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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第38話『探索』

「こっちは駄目っすねー……。そっちの方はどうっすか?」

莉緒が、ウインドウ越しに美緒へ話しかける。

『こっちも何もいない。響弥さんたちの方は?』

『駄目だな。まあ、莉緒の予想が当たってたら、こんな少人数で遭遇した時点で死ぬだろうけどな』

緊張感なさ気に笑う響弥。だが実際、彼の言う通りだ。この結界を張っているのが吸血鬼か、はたまた別の高位魔族かであれば、三つに分かれている今の状況では、時間稼ぎすらも怪しいだろう。

見つけるのに時間をかけすぎるのも、それはそれで問題なのだが。

「んー、でも逆にこっちが見つけられててもおかしく無いはずなんすけどねー」

『それは確かにそうさなぁ』

確かに、霧の結界も晴れて、見つけられやすくなっているはずだった。時間も大分経ったのに、意外といわれればその通りだった。

『できれば楽なのがいい。でないと、将真さんと杏果さんを助けにいけない』

「うん、そうだね」

美緒の言葉に、ボクは力強く頷く。

本来の任務を優先するためにこうして結界の解除に回っているわけだが、2人の事は不安だ。できれば早く合流したい。

「あ、ちょっといいこと思いついたっす」

『何?』

「こっちで試しとくんで、一旦通信切るっすけど、構わないっすよね?」

『おう、こっちもこっちで何か考えて見るさね』

『じゃあまた後で』

莉緒が、ウインドウの向こうに手を振りながら通信を切った。

ボクはすぐに、その思いついた『いいこと』を問い質す。

「ん? ああ、それはっすねー」

ビシッと。莉緒は、ボクを指差した。

「リンさんの神技で貫通するって方法っす!」

「……え?」

ボクは、惚けたような声を出す。すると莉緒が、人差し指を立てて話し始める。

「結界の類っていうのは、一極集中された力には破られやすかったりするじゃないっすか。自分の神技じゃ速さは足りても鋭さが足りないし、美緒や響弥さんたちも同じ事っす。でも、リンさんの『ゲイボルグ』なら、もしかしたら貫けるかもしれないっす!」

