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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第40話『新たな脅威』

「今の揺れは……」

「地上でなんかあったな。俺たちも早く戻らないと」

「わかってるけど……」

俺たちの視線の先には、無数に道が広がっている。この洞窟はやはり、当たりの『遺跡』なのだ。だからこんなにも厳重な結界や罠が張られている。本来、侵入者に対して発動するものに、脱出したい俺たちが手こずっているというのも滑稽な話だが。

加えて、魔物や魔族もちょくちょく群れては襲ってくる。脱出は容易ではない。

「こうしている間にもリンたちが……!」

「……杏果。ちょっと止まれ」

「何でよ」

「いいからちょっと静かにしてくれ」

首を傾げる杏果。それを無視して俺は意識を集中させる。風の流れ。音。匂い。感じ取れる刺激を最大限回収し__

「こっちだ!」

「えっ、ちょっと待ちなさいよ⁉」

右も左もいまいちわかってない状況で、唐突に走り出す俺。不意をつかれた杏果は、しかし流石というべきかすぐに追いついてきた。

「ちょっと、突然どうしたのよ?」

「どうしたって、五感で出口を探り当てたんだよ」

「貴方そんなことできたの?」

「両親が時代遅れの旅好きでね。その際必要な能力や知識はそれなりに叩き込まれている」

「それ、言うほど簡単じゃないわよ?」

杏果がいうことももっともで、俺だってこんな事が出来るようになるなんて思いもしなかった。だが、両親の旅にちょくちょく振り回される度に役立つ知識やスキルというものを学習してきた。

