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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第27話『VS吸血鬼Ⅳ』

唐突に変貌した将真に、その場に居合わせた一同が驚く。

本能的な恐怖を覚えた吸血鬼は、攻撃途中だったにもかかわらず、それを止めて全力で後退する。

将真は、それを追わない。

変わりに、ゆらりと立ち上がる。

その背後には、誰の目にも見える、悍ましき暗黒くろく巨大な影。

将真の瞳が吸血鬼を捉える。それだけで、莉緒や響弥たちは射竦められたように動けなくなる。ただ1人を除いて。

満身創痍のはずの杏果が、怒りを漲らせて立ち上がった。

吸血鬼が、初めて表情を強張らせ、戸惑ったように将真に問いかける。

「君は一体……何なんだい?」

「……関係ねぇな。俺が何なのかなんて、知らねぇしどうでもいい」

将真は続けて言葉を発する。その言葉は、丁度杏果と重なった。

「テメェは……」

「お前は……」

「「絶対にぶち殺してやるっ!」」




リンと出会ったのは、中等部に上がる少し前__まだ、初等部にいた頃だった。

とても可愛らしくて、人形のような顔は、しかし酷くやつれて、目を真っ赤に腫らしていた。

何も知らない当時の私は、それをとても情けないと思っていた。何かに苦しんでいることはわかっていたが、それを乗り越えようと必死に努力しているリンを見て、そんな事はみんなやっている、当たり前のことだと思っていた。

だから、中等部に上がって彼女と同じクラスになった時、学園長に彼女のことを聞かせられた時、申し訳ない気持ちで胸が苦しくてしょうがなかった。

その話を聞いて私は、とてもかわいそうだと思った。それ以来、努力をしている彼女が、無理をして弱々しく笑いかけてくるその表情が、痛々しくて見ていられなかった。

当時はまだ、素直になれなかった子供な私だったが、彼女の力になりたいと思ったのだ。

だから言った。

『貴女が余りにもヘナチョコすぎて見てられないのよ』

今にして思えば、何と素直じゃないことだろうか。当然、そんな事を突然言われたリンは、とまどった表情で頷いた。

『だから、私が守ってあげる』

弱いくせに、何度もくじけそうになっているくせに、泣きながら、弱音を吐きながら、それでも諦めずに立ち向かい続ける強い少女。

その時にリンが見せた、悪く言ってしまえば間抜けなその嬉しそうな笑顔を、私は今も覚えている。

私は、初めて守りたいと思った。彼女がいたから、私に確固たる信念が生まれたのだ。

だから許せなかった。

リンを傷つけ痛めつけた、あの吸血鬼が。

守ると誓ったのに、むしろ守られて、挙げ句の果てに命の危険にさらさせてしまった己の弱さが。

だから、私は絶対に許さない。

例えここで死のうとも、負けることは許されない。

私は、私の信念を貫き、今度こそ、リンやみんなを守るんだ。




何でこんなにも憤っているのか、自分でもわからなかった。

まだ会ってたったの1ヶ月。確かに四六時中と言ってもいいほど近くにはいたが、彼女の全てを理解したかと聞かれれば答えはノーだ。

リンのことは、大切な仲間で友達だと思っているが、恋愛対象として見ているわけではない。

だから、自分でも不思議だった。何でこんなにも憤っているのか。何でこんなに吸血鬼が憎いのか。

全くもってわからない。

だが、憤りを覚えると同時、身体の中で物凄い力が、まるで暴れるように吹き荒れていた。

俺のやるべき事は、悩むまでもなくわかっていた。

吸血鬼を倒す。そして、みんなと生きて帰ることだ。

例えまだ未熟でも、それが今の俺にできることだ。




「すっご……」

「おいおいマジかよ……」

莉緒と響弥が、放心したように呟いた。

だが、それも当然と言えるのかもしれない。

何せ、先程まであの吸血鬼に対して微塵も歯が立たず、蹂躙されるだけだったのに、今や杏果と将真の2人のみで、しかも本気になっている吸血鬼と互角にやりあっているのだから。しかも、彼此10分近くが経っている。

2人が戦闘を始めてすぐに莉緒は、リンの保護へと向かったのだが、巻き込まれそうでおっかないことこの上なかった。

特に驚かされるのは将真の方だ。低序列でありながら、その動きは共に戦っている杏果にも引けを取らない。しかも、彼の武器精製魔法が、いつもと少しだけ違っていた。

いつもならあのヘナチョコな魔力棒ができるのみだが、今は刀身に当たる部分が黒く染まっていた。繰り返し吸血鬼と攻撃を交えるうちに壊れてしまうこともあるが、むしろ本気の吸血鬼と何度も打ち合って無事で済むような武器精製魔法の方が珍しい。

