第24話『VSグリシャ・ヴァーミリオンⅡ』
自警団南支部。〈表世界〉で言うところの、九州地方にあたる場所場所に存在する、〈自警団〉の施設である。
そしてその支部にある塔の天辺に、一人の男が、矢を番えた手を離した状態で、遥か彼方を睨みながら立っていた。
「……どうだ、ちゃんと命中しているか?」
暁鷹虎だ。
少し離れた位置から彼を見ていると、まるで1人で喋っているようだが、もちろんそんな事は無い。
通信機で、瑠衣と繋げているのだ。
グリシャを直撃した、流星の如き一撃は、鷹虎が狙って放ったものだった。
いくら日本という小さな島国とはいえ、端から端まで矢を飛ばす、というのは、魔導師ということを踏まえても尋常ではないが。
『ええ。見事命中よ。威力が高すぎて着弾時に爆発したから、状況まではハッキリしてないけど』
「そうか」
『……にしても、とんでもない技術を編み出したものね。流石、剣生の師というか何というか……』
鷹虎が放った矢は、魔力で生み出した上に、純粋な魔力のみをかなり強力に込めただけの一撃だ。
ただ、鏃が螺旋状になっていて、放たれると同時に回転しながら飛んでいく矢が、周囲の魔力を巻き込んでいくという流れとなっている。
その為、本来なら一定の距離まで飛んだらあとは速度も威力も落ちていくのが、鷹虎が飛ばせる範囲内でなら、むしろ距離が離れていれば離れているほど、威力が上がっていくのだった。それも二次関数並に。
悪性とはいえ、世界中に魔属性魔力が漂っているからこそできる荒業だった。
「それで、この後はどうする? とりあえず打つのはやめるか? それとも、2発目、3発目の準備をした方がいいか?」
『……そうね。今ので倒したと思いたいけど、絶対に倒せたという保証はないし、次弾の準備、頼めるかしら』
「ああ、了解した」
鷹虎は、通信を繋げたまま、新たに矢を番える。そして、弓を引き絞ったまま、静かに待つ。
次弾が必要になるタイミングを。
団長の剣生がグリシャとの戦闘を開始する頃、将真たちはその場所にギリギリ間に合った。
もちろん、南下していたほかの魔導師たちも一緒だ。
戦闘は、傍から見ていても一目瞭然、剣生の圧倒的優位だった。
遠目でも分かるだけでなく感じる、グリシャ・ヴァーミリオンという魔導師の化け物ぶり。それに比べれば、剣生はまだ可愛いほうだ。
だが実際は、剣生の強烈な攻めに、グリシャは防戦一方となっていた。
剣生が、あまりにも速すぎるからだ。
目にも止まらぬ、とか、目では追えない、とか、そういう次元ではない。気づいた時にはもう遅く、それはもはや、瞬間移動ともいうべき代物だった。
遥樹が未完成とはいえ使えるから、聞いたことがある。
剣生が編み出した、現在知られている限りでは間違いなく最強の技。
その名も、〈零の境地〉。
音もなく、全ての力が一発の攻撃に収束された、最速にして、最強の一撃だ。
そしてそれだけに、それほどの攻撃を受けながらも殆ど無傷というグリシャの防御力は、あまりに高く、恐ろしかった。
剣生でも、破るのは困難なグリシャの鎧。
そんな時、遥か彼方から飛来した、流星の如き一閃。
それはグリシャに着弾すると共に、大爆発を起こした。
その爆風は、周囲で見ていた魔導師たちも襲う。
「うっ……!」
「な、なんて威力なの……!」
「次元が違うな……」
爆風に耐えながら、将真たちは戦闘を目の当たりにしてショックを受けていた。
わかっていた事だが、来たところでどうにかなるはずがなかった。
これだけの戦闘だ。むしろ首を突っ込んだらすぐに死んでいただろう。
もう倒せたのではないか。そんな考えが、日本の魔導師全員の頭に浮かぶ。それは、将真の仲間たちも例外ではなかった。
だが唯一、将真だけは違った。
心臓はそこまで激しく脈を打っている訳でもないのに、それでもはっきりと、煩いくらいに聞こえる脈動音。
そして、魔王の声。
(__生きている。やはりアイツだ。この鬱陶しい炎は間違いなく、あの戦闘狂だ)
(どういうやつなんだ……?)
