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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
覚醒する魔の力
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第31話『疑問』

「はぁ、はぁ……!」

「おい柊、無茶すんなよ!」

「わかってるわよ」

「にしてもこれは、どうなってるんでしょうねぇ」

とある森の中。霧が立ち込めるその中を、私と響弥、そして静音の3人で走り回っていた。もちろん、遊んでいるわけではない。断じて。

「まあ、これはもう疑いようもなく……」

「結界、ね……」

うんざりとした表情で私は呟いた。

この森一帯を覆う霧は、間違いなく結界の類だ。しかも。

「地図機能はダメね。何だかテレビの砂嵐みたいになってるわ」

「外とも連絡が取れないみたいだ。と言うか、結界の中にいる限りは、俺たち自身も通信ができねぇみたいだ。離れない方が良いかもな」

「誰よこんな面倒臭い結界張ったの……!」

入ってきたものを隔離する結界のようで、私はワナワナと全身を震わせる。もちろん、それに応えるものはいない。

「しばらく帰れそうにないわねぇ。こんな見通しの悪い中じゃ、術者を見つけようにも難しいし、この森結構広いみたいだし」

「そうだな。どっかに拠点作っといた方がいいかね」

「そうね。ほら杏果ちゃん、そろそろ落ち着いて。行くわよ」

静音が呆れたように、私の肩に手を置いた。私は、渋々とその後をついていく。

「うう……こんな面倒な任務だったなんて……」

そんな私の嘆きは、静けさ漂う森の中に溶けていった。




振り下ろされる渾身の刃は、同じく渾身の力を込めた薙ぎ払いで弾かれる。

「将真くん、交代スイッチ!」

「了解っ!」

そこに生まれた隙を、リンの背後から飛び出て、一気に叩く。

相も変わらず俺の魔力棒はガラスのように砕けてしまう。だが、魔導というものに少し慣れつつあるのだろう、それでもちゃんとダメージが与えることはできている。

そして、俺たちのさらに背後から。

「2人とも、伏せるっすよ!」

「「っ!」」

莉緒の方を見ると、莉緒の周囲に幾つかの紅い魔方陣が展開される。

指示通り、頭を低くしてその場を退避。

「炎弾__連射!」

瞬間、俺たちの頭上を無数の炎の弾が飛び交い、コボルドの群れを焼き払っていく。

炎弾の雨が止んだ頃、俺とリンはすぐに立ち上がって、生き残ったコボルドたちに攻撃を仕掛けた。

「せいっ!」

「ギャアァッ!」

「っらあ!」

「グボァ!」

リンが槍で突き刺し、俺が棒で殴りつける。倒れた仲間たちを見て、生き残ったコボルドたちが後退る。

勝機とみた俺は、意識を集中させる。

魔力棒が黒くなる。だがそれは、小さな黒い大気が渦巻いて、魔力棒を包み込んでいるせいだった。

「えっ」

「これは……」

「__いくぜ、“黒風くろかぜ”!」

俺はそれを、上段構えで振り下ろす。

生き残った何体かのコボルドは、その風に打たれて、あるいは刻まれて絶命していった。“黒渦”程ではないにしろ、黒い竜巻が空に立ち昇る。

暫くして、微風を残して黒い竜巻は消滅していった。

戦闘終了。

落ち着きを取り戻した(と言っても、動揺していたわけでは無いだろうが)リンが、少し戸惑いながら問いかけてくる。

「将真くん、今のは?」

「ん? ああ。“黒渦”は負担が大きいし、この程度の相手に使ってもオーバーキルだろ?」

「まあ、確かに……」

顎に手を当てながら、リンは頷く。

「だから、威力を抑えられないか今まで試してみて、それでできたのが“黒渦”の改良版“黒風”。威力は抑えられてるけどそれでも結構強いし、使える回数がだいぶ増えたて便利なんだよこれが」

