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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第24話『VS吸血鬼』

地面から、氷の柱が荊のようにいくつも地面から生える。

それを、吸血鬼は危なげなくかわし、時に破壊した。だが、動きは限定された。

莉緒が飛び出して、吸血鬼に短刀を突き立てる。

「フッ__!」

「くっ……!」

吸血鬼は、それをギリギリでかわし、すぐさま反撃をしようとする。だが、莉緒の反応の方がずっと速い。かわされたとわかった瞬間、ぐるっと回転して回し切りをする。

「ちっ」

まともに受けたらいくら吸血鬼とはいえ無傷では済まない。吸血鬼は仕方がないといった様子で後退した。

だが、それがある意味二人の狙いだったのだろう。

吸血鬼が逃げた先には、巨大な氷の手が待ち構えていた。

「なめるなよ人間共!」

吸血鬼が、腰の剣を抜いて横薙ぎに振り払う。普通なら氷がの方が砕けるだろう。だが、吸血鬼の剣は氷の腕に弾かれる。まるで、硬質な鋼を斬りつけたような音を響かせて、吸血鬼が硬直する。

その間に、氷の腕が吸血鬼を捕まえようとするが、捕まえたと思われた瞬間、氷の腕が砕け散った。

「くっ、捕まえるの意外と難しい……」

美緒が面倒臭そうにボヤく。

吸血鬼の方を見やると、先ほどの剣の刀身が赤黒くなっていた。

「なるほど、血で強化したみたいっすね。吸血鬼が戦いに用いる常套手段。かなり硬くて丈夫だから、攻略するのは少し手間っすね……どうするっすか?」

「うーん、私の能力は強力だけど丈夫とかそういうのじゃないし、莉緒の能力もスピード特化だから……私がなんとかして隙を作って、そこに『日輪舞踏』を叩き込む?」

「まあ、それが妥当なのは確かっすけど……あの血で強化するやつ、何気に強固っすからね、自分の『日輪舞踏』じゃ突破するには少し軽いかもしれないっす」

確かに、莉緒の技はとんでもなく速いが、一撃の重さに欠ける。彼女の欠点とも言えるかもしれない。こうして硬い相手と戦い時には不利なのだ。

ならば、ずっと寝ているわけにも行かない。彼女たちのおかげで少しだけ休憩する事ができた。私はゆっくりと立ち上がり、彼女たちに声をかける。

「2人とも、ちょっといい?」

「あれ、杏果さん。何すか?」

「できるだけ、手早くお願い」

「うん。それで何だけど、あの吸血鬼をギリギリまで追い詰められる?」

私の言葉に、一瞬不思議そうな表情を浮かべて、考え込む。

「……無理ではない、と思う」

「やれないこともないとは思うっすけど……何でまた」

「私の攻撃なら、あの装甲も突破できる。でも、私の速さじゃ吸血鬼に当てられないと思う……だから、お願い!」

指揮権をもらっておきながら、吸血鬼と接触して私は何もできなかった。2人に任せっきりで、何もできる事がなかった。

だが、ずっとそうもしていられない。リンたちも危ないのだ。こんなところでジッとしてはいられない。

「わかったっす」

「了解」

2人は素直に頷いてくれた。そして、もう1人。

「そういう事なら、俺もやるさ」

声をあげたのは響弥だ。そしてその装いが少し変化している事に気づく。

「あなたも使えたのね……『神話憑依』第二解放」

「まあな。それに、あいつ自体に攻撃を当てられるかはわかんねえけど、あの装甲をどうにかするくらいなら俺でもできるかもしれん」

「そう……なら、お願い。あなたには負担かけちゃうけど」

私は確実に攻撃を当てて、莉緒と美緒はその為に吸血鬼を追い詰める。響弥はその両方をやるのに等しい。死んでもらっては困るので、無理はしないで欲しかった。だが、

「おいおい、俺はこれでも男だぜ。女子にばっか任せて寝てるんじゃ格好つかねぇだろ。任せてくれよ」

「……わかった。じゃあ……」

私は、吸血鬼を見据える。

吸血鬼もまた、こちらを見ていた。

「最期の相談は終わったみたいだな」

「ええ……あなたに最期を与える相談をね」

そのプレッシャーに冷や汗を垂らしながらも、不敵に笑みを浮かべて睨み返す。

「行くわよ!」

『了解っ!』

今度こそ、吸血鬼を倒す。

そして、早くリンたちを助けに行かなくては。




「リンーっ!」

俺は、思わず絶叫した。

吸血鬼の手刀が、リンを貫く__そう思われた瞬間、自分でも驚くほど、俺は凄まじいスピードで吸血鬼に特攻していった。

「リンを離せ吸血鬼ィィィッ!」

「なっ__!」

一瞬、戦慄の表情を見せながら、吸血鬼は手を伸ばして俺の一撃を受け止める。

「ぐっ……⁉︎」

「う、お、おぉぉぉぉぉ!」

片手で受け止められるわけがないだろう。俺はそんなヤワな鍛え方はしていない。だからさっさと__

「離せっつってんだろっ!」

