくりと立ち上がり、再び長槍を構え突進していく。

別にそれしかできないわけでは無いが、先ほどからいろいろ試そうとしても、何故かタイミングがずれてしまうのだ。

おそらく、リンの動きを読んでいる莉緒が、わざとタイミングをずらして動いているのだろう。それだけでも彼女の実力はわかろうというものだが、何とそれだけではなかった。


何度も武器を打ちつけ合い、視線を交錯させている間に気づいてしまった。

側から見ていれば、なかなかお目にかかれるものではない、高レベルな戦闘なのかもしれない。

だが。


(明らかに、手加減されてる……!)


かなり必死になっているリンに対し、最初驚いていたのは何だったのかというくらい涼しい顔をしてリンの攻撃をいなしていた。


(くそっ……!)


確かに、リンは昔と比べると強くなった。

以前の彼女だったら、ここまで勝ち進む事はできなかっただろう。莉緒とこうして戦っている今も、自分が成長しているという自覚もある。


だが、それでも足りていなかった。

高等部に進級した後は、一年生の最初の序列テストでせめて十席の中に入ることがリンの目先の目標だった。

達成できれば自信に繋がり、大切なものを守れる力があるのだと信じることができる。

けれど、リンの力は、十席に入れるほど強くはない。足りていない。

まだリンは、弱かった。


(だからって、簡単に諦められない!)


「っ、お?」


莉緒が、動きを止めた。

リンの全身から、強力な魔力が吹き出していることに気がついたからだ。

確かに、リンはまだ弱い。だが、自己鍛錬で、何も習得できなかったわけではない。


「優しい人を守る力を、大切な人を守る力が欲しい。ボクは、こんなところで負けたくない__!」

「__っ⁉︎」


爆発的な量の魔力が、体内で弾け、体外へと溢れ出す。

その様子に莉緒は、相変わらず笑みを浮かべていた。

ただし、先ほどまでの余裕そうな笑みとは違い、驚愕と焦燥が入り混じったような、引きつった笑みだったが。


「まさか、神技が使えるとは……想定外っす」

「何でも想定内で済むと、思わないでね__!」


リンは、一気に加速して莉緒に接近する。

さっきまで追い縋るので精一杯だったが、今なら莉緒の動きが見える。わかる。追える。

神技使用に必要な強大な魔力の影響を受けて肉体が活性化。その結果、基礎身体能力が、尋常じゃ無いほど向上しているゆえだった。

リンは躊躇なく、長槍を横長に振るう。

莉緒は一瞬遅れて攻撃に反応し、小太刀で受け止めようとした。

凄まじい動体視力だ。リンは素直に感嘆した。間違いなく彼女は、リンよりも格上だった。


だが__手応え有り。


「せぇあああぁぁぁっ!」

「くぅっ⁉︎」


莉緒は吹き飛ばされ、1度も地面に触れる事なく、対面の壁に叩きつけられた。


「よしっ」


リンは空かさず追撃を加えようと、足に力を入れる。

神技を習得して日の浅いリンは、神技を使用したまま戦える時間は短い。何よりリンの神技は本来、一撃発動するだけのものなのだから。

好機を逃すわけにはいかない。


(一気にカタをつける!)


だが。


「__いやぁ、本当に驚きっすわ」

「っ⁉︎」


バッと背後を振り向いた。

そこには、今し方吹き飛ばしたはずの莉緒が立っていた。

さっきのは幻影が偽物か。そう思ったが、違う。彼女の体には確かに傷があった。深くは無いけれど、決して浅くは無い。

リンの神技は通用している。それだけに、リンは今、余計に驚愕していた。


「何で、神技を受けて平気なの……?」

「んー……、理由はまあ、2つっすかね。1つは、神技の完成度」

「完成度?」

「その歳で神技を使えるってのは凄いっすけど、未完成もいいとこっすね。例え完全でなくとも、攻撃特化タイプの神技の一撃を喰らって、こんな平気でいられるはずがないっすから」

「……もう1つは?」


余裕の笑みを消した莉緒からは、妙な気迫を感じる。嫌な予感がして、リンは思わず身構えた。


「それは……貴女が思い出すまで、待ってあげるっすよ。決勝戦だけは、延長10分取れますからね__!」

「っ!」


そして莉緒は、今度はこちらの番だと言わんばかりに、動き出した。

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