(……そう言えば、それ以外には名前くらいしか覚えてないな)
(おい……)
心の中でボヤく将真。だが一応、貰える情報があるならと、爆煙に飲まれた男の正体を問い質す。
(あいつの名前は?)
(あの男の名前は知らん。俺が知ってるのは、その中にいる野郎だけだ)
(だから、そいつの名前を聞いてるんだよ!)
(ああ。あいつの名前は__スルト。〈炎帝〉スルトだ)
将真は、思わず絶句した。
北欧神話に登場する巨人スルト。それは、世界を滅ぼし、〈終焉〉を引き起こした怪物だったからだ。
タダでさえ、〈魔王〉たちの手によって滅びかけているこの世界で、〈終焉〉を引き起こしたスルトが暴れようものなら。
今度こそ、本当に世界が滅びかねない。
焦燥に駆られる将真と、何も事情を知らずにグリシャが倒れたのではと淡い期待を抱く他の魔導師たち。
そんな彼らの目の前で、爆煙を突き破る巨大な火柱が立ち上る。
その火柱はやがて、人の形を作る。闇色の炎の体を持つ、巨人の姿を。
『ハ、ハハ、ハハハハハハハハ! いい、いいぞ、実にいい! これ程血湧き肉躍る相手は何千年ぶりか__いや、1万年ほど見ていないかもしれん。それに、感じるぞ。あの男の気配を。〈黒帝〉の気配を!』
「〈黒帝〉?」
「なんかよくわかんないけど、こいつさっきよりも増してやばいんじゃない?」
顔を引き攣らせて言う瑠衣。
確かに、先ほどとは比べ物にならないほど魔力が強力になっていた。タダでさえ、馬鹿げた魔力を持っているというのに、だ。
「__今の攻撃は、懐かしいな。あの男の一撃か」
「なっ__」
「あ、あいつ、あの状態で自分の意識を保ってるの……!?」
驚くのも、無理はない。
これほど強力な力をコントロールするのに、一体どれだけの労力がかかっているのだろうか。例えグリシャほどの魔導師であっても、下手をすれば意識を乗っ取られかねない。
だが、むしろグリシャは、剣生たちの反応を不思議に思っていた。
「何を驚く? こいつを倒し、従わせたのは俺だというのに」
「……なんの冗談だ?」
「冗談など言うものか。事実だ」
揺らめく昏い炎の下で、グリシャはニヤリと笑う。
剣生は考えた。
グリシャが強いのは理解したが、それでもあんな怪物を倒し、ましてや従わせることなど、出来るはずがない。おそらく、あの炎の巨人は手を抜いていたのだろう。
ならば、理由があるはずだ。わざわざ手を抜いてまでグリシャに敗北し従う、理由が。
もちろん、剣生がそんなことを考えているなどとグリシャが知るはずもなく、彼は剣生たちに問いかけてくる。
「あの男、相変わらず狙撃が得意なようだな。それにこの威力にも拘らず、着弾するまで魔力反応が感じられなかった。どれほどの長距離で撃っているのだろうな?」
「さあ、どうだろうな」
剣生は勿論知っているが、それを教えてやる義理はない。グリシャの右腕がないことから見て、おそらく鷹虎の攻撃はグリシャの鎧を貫通したのだ。
その威力は単純に感嘆するばかりだが、同時に威力さえあれば、あの防御力を突破できるということが判明した。
剣生は、今まで抑えていた魔力を解放する。
だがそれは、決して垂れ流しという意味ではなく、攻撃の際に一瞬だけ、爆発的に高めて使っていたところを、次は常に全開で戦うということだった。
「その魔力……、隠していたな、小賢しい」
「無駄に消費する理由はないからな。だが、消費しなくてはならない理由ができた以上、だし惜しむつもりは毛頭ない」
「よし、じゃあ私は全力でサポートするから、早いとこやっちゃってよね!」
言うが早いか、瑠衣が得意の影魔法でグリシャの動きを封じようとする。
それも、今度は今までよりもさらに強力な束縛をかける気だ。
