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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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終章『激闘生還』

目を覚ますと、薄っすらと白い天井らしき物が広がっていた。

またこのパターンか。

しかしはて、俺は何でこんな所で寝ていたのか。

寝ぼけた頭をできるだけ必死に働かせて__眠る前の、正確には気を失う前の記憶を取り戻して、

「っ、リン!」

思わずベッドから飛び上がった。そして。

「__うごぉぉぉぉぉぉぉおう……」

全身を苛むとんでもない激痛に、涙目になりながら蹲った。これあれだ。無茶して魔力を使いすぎた時に来るやつだ。それで何度腕を壊した事か。いや、いうほどではないかもしれないけれど。

すると、それに気がついた何者かが俺に声をかけてきた。

「ようやく起きたわね。ていうか、今は寝てなさい。また無茶したみたいだし」

「うぐぅっ⁉︎」

頭をそのままベットの方へと返されて、その衝撃でまたも激痛が走る。

そこにいたのは、柚葉だった。

柚姉ゆずねぇ、もうちょっとそっとできないかな」

「えー、そんなに強く押し返した覚えはないんだけど」

まあ、実際のところその通りで、要するに布団にダイブしただけでも激痛が走るような無茶をしたということだ。

あはは、我ながら馬鹿げている。笑えないね。痛すぎて辛いわ。

「んで、柚姉がそんだけ落ち着いてるってことは……」

「ええ。みんな無事よ。リンちゃんだけはかなり重症だったからわざわざ治癒専門魔導士を引っ張ってきたくらいだけど」

「マジで⁉︎」

「まあ、その甲斐あって無事に完治しつつあるわ。それでもあと数日は目を覚まさないかもしれないわね」

「そうか……」

取り敢えず俺はほっと一息ついた。みんな生きて、無事に帰ってこれたんだ。至る所傷だらけのボロボロで、無事と言っていいものかとも思うのだが、今はそれでよしとしよう。

落ち着きを取り戻すと同時に、俺は思い返していた。

あの後、吸血鬼をぶった切った後のことを__




俺は、魔力棒をダラリと下ろしたまま、呆然としていた。

目の前に広がる光景をようやく飲み込めて、理解した俺は、ぼそりと呟いた。

「……勝った」

「うん、勝ったよ……」

同じく呆然と立ち尽くした杏果が呟く。莉緒や美緒、響弥もこちらを見て間抜けな表情をしていた。

そんな中、真っ二つに切り裂かれたはずの吸血鬼が高らかに高笑いを始めた。

「ふ……は、は……はは、ふはは、ははははは、ふはははははははははは! はははははははははは!」

「な、何こいつ……」

「おいおい、こいつまだ生きてんのかよ」

どんな生命力してんだ、と俺は警戒を露わにする。警戒したところで、もうどうにかする体力はないのだが、どうやら馬鹿高い生命力でなんとか生きているだけで、致命傷には違いがないようだった。現に、傷は塞がらず肉体も再生せず、吸血鬼の力の根源である真っ赤な血が止めどなく流れ続けている。

「……おい、吸血鬼」

「何かな、魔導士にんげん?」

「俺たちの勝ちだ。お前はもう、戦えないだろう」

「ああ。その通りだ。もう僕は戦えない。すぐにでもこの命は耐えるだろう。何せ、心臓さえも真っ二つに切り刻まれては、再生しようがない」

自分がもう死ぬとわかっていて、吸血鬼はそれでも笑みを絶やさなかった。いや、むしろ顔を合わせた時よりもずっと清々しい表情をしていた。

「何百年と生きてきた。君たちの言う終焉ラグナロクにも一度立ち会ったことがあるし、君たちよりもずっと前の魔導士たちとも戦ってきた」

突然語り出した吸血鬼。その口調は、どこか寂しげだった。

「余りにも退屈だったよ。何百年もやりたいこともなく生きるこの苦痛が、君たちにはわかるまい。僕を脅かしてくれる魔導士は出てこなかったし、身内で殺し合うほど僕も愚かじゃ無かった。余りにも退屈で苦痛だったよ」

