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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第1話 『時雨リン』

少年の名前は片桐将真かたぎりしょうま


出身は『裏世界』ではなくその反対側、所謂『表世界』の事だ。

この春から、『裏世界』の〈日本大魔導学園〉という学校に通うことになった、


(本当だったら、今頃は普通の高校に通っている頃だったのに……!)


と悩んでいる、普通の高校生である。


将真がこんな厄介事に巻き込まれているのは、姉のせいだった。


将真は受験した高校全ての入試に悉く落ちた。いや、落とされたというべきかもしれない。

そして少年は、異世界に連れてこさせられた。半ば無理やりに。

将真は、アニメや漫画ではお馴染みの、ファンタジーな異世界で生活する事となった。

自分が、こういう類の物語に出てくる登場人物さながらなことをさせられる事を知った時の驚きは、言葉にならない。

具体的に言うと、魔導の勉強をする学園に通わされるのだ。


入学式が始まるまではすることがなく、仕方なく適当に街をぶらついてみたのだが、これが意外と悪くない。むしろ楽しかった。

山脈の外側のことを抜きにすれば、やはり街は活気的で平和そのもの。

加えて将真は、この世界に存在する異能力『魔導』にも興味があった。まあ、ファンタジー世界に対する憧れは少なからず持っていたのだから仕方ない。

その辺を考慮すれば、この世界に来て良かったと思わなくもない。

だが、それはそれとして、ウンザリするような面倒ごとが将真の身に起きた。

それは、入学式が終わって数日後のことだった。




入学式当日__


「__はーい、学園長の片桐柚葉です」


(あんた学園長だったのかよ⁉︎)


壇上の上に立って挨拶をする柚葉の姿を見て、思わず叫びそうになる将真。加えて学園長でありながら今のノリの軽さにも彼は驚きを覚えていた。

そんな将真の心情など知るはずもなく、柚葉は祝辞を続ける。


「新入生の生徒も進級生の生徒も、おめでとうございます。高等部は中等部よりも色やる事があって、任務もより危険になります。まあ高等部は自警団門下生でもあるから当然といえば当然なんですけどね」


真面目な話の中にも、軽さを交える柚葉。そのおかげか入学式を迎えた生徒たちに、不安や緊張の色は薄かった。

だが、改めて彼女の言葉を反芻してみると、そう楽観的になれる事では無いような気がする。元々は部外者だったから、余計に恐れがあるのかもしれない。


「それでも、きっとあなたたちは強く成長し、生き残り、この戦争で勝ち残る人材になれる事と信じています。無理はせず、でも、できることは全力で、精一杯やってください。それが、学園長である私があなた達に望むことです。この中で誰1人欠けることなく、楽しく青春時代を送ってくれることを願って、私からの祝辞を終わりとします」


彼女の一礼と共に、拍手が起こる。そんな当たり前の空間の中で将真は、


(まあ、どこ行っても言うことは大体同じか)


