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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第45話『救援。そして……』

さっきまでの無双っぷりから打って変わって、吸血鬼を倒した途端に、膝を崩して地面にぶっ倒れる将真。

「ちょ……将真⁉︎」

「将真さん!」

「将真ぁ!」

将真がぶっ放した技の所為で、ただでさえ減っていた魔力が持って行かれてこちらもフラフラではあるが、心配になった私たちはすぐに将真の方へとふらつきながら向かう。

将真の元へとたどり着いてその顔色を見ると、あまり気分は優れないようだが、今の所はとりあえず眠っているようだ。

「何とか無事みたいね……」

「驚かせやがってよー全く……」

無駄な心配をしてしまったと、私や響弥は呆れたようにため息をつく。

その時、少し離れた場所から吸血鬼の、掠れた高笑いが聞こえた。

「は、はは……かは、ははははは……っ!」

「……何こいつ馬鹿なの?」

「馬鹿なんじゃねぇの?」

響弥が吸血鬼に侮蔑の眼差しを向けながら呟くと、今まで戦闘に集中して無口だった猛が同じような顔をして返事を返した。

更に、猛同様口を閉じていた佳奈恵は静音にしがみついて、

「な、何か怖いんだけど……」

「確かに不気味ねェ」

必要以上に怯える佳奈恵の肩を支えて呑気に答える。静音に関しては緊張感なさすぎるような気もしたが。

美緒は、リンの傷口を凍らせて応急処置をした上で、リンを背負ってこちらに歩いてきた。

吸血鬼は、高笑いをしながら続ける。

「かははははっ! お前たち……もう勝った気でいるのか……くは、はははっ……おめでたい連中だ」

「何? 負け惜しみ?」

「馬鹿を、いうな……。確かに負けるとは思っていなかった。俺はもう、戦えん……」

「だったらさっさと__」

「だが」

うんざりした私は、諦めを推奨しようとしたのだが、吸血鬼は私のセリフを遮って続けた。

「お前たちの情報は、あった……その上で、戦ったんだ……。万が一の可能性を考えて、こうなった時のことも、想定はしてある……!」

そして吸血鬼の体から、幾つもの紐のような、魔力で生成された何かが周りに伸びていった。直後、ズン、と地面が揺れたのを感じた。

『なっ……』

私たちは戸惑いの声を上げる。

何かしらの魔導が行使されたのを感じた。確かに今の私たちは満身創痍だが、それこそ万が一のことを考えて早くとどめをさすべきだったのではと後悔を覚える。

そして、木が吹き飛ばされて森が晴れたこの場所から、それを視認することができた。周りから現れたのは、何匹ものワイバーンだった。私たちが万全の状態であったなら何とかできるであろうその戦力は、だが今の私たちでは、死力を振り絞り切ったところで生き残れる可能性は低いように思える。

私たちの反応を見て、満足そうに吸血鬼が哄笑した。

「ふは、ははは……!」

「くっ……!」

「これは……前よりもピンチっすかね?」

「流石に今の状態じゃ辛いと思う……」

「でも、このままやられるわけにはいかないぜ?」

悔しげに歯をくいしばる私の後に、莉緒、美緒、響弥が口々に言う。

更に猛、静音、佳奈恵も、

「認めるのは癪だが、俺はまだ1人じゃワイバーンを狩れないぜ?」

「と言うか、数が多いわ……」

「ど、どうするの……⁉︎」

それぞれ、不安や焦燥を含んだ声でボヤく。

確かに、このままじっとしてやられわけにはいかないし、そんなつもりはない。だが、今のままではせいぜい、肉体強化の魔法を使って数分戦えるくらいしかもう魔力も体力も残っていない。

加えて、将真とリンが欠けている。とても勝てる気がしなかった。

今回ばかりは死んだかもしれない。万事休すと襲いかかってくるワイバーンを眺めていると、突如目の前のワイバーンが地に堕ちた。否、落とされたというべきか。

「……へ?」

今しがた蹴落としたワイバーンを足場にして、人影が一つ、空へ跳び上がる。

何匹かのワイバーンがそれに気を取られてそちらに反応した。

だが、ワイバーンたちの視線の先にあったのは、莉緒がよく使う炎弾の連射に用いる魔法陣に似たものだった。だが、数も大きさも、莉緒と比べるとあまりに強力で、七つの、巨大な紅き魔法陣が展開されていたのだ。

そしてそれらの魔法陣が一斉に火を噴く。それは火弾の上位魔術である炎弾ですら弱々しく見えるほどの圧倒的な火力。最早火柱というのが適切なその一撃は、ワイバーンの群れの半分を焼き払ってチリに変えた。

