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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第4話 『序列274位』

突如、将真の雰囲気が一変した。


相対する少年、御白猛(みしろたける)は、その事実を前に初めて、将真に対して動揺を覚えていた。

視線が交錯したその一瞬、将真の背後に恐ろしく強大な『何か』が見えた気がして、戦慄が全身を駆け巡る。


__何故だ?


何が将真を変えたのか。


初めて、それもたった少し向かい合っただけだろう。勝負にもなっていなかっただろう。

猛が使っていたのは、魔導の中でも魔術と呼ばれる部類で、更にその中でも基礎の火属性魔術『火弾』だ。

無論、基礎魔術である以上大した威力もなく、大した速度があるわけでもない。

その程度の代物を、さっきまで命からがら避けたと言っても過言ではなく、加えて魔導がろくに使えないときた。ようやく魔法を使えたのはいいが、生成された武器は貧弱そうな棒。

最早、猛は勝利を確信していた。こんな未熟者に負けるわけがないと。


だというのに。


__何があいつを変えたんだ⁉︎


一瞬だけ見えた、将真の背後の影を見て思った。勝ち目がないと。

猛は頭を横に振り、後ろ向きな考えを振り落とす。再び『火弾』を生み出し、それをいくつも連続で放った。

あんな未熟者に恐怖を感じたことに対する屈辱はあった。特に猛はプライドが高いのだ。

だが、本能が知らせているような気がするのだ。長引けば、マズイかもしれないと。そして湧き上がる焦燥感が、猛を突き動かしていた。

その予感は、当たっているかもしれない。

その証拠に。


「……なっ⁉︎」


将真は、紙一重で全ての攻撃を躱してみせた。

紙一重と言っても、先ほどまでの命からがらとは全く違う。必要最低限の動きのみ。僅かに体をずらすだけで躱していた。

つまり、見えていた。認識した上で、確実に猛の攻撃を躱したのだ。


__ありえない。


猛は再び、戦慄を覚える。

魔導の心得がまるで無いこの少年が、百歩譲って単発ならまだわかるが、連続で全てを躱すなんて。

たった数分の戦闘で、恐ろしい勢いで成長していた。素質があったとしても、それは驚異的な早さだった。

そして猛が、戦慄に呑まれているその隙に。

将真は、反撃を開始した。




「……片桐くん、凄い」

「__あんな感じの動きだったのよね、『表世界むこう』で剣道やってた時も」

「あ、学園長。こんにちは」

「ええ、こんにちは」


将真の戦い振りに素直に感心していると、背後から柚葉に声をかけられる。

どうやら彼女も将真を見に来たらしい。まあ、弟の様子を見に来るのは、別に珍しいことではないだろうが。

そして、彼女の一言で、リンは昨日将真と会話した内容を思い出す。


『__なんかさ、相手がどう動こうとしてるかってのが、『見える』んだよな』


魔導による攻撃を、初心者であるにも関わらず、ああも容易くかわすのだ。

言い方は悪いが、こんな戦闘に比べれば剣道なんてお遊びのようなものだろう。


「これが、片桐くんの言ってた『見える』って事でしょうか?」

「ええ。……と言っても、原理はそう難しいことではないのよ。要は肉体強化の結果だもの」

「でも、彼は魔導を使えないんですよね?」


今、フィールドで戦っている将真。

彼の動きを見る限りでは、特別これと言って魔導を行使しているようには見えない。

先ほど、ようやく自身の意志で魔法を使ったわけだが、練度が低いためか、それは余りに頼りない武器だった。と言うよりは、魔力が棒状の形になっただけのものだったのだ。

今は、中々隙が生まれない相手にそれなりに苦戦しているようだが、その代わり全ての攻撃を躱しきっている。


「そうね。でも、魔力はある。あの子の意思とは関係なく、全身に魔力が行き渡ってるのよ。まあ魔導師はそれが普通なんだけど、それがあの子の場合、無意識化で肉体に干渉する魔力量がバカにならないみたいでね」

