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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第2話 『勉強』

「ところで、その本って……」

「ん?」


リンが、何かに気がついたように少し屈んで、将真が手に持っている本の中身を覗き込む。

初対面にもかかわらず、距離感が近い。少しいい匂いがした。

それはさておき、リンの問いかけの意味がわからず将真は首を傾げた。が、一瞬後に、リンの問いかけの意味に気づく。

将真が手にしているのは、『魔導師入門書』。

なんでも、初心者並みの魔導師見習いくらいしか使わないらしい。


つまり今将真は、かなり低レベルかつ頭が悪い、残念なやつだと思われてる__かもしれない。


「違うんだよ!」

「わっ⁉︎」


思わず叫んだ。そのせいで、リンが驚いてビクッと肩を揺らす。

仮に残念なやつと思われていたところで、事実初心者で当然低レベルあることに変わりはなく、知識もさらさらない。だが、そんな不名誉なことを考えられていると思うと将真は居ても立ってもいられず言い訳を考える。

その動きは客観的に見れば挙動不審と言う他なかった。


「いろいろあって再試があるんだ! とにかく勉強しないとやばいんだよ!」


そして、結局まともな言い訳を思いつかず、恥を捨て去って叫んだ。

するとリンが、半眼になってポツリと呟く。


「それってつまり、勉強しなかったって事じゃ……」

「チガウ! いや、違わないけど、マジで仕方なかったんだよ!」


なおも言い訳を続ける将真に、リンはジト目を向け続ける。


「ふーん、仕方なかったんだー……。具体的には?」

「……超高難易度の問題集が誤って届いてたって事がついさっき発覚した」

「うわぁ……。それは不幸だね」


リンが思わずといった様子で口元を手で覆う。これはやはり同情されているのだろうか。それはそれであまり気分は良くないが、理解が得られたのならと将真は溜めた息を吐き捨てる。

すると、少し考え込むようにしていたリンが、少し言いにくそうに口を開く。


「……じゃあ、さっきのお礼に、勉強手伝おうか?」

「いいのか?」

「うん。困ってる人を見捨てるのも気がひけるし、何もお礼しないのは何だか嫌だから」


もちろん、無理だと思ったら助けられないけど、とリンは苦笑を交えて付け加えた。

将真としては、手伝ってもらえるのは正直助かる。

何せ、魔導の知識がない身だ。知識ある人の助けは是非欲しいところだった。


「それじゃあ……頼んでもいいか?」

「うん。じゃあ寮に戻ろっか」

「そうだな」


そういうわけで、将真は初対面の少女相手に、勉強を教えてもらう事になった。




「じゃあ、まず魔導についてはどのくらい知ってる?」

「いや……よくある漫画とかアニメにある程度の感じしかわからん」

「そっかぁ……『魔導』っていうのは、魔法と魔術の二つを合わせた総称なんだ」

「魔法、と魔術? それが魔導の本質なのか……」

「うん」


寮に帰った将真たちは、彼の部屋で例の初心者用のテキストを開けた。そして将真はまず、『この世界では』初歩的な質問をされた。当然だが、知識のない将真には答えられないものだったが。


