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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第47話『魔王の関係者たち』

日本都市を囲い込む、『表世界』にある万里の長城のような、山の上に存在する巨大かつ分厚く、結界の境目になっている城壁。

だがその施設は、地上にあるものがすべてではなかった。

と言うか、意外と地下の方が使われていたりする。自警団の生活空間とか、花橘の一族が使用する実験室。そして、今私たちが集まっている会議室。

そこに集まる顔ぶれを見て、私はシミジミと思う。

__私かなり場違いじゃない?

と言うのも、ここに集まるのは日本都市を牛耳っている、特別何の能力があるわけではないが、絶大な権力を誇るいわゆる元老院の連中ジジィにババァ。そして、四大貴族の当主たち。更に自警団のトップに君臨する団長と副団長3人がいるのだ。

しかも、念のための護衛が自警団の中でも図抜けた強さを持つ序列100位内の魔導士が10人という、もはや壮観とさえ言ってしまえるレベルのものだ。

まあ、かく言う私も実は自警団序列11位という強さを持つわけだが、問題はそこではなく、この会議に私が呼ばれた理由だ。

学園の問題といえばその通りかもしれないが、そしてそれなら学園長である自分が呼ばれるのもわからないではないが、何か違う気がしてならない。

そんな疑問が頭をかき回しているとき、唐突に声をかけられた。

「片桐柚葉」

「は、はぃっ!」

突然だった事、そして緊張の余り、思わず上ずった声を上げてしまう。そして団長は、そんな私に訝しげな視線を向けてくる。

「……緊張しすぎだ」

「す、すみません……」

「そんな調子では困るぞ。今日はお前に報告をさせるためにここに連れてきたのだからな」

「は、はぁ……」

報告とは一体何の事だろうか。

すると今度は、元老院側から名を呼ばれた。

「片桐柚葉」

「……はい」

「では早速報告してもらおうか」

「何をですか?」

「惚けるでない。そんなもの__『片桐将真』の事案に決まっておるだろう」

「__っ⁉︎」

それを聞いた瞬間、私は目を見開いた。

何故それを元老院が知っている? 確かに私は団長には報告を入れたが__

「……」

私は、団長に睨めつけるような視線を向ける。それに気がついた団長が口を開いた。

「元老院に話したのは俺だ」

「何でっ、ここだけの話だという約束だったじゃないですか……!」

「すまない。だが事が事だ、そういう訳にもいかない。俺の判断だけで全てを動かせるほど軽いものではないのだ」

「でも……!」

「それに、昨日くらいか。お前にも報告が来たはずだが?」

この会議に来る事とその訳を。

だが、私はそんなもの知らない。私は、副団長の1人に話を聞いただけだ。それも、この会議が始まる2時間前に。

そんな私の様子に気がついた副団長の1人が、別の副団長を睨みつける。

「花橘、お前まさか……」

「女性が、それも目上の人間に対して『お前』というのはどうかと思いますが?」

睨みつけられた花橘と呼ばれた女性の副団長は、ため息をひとつこぼして続ける。

「そんな事を正確に伝えてしまえば、もしかしたら彼女は素直に……と言うか正確な報告が出来ないのではありませんか? 対象は大事な学園の生徒で、しかも弟君なのでしょう?」

「ふざけるなよ、お前たちのやり方は行き過ぎているんだ__」

「こんな所で仲間割れケンカをするな、見苦しい」

一触即発の空気は、しかし団長の一言で消え去った。

「確かに、花橘が連絡を絶ったのかもしれないが、どの道正確な報告をしてもらわねばならんのだ。責め立てるというのであれば後にしろ」

「……わかったわよ」

「申し訳ありませんでした」

1人は悔しそうに、1人はまるで悪びれずにそう言って席に着き直した。

その様子を見て、そうだったと私は思い出す。

副団長の1人“五十嵐瑠衣”。自警団序列は2位。

見た目だけなら端正な顔立ちをした少女だが、その実私の倍くらいは生きているらしい。

もう1人“花橘苛折はなたちばなかおり”。自警団序列は4位。

お嬢様然とした優雅な女性だが、あの怪しさ漂う花橘の一族の次期当主……と言われているが、もはや既に実質当主と言ってもいいようなものらしい。先ほどの彼女の言葉が示す通り、瑠衣よりも歳は上だ。

この2人には昔、何かしらの因縁があって凄まじく仲が悪いらしい。特に瑠衣の方が、苛折を敵視している。一体何があってそんな事になったのか、想像もつかない。

とにかく、団長のお陰で場は静まった。当初の予定通り、私は報告を始める。


「以前から報告を受けていた“黒の力”についてです。6月17日に任務開始。その翌日にマッドと交戦し勝利しています。その直後に地盤沈下が発生。巻き込まれた片桐将真と柊杏果はそのまま落下し、任務の最終目的たる洞窟内__遺跡の発見に成功。しかし入る事は叶わず。そしてその翌日に地上へと脱出した2人は、既に始まっていた吸血鬼の貴族との交戦に参戦。片桐将真の参戦直後に、鬼人ランディが出現しました。片桐将真と鬼人ランディは交戦の末、片桐将真の死と言う形で終わりを迎えようとしていたところ、その間に時雨リンが介入。神技を用いて鬼人ランディの攻撃を受け止めようとしたが失敗し、その際に大怪我を受けています。それを目の当たりにした片桐将真はその力を暴走させ、その姿を変貌させました。その力で鬼人ランディを一度殺し、吸血鬼の貴族を戦闘不能まで追い込みました。そしてその直後に意識を失っています」