「それがなんだって言うんだ?」

「だから、君達には感謝しているんだよ。僕を楽しませてくれた事にね。死んで本望。最後にこんな楽しい殺し合いが出来たんだ。これを喜ばずして何が吸血鬼か! 僕は今、最高に嬉しい!」

胸から下が無いにもかかわらず、両腕を上げて哄笑する吸血鬼。俺たちは、そんな吸血鬼に狂気を感じて思わず顔をしかめる。

そんな心情を察したのだろう。

「君達にはわからないだろうね。必死に死なないように、死に物狂いで生きている君達には、到底理解し得まい。いやそもそも、この感情を理解し得るのは、僕と同じ、長い時を経た吸血鬼のみだ」

そんな事理解したくもねーよ、と俺は更に渋い表情になる。

「本当に君たちには感謝しか無い。最期の戦いが、こんなにも楽しく、素晴らしいものになったのだから。さぁ、早く殺したまえ。僕はもう、どうにもできまい」

「……言われなくても、そうするつもりだ」

俺は、魔力棒を高く掲げて、突き刺すように振り下ろす。

「君達がどれだけ強くなろうとも、君達が滅ぶ事に変わりは無い。せめて残りの時を楽しむといい。さらばだ。魔性に憑かれし、哀れな少年よ__」

魔力棒は吸血鬼の顔を貫いて、今度こそ完全に絶命させたのだった。

そして、そのタイミングで、本来の任務の達成へと向かった静音たちが戻ってきた。

ようやく緊張の糸が切れた俺たちは、消耗のあまり、その場ですぐに気を失った。




__そして、今に至るというわけだ。

「せめてもうちょっと無茶しなければ、こんなにならなくても済んだかもしれないのにね」

「そうだな……まあ、後先考えず戦った事に関しては反省してるよ」

確かに、他にもやりようはあったかもしれない。そしてその場に立ち会っていない柚葉ならそう思うのは当然だ。だが。

「でも、後悔はしていない」

「!」

現場にいたからこそわかる。あそこは無茶をするところだったのだ。つまり俺たちは間違っていなかった。むしろ無茶しなければ、きっと俺たちは皆殺しにされていただろう。

「起きたのは俺だけか?」

「いいえ。響弥くんは起きてるわよ」

そしてそれに応えるかのように、向かいの布団から声が聞こえる。

「よう将真。お前も無事そうで何よりだな」

「お互いにな。響弥は傷の方、大丈夫なのか?」

「んー、大丈夫ってわけでもねぇけど、実を言うと多分1番仕事してなかったんだよなぁ俺。基本的にはダインスレイフの余波と魔力の消費がダメージの原因ってところだから、接近戦やら魔力切れしたのに神技使うなんてしてたお前らに比べりゃだいぶマシだ。なぁ?」