「うっそ……」

「マジすか……?」

美緒と莉緒が、思わずといった様子で呆然と呟く。

この位置からは小さな人影にしか見えなかったものが、こちらへ向かってくる。そして、次第に声が聞こえるようになってきた。

「おーい、無事かー?」

声をかけてきたのは、金髪を左側のサイドテールに結んだ、可憐な少女である。だが、私たちは全員、少なくともその人物に見覚えがあった。

「……時雨榛名しぐれはるなさん⁉︎」

「どうしてあの人がここに……」

「いやまて。て事はあの3人って……!」

私は驚きの声を上げ、美緒が戸惑うように呟き、ハッとしたように響弥が声を上げた。

そう。響弥が気がついた通り、女子3人で組まれたその小隊チームは、2年生の中でもトップの小隊チームだったのだ。

今年の学園序列十席は、3年が5人、2年が3人、1年が2人で、その3人が揃っている。その実績もさることながら、3年生の上位チームよりも強いと言われているくらいだから、知らない方が珍しい。しかもチームリーダーの時雨榛名は、学年序列1位、学園序列4位という化け物っぷりを誇っているのだから。

何にせよ助かった。今目の前で広がっている光景を見ればわかるとおり、榛名は魔力量も魔導技能も、学園屈指の才能を誇る。

自分たちの無力さを痛感させられる限りではあるが、ともかく助かった。

ワイバーン如きでは、彼女の相手にもならないからだ。

更に、はじめに注意を惹きつけた少女__美空燈みそらあかりも相当な化け物だ。しかもこちらは戦闘技能に関してで、1年にして接近戦では右手に出るものはいないと言われているほどの強さを誇る風間遥樹が、唯一苦手とする少女。

そしてもう一人。彼女については、高序列でありながらあまり多くは知らない。名前は確か__花橘恵林はなたちばなえりん

燈と恵林が私たちを守り、榛名が一人で残るワイバーンを焼き尽くした。

「ば、馬鹿な……」

吸血鬼が、呆然と声を上げる。気持ちはこちらも同じようなものだが、正直ざまーみろと思ったのは仕方ないと思う。

さて、榛名が地面に降り立って、吸血鬼の方に足を向けた。そして吸血鬼のそばにしゃがみ込んで不機嫌そうに言う。

「随分とまぁ、なめた真似をしてくれたものだな?」

「……どういう意味、ですか?」

「それがね」

「あの結界、実は地面を掘れば入れるようなものだったのよ」

「……はぁ?」

思わず私は間抜けな声を上げてしまった。そりゃそうだろう。そんな脱出をされたりそんな風にはいられないようにするなんてのは初歩中の初歩だ。そんなミスをこの吸血鬼は犯したのか。