黒い鎖は幾重にも編まれて太く頑丈に強化され、半透明だった黒い腕は、光も通さないほど黒く濃い密度に凝縮され、巨大な腕となってグリシャに襲いかかる。そこで終わりではない。更に加えて、グリシャの足元に大きな影が蟠り、グリシャの体が沈み始めていた。
束縛がグリシャに触れる。そしてその瞬間、瑠衣の魔法が弾け飛ぶ。
「__は?」
「たしかに厄介だが、大した脅威ではないな、この魔法も。それに、もしやとは思ったが__」
「っ!?」
何かの接近に気がついた瑠衣が、初めて影から飛び出て回避する。
そして瑠衣を追うように、闇の炎が影から飛び出してきた。
「そ、そんな馬鹿な……」
「影の中にいれば、お前に干渉することも可能らしいな」
「うっ……」
動揺する瑠衣を目の当たりにして、剣生はマズいと直観的に思った。
確かに、瑠衣は魔導師としてかなり強く、世界最強クラスと言われているが、グリシャや剣生、鷹虎のような、脅威的な戦闘能力がある訳では無い。
ただ、世界で唯一、影属性の扱いに頭抜けて秀でているため、『影の中にいる限り、負けることはまずありえない』という意識が、自他共にあった。
だが、今回初めて発覚した、瑠衣の弱点。
と言っても、グリシャほどの強力な魔導師だから可能なことであって、一介の魔導師ではまず不可能であろうが。今までこの弱点が発覚しなかったのも、おそらくそこに要因があったのだ。
それは、影の中に入れば、内側から瑠衣に干渉できる、という事。
『影の中にいる限り、負けることはまずありえない』という自信が、崩壊したのだ。
おそらく今回のことが原因で、今後瑠衣は、容易く影魔法で他者を捕らえようとは思えなくなる。今まで当たり前にやってきたことが、出来なくなるのだ。
そして、瑠衣を初めとし、剣生ですら動揺していることタイミングで、更なる脅威が降り掛かる。
『……ム、こんなところにあったか』
「何がだ?」
『何処へやったのかとずっと思っていたがな、俺の武器だよ』
「ああ、何度も話していたな、貴様」
「スルトの武器……?」
スルトとグリシャの会話を聞いた剣生は、その内容を理解すると、血相を変えて叫んだ。
「マズい、やらせるな、今ここで決めるぞ!」
「えっ……、ちょっと剣生、どうしたのよ……?」
「瑠衣も、落ち込んでる場合じゃない! ここでやるんだ! 出ないと、マズいことになる!」
そう言うと、我先に剣生が飛び出した。それも一瞬の出来事だったが、消えたと気がついた時には、既に剣生がグリシャに攻撃をしたところだった。
「ぐうっ……! 貴様、相変わらず速いな……!」
だが、確かに斬られて痛みを感じているはずのグリシャは、むしろ楽しそうにニヤリと笑った。
そして、大きくつけられた斬撃の傷の上を、炎が舐めていく。すると、嘘のように傷が治っていた。
「なっ、早すぎる!?」
吸血鬼や、かなり優秀な魔導師の中には、治癒能力が極めて高い者が当然いる。だが、幾らグリシャとは言え、剣生ほどの魔導師につけられた大きな傷を、一瞬で完治というのは、尋常ではない。
一瞬動揺した剣生だったが、ならばと足を止めることなく次の攻撃に移る。
少しタイミングを計るために後退する。その間に攻撃に移ろうとしたグリシャの体を、一瞬だが、瑠衣の影魔法が止めて時間を稼ぐ。
その僅かなあいだに、剣生は地面に着地するのではなく、宙で魔力による壁を足元に生成し、その壁を蹴りつけてグリシャの後ろへと〈零の境地〉で迫る。
「はあっ!」
「がっ……!?」
『ぬう!?』
相変わらず、攻撃を躱せないグリシャの背中を、容赦なく深々と袈裟懸けにした。それはもう、真っ二つに斬るつもりで。
だが、グリシャはダメージを負いながらも、やはり倒れない。スルトですらも唸るほどの攻撃だが、そこまで効いた様子はない。
再びその傷の上を炎が舐めていき、完治するのだろう。
