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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第39話『ハブアホープ』

翌日。

ボクたちは早々に目を覚まし、早々に食事を済ませてすぐに任務に取り掛かる。

「さて。じゃあこの任務(ヤマ)ちゃっちゃと片付けて、2人を探しに行くっすよ!」

『了解!』

ボクたちは威勢良く返事を返し、昨日と同じくチームに別れて行動を開始した。




そして、俺たちもまた、早々に目覚め、行動を開始しようとしていた。

「ん……」

「よっ、ちゃんと眠れたか?」

杏果が、小さく欠伸をしながら頷く。

「うん。貴方は?」

「まあまあかな」

時計は午前6時を少し過ぎたあたりを示していた。

まだ朝食は食べてないが、まあそれは歩きながらでもどうにかなる。

「じゃあ、早いとこ出発して、こんな洞窟サッサと抜けようぜ」

「そうね」

俺は、杏果の手をとって立ち上がらせる。どうやら体は回復したようだ。

「行くか」

「ええ」

今日こそ洞窟を抜けるために、俺たちは足早にその場を離れた。




そして__そんな彼らの動きを察知したものが一人。

「……動き出したか」

深い森の中、吸血鬼がポツリとつぶやく。その隣にいた大柄の魔族が問いかける。

「……どうする」

「ふむ、まあ……頃合いだろう」

吸血鬼は、今まで立っていた木の上からおりる。大柄の魔族は、それに続くように飛び降りる。

「__魔導師狩りを、始めよう。最優先目標は、『カタギリショウマ』だ」

「了解した」

2人が、森の中を歩き始めた。

地上の魔導師たちとの接触まで、もう時間は長くない。




俺たちが拠点にしている洞窟がある山を背に、俺たちは丁度三方向に別れて行動していた。

互いの状態を逐一確認できるように、端末の通信機能をつけ、ウインドウを開いたままにしていた。

時々現れる魔物を楽々と退治しながら、探索を進める。

やはり、ちゃんと休んだことが功を奏したのだろう。体はだいぶ楽で、今なら吸血鬼との戦闘でもしばらく耐えられるはずだ。

「響弥」

「ん? どったの、何かあった?」

後ろから、静音が声を掛けてくる。

それに首を傾げていると、静音はスッと前に向けて指さした。

「あれって……」

「あれ? ……げっ」

「キシャアァァァッ!」

目の前に現れたのは、トカゲのような姿をした魔物の群れだ。だが、その体長は2mはあるだろう。

そしてそれだけでは無く、低位魔族が群をなしてこちらに向かってくる。

「チッ、コレってやっぱ足止めだったりすんのかね……!」

「かもしれないわね。それに、莉緒が言っていたことを信じるなら、少なくとも狙いは私たちじゃないって事かな?」

『どうかしたっすか?』

ウインドウの向こうで、リオが問いかけてくる。

「いやぁ、魔物と魔族の群れに襲われそうでね。とりあえず片付けてからお前らの方に向かうよ」

『了解っす。……美緒?』

不意に、莉緒が怪訝そうな表情で美緒の名前を呼ぶ。

すると、ようやく返事が返ってきた。

『ごめんね、ちょっと魔族たちに襲われて』

『そっちもっすか?』

「て事は、奴らの狙いってまさか莉緒たち?」

「響弥! 来るわよ!」

「っと⁉ 悪りぃ、また後でな!」

ウインドウの向こうに叫ぶようにそう言って、俺は大振りの剣を構える。




「狙いはこっち……か」

ボクは憂鬱そうに呟く。莉緒もまた、顔を顰めて溜息を吐いた。

「そっすねー、ちょっと面倒臭いなー。……リンさん」

「うん?」

「怖いっすか」

そりゃ怖いよ。

こういう時の莉緒の勘はよく当たると聞く。つまり、今からボクたちが戦うのは吸血鬼かもしれないのだ。

そんな勝てるかもわからない化け物との戦い。怖くないはずがはない。

「怖い事なんてないっすよ」

だから、莉緒がそんな事を言った時、驚いて少し目を見開く。

「……莉緒ちゃんは、怖くないの?」

「そりゃ、全くって事は無いっすよ。でも、自分の実力にはそれなりの自信があるし、美緒や響弥さんたちもすぐにきてくれると思うっす」

「……でも」

ボクは、莉緒のように強くない。そんな弱音を吐こうとしたところで、

「それに」

それを莉緒は遮った。そして続ける。

「それに、将真さんと杏果さんが戻ってくるかもしれないっすしね」