「えぇ〜、出来るかなぁ……」

「何とかなるっすよ多分。とりあえずいきましょー」

「……うん。何もしないよりもずっといいよね」

ボクは、頷きながら微笑みかけた。

できるとは思っていない。だけど、もしかしたらできるかもしれない。だったら、何もしないよりずっとマシだ。

歩く事20分程度。ボクたちは目的の結界の橋へと辿り着いた。

「よし。じゃあよろしく頼むっすよ」

「うん」

ボクは武器精製魔法で、長さ2mを超える長槍を生み出す。そしてその長槍に、自分の中にある魔力を大量に流し込んでいく。

その魔力が長槍を包み込み硬質化。血飛沫のような瘴気を噴き出して、その槍自体が周囲の魔力を巻き込む。

爆発しそうな魔力を一瞬だけ全身に戻して、一瞬で全身を巡らせる。その一瞬で肉体杏果を施して__地面を踏み抜くような力で蹴って飛び出した。

「『刺し穿つ長槍ゲイボルグ』っ!」

結界と長槍の先端が触れ、火花を散らしながら、周囲の地面や木の葉や枝を諸共巻き込んで衝撃波を散らしていた。

「う、ぐ、うぅぅぅ……っ!」

数十秒ほど拮抗した状態が続いていたものの、結界は破れず、ボクの体力に限界が来てしまった。

途中でぶっつりと神技が解除されてしまったので、何かが破裂するような爆発音と共に、後方に吹き飛ばされる。

「いでっ!」

「だ、大丈夫っすか?」

莉緒が心配そうに声をかけてくる。心配するくらいなら無茶させないで欲しいものだ。

だが、流石にこの程度でボロボロになる程、ボクも柔ではない。頭をかきながら、むくりと起き上がる。

「あいたたた……」

とは言え、少し頭を打ったかもしれない。全身もヒリヒリする。受け身を取るのには失敗していたようだ。

「どうやら無理みたいっすね」

「単純に、ボクの実力が足りてないって事なのかなぁこれって」

結界というのは、魔力が強ければ強いほど効果を増す。だから、より強い魔力をぶつければ力尽くで破れなくはない。

だが、拮抗したのは始めの内だけで、最後には結局弾かれてしまった。これはボクの魔力が弱かったからだろう。

「とりあえず結果は得られたんで、いい加減合流した方がいいっすね」

「もう探索終わりにするの?」

「そうは言っても、もうこんな時間っすよ」

莉緒に言われて時間を見る。すると、既に午後4時を過ぎていて、もう夏場に差し掛かりつつあるにもかかわらず日が落ち始めて、夜の帳が満ち始めていた。

「いやいや、ちょっと待って。何でこんなに暗くなるの早いの?」

「暗いのは苦手っすか?」

「なくは無いけどそうじゃ無くて」

どう考えてもおかしいだろう。どうしたら夏に差し掛かっているこの時期に、こんな早い時間から日が落ちる? こんな時間に夜が来る?