と、当たり前の考えに浸っていたのだった。




入学式を終えた後は、特に何もなかった。

翌日には一般教科と魔導課程というテストが行われた。いずれも筆記テストだ。

更に筆記テストの翌日からは、2日間かけての身体能力テスト及び適応能力サバイバルテストがあった。

特に問題なく熟したと思っていた将真は、だが一つだけ不安を残しながらも、まあなんとかなるだろうと高を括っていた。

そして、すべてのテストが終わって将真は、姉兼学園長の柚葉に呼び出され__


「……ねぇ、将真しょうま?」

「……うぃ」

「この成績は……どういう事かな?」

「……」


不安的中。


案の定、説教を食らっている最中というわけだ。


柚葉は、一枚の紙切れを見ていた。

そこには、将真の今回のテスト結果、その成績が記されている。

そしてそれを、柚葉は渋面を作って読み上げる。


「読解力B+、数学A−、化学A−、歴史B、身体能力テストB、適応能力テストB+__ここまではまあ悪くないのよ」

「そうなのか?」

「ええ。問題は__」


柚葉がより一層渋面を強くして、ぶるぶると肩を震わせながら、悲壮な声で訴えてくる。


「魔導課程の成績がD! Dって……! 初めて見たよこんな酷い成績は! いくら入学したてとは言え、高等部の生徒が取る成績じゃないわ!」

「知らんわ! 俺だってビックリしたわ! 意味不明にもほどがあるぞ!」

「そんなわけないでしょちゃんと春休み中にテキストが届いてるはずでしょ⁉︎」

「テキストって……あ、あれか」

「あるんじゃない!」


怒りに任せて叫び声を上げる柚葉。だが、そんなこと言われても困る、と将真は思う。

確かにテキストらしきものは存在した。そして開いたには開いた。だがその内容があまりにも理解不能だった為に、ゆっくりとそのテキストを閉じたのだ。

自称忍耐力に定評のある将真がすぐに諦めるくらいだから、本当に理解が困難な内容なのだ。


「あんな難しいやつのどこが理解できんだよ⁉︎」

「逆にあんな簡単な問題も解けないのに貴方はここに何しに来たの⁉︎」

「知らねーよ、連れてきたのあんたじゃん! てか、マジで何のために連れてきたの⁉︎」

「私が魔導師の中でも屈指の実力者なら、弟である貴方にもその可能性があるからよ!」

「あのー、姉弟喧嘩なら他所でやってくれません?」


一緒に居合わせた少女が居心地悪そうに将真たちに申し出たのだが、当人たちは聞く耳持たずで口論を続ける。


「だからって本当に才能あるか分かんねぇし、何にせよあれは解けねぇよ!」

「そんなわけないでしょ、高等部一年生なら簡単に覚えられるわよ!」

「あんなのがわかるなんて随分エリート校なのな、ここな⁉︎」

「隣の学校はともかくこの学校はそこまで難易度高くないわよ⁉︎」

「__学園長、ちょっといいですか?」

『何っ!』

「うわっ」


2人してそちらを振り向くと、先ほど将真たちに話しかけようとしていた少女が微妙な表情で片手を上げていた。


「今確認とってみたんですよ。それで、何の間違いかは知らないですけど、彼のところに届いた『あの』問題集を解けというのは、確かにかなり酷なものだと思いますけど……」

「……貴女、本気で言ってるの?」

「はい」

「貴女もやったことあるでしょう? あの簡単・・な問題集」

「敢えて『簡単』を強調するなよ!」

「やりましたよ。確かにあれは・・・簡単です。まあ、その少年の元に届いたのもが、それと同じものであれば、の話ですけどね」

「……どういう意味?」


柚葉が疑問を呈すると同時、学園長室の扉がノックされ、扉が開かれる。

入ってきたのは、将真や居合わせた少女とそう年も変わらなそうな少年だった。着用して制服が若干違うところを見ると、もう一つ隣接して存在するという学校の生徒かもしれない。


「うぃーっす、持ってきたぜ例のモノ」

「ありがとう」


少年に礼を言って、少女は一つの冊子を受け取る。少年はそのままその場を立ち去っていった。

そして少女に手渡されたその冊子を見て、将真はハッとした。


「あー、これだよこれ。むずいやつ」

「やっぱりそうだったのね……」


少女は半ば呆れたように溜息を零して呟いた。そして、今度はそれを柚葉へと手渡す。


「学園長。これ読んでみてください」

「全く、何でそこまでしなきゃならないのよ……」


文句を言いながらも、柚葉は冊子を受け取りページを開く。

しばらく、ページをめくる音だけが響く。その表情は、徐々に険しくなっていく。

そして、数分経った頃。柚葉はパタンと冊子を閉じたかと思うと、こめかみをひくつかせて、ついに叫んだ。


「な、何なのよこれ⁉︎ 私でも理解できないわよ! ていうかこれ、隣の学校のそれこそ主席クラスがようやく読めるレベルのもんじゃない! 何でこんなものが将真に届いてるの⁉︎」

