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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第14話 『初任務』

「お、よーやくきたっすね」

「おう」

「莉緒ちゃん早いね……」


おーい、と手を振ってくる莉緒に、将真とリンは苦笑気味で手を振り返す。


五時間目が始まってすぐに、二人は教室を出て、待ち合わせをしていた学園長室前に来ていた。

リンには色々と申し訳ないことをしてしまったが、それも何とか許してもらえた、というのが昨日の出来事である。


昨日も急にではあったが、こうして同じように、ここに集合してやりたい事があった。

特に莉緒が。


しかし、いざ学園長の柚葉に話をしてみれば。


「ダメよ」

「……な、何でっすか⁉︎ せっかく小隊も組んで、申請も出して、さあ行こうってところで!」

「本当ならダメじゃないんだけどなぁ」

「じゃあ何でっすか⁉︎」

「だって、将真の再試が終わってないんだもん」

『あっ……』


俺とリンは、揃って声を上げ、珍しく少し怖い表情で、莉緒がぐりんっとこちらに首を回した。


最近色々ありすぎたせいで、完全に忘れていたのだ。


(不可抗力。そう、これは不可抗力なんだ……)


という言い訳を心の中でしていたのだが、ともかく昨日は、将真の再試のせいで目的が果たせなかった。

ちなみに、将真の再試結果はというと。


「……まあ、よくはないけど、初めはこんなものかしらね。いいわよ合格で」


結局C評価に終わった。再試は通ったとはいえ、あまり良くない結果に、すこしガッカリした将真であった。


そして今日。

昨日果たしたかった、莉緒の目的というのは。


「よっしゃー、早速任務に向かうっすよ!」

「やけにノリノリだな?」

「昨日は将真くんの再試で不完全燃焼気味だもんね?」

「ぐっ……」


顔を引き攣らせる将真を見上げて、リンはクスクスと笑う。


莉緒がやりたがっていたのは、任務だった。

RPG系によくある、クエストのようなものである。

学園の時間割日程は、午前中は普通科目なのだが、午後からはこうして自由行動になり、チームで任務か専門授業をすることになる。

そしてその二択だと、大体任務らしい。難易度にもよるが、単位も貰える、報酬も貰える、何より経験も積めるといい事尽くめなのだそうだ。場合によっては、序列が上がることもあるらしい。


そういう事も踏まえて、将真も任務をこなそうというのは賛成であった。

勿論、無茶はせず、地道にやっていくつもりである。無茶して、万が一死ぬようなことがあれば洒落にならない。


全員が一斉に任務を受けたら、任務地が固まってしまうのではという懸念もあったが、こう見えても〈日本都市〉は特別大きなわけではない。その上で、まともに人間が住めるところは今のところここしかない。

つまり、日本全土が任務地ともいえるため、そう重なることはない。というか、重なる方が珍しいそうだ。


まあ自警団と被ることはちょこちょこあるらしいが。


「失礼するっす」


そわそわと待ちきれない様子で、莉緒は扉を開ける。

ここで柚葉がいなければ任務のうけようがない、ということにならないように対策はされているらしいが、普通にいた。

あと、柚葉の秘書らしき人も一緒に。


「あら、今日も来たの? ……いや、違うか。昨日は結局できなかったんだっけ。端末みればいいのに」


柚葉が呆れたように苦笑を浮かべる。

彼女が言う端末というのがその対策らしく、この腕時計みたいなのからウインドウから任務の項目を押すと、今受けられる任務が難易度の高い順に、五十音順で並べられているらしい。