加えて、攻撃力も上がっていた。いや、そもそもの身体能力が異常に向上している。

速さだけなら杏果よりも少し上だ。

杏果の方も、やたらと強い。別に今まで制限していたわけではなく、怒りで制御ができていないと思われる。

だが、そうとなると、この状況を手放しで喜ぶことはできなかった。

将真が使っている力は余りに未知で、もしかしたら負担が大きいものかもしれない。更に杏果は既に限界が来ていたはずだ。そんな状態にもかかわらず、あんな風に無制限に力を使ってしまっては、魔力切れも時間の問題だ。そして今の状況からして、魔力切れはイコールで死に直結しかねない。

せめて、自分たちが万全であれば、と悔やまずにはいられなかった。

その時、響弥が莉緒に声をかける。

「ちょっといいか?」

「何すか?」

「作戦を思いついた。乱暴で単純な策だけど、聞く気はあるか?」

「……無策よりはマシっすね。聞きましょう」

莉緒は、こくりと頷く。その反応を見て、響弥が作戦を説明する。

「やる事は本当に単純だ。まず俺の『雷槌トールハンマー』で行動範囲を狭めて、美緒の凍結氷獄で捉える。あとはあいつらが勝手にズドンとやってくれるだろうし、万一捕まえられなくても、お前の速さがあれば捉えられるはずだ」

「やってる事はさっきと一緒……て事は、効かないんじゃないんすか?」

「今吸血鬼は本気で戦っている。意識はあいつらだけに向いている。だから、不意をつけられればあるいは」

捕まえられる時間は、一瞬でいい。確実に倒すためにも、一撃入れる隙を作る必要がある。

今の自分たちは何もできない。でも、やれる事が全くないわけではない。ならば、最善を尽くすしかないだろう。

問題は美緒だ。彼女は、吸血鬼からもらった一撃で気を失っていたはずだが……。

莉緒は、美緒の端末に接続して、呼びかける。

「美緒、聞こえるっすか?」

『……』

「聞こえてたら返事してくださいっす。あの吸血鬼を倒すために、協力して欲しいんすよ」

『……』

「頼むっすから、起きてくださいっ……!」

気を失っている美緒には、何を話しかけても無駄だ。だが、可能性があるのに、それを捨てるなんてしたくない。みんなで生きて帰るには、彼女の力も必要不可欠なのだ。

果たして、莉緒の言葉が届いたわけではないかもしれないが__

『……っ』

ピクリ、と美緒の指が動いた。




俺が吸血鬼の眼下から魔力棒で切り上げ、杏果が吸血鬼の頭上から斧を振り下ろす。

その繰り返される一撃を、吸血鬼は凌ぎきっていた。

「くそ、この野郎っ……!」

「これでも駄目なの⁉︎」

「ハ、ハハハ、まだまだ甘いよ魔導士にんげん風情がっ!」

「ぐっ!」

「あっ!」

俺と杏果が、武器を捉えられた。そしてそのまま投げ飛ばされ、結果地面に叩きつけられた。

「がっ……!」

「かふっ……!」

それでも、俺たちは何とか無事だった。……否、俺だけは、と言うべきかもしれない。

わかってはいた事だが、杏果は体力的にも魔力的にもとっくに限界を迎えているはずだった。そんな身体で長く戦えるわけが無く、実際ただ地面に叩きつけられただけで、息を荒げて、妙な汗も出ていた。

