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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第43話『死より始まる』

俺は、向こうで行われている戦闘の方から妙な気配を感じ取って、鬼人と距離をとった後に視線を向ける。

その光景に驚かされる事があるとすれば、吸血鬼に殺された杏果と、異様な気配を放つリンだった。

「どうする『カタギリショウマ』。仲間が1人死んだぞ?」

「まあ、本来なら憤る事だろうな」

「ほう、仲間が死んだというのに冷静だな。いや、薄情者というべきか?」

いや、憤りは覚えているけれども。だが、杏果の話を聞いているこちらとしては、むしろ杏果で良かったというか、不幸中の幸いというような感じである。

だから、問題があるとすれば、リンの方だった。

「リンって、あんなヤバかったか?」

視線の先には、吸血鬼の真紅の触手を、たった1人で悉く潰していく、まさに無双状態のリンの姿。

いやまあ、俺よりはかなり強いと思っていたけど、正直ここまで動けたっけとか、こんなやばいオーラ放ってたっけとか、いろいろ思うところはある。

それに、問題はそれだけではない。

未だに俺は、この目の前の鬼人__ランディを突破出来ずにいた。このままではいずれ、こちらの体力が尽きる。

「ちくしょう、高位魔族ってここまでかよ……!」

「慌てるな。もう少しだけ遊んでやる。せいぜい死ぬんじゃないぞ」

「ちっ!」

今度は鬼人が、突撃してくる。俺は舌打ちをして、心底嫌そうな顔でその拳を迎撃した。




「あああぁぁぁ!」

「ぐ、おっ⁉︎」

「……マジっすか、これ」

リンが、たった1人で吸血鬼を圧倒している。下手をすれば、このままいけばリンが優勢になるのも時間の問題だった。

杏果が巻き込まれないように莉緒が離れた場所まで運んだのだが、その後からうまく戦闘に入るタイミングが取れずにいる。

自分たちの方が余程実力があるはずなのに、今出ていけば邪魔になる気がしたのだ。

吸血鬼は今、気圧されているし、実力的にも拮抗しているようにも見える。

「このままいけば、勝てるかもしんないっすね……!」

「……ねぇ、莉緒」

「ん?」

美緒が、莉緒に問いかけてくる。

「リンちゃんがどうなってるのか、私全く理解できないんだけど」

「それは自分も同じっす。けど、こっちにとっては好都合。隙を見て援護するっすよ!」

「……わかった」

何となく納得がいかないようだが、それでも美緒はこくりと頷く。

「俺たちもとりあえず準備はしとくが、近接戦闘型のスピードそんなない俺とコイツはそんな役にたたねぇかもな」

「気にすることはないっすよ。こんなの、自分たちだって神経研ぎ澄まして、ようやく何とか攻撃を入れられるかどうかってくらいっすから」

別段、2人の攻防は速くない。だが、見ていれば一方的な展開であることは明らかで、リンが吸血鬼の触手を次から次へと撃ち落としている。ここで余計なことはできない。すべき事は、的確な援護だ。

「くそ、何なんだよお前は!」

忌々しそうに吸血鬼が叫び声をあげる。だが、それ以上の、最早絶叫と言ってもいい声を上げて、リンが身の丈以上の槍を振り回す。

「あ、あああぁぁぁっ!」

「ぐっ⁉︎」

触手を何重にも重ねて防御をとった吸血鬼。だが、リンはその防御を貫通させて見せた。そして、吸血鬼にダメージを入れる。

「ぐ……この俺が、人間如きに……っ! 貴様ぁっ!」

「__『刺し穿つ長槍ゲイボルグ』っ……!」

怒りを押し殺した静かな声で、リンが長槍を構える。但し、いつもと型が違う。両手で構えて突き刺すようなフォームだったものが、片手で、大きく振りかぶったフォームになっている。

リンは、凄まじい魔力が込められたその一撃を、槍投げの要領で振り抜く。大気さえも置いていく勢いでリンの手から離れたそれは、一瞬耳障りな音を残して吸血鬼に命中した。

「ち、く、しょぉぉぉぉっ!」

だが、吸血鬼は危険を察知していたのか、急所に当たる事は避けていた。右腕が二の腕から吹き飛ばされ、リンの神技による効果で再生はできないものの、急所に当たることだけは避けて見せた。

それでも、まともに一撃を貰ったのが余程屈辱的だったのか、盛大に顔を歪めて歯ぎしりをする。

同時に、ドッ! という音と共に、吸血鬼の背中から、更に倍以上の数の触手が飛び出す。

『なっ……⁉︎』

これには怒りで我を忘れていたリンもが驚いて正気を取り戻す。だが、無理もない。莉緒たちもまた、驚愕を覚えていた。

正直、ここまでしてくるとは予想していなかったのだ。最悪の場合として想定はしていたものの、こんなに力を解放すれば、いくら吸血鬼とてタダでは済まないはずだ。怪我をしているのならなおのこと。

