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第53話『VS片桐柚葉』

「何で、学園長がここに……?」

私は声を震わせながら呟いた。学園長は、フッと微笑んで、私に手を向ける。

すると、私の体から虫のような小さな光が一つ飛んで、柚葉の指先に触れると同時に弾けて消えた。

「い、今のは__」

「使い魔のようなものよ」

「……いったいいつから」

つまり、彼女がいつ仕掛けたか不明だが、その使い魔が私についていたから、全て筒抜けだったということか。

だとしたら、何と迂闊な話だろう。協力すると言っておきながら、結果的にリンたちの邪魔をしてしまった。こんな馬鹿な話があるか。

最早結果は出てしまった。

「っ、時雨さん、行って!」

燈が叫ぶ。

作戦会議何てものじゃないけれど、本当なら後輩たちの意見が正しいのだろう。だが、私たちが何しようとしているのか、全てを知られている以上は誰かが囮をしなければならないわけで。

「1番初めの作戦で行く! 私たちが囮をするから、お前たちは早く外へ出て片桐将真を追いかけろ!」

「でも__」

「片桐将真はお前たちの仲間なんだろう⁉︎ 早く行くんだ!」

それに、これは予測だが、リンたちでは恐らく柚葉の相手にもならない。

リンたちは何秒か逡巡した様子を見せたが、それでもこくりと頷いて、私たちに背を向けた。

「では……お願いします」

「ここは任せるっす!」

「そっちもちゃんと頑張ってね」

「さて……」

私たち3人は柚葉に向き直る。それを見た柚葉は落ち着いて端末に接続する。

『学園生に命ずる』

「なっ⁉︎」

柚葉が端末に向かって話し始める。それは校内放送に接続されて学園中に響き渡った。

『いまから写真を送る8名は反逆罪を犯したものである。彼らを見つけた場合、即報告または捕縛しなさい』

柚葉は、必要な事だけを伝えて通信を切った。私たちは歯噛みしながら唸るように言う。

「卑怯だぞ……!」

「卑怯?」

瞬間、柚葉の目がスッと細まって、凄まじい覇気が放たれた。

『っ……!』

「世界を救うために卑怯も何もないわ。あなた達も素直に従えばこんなことにならなかったのにね」

柚葉が一歩、こちらに向かって足を進めた。

気圧された私たちは少し後退する。だが、ここで退いてはリン達を先に行かせた意味がなくなる。

「どうする、燈、恵林。投降するならしてもいいぞ?」

「冗談言わないで」

「うん、その時はみんな一緒だよ。大体、狂人に従う気はさらさら無いから」

「恵林ちゃん、本当に嫌いなんだねそういうの……」

恵林らしからぬ辛辣な言葉に、燈が苦笑した。花橘なんて狂った奴らばかりだろうに。いや、そんな中で1人だけまともだったから余計にそう思うのか。

とにかく、2人ともちゃんと残ってくれるのはとても心強かった。

「よし、なら行くぞ!」

「ええ!」

「うん!」

柚葉との戦闘が始まった。




「……うわ、ちょっとヤバイかも」

「ん? どうしたんすか?」

唐突にポツリと呟いた佳奈恵の方を振り向いて、莉緒が問いかける。


すでに学園を出たボク達は、建物の上を走っては跳んで次の建物に移るという、忍者さながらの行動をしていた。

この方が飛ぶよりも疲労は少ないし、地上を行くより見つかりにくいからだ。


佳奈恵は、少し青ざめてさっきの言葉の真意を告げた。

「学園長が、全生徒に私たちを捕まえるように命令してるみたい」

「げ、マジかよ」

「それは困ったっすねぇ……」

それを聞いて、響弥と莉緒が心底嫌そうな顔をし、ボク達もまた唸るようなため息をついた。

そんな人数に追われたら、とてもじゃないが逃げ切れない。

どうすれば逃げ切れるだろうかと考えていると、ふと美緒が思いついたように佳奈恵に問いかける。

「ねぇ、佳奈恵?」

「うん?」

「何でそうなことわかったの?」

端末越しに逆探知されてはたまったものでは無いので、端末の通信は切ってある。学園からはだいぶ離れているのに、どうしてそれがわかるのか。

その答えは、彼女の魔導にあった。

「私の魔法……何だけど、『精霊の加護フェアリーギフト』って言って」

佳奈恵がそう言うと、その手に光の粒のようなものが生まれた。ちょうど、柚葉の使い魔のようなものだ。

「そう言えばあったね」

美緒が思い出したように頷いた。同様に佳奈恵は頷いて首肯する。

「使い魔って聞いたらこれを思いついて。みんなの陰に隠れて学園長にくっつけたんだけど……」

「ナイス判断っす。それだけわかれば十分っすよ」

「……莉緒ちゃん、何か思いついたの?」

移動しながら、ボクは不安気に問いかけた。

莉緒は、こくりと頷いて、みんなに言う。

「まず、みんなの魔力を自分に下さいっす」

「え?」

「と言ってもまあ、ほんの僅かで構わないっすよ」

直接、そして効率的に大量の魔力を譲渡する場合は、色々面倒だったり問題があるような手順が必要になってくるのだが、少量であれば話は別だ。

ボク達はそれぞれ、手に魔力を集中させ、莉緒の手を順に握っていった。

全員分の魔力を受け取ると、莉緒はキョロキョロと辺りを見渡し、とある一点に目をつけた。

「とりあえずあそこに降りるっすよ」

「え、降りるの?」

「大丈夫っす。気配も無いし路地裏っすから」

ボク達は莉緒に従って建物の隙間にできた人気の無い場所に降りた。その後、莉緒がもっと固まるように指示してきたので、少し窮屈だが狭目に集まる。

莉緒はそれを確認すると、地面に手をつけた。地面に、直径10メートルもしない魔法陣が展開される。

「『贋作人形フェイカードール』」

莉緒が唱えた瞬間、魔法陣から8つの影が飛び出した。それは、私たちと全く同じ姿をした何かだった。そしてそれらは、バラバラに分かれて移動を始める。

それを確認すると、莉緒は小さく息を吐く。

「できれば、日本都市ココを出る前までは三回で済ませたいところっすね」

不思議に思って、ボクは何気なく聞いてみる。

「今のは?」

「自分の魔法っす。壊されでもしない限り動き続けることができる分身っすよ。捕まえるよう言われてるなら壊される事はまず無いと思うし、これ使ってる間は自分たちにステルス効果があるんすよ」