「知るかっ。さっきから言ってんだろ、俺が聞きたいわ!」

「学園長の確認不足もあると思いますけど……。まあそんなわけですから、もう一度ちゃんと適切な方を渡した方がいいですね」


ぐぬぬ、と顔を突き合わせる将真たちを見て、嘆息しながら少女が言う。

柚葉は、椅子に深くもたれ掛かり、引き出しを漁り始めた。そして何かを取り出し、その何かを将真に放り投げてくる。


将真が受け取ったそれは、『魔導士入門書』とかいうテキストだった。

中身を見ると、やはり理解しづらい点はあれど、あの理解不能な問題集に比べると幾らかマシだった。

こちらの方がまだ読める。


「悪かったわ、そっちが本当のやつね」

「……で、これをどうしろと?」

「今度再試をするから、勉強してきなさい。……あと、一つだけ言わせてもらうわ」

「……何だよ」


将真は思わず警戒して顰めっ面を作る。

いったい何を言われるのかと思いきや、柚葉が言い出したのは、


「__私のせいじゃないからねっ!」


「あんたのせいじゃなかったら誰のせいだよ⁉︎」


盛大な言い訳だった。




ようやく説教から解放された将真は、学園長室を出た後、廊下を歩きながら『魔導士入門書』を読んでいた。


「……でもやっぱ難しいんだよなぁ」


ため息をついて、ボソッと呟く。

ところどころわからなくもないところはあるが、当たり前のこととは言え、そもそも魔導を習うという事自体、初めての経験だ。

そのせいか、魔導というものに対して実感がわかないというのもある。

感覚的には、足し算とか引き算とかもできない年頃の子供が掛け算や割り算をやろうとしていうようなものだろうか。もやもやと、漠然とした感覚だけが少し不快に感じる。


まあ、再試で点数を出せば今回の魔導課程『D』というあまりに低すぎる(らしい)成績はなかった事にしてくれるそうなので、流石にこれ以上余計な手間はかけさせられない。

仕方がない、と再びため息をこぼし、将真は冊子に目を落とす。


そうしてしばらく廊下を歩いて、曲がり角に差し掛かった時、全身に鈍い衝撃と共に衝突音が響く。


「いてっ」

「きゃっ……」


将真は少しよろめく程度で済んだが、ぶつかってきた相手はバランスを崩し、転んで尻餅をついてしまった。


「おい、大丈夫、か……」


声をかけようとして、将真は思わず目を見開いた。


転倒したのは、女生徒だった。

小柄で細身、可愛らしい顔立ち。

肌は透き通るように白い。

光を反射する綺麗な銀髪はツインテールで、瞳の色が右が蒼色で左が紅色の虹彩異色症オッドアイだった。


見紛う事なき美少女だった。


更に、将真は今の状況に思い至ってハッとする。

美少女と、曲がり角で衝突。辛うじてパンチラはなかったのだが__


「って、漫画かよっ!」

「わっ⁉︎」


思わず叫んだ。

使い古されたテンプレなシチュエーションに、叫ばずにはいられなかった。

それを見た銀髪少女は、一瞬叫び声に肩を揺らしたが、その後怪訝そうな表情で将真を見上げていた。

まあ、唐突に目の前で叫びだしたのだから、不審に思うのも無理はないだろう。


「え、えっと……どうかした?」

「え、あ、いや、何でもない……それよりも大丈夫か?」


将真は一瞬挙動不審に陥ったものの、すぐ気を取り直して、銀髪美少女に手を差し出す。

少女は、一瞬目を瞬かせて、それを素直に握って立ち上がる。


「ありがとう。あと、ごめんね。ボクの不注意でぶつかっちゃって。怪我とかしてない?」


__しかもボクっ娘かよ!


可憐な声音だった事以上に、少女が自身を『ボク』と指した事が何よりも驚きだった。

再び叫び声をあげそうになる心を落ち着けて、深呼吸をするに留める。