魔導は、魔法と魔術の総称。

魔法とは、武器練成や肉体強化など、後は日常生活や副産物的な効果を生み出すもの__つまり、間接的な効果をもたらすものを言うらしい。

そして魔術とは、『炎弾』や『氷結』など、魔力に属性を乗せた、直接的な効果を生み出すものの事を指す。

ただそれだけのことなのに、将真が思っていた以上に魔導は複雑なものだった。もっと単純で簡単なものだと思っていたのだ。


「ん〜、じゃあこれは?」

「えっと……コレは、つまりこういうことで……」

「お、おう……あぁ、なるほどな。てことは、コレはこういう事……であってるか?」

「そうそう。それで、ここはこうで、こういう事」

「おー……何つーか、意外となんとかわかるもんだな……」

「でしょ」


以前もらった問題集の難易度は異常という他なかったけれど、今でもこうして指導してくれる人がいるおかげでようやくわかるというレベルだ。

しばらく問題集と睨めっこし続ける将真。時間にして30分程だろうか。

将真は嘆息して、一息つく。


「使い方読んだ感じだと、コツ掴めばけっこういけそうだけどなぁ」

「うーん……まあ、真面目にテキスト読むよりは、漫画とかアニメ見た方が参考にはなるかもしれないけどね」

「……マジで?」


リンの思わぬ発言に、将真は唖然と口を開く。

真面目に勉強してる今がバカみたいじゃないか。


「うん。片桐くんは『表世界』から来たんでしょ?」

「おう」

「じゃあそもそも魔導なんてフィクションの産物は存在しないわけだし、理屈っぽく考えても難しいのは当たり前でしょ。確かに知識も大事だけど、こういうのは見て覚えるとか、使って見たときの感覚で覚えたほうがよっぽどいいよ。だから、お手本にするならそっちかなぁ」

「何だよ、もっと早く言ってくれよ」

「うーん、別に教えても良かったんだけど……。でもどうせ再試は筆記でしょ?」

「……」


まあ、その通りだった。将真はがくりと肩を落とす。

第一、いくら感覚で覚えたほうが早いとはいえ、最低限の知識もなしに覚えられるはずもない。

千里の道も一歩から、と言うくらいだ。とりあえず今は勉強するしかないらしい。

必死でテキストを読み続ける将真の様子を見て、嘆かわしげにリンは呟いた。


「筆記の再試でそんなに詰まってて大丈夫かなぁ……。明日からは序列テストがあるのに」

「え、何それ」

「知らないの?」

「あ、ああ、まあ……」


__というかまだテストあんのかよ……。


内心でボヤきながら、将真は少しだけ落ち込んだ。というか、序列とは一体なんなのか。


「まあ、こっちに来たばっかだしね。仕方ないよ。それで、序列テストってのは文字通りの意味。自分の順位を決めるテストだよ」


そう言ってリンは、学園に定められた序列制度についてわかりやすく簡単に説明しはじめた。


話を聞いた限りでは、この学園の序列には2種類あるらしい。


一つは『学年序列』。

一学年300人いる生徒が、ランダムで10のブロックに分かれてトーナメント方式で競い合い、勝敗によって序列が決まる。

これを、高等部と中等部が行う。

ただし、中等部は模擬戦レベルの安全面を考慮したものに対して、高等部は実戦レベルの安全面を度外視したものだが。

これは、必然的に高等部の学生の方が実戦を体験することが多くなるから故だ。


そしてもう一つは『学園序列』。

これは所謂、風紀委員の代わりのようなものでもある。学年序列上位者の中でも、更に選りすぐりの精鋭たち。最も強い10人を選抜して組まれる団体。

そしてその10名にのみつけられる序列の事を言うらしい。それ故に、1年生から学園序列に入っている事は滅多にないらしい。

無論、明日行われるのは『学年序列』を決定づけるテストだ。


「知らなかった……そんなテストがあったのか」

「うん。あれは要するに模擬戦だけど、自分がどれくらい強いかってのを知るにはいいかな」

「ふーん……まあ、剣道の試合感覚でやればいいかな」

「剣道?」

「ん? ……ああ。俺、向こうでは剣道部だったんだ」


そう言って将真は、届いていた荷物の中をゴソゴソとあさり、金色の杯を取り出しリンに放る。


「わっ、とと」

「それ、よく見てみろよ」

「うん……って、個人戦……優勝⁉︎」


うわぁー、と感嘆の声を漏らすリン。その反応を見ると、将真も少し嬉しくなった。


「凄いね、優勝なんて」

「だろ? これでも始めた頃から個人戦で負けた事はないんだぜ」

「へぇー!」


将真は、少し昔語りを始める。

リンは、目を輝かせて将真の話を聞いていた。


将真は、小学四年生の時に剣道を始めた。そしてそれ以来、個人戦の試合で負けた経験は一度もない。

それでも、無敵という訳ではなく、時にはギリギリの試合もあったし、団体戦では負けた経験もあった。

だが、特にそれが顕著になり、無双っぷりが始まったのは、中学に入ってからだ。

なんと言えばいいのか。有りの侭感じたことを言葉にするとすれば、『相手の動きが読めてしまう』ということか。

試合が始まって、集中力が高まるにつれて、相手の動きが手に取るようにわかる。

視野も狭い、フィールドも決して広くない。そんな状況下で、将真は冷静に全ての攻撃を避け、躱し、逆に正確な一撃を加え、圧倒的な勝利を収め続けた。そしてついには、中学時代の個人戦で連覇を果たしたのだ。