「おい、お前流石にこれ以上は無理だろ。下がってた方が……」

「うるっさいわね……例え死んでも退かないわよ。第一私が退いたら、それこそあんたが死ぬわよ」

「そう簡単に死ぬ気はねぇよ__っ!」

「うわっ……!」

「おしゃべりしてる時間はないと思うけどなぁ」

言い合っている間に、吸血鬼が突っ込んできた。それを俺たちは、何とかギリギリでかわした。

だか、やはり限界が近いのか、杏果が体勢を整えられないでいた。

「はっ……はぁっ、はぁ……」

「おい、戦うんなら早く立ってくれ」

「う、っるさいわね……わかってる、わよ」

言いながら、フラフラと立ち上がる杏果。やはりもう限界だろう。

どうする。

逃げるという選択肢は無しだ。だが、これといった案が思いつかない。

「どうした、もう終わりかい? もう少し楽しませて欲しいんだけどなぁ」

「っ、いいぜ、上等だ!」

どの道、杏果を待ってはいられない。俺は1人で飛び出した。

だが、多少強くなったところで所詮は1人。どれだけの攻撃を打ち込もうとも、簡単に通る事は無く、速さと重さで上回る吸血鬼が、全ての攻撃を凌いでいた。

「ちくしょうっ!」

「……もうそろそろ、終わりにしようか?」

飽きてきたのだろうか。吸血鬼が不意にそんな事を言った。そして、気づいた時には頭上に蹴りが迫っていた。

「がっ!」

何とかギリギリで魔力棒を盾に回したのだが、やはり盾になるほどの防御力はなく、粉々に砕け散って、そのまま俺の側頭部を直撃した。

「っのやろう……」

「存外しぶといね。だけど、もう終わり__」

その時だった。

吸血鬼の頭上に、響弥が現れる。

「将真、かわせ!」

響弥が叫んだ。俺は、急いでその場を離れる。そしてすぐに、彼の神技『雷槌トールハンマー』が放たれた。

少し気づくのが遅れた吸血鬼は、だがそれでも数発掠めただけで、捉える事はできなかった。

「ふん、無駄な悪足掻きを__⁉︎」

だが、吸血鬼の言葉はそこで終わる。急に、自分の動きが止まったからだ。

足元を見ると、まるで腕のように伸びた氷に捉えられていた。

「貴様っ……!」

「ただでやられる程、私は弱くない……」

かすれた声で、だがそれでもハッキリとそう言った。

絶好のチャンス。これを逃す手は無い。

気づくと同時に、杏果が切り込んだ。

「『十二の試練トライアル・オブ・ザ・ヘーラクレース』!」

限界にもかかわらず、今までのよりも1番威力が出ていた。そしてそれは、本人が1番自覚していた。だが、その一撃すらも、吸血鬼は受け止めた。

__これでいい。

これで倒せたならそれはそれでいいのだが、元より狙いは、吸血鬼の動きをギリギリまで制限する事にある。

俺なら話は変わってくるが、莉緒ならば、この状況で確実に一撃を加えられる。

「__『七輪華』っ!」

今莉緒が出せる、最大の火力を、吸血鬼に叩き込む。だが__その一撃すらも、防がれてしまった。

吸血鬼の体を覆った、血の装甲で。

「うっそ」

「惜しかったね、残念!」

「うわっ!」

「きゃあっ!」

莉緒と杏果が、同時に吹き飛ばされる。更に追い討ちをかけるように、吸血鬼が地面に降りて、無防備な状態の莉緒を狙った。

だが、またしてもその動きが止まる。

それはまたしても美緒の氷だった。

「まだまだ、死ぬまでやめない、よ……!」

「ちっ、鬱陶しいなぁ!」

そう言って、氷を破壊して、標的を美緒に変えて一瞬で距離を詰めようとした吸血鬼は__進むことができず、その場で膝をついた。

『⁉︎』

「なに……?」

俺たちもまた、吸血鬼と同じように、困惑した表情を作る。

確かに氷は破壊したはずだ。吸血鬼は再度足元を見る。そこにあったのは氷ではなく影だった。

しかも、振り切ることができない。今度こそ吸血鬼は、完全に身動きが取れなくなった。

チャンス再来。

莉緒が、2人に分身して、前と後ろの両方から特攻を仕掛ける。

『『五輪華』・ダブルス!』

2人の莉緒の声がハモり、吸血鬼を挟み撃ちにする。それはやはり、血の装甲によって防がれてしまうが、そもそもこの一撃は神技だ。両方向から食らって、その衝撃全てを受けきることなどできないだろう。結果的に、莉緒の一撃は吸血鬼に、間接的なダメージを与える。

動きの鈍った吸血鬼に、今度こそとどめを刺すべく俺は吸血鬼の懐へ飛び込む。だが、それをやすやすと許すほど吸血鬼も甘くはない。

「ダインスレイフっ!」

吸血鬼が血の剣を作り出し、こちらに向かって振り抜こうとする。

__“黒渦”ではダメだ。あれは範囲的にアドバンテージがあるものの、一撃の威力は吸血鬼を倒しきるに及ばない。吸血鬼を一撃で倒せる力が必要だ。吸血鬼を、一刀の元に切り伏せる力が。

その光景をイメージすると同時に、魔力棒の刀身が薄く長く伸び、刀のような形に変貌した。その刀身は真っ黒で、光すら通さず凄まじいエネルギーを放っている。

俺は咆哮しながら、それを横一文字に振り抜く。

「うおぉぉぉぉぉっ!」

「があぁぁぉぁぁっ!」

2つの剣は交差して__俺の剣が、吸血鬼の血の剣ごとその肉体を、真っ二つに切り裂いた。

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