「いや、俺も本読みながら歩いてたし」

「そう? じゃあ……お互い様って事で」


少女は苦笑を浮かべる。それに合わせるように、将真も微妙な笑みを浮かべた。

その時、階段の方からバタバタと幾つもの足音が聞こえる。同時に、少女が何かを思い出したように小さく声をあげ、慌てて将真の背後に隠れた。

突然のことに、将真も思わず戸惑ってしまう。


「お、おい?」

「ご、ごめん、ちょっとだけだから……」


訳がわからない将真に、小声で伝える少女。

やがて、足音は近づいてきて、ついに目の前に姿を現した。

その正体は何人かの男子生徒だった。


「あ、こんなところに!」

「やっと見つけたよ」


口々に声を上げながらこちらに近づいて来る。その口ぶりからして、どうやら少女は彼らから逃げてきたらしい。

将真の後ろに隠れた少女を見て、男子生徒たちのうちの1人が不愉快そうに、将真に声をかけてきた。


「お前、誰?」

「……いや、お前らこそ誰だよ」


自身の背に隠れ縮こまる少女の様子を横目で確認して、将真は強気に言い放つ。


「態度がでかいなー。見た所お前、1年みたいだけど……俺らは2年だぞ?」

「あー……」


不愉快そうに眉をひそめた男子生徒は、確かに彼のいう通り上級生のようだった。

だが、将真はそれに物怖じする性格ではなかった。彼らの態度に、彼もまた不愉快さを味わっていた。


「悪いけど俺、そういう上下関係大っ嫌いなんだよね」

「ぁんだと……?」


つい売り言葉に買い言葉で、あまりよろしくない、ギスギスとした雰囲気が漂い始めた。

その時、少女が思いついたように口を開いた。


「あ、あの……、ボクはちょっとこの人と約束があるので、また今度って事で……」


正直、初耳だった。

だが、将真は知っていた。こういう時には、話を合わせるのだと。


「そういう事だから、もういいだろ」

「……ちっ、しゃあねぇか。けど、また来るぜ」


男子生徒たちは、忌々しげに将真を睨むと、渋々その場を立ち去っていった。

それを確認すると、少女はようやく安心したようにため息をついて、将真の背後から離れた。


「ありがとう。咄嗟のことだったのに、よく話を合わせてくれたね」

「ん、そうだな……さっきのは何だったんだ?」

「いや、その……ね?」

「……うん?」

「何となく察してよっ」

「……もしかして、そういう事?」

「多分、そういう事」


将真の問いかけに、頷く少女。

まあ、初めから何となく察しはついていたのだが。

これだけの美少女だ。言い寄ってくる男子がいてもおかしくは無い。つまりさっきのはそういう迷惑な連中だったわけだ。しかも先輩だというのだからタチが悪い。性格も良くなさそうだった。


思い出したら少し腹が立ってきた将真。そんな彼の様子には気づかず、少女は少し落ち込んだように、申し訳なさそうに口を開く。


「それにしても、初対面の人にこんなに迷惑かけちゃうなんて。本当にごめんね」

「いいよ、別に。気にする事でもないし。えっと……」


そして将真は今更ながら気づく。まだお互い、自己紹介もしてない事に。


「俺は、片桐将真。お前は?」

「ボクは時雨しぐれリンだよ」


笑みを浮かべた目の前の少女__リンの異なる色彩の双眸に目を奪われながら、将真は頭の中でその名前を復唱した。


「そう、か。じゃあこれからよろしくな、時雨」


そういって将真は手を出す。リンは驚きながらも、その手をしっかりと握り返した。


「うん、そうだね。これからもよろしく、片桐くん」

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