団体戦にしても、偶々チームは強かったし、例え味方が負けても、小学生の頃とは違って、自分が負けた事はない。


「凄いねー……その、見える読めるっていうのはもしかして、魔力が関係してるのかな?」

「あー……言われてみると、そうなのかもなぁ」


そう言われてみれば、納得できる点が多い。

正直、相手の動きが読めると例えたはいいが、体感的にはそんなものじゃなかった。指摘されて改めて考えてみると、あれは最早未来視に近い。

だとすれば、ドーピングなんて比じゃない、卑怯者(チーター)もいいところだ。今まで対戦して来た選手に悪いし、スポーツマンシップに反する。


そうとわかってしまうと、ちょっとショックだった。

そんな将真を、慰めるようにリンが手に触れる。


「でも、そう簡単に魔力をコントロールなんてできないよ。感じることさえできないか、使い過ぎて暴走するか……向こうで魔力を持っていても魔導の知識がないとそうなりやすいんだから」

「そうなのか?」

「うん。つまり、例え魔力の影響があったとしても、勝ち続けられたのは片桐くんの実力だと思うよ」

「そうか? そう言ってくれるのはありがたいけどな」


リンの励ましを受けて、将真は若干だが気分を持ち直した。


「……ってことは、もしかして知識はなくともかなり強いのかな?」

「それは……」


どうだろうなぁ、とため息をつく。

魔導師の力を見定めるそのテスト。

運動能力に自信はあるから、そこまで酷いことにならないと信じたいところだが、魔導の知識や技能はまるでない。からっきしだ。

中学の時の『読めてしまう』現象が魔力を無意識に使った結果だとしても、魔導師相手にどこまで通用するのか、完全に未知の世界だった。




「もうそれなりに遅い時間だね。ボクはそろそろ自室に戻るよ。また会うとしたら、食堂か、明日学校で」

「だな」


バイバイ、と部屋を出るリンを、将真は見送った。

リンのお陰で、筆記テストに関してはなんとかなりそうだった。

明日あるらしい序列テストも、みんながどの程度か知らないけど、まあなんとかなるんじゃなかろうか、と思っておくことにした。


「……とりあえず、飯食いに行くか」


そうしよう。将真は、自室を出て食堂に向かった。




時と場所が変わりて、昼過ぎの学園長室。

将真がこの部屋を出てすぐの事だ。

柚葉は大きくため息をついて、イライラをぶつけるように、ぐっしゃぐっしゃと本を破る。

それを窘めるように、少女が口を開く。


「学園長、落ち着いてください」

「落ち着こうも何もないわよ、なんであの子の手に渡ったのがこの頭狂ってんだろレベルの問題集なのよ……ちゃんと必要分は用意してあったんでしょうに」

「あー……それがですね、どうやら10冊分くらい足りてなかったっぽいですよ」

「うっそ」


予想外の事実に、柚葉は思わず絶句した。

これでは学園長としての面目丸つぶれである。あまり気にしたことはないが。


「まあ、残りの子は中等部からいたから最低限の基礎はできてたから、彼ほど酷い結果にはならなかったみたいですけどね」


お陰で彼らの成績はイマイチですけど、と付け加える少女。柚葉は頭を抱えて天井を仰いだ。

まさか、そんなことになっていようとは。我ながら、悪い事をしたものだ。


「ねぇ、ふうさん。その残りの子にもちゃんと冊子届けといてくれない?」

「了解しました」

「あと、イズンにも職務怠慢だって訴えといて……!」

「あはは、了解です」


怒りを押し殺したような柚葉の声に、楓は軽く笑って返答する。

柚葉は、手元の紙切れを睨んでため息をつく。

この紙切れは、将真の成績表だ。魔導課程がDと、柚葉が学園長に着任して3年経つが、見たこともない酷い結果だった。

だが、姉である柚葉は知っている。

将真は、幼い頃から既に、妙に要領が良かったのだ。本来持っているはずだった問題集も渡したので、多分数日あれば、十分マシな程度にはなるだろう。