という事は、吸血鬼もまた怒りで我を忘れているか、それを可能にする才能があるかのどちらかということだ。

「何にせよ、これはヤバイっすよ!」

全ての触手が、リンに襲いかかる。数からしても威圧感からしても、端から見ているだけで相当なものだ。それを目の前にしているリンは一体何を思っているだろう。

怒りも冷静さも失って立ち尽くしたリン。その全てがリンに命中してズタボロに傷つける__そう思われた時だった。

「『際限なき暴君の一振りナインライブズ』!」

「っ⁉︎」

「な……にぃ⁉︎」

リンの目が大きく見開かれ、吸血鬼の口からは、今日1番の珍妙な声が響いた。

「ゲッホ、ガフ……、っとにもぅ、最悪よ今日は……。まさしく厄日だわ」

リンの目の前に立ち、全ての触手を力技で吹き飛ばしたのは__先ほど死んだと思われた、いや間違いなく死んでいた杏果だったのだ。

「貴様、なぜ生きている⁉︎」

「……杏果ちゃん?」

「ごめん。リンにも、みんなにも見せてなかったわね。出来れば使わないで済む方がこっちとしてもとてもありがたいんだけど……」

杏果の足取りは、未だ危なげでフラフラとしていた。

「ヘラクレスの、自動発動能力オートスキルっていうのかな? とにかく、死んでも生き返られるのよ」

まあ、回数に限界はあるけれど、と辛そうに顔を歪めながら杏果は言った。

「え……じゃあもしかしてさっき漏らしてたのは……」

「……それは忘れなさい」

真っ赤になった杏果を見て、リンは口を噤んだ。莉緒たちもまた、同じことを思っていたのだが、要するに演技だったのではという事だ。だが、今の様子から見るに、そういう事はないらしい。

「し、死んでも生き返るからって死が平気なのとは違うんだからね⁉︎ むしろ余計に怖いのよ⁉︎」

言い訳がましく杏果はそんな事を言ったが、実際に死を経験した事がない自分たちにはわからなかった。

まあ、杏果以外の人間が死を体験する事があれば、それはほとんどがそのまま死ぬんだろうけど。

「ともかく、杏果も無事で何よりっす」

「無事じゃないわよ。怖いし、復活したところで体力まで戻るわけじゃないわ。あくまで生き返るだけだもの」

そう言いながらも、闘気は失っていない。正面から吸血鬼を鋭い眼光で睨みつける。

吸血鬼は、更にイライラを募らせて吐き捨てるように言う。

「またぞろ厄介な……さっさと死ねば、楽になれるものをなぁ!」

「っ、くるわよ!」

杏果の叫び声の元、半ば暴走状態と言ってもいい吸血鬼が、なりふり構わず飛びかかってくる。




「な、んだあのガキは……」

視線の先でその光景を捉えたランディが、ここで初めて動揺の色を見せる。

だが、無理もない。話に聞いていたとはいえ、流石に俺も驚いた。

だが、この隙は千載一遇のチャンスに間違いなかった。

「おおおっ!」

「しまっ__」

俺はすぐに突撃し、その様子を見た鬼人が驚いて声を上げた。そこから、反撃の隙を許さないようにと“黒風”によるラッシュを続ける。とは言っても、そう回数は多くない。

たまらずといった様子で、鬼人が後退した。

そしてこれこそ、俺の狙っていたものだ。

鬼人が地面に降り立つその前に、俺は魔力棒を高く掲げて、魔力を溜め込み一気に振り下ろす。

「“黒渦”っ!」

爆発的な魔力の渦が、ランディを中心に天へと昇っていく。

「ぬおぉおぉっ!」

「ちょ、将真さん⁉︎」

その一撃を受けたランディが苦悶の声を漏らし、それを見た莉緒が驚愕の声を上げた。

「それ、何発目っすか⁉︎ まだ、最後に使ってから24時間経ってないはずっすから__」

「いや、どうもストック一回分は回復してるみたいだ。それに、出し惜しみなんてしてられない」

言って、俺は眼前を莉緒に示す。暴風が晴れ、煙が立ち込めるその奥に、仁王立ちしているかのような人影があった。

「まさか……」

「そんなに聞いてないみたいだな。でも……」

俺は、煙が晴れていく目の前を見つめながら、ニヤリと笑って続ける。

「__予想通りだ」

完全に煙が晴れ、ランディの姿が見えた瞬間を見計らって、今度は“黒断”を真横に振り抜く。

“黒渦”を受けたランディは、やはりというべきかあまり大きなダメージは負っていないようだが、ノーダメージという事もなく。元より“黒渦”はそこそこ攻撃範囲の広い技だ。もしかしたら大したダメージを与えられないのではとは思っていたが、だったら一極集中型のこの技に変えるまでだ。