「?」

最後の、誰かに確認するかのような言い方に俺は首を傾げる。だが、その言葉の意味はすぐに知れる事となる。

「そうね」

「いやー、ほんと大変っしたよ」

「荒井さん、私の事『魔力切れしたのに神技使ってる馬鹿な奴』だって思ってたんだ……」

「馬鹿な奴とは言ってないぞ?」

「何だ、みんな起きてたのか」

「あんたより少し先ってだけよ。それにしても本当、よくもまあみんな生きて帰ってこられたわね……」

呆れたように杏果が嘆息した。

「嬉しくないのか?」

「いや、嬉しいけど、現実味がないのよね。まあ、それを抜きにしても今回の戦いでは利点もあった事だし」

「利点?」

「そう」

杏果は、あくまで私にとってだけど、と付け足して続ける。

「1つは、まだ私は弱いってこと。そしてもう1つは、私にはまだまだ伸び代があるってこと」

「うっわマジっすか。そこまでの実力でまだ伸び代が見えるくらいあるってんなら、自分たちもいつ抜かされるかわかったもんじゃないっすねー」

「まあ、私たちは魔導士としてそれなりに成長しちゃってるもんね。後は精々鍛錬に励んで『神話憑依』を完全な形にすることくらいかなぁ」

「もうほんとそれっすわ」

あはは、と莉緒が笑いながら肯定する。

伸び代とか言われてもいまいちわからないけれど……。

「俺は、やっぱりまだまだだな」

「いや、こっち来て1ヶ月でそれって結構やばいっすからね?」

「そうか?」

俺が聞き返すと、莉緒が呆れながらため息をつく。まるで、何を高望みしているんだ、とでも言いたげだ。

「そうっすよ。本来なら上達にもっと時間をかけるものなのに……ていうか、何すか最後のあのぶった切り技。強すぎるでしょ」

「それ以前に、将真くん自身の力がよくわからない。なんて言えばいいのかわからないけど、私気絶してたのにやばい気配感じたくらいだから」

「あー、アレね。私も頭に血が上ってて気にしてなかったけど、何なのあれ?」

「俺が知ってると思うか?」

『思ってない』

思わずその場にいるみんなの声がハモるくらいに俺の魔導知識は信用がなかった。これが当たり前なのか。

「まあ、その力のおかげで今回は切り抜けられど……」

「いや、それはみんなのおかげだろ」

別にお世辞でもないし、小っ恥ずかしいセリフを言うつもりもない。これは偽らざる本音だ。

確かにトドメを刺したのは俺の力だったかもしれないが、それにしたって、一対一ではとてもじゃないが当てられなかっただろう。その前に殺されていた可能性の方が多いにある。吸血鬼を追い詰め、その動きを封じたのは、みんなの働きだ。

それを俺の能力1つで勝ったというのはなんか違うし、嫌だった。

「……そうね。確かに、みんなが無茶したから勝ち得た。その通りだわ。その通りだけど、そうじゃなくて」

「うん?」

「何かその力怪しいし物騒だからちゃんと調べた方がいいかもよって話よ」

「……そうだな」

まあ、俺もこの力が何なのかは知りたいし、できる限り自分で調べてみるか。

そう決意した時、隣で莉緒の呻き声が聞こえた。

「うっ……」

「ど、どうした? 大丈夫か?」

「いや、超やばいっす」

「何だ、どこか痛いのか?」

「いや、そうじゃなくて……ほら、自分たち丸一日くらい寝てたじゃないっすか」

「え"……」

思わず俺は端末の時計を見る。

そこに表示されていたのは、『5月2日金曜日14:10分』という、昨日から丸一日以上の真昼だった。

「そんでその……後は察してくれると助かるんすけど……」

「……察するって?」

「それは__」

「お○っこ」

「……へ」

横槍を入れてきた美緒のセリフに、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。

「だから、お○っこが出そ__」

「ちょちょちょ、待ってっす。美緒、あんまりそういう事を__」

「だから、私もだってば」

「……へ?」

今度は、莉緒が間抜けな声を出した。

更に。

「実は……私も……」

と、恥ずかしそうに手を挙げる杏果。

さて、この3人は動けない。さりとて俺も動けない。

この状況、どうすればいいんだ!

そんな切羽詰まった俺と違って、至極落ち着いた様子で柚葉が、

「仕方ないわね。ほらほら、将真と響弥くんは早く出て」

「嫌だから俺動けないんだけど⁉︎」

「じゃあ俺が連れてきますよ」

「響弥お前動けたのかよ⁉︎」

「動くだけならな。ほら行くぞー」

そんな訳で、俺は響弥の肩を借りて医務室を出ようとした。

そんな背後で、

「え、ちょっと待って下さい学園長。まさかそれにしろと⁉︎」

「高校生になってまで布団の中で盛大にやらかすよりは遥かにマシでしょう。ほら大人しくしなさい」

「え、本当に待って、待って下さい学園長……あ、あぁぁぁぁぁっ!」

そんなやり取りが聞こえるものだから、杏果の絶叫が響き渡ると同時に、俺たちは廊下に転がり込むように出た。

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