ハブアホープっすよ。

そんな風に莉緒は言った。それを聞いて、ボクはようやく少し安心できた。

あの2人が戻ってきてくれたら。みんなが揃ったら。勝てない戦いではないだろう。

「莉緒ちゃん、ハブアホープって何?」

「知らないっすか? そのままの意味なんすけど」

「うっ……ボクそんなに頭の出来は……」

「“have a hope”__『希望を持て』、みたいなだったはずっす」

「希望を持て、か……」

確かに、諦めるには早すぎる。

もしかしたら、莉緒の勘が外れるかもしれない。

もしかしたら、相手が吸血鬼でも、意外と戦えるかもしれない。

もしかしたら、予想以上に早く、みんなで合流できるかもしれない。

諦めるには、早すぎる。怖い事に代わりはないけれど。

「うん。ボクも頑張るよ」

「その息っすよ__」

ザリッ。

ボクたちのものではない足音が聞こえた。ついでに、凄まじい威圧感(プレッシャー)も。

「__っ⁉」

思わずボクは竦み上がった。

以前吸血鬼と戦った時は、相手が貴族だったにも関わらず、こんな恐怖も威圧感も感じなかった。

でも、今回は違う。

戦闘に介入するのではなく__ボクたちが、一番初めのターゲットなのだ。

莉緒の方を見ると、彼女の表情も苦々しいものになっていた。

「やっぱり吸血鬼っすよねぇ……シンドイなぁ」

不敵に笑みを浮かべようとしたのだろうが、その笑みは若干引きつっていた。

吸血鬼はこちらの姿を認識すると同時に、口を開く。

「__待て。俺の質問に答えてくれれば、場合によってはこの場は見逃してやろう」

「……えっ?」

「は?」

意外すぎる言葉に、ボクたちは思わず惚けた声を出す。

ちらりと莉緒の方を向くと、莉緒は少し警戒を解いていた。

こちらを騙すための罠かもしれないが、高位魔族たる彼らがわざわざそんな回りくどい真似をすると言う事は考えづらい。だから莉緒は警戒心を抑えたのだろう。

確かに、無用な戦闘は避けたい。やはり対峙して思った。少なくとも、ボクでは勝てない。時間稼ぎはできなくもないだろうが、そう長くは持たないだろう。

「これはまた、随分とお人好しな吸血鬼っすね?」

「勘違いをするな。無用な戦闘は面倒なだけだ。それに、返答次第では、お前たちを殺す」

「……で、その質問ってのは何すか?」

ここで、彼が望む答えを提供できるかはわからない。だが、答えなければ殺し合いが始まる事は目に見えていた。

ボクは、警戒心をむしろ強めながら吸血鬼を見据える。

そして__

「『カタギリショウマ』と言う人間を探しているのだが、それはお前たちのうちどちらかか?」

『っ__⁉』

ボクたちは驚愕の表情を作る。だが、これで狙いはわかった。ボクたちではなく、将真だ。

だが、この質問に答える訳にはいかない。あの人を売るような真似はしたくない。

そう認識すると同時、ボクの口は動いていた。

「さぁ、どうでしょうね」

瞬間、ボクに向かって一気に距離を詰めてきた吸血鬼を、莉緒が双剣を構えて迎撃した。

「……っ」

ボクは、思わずその場にへたり込んだ。2人の動きが、全く見えなかったからだ。

「ナイスガッツっすよ、リンさん」

そんな情けない姿をさらすボクに、莉緒は励ますような口調でそう言った。

「たった一人で()りあうつもりっすか?」

「それは貴様も同じ事だろう」

「そうっすね__!」

バッと、2人が同時に飛び出す。

剣戟が響き渡る。

「チッ、やっぱ武装はするっすよね」

吸血鬼の手に握られているのは、真紅の(つるぎ)。血の装甲と原理は同じだが、それ故に硬質で鋭い。

流石に、莉緒一人では分が悪いだろうし、任せっきりではいられない。

小刻みに震える身体を抑えて、ボクは立ち上がる。そして、長槍を精製する。

「リンさん、足手まといはごめんっすよ」

莉緒から、そんな辛辣な言葉がかかる。だが、確かに今の自分では足手まといになりかねないし、莉緒ほどの実力があってもボクを守りながら戦えない。それ故の言葉だろう。

だが。

「……大丈夫。それに、全部任せてなんていられないもん」

「そっすか。なら援護は任せるっすよ!」

「うんっ!」

莉緒が踏み出す。そして、吸血鬼が莉緒と接触する寸前で、ボクは莉緒の背後から槍を突き出す。

「むっ……」

「ナイスっす!」

「__所詮この程度か」

「まだまだこれからだよ、吸血鬼!」

ようやくエンジンがかかってきた。ボクは威勢良く叫んで吸血鬼を睨め付ける。