「ちっ」

吸血鬼は舌打ちして、リンの首を手放す。そして空いた手で拳を握って、横殴りに振り回す。

「ぐぅっ⁉︎」

まともに殴られた俺は、トラックにでもはねられたかのように、真横に吹っ飛ばされる。

「ケホッ……将真くん、大丈夫⁉︎」

リンが悲鳴のような声をあげて呼びかける。だが、それに答える余裕はない。吸血鬼が俺に標的を移してきたからだ。

「クッソ……!」

俺は、吸血鬼の攻撃をギリギリでかわす。

その時、殴られたばかりの左脇腹に激痛が走る。

「ぐっ⁉︎」

ちゃんと肉体強化はしていたはずなのに、それを上回るというのか。いや、俺が未熟なだけか。

「へぇ、面白いねキミ。片手だったとはいえ、吸血鬼の貴族を上回る膂力。そして、僕の攻撃を紙一重とはいえかわしたその反射神経。なるほど魔導士としては未熟のようだけど、戦う者としては上等だ」

「そうかよ……」

「よぅし決めた。まずは君からあそぼうか。丁度退屈していたんだ。精々、僕を愉しませてくれよ」

「勝手に決めんな__っ!」

言っている余裕はなかった。俺は急いでその場を離れる。瞬間、さっきまで俺がいた場所を、吸血鬼の拳が通り抜けた。

「やべぇなこりゃ……!」

「まだまだぁ!」

狂喜の笑みを浮かべて、吸血鬼が次々に拳を打ち出してくる。俺は、それを必死になってかわしたり弾いたりする。

なるほど流石高位魔族だ。序列2位の虎生こうと遜色ない速さと一撃の重さだ。受け切るので精一杯で、反撃に出られない。

しかも、右に現れたと思って振り返った頃にはすでに逆方向に移動しているもんだから、わかっていても受けきれない。

虎生と戦った時は奇跡的に追い縋ることができた。だが、そんな都合のいい事がそうなんども起こるはずがない。

故に俺は、徐々に押されていった。いや、これでもかなり頑張っている方なんだけど。

「っのやろ……!」

「どうしたどうした、口ほどにもないぞ?」

「何か言った覚えないけどな!」

一瞬、吸血鬼に隙ができた。そのチャンスを逃すまいと俺は一撃当てるために踏み込む。

そして、誘導さそわれたと気付いた時には、既に吸血鬼の拳が目の前に迫っていた。

「ガッ……⁉︎」

無論、踏み止まる事など出来ず、殴り飛ばされて何度か地面を跳ねた。

「くっそ、マジで強いな……」

肉体強化をしていたおかげか、奇跡的にも歯が少しくだけた程度で済んだが、これ肉体強化無しでまともに食らってたら頭蓋骨吹っ飛んでたな。

さて、どうするか。俺は、口に溜まった血をペッと吐き捨てながら思考する。

まず速さで追いつけない以上大技は使えない。かといってこのままだとジリ貧なのは目に見えている。今のところは手を抜かれているからか、俺の集中力を総動員した運動能力で何とかなっているが、いよいよ本気にでもなられたらすぐに殺られるのは目に見えている。

俺1人でできることなんて限られている。これ以上は無理だ。少なくとも、俺1人ではどうにもならない。

だから__

「ハァァッ!」

「むっ?」

リンが助っ人にきてくれたのは、本当に助かった。

「何だい君は。さっきやられたばかりでもう向かってくるのかい?」

「残念だけど、さっきとは少し違うよ!」

リンが槍を振り下ろす。

吸血鬼は余裕の表情で片手で受け止めようとするが、接触した瞬間、押されたのは吸血鬼の方だった。

だが、今のリンではまだ、ここまで強力な肉体強化魔法は使えないはずだった。

「リン、その力は?」

「静音ちゃんのサポートだよ。支援魔法」

「……なるほど」

味方の攻撃力や防御力、スピードを上げたりする、支援系の魔法。難しくはないが、器用で頭の回る者が得意とする魔法だ。指揮能力もあって、序列19位という成績があれば、可能なことなのだろう。

「で、どうだ? 何とかなりそうか?」

「うーん……これでも、かなり難しいと思うけど」

でも、とリンは続ける。

「1人じゃ無理でも、2人ならできるかもしれないでしょ?」

「……そりゃそうだ」

元より、諦める気は毛頭なかったが、共に戦える仲間が増えただけでも非常に心強い。

「へぇ、今度こそ楽しませてくれるのかな?」

「安心しろ、楽しませる時間なんか与えない!」

吠えると同時、俺とリンは二手に分かれた。だが、全く同じタイミングではない。少しずらして、リンの攻撃の方が早く届くように動いている。

「せいっ!」

リンが槍を振り下ろす。無論、それは吸血鬼に受け止められてしまう。ここまでは計算通りだ。

俺はリンの反対側に回り込んで、魔力棒を振り上げた。これはあくまで、その後に振り下ろすための動作の一環で、吸血鬼もそう思ったのだろう。だが、これはフェイクだ。

右手で振り上げる__同時に、左手にも魔力棒を精製して振り上げた。遠心力もついて、相手の不意を突くことにも成功した。今度こそ、この攻撃は当てられる!