「うおぉぉぉぉっ!」

「ぬ、ぐっ……!」

巨大化した黒の刀身を振り抜き、ランディをバッサリと切り落とすイメージが俺の頭の中で映し出された。だが、予想通りだったのは途中までだった。

「……おいおい、嘘だろ?」

「マジ……っすか?」

「悪夢だろ……」

神技でもないにも関わらず、それと同格の力を持つ俺の一撃が、とんでもない方法で止められていた。

左肘と左膝で漆黒のエネルギーに染まった刀身を挟み込むように止めていたのだ。そのパワーたるや、馬鹿みたいな強さで、これ以上斬りこもうにもビクともしない。あんな不安定な体勢にも関わらず。

もちろん、この攻撃を受けて無傷ということは流石にないようで、脇腹から半分くらいは刃が食い込んでいた。だが、その上で、余りにも平気そうというか、ダメージなんてなさそうで……。

「こ、の、野郎っ……!」

「今のは惜しかったぞ、『カタギリショウマ』」

そのまま左肘と左膝に力を入れて刀身をへし折った。元々俺の武器精製魔法は練度が低く、別にそれはそこまで珍しいわけではないが、そのことで今度は逆に俺の方に隙ができてしまった。

「くっそ!」

真っ直ぐに向かってくるランディを前に、俺は即座に魔力棒を精製し直して、もう一度“黒断”を放とうとする。瞬間、全身から力が抜けて膝から崩れ落ちた。

「将真さん⁉︎」

「う、ぐぅ……」

無理があったのだ。

例えストック一回分は回復していても、その状態で立て続けに2発も撃った。無論、昨日は2発しか使ってないから余分に一つストックはあったのだが、つまり今俺は、限界を超えて使おうとした。まだ未熟な俺には、見に余る所業だったのだろう。

なんにせよ、この隙は余りにも致命的だった。目の前には、拳を振り上げるランディの姿。

俺は悔しげに歯を食いしばった。

「間に合えっ……!」

「え、ちょ……⁉︎」

『なっ……⁉︎』

その時、背後で莉緒の戸惑うような声が聞こえ、次の瞬間、俺の目の前に一つの影が割り込んできた。その事に、俺もランディも驚くような声を上げる。

その正体は、『刺し穿つ長槍ゲイボルク』を発動状態にしたリンだった。

「ハアァァァッ!」

ランディの拳を迎え撃つように、リンが『刺し穿つ長槍ゲイボルク』を放った。

その一撃は見事にランディの拳に命中し。そしてその瞬間、長槍は粉々に砕け散った。

「……え?」

「__フンッ」

「かっ……⁉︎」

「うおっ⁉︎」

武器を破壊されてしまったリンはなす術もなく殴り飛ばされ、リンのすぐ背後にいた俺も巻き込まれて吹き飛んだ。

岩肌が背中を打ち付け、激痛とともに瓦礫に巻き込まれる。

「いっつ……、リン、無事か?」

「あっ……」

「……リン?」

苦悶の声を漏らすリン。その体を見てみると、腹に穴が空いていた。ヒューヒューと、苦しそうなか細い息が耳に届く。

「……おい。リン、お前……!」

「……ご、めん、な、さ……」

その言葉を残して、リンの体重がズシリと重くなった。

さっきの杏果に比べれば小さい傷だが、重症には変わりない。貫通していないとはいえこの傷だ。時間が経てば経つほどに、確実に致命傷になる。

俺は自分の手に視線を移す。その手は、リンの血でべったりと濡れていた。

「あ……」

早くリンを助けなくては。その為には、鬼人ランディを、吸血鬼を倒さなければいけない。

限られた時間で。リンの命が残された、ほんの僅かな、短い時間で。

ヤバい、ヤバい、ヤバい。

繰り返し、頭の中で反響する。

助けなきゃ。倒さなきゃ。助けなきゃ、倒さなきゃ、倒さなきゃ倒さなきゃ倒さなきゃ__

頭がグチャグチャになりそうなそんな中で、俺ではない何かの声が、頭に響いた。


__そうだ。壊せ。殺せ。感情の、赴くままに!


そして俺は、何かに飲み込まれるような、満たされるような、複雑な感覚に飲み込まれた。

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