本当に役立つとは思わなかったが、まさに学習の賜物と言えるだろう。

杏果が少し首を傾げて問いかけてくる。

「……それが可能ってことは、もう地上近くまで上がってきてるってこと?」

「そういうことだろうな」

いくらそんなスキルがあっても、地下深くで使えるほど便利ではない。うまく作用したのは、地上が近く、得る情報が増えたからだ。

まだ魔物は湧くし魔族もいるが、この際構いはしない。

「よし、一気に駆け抜けるぞ!」

「うん!」

好機と見た俺は、更に速度を上げる。杏果も頷いて、俺の隣を全速力で駆けていく。




「お、らぁ!」

「フッ」

響弥が大剣を振り下ろす。そしてそれを、吸血鬼は軽々と受け止める。

「美緒!」

「__わかってる」

響弥が叫ぶ。すると、少し不機嫌そうな返答と共に、吸血鬼の足元から氷が生えて、吸血鬼の体を封じる。

「……所詮は時間稼ぎに過ぎないな」

だが、吸血鬼が魔力を込めるだけで、氷は易々と破壊された。それを見た美緒は珍しく、わかりやすい不機嫌な表情を見せた。

「吸血鬼って本当面倒臭い……。早く帰って寝たいのに」

「いやでも、実際美緒のレベルの魔術が効かないとなると厄介っすよ」

美緒の魔術は高く、この中では1番だろう。だが、この分では神技を使わない事には到底効果はないと見える。

考え込んでいる間に、響弥が蹴り飛ばされて後方へと吹き飛ばされる。

「いってぇ……」

「響弥くん、大丈夫⁉︎」

「そんな深刻なダメージじゃねぇから、心配すんな。それよか前だ!」

「__っ⁉︎」

リンの目の前に、吸血鬼が飛びかかる。それをギリギリで受け止めるが、リンは前衛にしては非力な方だ。勢いを殺しきれず、地面を滑るように後退させられる。

「強い……」

莉緒、美緒、響弥という、学年序列十席入りをしている実力者がいて、リンや静音も高序列。猛や佳奈恵も弱くはない。

それでも。この7人で戦っても。あれから1ヶ月以上経って、成長しているにも関わらず。神技なしでは、到底敵わない。

しかし、神技は消耗が激しく、例えここで吸血鬼を倒せたとしても、そのあと何かが起きる可能性を考えると、迂闊には使えないのだ。

「とは言え、このままじゃジリ貧っすよねぇ」

「じゃあ、ボクの神技で……」

「いや、自分が行くっすよ」

埒があかない、いわばやむを得ない状況だ。莉緒は自身の神技を解放するとこにした。

以前までは、神技を用いても血の装甲に傷をつける程度しかできなかったが、あれ以来ちゃんと鍛錬し直した。その成果もあって、今度こそ血の装甲を破壊できる自信もある。

「さて、吸血鬼。覚悟するっすよ__『神話憑依』」

莉緒が唱える。瞬間、魔力が溢れ出し、暴風となって彼女の周りを荒れ狂っている。

二刀を前に構え、腰を低くする。

「『咲き誇りし無数の華美羅はなびら』__日輪舞踏」

全身が、炎のような、舞い散るはなびらのようなオーラを纏い、

「__“八輪華”!」

莉緒は、自分の限界を一つ超えた。

そして、大気すら置いていくような速さで吸血鬼に肉薄し、一撃を放った。

「何っ⁉︎」

吸血鬼の、狼狽するような声。それと共に、何かが軋んで、終いにはひび割れ砕け散る音が聞こえた。

砕け散ったのは__莉緒の双剣だった。

「マジ……すか?」

流石の莉緒も、表情が消える。

吸血鬼の血の装甲にも大きなヒビが入っていた。だが、破壊しきるには至らなかったのだ。

「__残念だったな」

「ゴ、ブッ⁉︎」

突き上げられた拳が、莉緒の腹に突き刺さる。相当な力が加わっているのか、吹き飛ぶ事すらなくその場でうずくまる。

思いっきり吐血しながら、何とか繫ぎ止めた意識を総動員させて逃げようとする。だが、ガクガクと体が震えるばかりで、全く動けなかった。

そして、莉緒の首を吸血鬼が掴み上げる。

「ガフッ……」

「アレだけ威勢良く吠えた割にはその程度か。やはり魔導士とはいっても、所詮は脆弱な人間に変わりはないということか」

莉緒の首を掴んだ手を、そのまま上に振り上げたかと思うと、一気に下に振り下ろし__

「莉緒__っ!」

美緒の叫び声が響いた。




幾つか階段のようなものを駆け上がって、遂に光が見えた。

「出口だ!」

そのままの速度で一気に駆け抜け、俺と杏果は約1日ぶりに洞窟から出ることができた。

「祝、脱出!」

暗がりかつ閉塞感のある洞窟の中に長い時間いたせいか、地上に戻ってきたというだけでらしくもなくテンションがハイになる俺。

「グェッ……」

だが、それも長続きはせず、いきなり首根っこを引っ張られて息が詰まった。

「な、何するんだよ⁉︎」

「喜んでる場合じゃないわよ! むしろこれからでしょうに」

「う……。悪かったよ」

杏果が諭すように言った。それを聞いて俺は少し反省した。

杏果に引っ張られるまま5分ほど。ようやく戦闘らしき砂煙りやら飛び交う瓦礫やらが見えてきた。

「やっぱり、もう始まってるじゃない!」

「あっ!」

俺は思わず声を上げる。

杏果が心配していたリンはどうやら無事だ。だが、相対するは吸血鬼の貴族。そして、その手に首を掴まれている莉緒の姿が確認できた。

それを認識した瞬間、俺は杏果に向かって叫ぶ。

「杏果、俺を力一杯投げろ! あそこまで!」

「はぁ、何言ってるの⁉︎ 吸血鬼の貴族相手に1人で突っ込むなんて正気⁉︎」

「短時間なら問題ないだろ! それより早く! 莉緒が殺られる!」

「あぁもう、仕方ないわね!」

杏果は、一旦俺の襟首空手を話すと、今度は俺の手首を掴んだ。そして、魔力で肉体を強化し、一気に俺を投げ飛ばした。杏果はパワー型の魔導士だ。その上で肉体強化をしたのだから、間に合うはずだ。