以上です、と告げて私は席に着いた。

長々とした報告を、だが誰1人声を上げることなく聞いていた。

やがて、元老院側から声が上がった。

「それは、力の暴走で間違いないのかね?」

「恐らくは。しかし、暴走中意識はあったようで、また目が覚めた時に話をしてみましたが、何ら異常な部分はありませんでした」

「重要なのは人格ではなくその力だ。その力はもしかしたら__」

「いや、結論には早いのではないか?」

「しかし本当にその力があの力であれば……」

「……っ」

ああだこうだと議論が始まる。皆恐れているのか正確に口にはしないが、その会話の中に何度も出てくる『あの力』。それが予想しているものであることはおそらく間違いない。

私が恐れているのは、その力を持つ将真を、彼らがどう捉えるかである。

やがて議論は進んでいって、

「自警団の団長よ。どう判断される?」

「……そうだな」

ついに団長が考えをまとめ、結論を告げた。

「お前たちの予想通り、片桐将真に宿る力は恐らく__『魔王』で間違いないだろう」

『っ……⁉︎』

それを聞いた瞬間、その場にいるものたちが騒めく。そして、私が恐れていたことを、団長は最もあっさりと言い放った。


「よって、以後、片桐将真を『魔王』と判断した上で対策を練る」


「ぅっ……!」

「……いいな柚葉」

「そ、れは……」

「了解してくれ。世界の為なのだから」

「しかし……!」

「何も片桐将真を切り捨てると言っているわけではない。対策を練る。今のところはそれだけだ」

「……」

私は、渋々頷いた。そして対策の議論が始まった。だが、私はその話が終始耳に入っていなかった。

結局、私が我を取り戻したのは、議論が終わってからのことだった。




「ねぇ、団長さん?」

「何だ?」

会議が終わってすぐ執務室に入った団長の後を、瑠衣はついていった。そして、少しだけ気がかりだった事を聞いてみる。

「花橘の事なんだけど」

「やめておけ。序列はお前の方が上でも、花橘の一族を丸ごと敵に回したらただじゃ済まない。それは俺にも言えた事だがな」

「……私の能力、忘れたわけじゃないわよね?」

「そんな訳があるか。それでも無理だと言っているのさ。そしてただじゃ済まないからこそやめておけと言っている」

どういう意味か、と瑠衣が首を傾げる。それを見て団長は、あまり乗り気ではないように呟いた。

「つまり、殺された方がまだマシだという目に遭わされるぞ」

「まさか。そんな事が……」

「例え俺たちの方が強くても、あいつらの使う術は俺たちにとって余りにも致命的だからな」

瑠衣には、その意味がわからなかった。理解しようと頭を働かせると、団長が瑠衣の方まで歩み寄ってくる。そして、少し身構えた瑠衣の額を、指で軽く小突いた。

その瞬間、辺りが闇に包まれる。


「な、何をっ……⁉︎」

呟くと同時、背後に気配を感じて、瑠衣は後ろを振り向く。そこに立っていたのは、彼女にとって余りにも大事なヒトだった。

今はもう亡き、大事なヒトだった。

「うそ……何であなたがここに……⁉︎」

瑠衣が呟く。

そこに立つ者が、ニヤリと笑みを浮かべ、腰から抜いた剣を自分めがけて振り下ろしてくる。

「__っ!」

その剣が瑠衣の体を切り裂こうとしたのと同時__パンッと音がして、思わず瑠衣はその場に座り込んだ。


その音は、団長が瑠衣の目の前で手を叩き合わせたものだった。

現実に意識が戻り、荒くなった呼吸を整えた瑠衣は、恨みがましい視線を向けて団長に掴みかかるような勢いで叫ぶ。

「何をするのよ!」

だが、むしろ団長は責めるような視線を向けて、

「この程度でそんな様じゃ、とても花橘の一族を敵に回すなんて夢のまた夢だな」

「何を__!」

「今のは、花橘が使う術の一端を垣間見せただけだ。と言っても、花橘でもない俺がこの術を使おうにも、この程度が限界・・・・・・・なんだがな」

「は……」

瑠衣は呆然とした。

あれが、花橘が使う術だという事は初めて知った。団長が使ったのも同種のものだという事も理解した。だが、今ので一端? これほどまでに凶悪な術が、この程度だと?

団長は、私に背を向けて離れ、次いで机の上に腰をかける。

「要するに、だ。心に大き過ぎる傷を抱えた俺たちは、花橘を相手取るには圧倒的に不利なんだよ」

俺だって、あいつらのやり方に好感は持てないしな、と団長は続ける。確かに、と瑠衣は冷静になった。あんな術を、しかもより強力なものを再び受けたら、もしかしたら自分が壊れてしまうかもしれない。

だが、それよりも瑠衣は気になった事があった。

「団長さんにも、心の傷があるの?」

瞬間、空気が冷たくなった。地雷を踏んだか、と瑠衣は内心青ざめたが、団長は特にどうという事もなく静かに口を開く。

「7年前に起きた事件を知ってるか?」

「……アレのことかしら?」

7年前の大きな事件と言ったら、自警団や団長と同世代の魔導士なら全員知っているだろう、とある生徒の『魔王化』で間違いない。

丁度、今問題になっている少年と同じような状態だが、それと比べても遥かにひどい。

団長は、珍しく弱々しい、淡い笑みを浮かべて、懺悔のように呟く。


「あの時、魔王化したのは、俺の親友だったんだ」


団長は語り始める。

片桐将真の『魔王化』、その原点となる事件を。

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