「そうなんですか? ……それで、その魔力の作用で動体視力が飛躍的に上昇、その結果『見える』……正確には、先読みができる。そういう事ですか?」

「そうよ。とは言え、それも常識の範疇だったのだけれど……」


目の前の戦いを見て、学園長は困ったように嘆息した。その表情はあまり困っているようには見えなかったが。むしろ嬉しそうですらある。


「あの子、呑み込みが早いのよね。特に体を動かす事に関しては」

「……習うより慣れろ、を体現した感じですかね?」

「そうかもね。普通に勉強はできるけど、得意なわけでは無いみたいだし……その点、剣道に限らずいろんなスポーツが得意だったみたいだから」

「そうなんですか?」

「ええ」


将真が剣道で優秀な成績を残している事は本人から聞いていたが、それ以外にもスポーツ全般が得意のようだ。おそらく、運動神経がとても良いのだろう。


「まあ、何が言いたいかっていうと……学習するのが早すぎて、いい加減、動体視力が常識の範囲を超えそうなのよねぇ……」

「そこまですごいんですか⁉︎ でも、それなら喜んでもいいはずじゃ……」

「まあ、嬉しいんだけどね。改めてちょっと恐ろしくなったというか、ね」

「はぁ……柚葉ゆずはさんでも、そんな恐ろしく思う事があるんですね」


意外な発言だったため、思わず学園長を名前で呼んでしまった。

と言っても、学園内ではともかく、普段はリンにとっても姉的存在ではあるのだが。

柚葉は、フィールドを見つめる。

そこで奮闘する将真の姿を目で追いながら、呟いた。


「さて、貴方はどこまでやれるのかしらね」


残り時間は、あと2分を切っていた。




無数の、と言うには少ないが、それでも充分に驚異的な威力を持つ火の玉が、将真に向かって飛んでくる。それも複数。

将真はそれを、必要最低限の動きのみで躱す。

途中、火の玉の影に隠れて相手の少年が剣を振り下ろし、薙ぎ払いをかけたりしてくる。

だが、それさえも躱す。


同じ事を何回繰り返しただろうか。おそらく、残り時間もあと僅か。

そして遂に状況が動く。


相手の魔力が切れたのか、体力的に限界が近いのか、一時的に攻撃が止まったのだ。

その隙を見逃すほど、将真は馬鹿でも素人でも無い。いや、魔導師としては変わらず初心者なので、あくまで戦いの中で、という事ではあるが。


一気に駆け出して、相手の目の前まで接近する。

そして、手にした武器がわりの棒を横薙ぎに振り被る。

相手は反応して、腕を盾にしようとするが__遅い。

この攻撃は確実に当たる。将真にはその確信があった。無論、手加減をする気は毛頭無い。


__当てれば俺の勝ちだ!


棒が彼の腕を強かに打ちつけ、そのまま彼の体を吹き飛ばすイメージを思い描く。

将真の耳に届いたのは、バキッと何かが折れた音だった。


__え、まさか腕折ったか⁉︎


そう思って、視線を上に向けた。そして将真は目を疑う。

将真の確信は現実となった。そして予想も、半分は当たっていたのだ。

確かに、折れていた。将真が魔法で作り上げた棒の方が、だが。


「……アレ?」


思わず間抜けな声が漏れる。

だが、この時将真は致命的にも失念していた。

今の自分が隙だらけだという事を。


「こんの、脅かしやがって……!」

「え、ちょっ、まってせめて手加減して__ギャン……!」


相手が生み出した、先ほどと比べるとふた回りほど大きな火の玉が、将真の眼の前に突き出される。流石にそれを躱す術はない。

直撃により爆発した火の玉。将真はそのまま勢いよく吹っ飛ばされ、地面をバウンドして転がって、しまいには壁に強打、ひっくり返って意識を失った。




「ぅっ……」


将真は、小さなうめき声をあげた。

目を覚ますと、そこには見覚えのない、白い天井が広がっていた。


「どこだここ……」

「保健室だよ」


ポツリと呟くと、答えが返ってきた。

視線を向けると、そこにはリンがいた。

慌てて将真は起き上がろうとする。だが、


「いって、イテェ!」

「ああ、だめだよ無茶したら!」

「わ、悪いな……」


痛みのおかげでようやく、意識が途切れる前の記憶が思い出せた。

なるほど、全身痛いわけだ。結構手痛くやられてしまったらしい。

将真は盛大にため息をついた。


「結局、負けちゃったなぁ」

「まあ、そんなに気に病んじゃダメだよ。むしろ魔導師見習いレベルのはずなのに、結構戦えてたし。プラスで考えよう。運が良ければ一応161位だよ?」

「それでもだいぶ低くね?」

「うん、まあ、半分よりは下だけど……。でも、言ったでしょ。次の、8月のテストで挽回すればいいんだって」

「……そう、だな」


確かに、いつまでも落ち込んでたってしょうがない。負けは負けだ。負けたのなら強くなればいい。それだけのことだ。

時計を見て、ふと疑問に思う。

そう言えば、リンの第1試合はもう終わっているであろう時間帯だ。そう長く気を失っていたわけでもないらしい。


「そういや時雨」

「うん」

「お前の方はどうだった?」

「ボクは勝ったよ?」