果たして。

「莉緒__っ!」

「ぅ、ぉおおおぉぉぁっ!」

「なんっ⁉︎」

吸血鬼が、掴んだ莉緒を地面に叩きつけようとする寸前で間に合った俺は、精製した魔力棒に黒いオーラを纏わせ振り抜く。

「“黒裂くろさき”!」

「ぐっ⁉︎」

完全に不意をついた鋭い一撃が、莉緒の首を掴んだ吸血鬼の手を、腕ごと切り落とした。

少しの間宙を浮いた莉緒の体が、やがて重力に従って落ちる。

「げふっ……」

「将真くん⁉︎」

「おー、リン。それに全員揃ってるのか。莉緒以外はみんな無事みたいだな」

「ヒーローは遅れて登場ってヤツっすか……?」

そんなんじゃないけどな、と俺は、軽口を叩く余裕程度はあるらしい莉緒に、呆れたように言う。

「悪いけど、休んでる余裕はないぜ。まだ動けそうか?」

「ったり前じゃないっすか。流石にそう簡単にへばれないっすよ」

莉緒は、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。その様子を確認して、俺はよしと頷く。そして、吸血鬼の方へ向き直る。

いつの間にか、切り落とした腕は再生していた。いくら吸血鬼の貴族にしたって治んの早過ぎんだろ。

吸血鬼は、俺の顔を睨んでいた。だがその表情は、不愉快そうではあっても、忌々しいとまでは言っていないように見える。

「貴様は……」

「ん?」

「もしや貴様が『カタギリショウマ』か?」

「……それがどうした?」

何故か、吸血鬼に名前を知られていた。だが、大したことでもないし、動揺を表に出すこともなくぶっきら棒に返す。

すると。

「ふ、ふふ……はははははは! ははははははははは! そうか、お前が『カタギリショウマ』か!」

「……何こいつ馬鹿なの?」

「ううん、何か将真くんのこと探してたみたいで……」

「__黒い力が魔導士から発せられたと聞いたときは驚かされたが、何だ、そんな事だったのか」

狂ったように、いまだに笑いが止まらない吸血鬼。そんな吸血鬼を、俺たちは変人を見るような目で睨みつける。

「……ねぇ、アレって攻撃しちゃダメなの?」

呆れた口調で杏果が言う。

「いやぁ、迂闊に動くのはちょっとやめたほうがいいっすねー」

「まあ、幾ら変なヤツでも相手は吸血鬼だしなぁ」

それを莉緒と響弥が、次々に首を振ってやめておけと否定する。

警戒心を剥き出しにして構える俺たち。

そして突然、吸血鬼の哄笑がピタリと止む。顔を覆った手__その指の隙間から、凄まじい眼光で睨み返してきた。

『っ__!』

瞬間、全員の体に戦慄が走る。

「ランディ」

吸血鬼が何かを呟いた。そして、頭上に殺気を感じた俺は、咄嗟に叫んだ。

「上だっ!」

全員がその場を退避する。そして、地響きを起こして何者かが着地をした。

「『カタギリショウマ』を発見。戦闘を許可する。生け捕りにするか__」

「ちょっ、こいつまさか……!」

砂煙が晴れる。その要望を見て、莉緒が目を見開いて顔を引きつらせる。

俺の眼の前。吸血鬼にも負けず劣らずの凄まじい殺気を放つ、その頭からは2本のツノ。

高位魔族の一体。

単純な力だけなら吸血鬼よりもはるかに上。

思考力は高くないが、武道の心得を持つ、筋肉の塊のような、人型の鬼。

「鬼人__⁉︎」


「__跡形もなく、殺せ」

「……了解した」


ランディと呼ばれた鬼人が、重々しく頷いた。

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