そう思ったが、つい今しがた榛名が放った言葉を聞いて気づく。だからこそ吸血鬼は、そういう結界を作ったのだと。あえてそうする事で、魔導士わたしたちを試したのだ。

「あんまり馬鹿にされると、いくら温厚な私でも怒るぞー?」

「自分で言うの?」

「やっぱり榛名は榛名なのね」

「るっさい!」

緊張感のない先輩たちのやり取りに、少しだけわたしたちの気が楽になった。

そんな様子を見て榛名は笑みを浮かべてうんうんと頷く。そして、吸血鬼を睨みつけて、棘のある言い方をする。

「どうする? 遺言とか辞世の句とかあったらせめてもの慈悲で聞いてやらんこともないぞ」

「油断してると面倒なことになるよ?」

「まあまあ、そんなところも榛名らしいよ」

「馬鹿にしてるのかー?」

「馬鹿にはしてない__っ⁉︎」

恵林が榛名の不満な問いかけに返そうとして、表情を硬くする。不安になった私は、恐る恐る問いかけてみる。

「ど、どうしたんですか?」

「……何か来るよ」

「またぁ? 今度は何が?」

呆れた表情で榛名が呟く。恵林は意識を集中させて、

「……数は1体。でも、結構強いかな」

「まあ、それならどうとでもなりそうだな__っ⁉︎」

油断したように榛名が呟くと、今度は彼女が表情を硬くして、その場を飛び退いて警戒態勢をとった。

いつの間にかそこにいたのは__

「何だ、鬼人一体か」

「それなら多分、私一人でどうにかなるくらいだわ」

「私はあんまり戦いたくないなぁ」

榛名、燈、恵林がそれぞれホッとしたように言った。だが、それとは対照的に、私たちは青ざめた。

何故なら。

「……嘘でしょ?」

「何でお前、生きてやがる……っ⁉︎」

「……は?」

私たちの震えた声とともに発せられたそのセリフを、訳が分からないと言った様子で榛名が見てくる。

そして、その鬼人が声を発した。但しそれは、わたしたちにではなかった。

「潮時だ。引くぞ」

「……ランディ」

『__っ⁉︎』

その名を聞いた瞬間、今度こそ榛名たち二年生の顔に戦慄が走った。

「ら、ランディだって?」

「……見たのは初めてだけど」

「この鬼人が、ランディだっていうの?」

今までの明るい態度から打って変わって、その声は不安そうに揺れていた。だが、ランディはこちらを一瞥しただけで、そのまま吸血鬼を担いでその場を離脱する。

その直前で、ランディが口を開いた。

「『カタギリショウマ』に伝えておけ。その命、またの機会まで預けておくと」

そして今度こそ、彼は去って行った。

その瞬間、恐らく吸血鬼の貴族を前にしても勇敢に立ち向かうであろう榛名たちが、情けなくへたり込んだ。

「あ、あの榛名さん?」

「な、何だ?」

「あの、ランディって……」

「ああ」

榛名は、のんびりと立ち上がって鬼人ランディについて語り始めた。

「私たちも詳しい話は知らないんだが……。鬼人は鬼人でも、魔族連中の間でランディと呼ばれている奴がいて、そいつの強さは段違いだってのは聞いてる。たとえ学園序列1位でも、一対一では無事では済まないと言われてるレベルで、単騎で挑もうと思ったら、それこそ自警団序列20位はないと辛いらしい。今回は命拾いをした……という他ないのが現状だ」

「え? でも将真があいつの心臓を貫いて確実に倒したはずなんですけど……」

「いや、あいつはその程度では倒れんらしい。と言うか、鬼人と吸血鬼の貴族とのハーフだって話もある」

「うわぁまじですか」

うんざりした表情で響弥が呟いた。なるほど、確かに榛名の言う通りのようだ。今回は、命拾いをしたという他ない。

自分の弱さに改めて悔しさを覚えながらも、それをかみ殺して、榛名たちに向き直る。

「その……ありがとうございました。本当に助かりました」

「気にすんない。そん代わり、今度私たちの方の仕事を手伝ってもらうかもしれないぞ?」

「そんなことで良ければ」

私が笑みを浮かべて返す。そして今度はみんなの方へ向き直る。その時、莉緒の目が鋭く何かを睨んでいた。そちらに視線を動かすと__気のせいかもしれないが、燈の姿があった。いや、彼女の視線からわざわざ外れるように身体をずらしたりしているところを見ると、気のせいじゃないかもしれない。

__何か因縁でもあるのかしら。

何にせよこれで任務は達成した。そして、一つ大きな問題を思い出した。

「そうだ、リン!」

美緒の方に駆け寄って、背負われているリンに声をかける。当然の如く返事はない。と言うか、息が聞こえないくらいか細くなっていて、顔も青ざめている。

「ど、どうしよう……!」

「どうかしたの?」

「さっきの戦闘でリンが……!」

「ちょっと傷を見せて」

恵林がリンの身体を持ち上げて寝かせる。そして腹に空いた穴を見て一言。

「結構重症だけど……これくらいなら何とかなるかな」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「うん。榛名」

「ん? 私?」

恵林が、榛名に声をかける。完全に自分は関係ないと思っていたのか、意外そうな反応を見せていた。だが、次の言葉を聞いて私も納得した。

「魔力かして」

「あー……わかった、ちょっと待ってくれ」

榛名は恵林に顔を近づけると、唇を重ねた。

「……って!」

__何やってるの先輩たちは⁉︎

ちょっと百合百合しいその光景に、思わず私は顔が赤くなった。

「ん? どうかした?」

「や、その……」

「……もしかして女同士でキスなんて、て思ってるのか?」

「その、まあ……」

榛名にジロリと睨まれて思わずたじろぐ。そこに、助け舟……と言っていいのかわからないが、それを出すように恵林が言う。

「魔力供給の方法なんて簡単なのはこれくらいしかないでしょ? 心配しなくとも人工呼吸みたいなものだから」

「は、はぁ……」

私だけでなく、後ろで莉緒と美緒以外はみんな顔を赤くしていた。そんな光景を見せつけられてそんなことを言われたって、もう少し早く言って欲しかったとしか言いようがない。

やがて、その受け取った魔力で恵林がリンの傷を癒す。

「これでよし。流れた血は戻らないから、ゆっくり休息を取らせてあげるといいよ」

「……あの、先輩たち。ちょっといいっすか?」

「どうしたの?」

莉緒がおずおずと手を上げて榛名たちに問いかける。

「そろそろ自分たちも限界なんすけど……」

「うん。いいよ。みんなちゃんと運んであげるから」

「じゃあ、よろしく頼むっすー……」

ふらり、と莉緒の体が倒れる。一瞬驚いた私だが、すぐに眠っただけだと気づく。それを見て私も、いやみんな、疲れを思い出したように地面に倒れこむ。

「す、すいません……後は、お任せします」

「うん。お疲れ様。ゆっくり休みなさい」

私たちは、先輩たちの言葉に甘えて、そのまま意識を深い闇の中へと沈めた。

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