そして予想通り、魔力棒は強く吸血鬼を打ち付ける。

だが__魔力棒は、いとも容易く砕けてしまう。

「くっ……!」

__攻撃力が足りていない!

だが、あまり想定したくない事態だったとはいえ、予想できなくはないことだった。元より、俺の武器が脆いことはわかっていたのだから。

だが、相手の不意を突くことに成功して、少なくとも一撃加えた。その分、ほんの僅かだが吸血鬼に隙が生まれる。

そしてそこを、リンがうまくついてくれた。

リンが槍を後ろに引いて__一瞬だけ力を込めて、高速の一撃を打ち出した。

「“刺槍ゲイボルグ”っ!」

「なにっ⁉︎」

その一撃は、片手で受け止めようとした吸血鬼の二の腕から先を抉り、吹き飛ばした。

さすがに驚いたのか、吸血鬼は跳躍して距離をとった。

「リン、今のは?」

「本来のゲイボルグを改良した、普通の状態でも使えるゲイボルグだよ。まあ、威力は本物の1割にも満たないけど、これなら乱発しても大丈夫だし、ゲイボルグの魔性も受け継いでいるから」

言って、リンは吸血鬼に視線を移す。

それにつられて俺も吸血鬼を見てみると、吹き飛ばされた吸血鬼の右腕が再生してなかった。

「治癒を無効化するって、なかなか強力でしょ?」

「スゲェな……」

思わず俺は呟く。

確か、リンがゲイボルグを使えるようになったのは最近の話だったはずで、その改良版が作れていることからしても、その才能の濃さが伺える。

「とにかくこれで、あいつは右腕を使えないはずだ」

「うん……片腕をなくした程度で諦めてくれるようなら嬉しいんだけど」

だが、そうもいかないようだ。吸血鬼はむしろ、吹き飛ばされた腕を見ながら、嬉しそうな表情を浮かべた。

「何だ。やればできるんじゃないか君たちは。でも惜しいね」

「何がだよ?」

「うん、片腕だけでもけしとばせれば戦闘力が下がるって思ってるみたいだけど__」

思いっきり図星だった。別に初めから腕を狙ったわけではないが、結果的にそうなったのだから戦闘力を削れたと思っていたのだが、なら吸血鬼の意味深な言葉は一体なんなのか。

「確かに、片腕を無くせば戦闘力は落ちるけど」

無くしたなら作ればいいじゃないか。そう言って吸血鬼は、左手で血を固めて、『右腕』を文字通り作って接着した。

「なっ⁉︎」

「嘘でしょ⁉︎」

「__ようやく面白くなってきたし、今度こそ本気で行こうか、な……ん?」

吸血鬼の貴族に本気なんて出されてしまえば、俺たちはあっさり死ぬかもしれない。だが、そんな台詞を口にしている途中で、それが途切れた。

側頭部を軽く押さえて何をしているのかと思ったが__

「はぁ、仕方ないか」

そうぼやいて、俺たちに背を向ける。

「予定が変わった。君たちを殺すのはもう少し後にしてあげよう」

そう言って、その場を立ち去ってしまったのだ。

「……助かった、のかな?」

「助かったんじゃないか?」

それを自覚した俺たちは、一先ず息をついた。

だが、次に起きた事態が、再び俺たちを焦らせることとなる。

「わっ⁉︎」

リンが驚くような声を上げる。端末が突然鳴り出したからだ。

ポチッと押すと、ウインドウの画面に出てきたのは響弥の顔だった。

「どうしたの?」

『ああ、よかった、そっちは無事みたいだな』

「まあな。そっちは?」

『割といい感じだが、ちょっとまずいかもしれない。お前らも早く戻ってきてくれ』

「どうかしたの?」

リンが不思議そうな顔で問いかける。響弥は少し言い辛そうにして、

『こっちで戦ってる吸血鬼が、そっちのやつを呼んだみたいだ』

「なんっ⁉︎」

「あの吸血鬼が離脱したのはそういうことだったんだ……」

『あんなのが出てきたらちょっと手詰まりかもしんねぇ。だから早めに頼むぜ』

「……わかった」

俺もリンも、同意を示すように頷いて、通信を切る。その後、少し離れたところにいた静音たちと合流して、俺たちは急いで杏果たちの元へと戻った。

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