「んじゃ、行くっすよ!」

莉緒の言葉に頷きながら、ボクたちは吸血鬼に向かって踏み込む。




「よっし、何とか倒し切ったな……」

「結局疲れちゃったわ」

「そう言うな」

俺もまた、疲れたような溜息を吐いて言った。

先ほどから莉緒たちとの通信がきれてしまった。少し心配だが……

「休憩したいけど、そんな事言ってられないわよね」

「ああ、そうだな」

「じゃあ行きましょう」

俺は、静音の言葉に頷いて出発しようとする。だが、その前に一つ。

「美緒、聞こえるか?」

『うん。聞こえる』

美緒たちの状況も確認しなければならない。

「そっちは片付いたか?」

『思った以上に時間かけちゃったけど、うん。終わったところだよ』

「なら……」

『うん。莉緒たちが危ない。今すぐにでも向かう』

「よっし、じゃあ俺らもすぐに向かう。先に着いてもやられたりすんなよ!」

『私の方が貴方より強いんだけど……まあ、わかった』

その言葉を最後に、通信がぶつりときれる。瞬間、地面が揺れた。

「うおっ⁉」

「うわぁ⁉」

俺たちはたたらを踏みながら声をあげる。

今の地震は何だったのか。

「急ぎましょう。2人が危ないわ」

「っ、そうだな!」

俺は今の地震について考えるのをやめて、いち早く莉緒たちの元へつく事だけを考えた。




轟音と共に、莉緒が吹き飛ばされる。衝撃波を受け、ボクもまた足を滑らせるように後退させられた。

「……くぅ、やっぱ2人じゃキッツいっすね」

「ほう、今の一撃を受けてもダメージはほとんど無しか。確かに近年の魔導師は強くなってきているようだ」

賞賛するような口調で吸血鬼が言った。

とはいえ正直、魔力は結構使ってしまったし、体力的にも相手が強過ぎてかなりシンドイが。

ボクは、槍を地面に突き立てて立ち上がる。息は上がって、早く動く事も難しいが、やられるわけにもいかない。

キッと吸血鬼を睨みつける。その吸血鬼はというと、むしろ感心したような声を出す。

「ほう、まだ俺と戦う気か。だが、俺はこの前貴様らが殺りあった連中とは違うぞ?」

「そうみたいっすね……」

唯一同じところがあるとするならばそれは、吸血鬼の貴族であるところだろう。

だが、この吸血鬼は油断をしていない。態度は傲慢だが、決して気を緩める事もなく、容赦をしない。戦いを楽しもうとしているわけではない。

いわば、本気の吸血鬼を相手取っているようなものだ。いや、実際そうなのかもしれない。

「だからって、勝てない理由にはならないっすよ」

「そうか。ならばもう少し本気で相手してやろう」

「っ!」

ドッ、と地面を思い切り蹴りつけ、飛び出してくる。その吸血鬼を莉緒が迎撃しようとする。例えかわされても、ボクも迎撃体制をとっている。簡単に攻撃は通さない。そう、思っていたのに。

「ぐ、ぅっ⁉」

「きゃあ⁉」

何と、吸血鬼は力尽くで莉緒の迎撃を吹き飛ばす。その勢いで、莉緒も吹き飛ばされて、後方にいたボクもそれに巻き込まれた。

「いたた……」

「リンさん、申し訳ないっす……」

揉みくちゃになりながら、ボクたちはゆっくり起き上がる。

目の前に、黒い影が飛びかかってくる。

「げっ……」

「__終いだ」

__流石にマズった!

莉緒が戦慄の表情を浮かべ、ボクは全身を縮こまらせる。

だが、奇跡的にもボクたちは助かった。ボクたちを覆うように、氷の刃が地面から無数に生えてきた。そしてそれは、吸血鬼を貫いて凍りつかせる。

その場に降り立ったのは、やはりというべきか美緒だった。

「莉緒、リンさん、大丈夫?」

「美緒……助かったっすよ。今回ばかりはマジでやばかったっすからね」

「みんな無事かっ⁉」

「響弥さん、そっちも無事見たいっすね」

とりあえず、地上にいる全員との合流は果たせた。この戦力なら、吸血鬼一体くらいなら倒せるかもしれない。

「よし、じゃあ反撃開始といくっすよ!」

『応っ!』

威勢の良い返事と共に、吸血鬼を見据えてそれぞれ武器を構える。

対する吸血鬼は、凍りついた腕や足を眺めて、最後にボクたちのほうを見る。

「所詮は烏合の衆。貴様ら如きがこの俺に敵うと思うなよ」

『っ⁉』

一瞬、凄まじい威圧感(プレッシャー)が放たれ、氷が砕け散った。


「__魅せてもらおうか。貴様らの『反撃』とやらを」

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