そう思われた直後、唐突に消えた剣生の姿に気づいたグリシャは、攻撃が来ないことに頭を捻らせる。
すると、再び遠くから、今度は無数に飛来する流星の如き一撃。
剣生に気を取られていたグリシャは、その攻撃も躱せない。流星群は、容赦なくグリシャに直撃した。
「よしっ!」
「頼む、今度こそ決まってくれ……!」
ぐっと拳を握る瑠衣の傍で、珍しく焦りを見せる剣生。その理由が、瑠衣には分からなかった。
爆煙が晴れると、そこには、スルトと共に身体が半分吹き飛ばされたグリシャが突っ立っていた。
(悪く思うな、お前みたいな危ない魔導師は、倒さなくては行けないんだ)
流石にあの大きさの傷はもう治せないだろうと、剣生は目を伏せる。
例え相手が危険な魔導師とは言え、殺した事に変わりはないのだから。
そんな剣生の、いや、全ての魔導師の予想を裏切るように、グリシャは高笑いを始めた。
「ハ、ハハ、ハハハハハハハハ! ああ、実に気分がいい。そうだ、この痛みこそ、戦いだ」
「なっ……」
「深い傷を追うごとに、そしてその傷が治癒されていくと共に、スルトが俺の意識を侵食していくのがわかる。ああ、不快だが、同時に心地いい感覚だ」
そうして、怪しく光るグリシャの両眼。
既に失った半身は、治癒していた。
笑い方にしてもそうだが徐々にスルトとグリシャが溶け合っているようにも感じる。
「うそ、そんな事が……」
「くっ、マズい……!」
剣生が、今までに見せたことがないような、悲痛な表情を見せた。
そして無情にも、グリシャは剣生が恐れていたことを始めた。
「フレミア。愚かな我が娘に見せてやろう。本物の炎の剣を。〈炎帝〉スルトの名の元に__来い、〈煉獄の剣〉」
「……は、ぐっ!?」
日本の魔導師たちの中に退避していた、榛名小隊。そのメンバーである恵林は、ようやく体を起こせる程度には回復していた。その体が突然、ビクンッ、と跳ね上がる。
「お、おい恵林、どうした!?」
「あ、苦、し……、あ……つ、い……!」
「榛名、これ……!」
目の前で苦しむ恵林。慌てる榛名の隣で、冷静さを失わなかった燈が恵林の様子に気がついた。
胸の中心部にあたる部分から、人間の腕ほどはありそうな棒が出現したのだ。いや、その華美な装飾からしてこれは__
「……柄? 剣の柄か?」
「うん。私にもそう見える。って事はこれ……」
「……まさか、〈煉獄の剣〉!?」
恵林は、花橘家のとある人体実験における唯一の成功例で、その身体は、神器と呼ばれる〈煉獄の剣〉と一体化していた。
その人体実験の名称は、〈神器一体〉。
恵林にとって、〈煉獄の剣〉はもはや心臓と同義だ。
榛名小隊は詳細に気づいていないが、たった今、スルトを宿すグリシャに、恵林の心臓とも言える〈煉獄の剣〉が奪われようとしている。
〈煉獄の剣〉は、本来スルトの武器なのだから。
柄がどんどん出てくると、次に出てくるのは、恵林の体を縦に引き裂くような大きさの鍔が現れる。そして、ズルズルと引き出される、恐ろしく巨大な刀身。
〈煉獄の剣〉の真の姿というべきか、恵林の使用時よりも派手な装飾に豪炎が揺らめいている。
そして、完全に〈煉獄の剣〉が引き抜かれると、剣は何処かへと消え、恵林の体は、生気が抜けたように力なく崩れ落ちる。
榛名と燈はすぐに気づいたが、実際に恵林は呼吸をしていなかったし、魔力も感じられない。
恵林から奪われた〈煉獄の剣〉は、スルトと同化しつつあるグリシャの手に渡った。
「な、なによあの魔力……?」
「最悪だ……。早く、あの剣を取り戻さないと……」
「それってどういう……、あっ!」
瑠衣が、剣生の焦りにようやく気がついた。