あと不安な事があるとすれば、明日の序列テストだろうか。将真がどれくらい戦えるか、知っておく必要はあるが、果たしてどうなるか。

知識は詰め込めばなんとかなるだろうが、流石に魔導戦は、一朝一夕でどうにかなるものではない。

目を瞑り、一度思考を切り替える柚葉。次に目を開いてすぐに、彼女は楓に声をかける。


「__楓さん」

「はい?」

「何か見えた?」

「……何か、とは?」


首を傾げる楓。だが、その仕草はあまりにわざとらしさに満ちていた。


「とぼけないで。あの子との話し合いに、わざわざ貴女も同席させた理由がわからないわけじゃないでしょう?」

「あ、そういう事ですか」


両手を合わせて納得の意を示す楓。その様子を、胡散臭そうに眺める柚葉。

楓には、魔導士の中でもあまり見られない貴重な体質がある。備わっているといってもいいかもしれない。


『魔導眼』。

本来不可視のものである魔力を、オーラのような形で見る事ができる。

実は魔力さえ持っていれば、鍛錬次第で誰でも身につけられるが、後天性の『魔導眼』は使用者に対して負担が大きいのが実情だ。

それに対して、楓のような生まれながらにして持っている、つまり先天性の『魔導眼』は、ノーリスクで使用できる。故に貴重なのだ。


特別強力な能力というわけでもないが、例えば将真のような新人の実力をある程度図るにはうってつけの能力だ。

彼女が学園長補佐をしているのは、その眼が要因であるとも言える。


「上に無理を押し通して将真をこっちに連れてきたんだから、これで魔導師としての才能が皆無とか言われたら……」

「学園長のメンツがますます丸つぶれですね〜」

「……なんで楽しそうなのよ」

「あはは、そんな楽しそうなんて、そんな訳ないじゃないですか」


くすくすと楓が笑う。

だが、彼女を補佐に選んだのは他でもない柚葉だ。この少女には、若干腹黒いところがあるという事も当然のように知っている。そしてその腹黒さは、誰に対しても分け隔て無くという、この場合はタチが悪いことこの上ない、という事も。

思わず、柚葉の口から重苦しいため息が出る。


「んー、でも、なんて言ったもんですかねぇ」

「早めに頼むわよ。私だって暇じゃないんだから」

「わかりました。では結論……と言うか、事実のみをはっきり申し上げますと」

「うん」

「__かなり尋常じゃない魔力量ですね」

「……そう。具体的にはどのくらいかしら」


なんとなく分かっていたが、将真の魔力量は、彼女をして『尋常じゃない』と言わせるものだった。

想像以上の回答に、驚愕しそうになるのを押しとどめて再度、柚葉は楓に問いただす。だが、次の言葉を聞いて、今度こそ柚葉は驚愕を面にだす。


「具体的には……現段階で既に学園長の3倍はありますね」

「はぁ⁉︎ うそでしょ⁉︎ 尋常じゃないっていっても、今の段階で私より……あの子、冗談でしょ⁉︎」

「でも、よかったじゃないですか。あなたのメンツは保たれましたよ」

「まあ、そうだけどね……って言うか、メンツの話はいいのよメンツの話は」


想像以上のさらに上を行かれた気分だ。だが、柚葉はむしろ内心で歓喜すらしていた。

将真が魔導師になって、今よりも成長すれば、おそらく魔導師を含めた全人類にとって大きな希望となる。

何せ、日本でも指折りの強さを持つ柚葉と魔力量を比べても、未熟な現段階で既にその3倍もあるのだから。


「『3度目の終焉(サード・ラグナロク)』……なんてしても、防がなくちゃね」

「そうですね。早く魔王を倒して、平和な世界を取り戻せる日まで、我々も頑張りましょう」

「ええ」


そうだ。学園長に着任する前、あの場所で誓ったのだ。

この終焉(ラグナロク)を、必ず終わらせると。

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