すると今度は杏果が、驚いて口を開く。

「ステルスって事は、今私たちの姿は他の人には見えてないってこと?」

「ついでに言えば触れても透けるっすよ。ただ、この魔法陣より外へ出ると効果が切れてしまうっす。という訳で、ここからは歩いて行くっすよ」

『了解』

みんなが頷いて了承を示す。それと同時に、ボク達は移動を始めた。

その様子を見ながら、ボクはふと、関係の無いことを思っていた。中隊になるとリーダーは杏果になるけれど、実際作戦とかを考えたり思いついたりするのは莉緒の方が多い。

きっとそう言うことなのだろう、とボクは頷いた。

この中隊は、杏果が精神的支柱で、莉緒が司令塔なのだろう。そしてきっとエースがいるなら__

「待っててね、将真くん」

ボクは、ポツリと呟いた。

すぐ隣を、目の前を歩くボク達に、誰1人として気づくものはいなかった。




「『龍皇の咆哮ティアマト・ヘルズ』!」

叫んだ私の背後に、赤く巨大な魔法陣が展開される。その数は校舎という場所を考えて3つにしているが、それでも範囲はギリギリだし、そもそも本来は魔法陣を11個展開するものなのだ。

それをわかっているのだろう。柚葉が僅かに嘲笑を含めて言う。

「いいの? 手加減している余裕なんて無いでしょう?」

「もちろんわかってる……学園長、一つ提案なんだが」

「何かしら?」

「場所を変えないか?」

「……私はあなたの遊びに付き合うためにここに立っている訳では無いのよ」

「こっちだって遊ぶためじゃ無いっての……だったら__」

どうやら提案は聞き入れてもらえないようなので、構わず魔法陣から攻撃を放つ。だが、狙いは柚葉ではない。

その砲撃は、校舎を破壊して広い空間を作り上げた。

「あらあら……これじゃどうあれ器物破損で反省書書かなくちゃね?」

「そんなこと気にしてる場合じゃないからな。そう言うわけだから胸を貸してもらうぞ学園長!」

威勢良く叫んだ私の背後には、既に11の魔法陣が展開され、全て柚葉に向けられていた。

それを見ても、柚葉は眉一つ動かさず、代わりにため息を一つついてポツリと一言。

「__〈龍装〉」

それを合図に、柚葉が跳躍してきた。構わず私は攻撃を放つ。灼熱の11連の砲撃は、だが、柚葉による全く同じ攻撃によって打ち消された。

「なっ⁉︎」

「〈龍装:ティアマト〉」

動揺した私に、今度は柚葉が、11の魔法陣を向けてくる。

私はその場を即座に退避。同時に、私がコンマ数秒前にいた場所を、圧倒的な熱量をもつ砲撃が飛んでいった。

「そんなまさか、学園長、あんたは私と同じことができるのか⁉︎」

「少し違うわね__〈龍装:ファーブニル〉」

再び、柚葉が跳躍して向かってきた。

「げ、空中で二段ジャンプとか有りかそんなの……っ!」

私は顔を顰めながら、応戦する。いくら接近戦闘が苦手と言っても、そんなに酷な酷さじゃない。あくまで序列の割に、という事だ。だから、迎撃して後退して、距離を取った上で再び撃ち込めばいい。そう思っていた。

だが、その考えは即座に雲散霧消うんさんむしょうした。

彼女の拳を受け止めた瞬間、全身に切り傷が生まれ、血が噴き出した。

「がっ……⁉︎」

__何が起こった⁉︎

現時点で冷静さを保てているのは奇跡に近かった。私は全力で退がって、再び迎撃態勢に入る。

そして、接触。

今度は、1度目とは違う場所に切り傷が生まれた。しかも、交差した傷口も出てきて余計に傷を広げていく。

「あ、くぅ……!」

どういう原理かは不明だが、どうやら触れるだけでこの有様になるらしい、と遅まきながら私は気づいた。

傷は別段深くはないが、決して浅くもなく、また傷の数が多いが為に出血が多かった。学園長を侮っていたわけではないが、まさか自分がこうも簡単に崩されるとは思っていなかった。

硬直した私は、さらに致命的な隙を生み出してしまった。いつの間にか、学園長は消えていた。

「な、何処へ__」

「〈龍装:リンドヴルム〉」

いつの間にか懐に潜り込まれていた。それでもまだ、防御は間に合う……と、思っていた。だが、実際のところは、柚葉を認識した瞬間、既に攻撃を受けていた。

柚葉の掌底打ちが鳩尾に直撃する。更に、全身に電撃が走る。

「ゴッ……」

思わず吐きそうになった。だが、それで終わりじゃなかった。空中で蹲った私の上から、柚葉が拳を振り下ろす。

「〈龍装:ニーズヘッグ〉」

「ッ__!」

私の悲鳴は、もはや声にならなかった。

全身に凄まじい熱さを感じた数瞬後、バンッと体の内側で何かが破裂したような感覚があった。

耐えきれなくなった私は、今度こそ地面に落ちた。

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