__コノヤロォーーー!


一体どんな神経してたら、先ほどの言葉をかけられるのか。普通はもう少し気を使ってくれても良いのでは。いや、リンの戦績を聞いたのは、他ならぬ将真自身なのだが。

それはそれとして、どうやらリンは、優秀な魔導師らしい。


「って事は、160位以上ではあるわけだ」

「うん」

「くっそぅ、悔しいぞ」

「でも、片桐くんは今後強くなると思うよ?」

「そうか?」

「うん」


そう言ってくれるのは有難いが、ぬか喜びさせられるのはちょっとやだなぁと思う将真である。

そのタイミングで、柚葉が保健室に入ってきた。


「あ、目が覚めたんだ。ちょうどよかった」

「何がちょうどいいんだよ?」

「貴方の序列が出たから、教えてあげようと思って」

『はやっ⁉︎』


将真とリンは思わず驚愕する。

そして将真は柚葉に詰め寄り、待ちきれずに答えを急かす。


「ど、どうだったんだ?」

「待ちなさい、そして落ち着きなさい」

「うぃっす」


チョップを頭頂に落とされ、将真は言われた通り一旦大人しくした。リンも将真の序列を気にしてか、柚葉の答えを待っている。


「じゃあ、言うわよ。将真の序列は__」


将真と、そして何故かリンもゴクリと生唾を飲んで、その答えを待つ。

そして。


「__274位よ」

「……」

「び……」


__微妙だー! 絶妙に微妙すぎる! てか低い!


将真はがくりと肩を落とす。

いや、次回頑張ろうと決心したのだが、それにしたってこの結果は精神的に来るものがある。

何というか、順位の低い人間の気持ちがわかってしまった。


「き、気にしちゃダメだよ? まだまだ機会はあるからね?」

「そうよ。それに任務をクリアすれば、次のテストを待たずに少しずつ序列はあげられるのだから、一年生時点でそんな気にするものじゃないわ」

「そういうもんなのか?」

『うん』


柚葉とリンが2人して頷く。

そういうもんらしい、ということで、将真は納得することにして切り替える。


「時雨は勝ったんだろ? 次の試合はいつだ?」

「もうすぐだよ。でもどうして?」

「いや、お前の初めの試合は見てないし、試合を見て勉強させて貰おうかと思ってさ」


あとは応援とかだろうか。自分も応援してもらったのだから。

将真は布団から起き上がる。


「あ、ちょっと、起きたらダメだよ」

「なんで?」

「だって怪我が……」

「怪我?」


言われて、体を見てみる。動かしてみる。

だが、どうということはなかった。まだ痛みは多少あるし、全身にだるさは残っている気はするものの、特に支障はない。


「別に。動けるぞ?」

「え、あんなに派手にやられて、肉体強化の魔法も使ってなかったのに無傷なの?」

「……そんな派手に吹っ飛んでたのか、俺?」

「たぶん治癒したんでしょ。私はもう行くからねー」

「おう」

「柚葉さ……すいません、学園長、ありがとうございました」

「うん、そうね。学校では『柚葉さん』は控えてね」

「はい」


柚葉は、扉を開けて保健室を去って行った。

将真も立ち上がって、大きく伸びをする。

やはり体に異常はない。


「おっし、じゃあ俺らも行くか」

「うん。じゃあ、ボクの試合、ちゃんと見ててね」

「おう。がんばれよ」

「もちろんだよ」


リンはグッと小さめにガッツポーズを作った。


__なんか、可愛いな……。


「……どうしたの?」

「え⁉︎ いや、何でもないぞ!」

「そう? ……ボクの顔に何か付いてたりする?」

「そんなことはないぞ! 大丈夫だ!」

「ふーん……、っ!」


見惚れていた将真を終始不思議そうな顔をしていたリンだが、保健室を出てすぐ、何かに気がついたようにバッと周りを見渡す。


「……どした?」

「……何かに、見られてる気がして」

「何か?」

「……ううん、やっぱり、何でもない」


行こ、とリンが先導する。

将真は、いまいち釈然としないながらも、その後をついて行った。




その後、保健室前。


「……何してるの、莉緒(りお)


1人の少女が、天井に張り付く、顔立ちのよく似た少女に声をかける。

声をかけた少女の表情は呆れ気味だ。


「おや、美緒(みお)じゃないっすか」

「うん。それで、何してるの?」

「いやぁ、なんか面白い2人がいたんで、観察してたんすけどねー、よりにもよって、片っぽに気づかれちゃって」

「へぇ、貴女の気配に気づいたの?」

「えぇ、Bブロック決勝、自分の相手は彼女で決まりっすね」

「気がはやいね」

「逆に美緒は、自分が負けると思ってるんすか?」

「まあ、確かに同期生徒の魔導師に比べるとかなり強いとは思うけど」

「でしょ」


莉緒と呼ばれた少女が、スタッと廊下に降りる。

2人の見た目や体格は似ていながらも、非常に対照的だ。

他人が見ても、双子とはそう気付けまい。


「さて」


莉緒が呟く。


「決勝が楽しみっすねー」


ニヤリと、不敵な笑みを浮かべて。

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