「……」

だが、リンは俺の説明を聞くと逆に、より驚きを濃くしていった。

「……なんか変か?」

「ううん。ただ……幾ら慣れ始めたからといっても、あんな強力な技を、そんな短時間で改良したなんて……」

「確かにビックリっすね。どんな技であれ、改良というのは難しいものなんすけど」

「え、そうなの?」

きょとんとする俺を、唖然とした表情で2人が見つめてくる。

「だって、改良しようと思ったら、元になる技を完全に制御コントロールできてなきゃいけないんだよ?」

「まだ魔導士として未熟な将真さんができる芸当とは思えないんすけどねー」

「ふぅん……」

空返事のような返事をすると、2人が訝しげな表情で俺を見る。

「……まぁ、将真さんの成長速度がやったら早いのは疑問とは言え、こっちとしてはプラスなんで」

「そうだね」

「それより、魔法の練度何とかならないんすか? 武器弱すぎると思うんすけど」

「ぐぅ……」

それを言われると弱い。

余程の事がない限りは、毎日欠かさず鍛錬を行っている。

そのおかげで、戦闘技能は日々上がっているし、できることも徐々に増えていっているのだ。

それなのに、どうしても魔法の練度が上手くならないのだ。せめて魔力棒の強度だけでももっと上げられれば不便はなくなるのだけれど。

「どーやったら上達するんだろうな」

「それは回数を重ねるしか無いんだけど……」

「上達速度の割にヘッタクソっすねぇ。簡単に壊れる分、回数重ねてるはず何すけど」

「やっぱり魔導ってよくわからないな……」

難しい顔をして、うんざりとぼやく。

莉緒の言う通り、俺の魔力棒はあっさりと壊れるもんだから何度も作り直さなければいけない。そのくせ上達しないなんてどうなってんだこの野郎。

そんな事を思っていた時、俺の端末に通信が入ってきた。相手は柚葉だ。

端末のウインドウをタップすると、通信先と繋がって柚葉の顔が映し出される。

「……柚姉?」

『ええ。どう? 任務は達成したかしら?』

「丁度終わったところかな」

そう。俺たちは今、任務の途中だったのだ。

初めての任務でやったドラゴンの討伐に比べればかなり楽で、内容は【コボルドの群れの討伐】だ。

とは言え、おそらく以前までだったらもっと苦労していただろう。今回これだけ楽だったのは、みんなの言葉を借りるなら、俺の成長速度が早いおかげであった。やったね。魔法ヘッタクソのままだけどね。

初めてコボルドを見た時は、マジでコボルドじゃんと驚いたが、どうも低位魔族に位置付けされているらしく、暴走しない限りは危険のない敵だった。

なまじ半端に知性があるせいで、さっきの戦闘でも恐怖を覚えて逃げ出そうとしていたくらいだしな。

ここ最近ずっとこんな感じでバリバリ任務をこなしていたのだが、その中でも戦闘系任務の中ではちょろい方だったし。

『そう。なら丁度いいわ。貴方たちに今すぐ頼みたいことがあってね』

「何だよ、くだらないことなら適当に流すぞー」

『大丈夫よ。真面目な話だから』

確かに、普段通りの明るい声音の割には表情が真剣だ。とは言え、それはそれで不安だけどな。

「わかった。じゃあそっちに戻るよ。リンも莉緒も、いいよな?」

「うん」

「問題ないっすー」

『じゃあ早めにね』

そう言って、柚葉が通信を切った。

俺は短く息を吐いて、グッと伸びをした。

「さて、と。そういうことみたいだから早めに帰るか」

「そうだね」

そんなこんなで俺たちは帰路につく。

そして、こちらに妙な視線を送ってくる莉緒の様子に、俺は気がつけなかった。




「……監視っすか」

「ええ。そうよ」

吸血鬼騒動が終わって数日。

莉緒は書き上げた報告書を提出しに、学園長室へと出向いていた。そこには学園長と、やはりと言うべきか、美空楓みそらかえでがいた。

ちなみに『美空』という苗字は、日本都市における、『風間』に並ぶ四大貴族の一つだ。

それはさておき。

「将真を監視って、どういう事っすか?」

「この報告書にあるでしょう。その、黒い力が少し気になるのよね」

ふうむ、と報告書とにらめっこしながら、柚葉は呟いた。

吸血鬼との死闘で、将真から殺気と共に滲み出た、あの途轍もなく恐ろしい黒いオーラ。そして、最後にトドメを刺した黒の大太刀。

黒の大太刀はあの時に初めてやった技だというのは何となくわかるが、あの黒い力はとにかく謎である。

「そういえば……」

吸血鬼との死闘が始まる前のオークとの戦闘時。美緒が“コキュートス”を放った時、将真の足を凍らせていた。あの時は、美緒のコントロールミスだと思っていたが、彼女ほどの魔導士が得意技でコントロールミスというのは考えづらい。

そもそもあの技は、直接触れなければ魔導士には何の効果もない。代わりに、どう避けようとも、美緒を上回る力が無い魔族には絶対に当たるという凍結魔術なのだ。だから、ちゃんと跳んでかわしたはずの将真に当たるはずがないのだ。

あの技がどんな原理なのかは実は知らないのだが……。

「あの、美空先輩。聞きたい事があるんすけど」

「何かしら?」

「美緒の神技『凍結氷獄』……その中に“コキュートス”って技があるんすけど、その原理ってわかるっすか?」

「ふうん……どういう技なの?」

「それは__」

そして莉緒は、美緒の神技の説明をする。

楓には『魔導眼』というものがあるが、それをほとんど必要としないほどの魔導知識がある。それこそ、隣接する、魔導知識を専門とする学園《日本大魔導技術学園》でも匹敵するレベルに。

一通り説明を聞き終えた楓は、考え込むように腕を組んで、時折頷いたりしていた。

「ああ……そうか、もしかすると……」

「何かわかったんすか?」

「いいえ、特にこれといった事は。取り敢えず、学園長の言う通り、彼を暫く監視してその力について調べてくれた方がいいわね」

「そうっすか」

莉緒が珍しく残念そうな表情を浮かべる。

だが、実はこの時点で、楓は幾つかの予想がついていた。将真の黒い力の正体を。

だが、その中でも最悪の可能性だけは、誰にも話せない。それは、とてもマズイ事だ。

楓は、それを理解していた。

「じゃあ莉緒ちゃん。そういう事だから、将真の為にもよろしくね」

「……了解っす」

そう言って、莉緒はすぐに学園長室を出た。




「……」

そしてあれ以来、将真の黒い力がやばい事になっているところは見ていない。つまり、進展なしだ。

__まあ、それはそれでいいのかもしれないっすけどね。

まさか同じチームの人間に監視されているなんて夢にも思わないだろう。だから、なるべく彼に不快感を与えないように監視しなければいけない。

これが意外と精神力を使うのだが__

「まあ、いいっすか」

「おい、莉緒。どうかしたか?」

「……いや、何でもないっすよ」

将真の問いかけに、莉緒は苦笑しながら視線を前に移す。

日本都市は、もうすぐ目の前だ。

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