あの剣は、花橘の人体実験〈神器一体〉によって恵林に植え込まれた神器であると。そして、彼女と深い結び付きにあるあの武器を引き抜かれたのだ。恵林は今、文字通り死の淵に立っている。
そしてこの状況が長く続けば__
「初めて手にしたが、懐かしいほど手に馴染むな、この剣は」
『当たり前だ。それは俺が、世界を焼き滅ぼす時に振るった剣なのだからな』
「なるほど……。よし、試しに一振りしてみようか」
そうして、徐に〈煉獄の剣〉を握った手を振り上げるグリシャ。
異様な魔力の収束に背筋が凍るような感覚を覚えた剣生が、瑠衣に向かって叫ぶ。
「退避だっ!」
「__フンっ」
グリシャの腕が、振り下ろされる。
ただそれだけで、エリドとの戦いで恵林の本気の斬撃が生み出したものと同じくらいに深い谷が生まれた。それだけではなく、それは数十メートルにも渡って大地を割り、山をも斬った。
そしてその威力に、狂気の笑みを浮かべるグリシャ。
「おお……。これはいいな、最高だ!」
『ふふ、やはりお前はよく分かっているな。そうさ、この威力こそが、この絶対的な蹂躙こそが戦う快感だ!』
「……いや、冗談抜きで有り得ないぞ、この破壊力は」
対して、顔を引きつらせる剣生たち。
世界を滅ぼしたこともある〈煉獄の剣〉。その、本来の性能という事なのだろうが、確かにそれは、世界を容易く滅ぼせるのだろう。
ただ振り下ろしただけで、大地が裂け、山が断たれるような威力なのだから。
そしてグリシャは、恐ろしいことに、今度は〈煉獄の剣〉に魔力を込め始めた。
(〈煉獄の剣〉でそんな攻撃をされたら、本当に日本が破壊されかねない……!)
そう思ったのは、剣生だけではなかったのだろう。
三度、遥か彼方から、流星群と化した矢が幾つもグリシャを直撃するが、今度は大したダメージにならずに終わった。
〈煉獄の剣〉が振り下ろされる直前に、瑠衣が全力でその刀身を抑え、剣生が自身の悪魔に借りられる限界の力を引き出す。
ついに振り下ろされる、魔力が込められた〈煉獄の剣〉の一撃。
それは、想像を絶する威力だった。
まともに受けた剣生の足元の地面が、威力に耐えきれず砕け散り、爆散した。
例え剣生が悪魔の力を限界まで引き出しても、到底止められるはずのない威力だったが、それを剣生はギリギリのところで耐えきった。地面は大きく陥没し、その上で大地は大きく裂けていたが。
「今のを受け止めるか。流石だが……、2発目は、どうだろうな?」
「く、そっ……!」
容赦なく2発目を振り下ろそうと腕を掲げるグリシャ。流石の剣生も、今の全力で力を使い果たし、再び立ち上がるまでには少し時間がかかる。
(これまでか……!)
ついに諦めかけた剣生の耳に、一人の少女の叫び声が聞こえてきた。
「待って! ダメ! __将真くん!」
「なっ……」
自分に向かって振り下ろされる、〈煉獄の剣〉の一撃。その間に入ってきたのは、叫び声が示す通り、将真だった。
「馬鹿かお前は! 出しゃばるな、死ぬぞ!」
珍しく怒鳴り声をあげる剣生。
だが、目に映った将真の姿は、何度か資料や映像で見た時よりも、より一層禍々しさを増していた。
そして、〈武器生成魔法〉で作られた剣の刀身が、〈煉獄の剣〉に対抗するかのように大きく伸びていく。
「ぬぅんっ!」
「__〈黒裁〉!」
あまりに強大な魔力の衝突。その衝撃に、地面が捲れ、瓦礫が飛び散り、衝撃波で魔導師たちが何人か吹き飛ばされた。
どうやら相殺に成功したらしく、互いに後に軽く飛んで距離をとる。
将真は、刀身をグリシャに向けて、宣言した。
「これ以上はやらせないぜ、グリシャ・ヴァーミリオン、あと〈炎帝〉スルト!」
禍々しい魔力を纏う将真を見たグリシャは、その言葉に不快さを覚えることもなく、むしろ愉快そうに口元を歪めた。
「随分と焦らしてくれたな__待っていたぞ、〈黒帝〉!」