全くもって意味不明だ。それとも、これも結界の効果だろうか。

「いや、これは……少なくとも結界ではないっすね。そもそもこんな事する必要がないっすし」

「だよね……」

この異常な状況は一体なんだろうか。それはボクの考えの及ぶところではなかった。

分かったのは、莉緒の言う通りに早いところ響弥や美緒たちと合流した方がいいということだけだった。




俺と杏果は、真っ暗な洞窟の中、肩を上下させて息を整えていた。

「幾ら暗がりの中でも目が利くって言っても……」

「結構ハードね、これは……」

狭くて暗い洞窟の中、結構な数いたコボルドたちを駆逐する作業は、想像以上に神経を削るものがあった。

早く帰ってまともな飯が食べたい。

「さっきの群れ……もしかして、コボルドたちの住処だったのかここ?」

「かもしれないわね」

ふう、と息を整え終えた杏果が、最後に溜息を着いて頷いた。

だとすれば、部外者というか、敵は完全に俺たちの方だったわけで、何だか少し申し訳なくなる。その心情を察したのか、杏果が諭すような口調で言う。

「変な罪悪感は持たない方がいいわよ。例えどんな形であれ、奴らは私たちの仲間を殺す、敵でしかないのだから。情を移すと辛い事になるわよ?」

「……そうすぐには割り切れない。例え敵でも、俺たちが詰んだのは間違い無く一つの命だ」

俺は、懺悔のようにそう言った。だが、杏果は諭すような物言いをやめない。

「そんな事、誰もが承知の上よ。許せるか許せないかは置いておくとして、誰もが殺し殺される覚悟を持って戦っているのよ」

「……俺はまだ、そんな風に離れそうにないよ」

「でしょうね。安心しなさい。誰も新参者の貴方にそんな酷な事は要求しないわ」

ただ、と彼女は続ける。

「魔族は敵だと言う事は、ちゃんと分かっておくべきよ」

「……わかったよ」

俺はまだきたばかりの新参者。この世界のルールはまだ学習中だ。だが、そう言う世界で生きている事を自覚して、努力することは絶対に必要なことだとは思っている。

だが、なぜ共存という手段がないのか。それを問いかけようとして、杏果が小さく悲鳴を上げる。

「ひ、あっ……⁉」

「どうした⁉」

「あ、足に何か……っ」

杏果の身体から力が抜け、ガクンと崩れ落ちた。咄嗟に駆け寄って足元をみると、蛇が噛み付いていた。だが、ただの蛇ではない。魔物だ。

「くそっ。杏果、もう少し耐えろよ!」

俺は、手に氷の球を作り出して、蛇に叩きつける。蛇は一瞬で氷漬けになって砕け散った。

氷属性の魔術を使ったのは、火属性の魔術で杏果にも、ダメージが入る可能性を考えたからだ。

俺はまだ、そんなに精密な魔術は使えない。

「う……これ、麻痺毒、ね……」

「立てそうか?」

杏果の前に手を差し出す。それをみると杏果は、フルフルと首を降った。

「大丈夫よ……っ」

だが、言葉とは裏腹に立ち上がれない。ふらついてすぐに地面に倒れこんでしまう。

それでも立ち上がろうとする杏果の強情さに半ば呆れながら、俺は彼女に背を向けてしゃがむ。

「え……?」

「動けないんだったら素直にそう言えっての」

「い、いいわよ。この年でおんぶなんて恥ずかしいし、貴方の手を煩わせるつもりは……」

「いいから。このままじゃ先に進めないだろ」

「……貸しだと思わないでよね」

別に思ってねーよ、と心の中で答える。そんな事のためにわざわざ手を貸したわけではない。

代わりに、

「お前の方こそ、借りだなんて思わなくていいぜ」

と言い返してやった。そしたら、

「……キザったらしいわね」

フン、と不機嫌そうに、俺の背中に乗っかって来る。その言葉には、態度ほどの棘はなかった。

俺は、杏果がちゃんと背中にしがみついた事を確認して歩き出す。

歩き出してすぐに、杏果が気まずそうに口を開いた。

「……お、重くない?」

「ん? いや、人間一人くらいなら全然軽いもんだよ」

元より体を鍛えているので、魔導師であろうとなかろうと、彼女くらいの少女ならまだ軽い方だ。まあ、リンの方が軽かったといえばその通りだが。

しかしまあ、何が問題かといえば、背中に胸が当たっていることだ。どちらかといえば少し未発達というか膨らみ掛けというか、それくらいの方が可愛げがあって好みなのだが、強化の胸は同年代の少女と比べると大きい方だ。そもそも俺が巨乳はタイプではないという理由が、何と無く不自然だからというものなのだが、しかし杏果は別段不自然なところは無く、しかも柔らかい。

と言うわけで、悲しいかな。男の性には抗えず、その胸に意識が集中してしまうのだった。

そしてそれを自覚すると同時に、俺の顔は熱くなった。

表世界(むこう)』にいたら、絶対にこんな経験はなかっただろうなと思いながら、できる限り無心に努めようとする。

すると、杏果がポツリと耳元で呟いた。

「……てっきり、貴方は私を嫌っているものだと思ってたんだけど」

「いや、それはこっちのセリフなんだが……」

リンと話している時なんかよく、怒って絡んでくるのはそっちじゃないかという意を込めたのだが、

「それはただ単に嫉妬してただけよ。リンはああ見えて人見知りだから、すぐに打ち解ける事ができた貴方をみてると悔しかったのよ」

「……お前もしかして百合か__って、首! 首締まってる!」

「締めてるのよっ!」

いや、確かに俺も少し失礼な事を言ったが、ここまでするかこの野郎。

「あの子は私にとっては妹みたいなものなのよ」

「妹、ね……」

「ねぇ、貴方はリンのことどう思ってるの?」

「どうって?」

「いつも一緒にいるでしょ?」

いつもじゃ無いけどな?

そう思いながらも、俺は少し考えてみる。

「んー、まあ、いいやつ?」

「適当ね」

「そんな事言われてもな……」

唐突にリンについて聞かれても、あまり深く考えた事もなかったので、いつも思っているくらいのことしか口にできなかった。

「何ていうか……見た目的にも妹みたいというか小動物みたいというか」

「そうでしょ? 可愛い子なのよ」

「お前やっぱ……何でも無いですごめんなさい」

「貴方は少し言葉を選ぶべきだと思うわ……」

別にそこまで言われるほどの事は言ってねーよ、と不満げに俺は唇を尖らせる。

「でもまあ、貴方には感謝してる。貴方とつるむようになってから、リンは前より素直に笑顔を浮かべるようになったわ」

「そうなのか?」

「ええ。だから、何ていうか……ありがと」

「別に礼を言われるようなことはしてないけど……まあ、受け取っておくよ」

何だか複雑な心持ちで俺は頷いた。

杏果は、そのまま懺悔のように言葉を続ける。

「あと、今まで邪険にしてごめんなさい。謝るわ」

「と、突然どうしたんだ? 別にそのくらいのこと気にしちゃいないけど」

そんな事よりも、少し問題が起きた。かもしれない。

「……なあ、これってもしかして、行き止まりか?」

「……そうみたい」

その後、何度か道を変えてみたら、少しずつ進めはするものの、何度も行き止まりに当たった。

「んー、どうだろ。何回上に上がった?」

「私が覚えてる限りでは……三回かしら」

「ふむぅ……」

端末の電源を入れると、時間が表示された。今は午後6時過ぎ。

「……今日はもう休むか」

「そうね」

杏果も動けないし、流石に少し疲れたし、時間も時間……というほどでも無いが、早めに体を休めた方がいいだろう。

俺たちは、適当な食事をとって、そのまますぐに眠りについた。

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