見る人のことを考えられた、極めて親切な並べ方だ。

他にもこの腕時計みたいな端末は、連絡を取ったり調べ物ができたりと、色々便利な機能が付いているようだが、正直将真はまだ使いこなせていない。


「ちょっと待ってねー……と、あったあった。はい、これね」


そう言って手渡されたのが、受けられる任務の書類バージョンだった。


「どれにするっすか?」

「うーん、将真くんはどうしたい?」

「俺? 俺は……そうだなぁ」


ちなみに、リンが将真を名前で呼ぶようになったのは、昨日莉緒が唐突に、


「名前で呼んだ方が仲間っぽくていいじゃないっすか!」


と言い出したからだ。

そういう訳で将真もリンを名前で呼ぶようになったが、慣れないと若干気恥ずかしさもある。


「じゃあ、これで」


そう言って何気なく一枚の紙を取り出し、それを柚葉に渡す。

柚葉は用紙に、『受注済み』の判子を押す。

これでようやく、その任務を受けたということになるようだ。


「はいじゃあ頑張ってねー」

「おう……って、何でお前ら、そんな顔してんの」


将真が振り返ると、リンと莉緒は、呆気に取られたような表情になっていた。


「いや、だって……」

「今将真さんが受けた任務、自分たちはともかく、将真さんにはちょっと難易度高いと思うっすよ?」

「もっと早く言えよっ!」


思わず将真は抗議した。

地道にやっていこうと思っていた矢先にこれである。

だが、こうなったのもどうやら将真が原因らしかった。


「だって将真くん、ボクたちが何か言う前に任務受けちゃうんだもん」

「じゃあ任務キャンセルとか」

「残念ながら無理なんすよ。うちも人手が足りてないんで、することはちゃっちゃと済ませないと」

「ちくしょォォォォ!」


将真は頭を抱えて蹲った。


「まあまあ、そんなに気にすることはないっすよ。自分とリンさんがいるんすよ?」

「確かにそうだけどさ……」


それはつまり、女子二人に頼り切りということになる。流石に情けなくて嫌だった。


「まあ、自分は暫く側から見てるだけにするつもりっすけど」

「何故に⁉︎」

「2人の実力を見たいんすよー。対人戦なんて任務じゃあんまりあてにならないもんすから」

「そういうもんか」


まあ、そもそも魔導師同士が衝突するというのはあまり無いらしい。

だが、当然魔物や魔族との戦いは多く、毎日のようにある。

その辺を考えると、確かに対人戦の成績はあまり目安にならない、という莉緒の発言もわからなくは無い。


「じゃあ、早速出発っす!」

「おー……」

「おー」


将真は少し気落ちした声で、リンはその様子を見てクスクスと笑いながら返事をした。

そんなグダグダな雰囲気で、〈莉緒小隊〉は初の任務に向かうのだった。




「そういやさ」

「うん」

「……魔物と魔族って、どう違うんだ?」


任務へと向かう道すがら、将真が問いかける。

それに対してリンは嫌な顔一つせず、詳しく説明をしてくれた。


体内に魔力を持っている動物や、ただのモンスターの事を〈魔物〉と称するらしく、また、その上位種は〈魔獣〉と呼ばれているようだ。

そして魔物と違って知性と理性を持ち、比較的人型に近い生物を〈魔族〉というらしい。

弱いものだとゴブリンやオーク等、強いと吸血鬼や〈ウィッチ〉、そして鬼人などで、その頂点に立つのがいわゆる〈魔王〉である。


ちなみに、最近魔王の復活する兆しが現れてきたようなので、結構上層部は頭を抱えているとか何とか。


「んで、今回受けたブルードラゴンの討伐……、こいつはもしかして魔獣か?」

「正解。魔獣の中では比較的弱いんだけど、それでも魔物に比べるとだいぶ強いよ」

「ふむ……」


その間にも莉緒は、そんな話に興味は無いと言わんばかりに先を行く。

まあ、知ってるんだから興味もなかろうが。

そして俺たちは、山脈の向こう側へ__結界の外へ出た。

2人は慣れているのだろうが、改めてこの光景を見ると恐ろしくなる。

前に見たのが、ここに来たばかりの時に姉貴に上空へ飛ばされていたときのことだ。だが、アレはあくまで遠目だったので、その惨劇がどの程度のものなのかを理解することができなかった。

それは今も変わらないが、前回までの知らなかったから、という理由ではなく、俺の常識で推し量れるようなものではなかったからだ。

「ここまでかよ……」

「初めてこの惨状を見た人の反応って、随分似たり寄ったりなんすね」

「そうなのか?」

「そうみたいだよ。まあ、ボクはそれ以上の惨劇を目の前で見たから、ほとんど何も感じなかったんだけど、改めて見てみると、凄いよね」

「そうだな……って、お前結界の外に出たことあるのかよ」

「うん。ちょっとね」

リンは苦笑で答える。

何となく触れない方がいい気がしたので、この話は辞めることにした。

「さて、と。将真さん、そろそろ臨戦態勢に入った方がいいっすよ」

「お、おう。何でだ?」

「そりゃ、どんな事にでも対処するためっすよ。任務で受けたことだけで済むと思ってるんすか?」

「……そうだよな」

あくまで都市は結界に守られてるから安全というだけで、その外は危険という言葉さえ生温いくらいなのだ。

何せ今は、3度目の終焉ラグナロクの真っ最中なのだから。

……と言っても、俺はそんなに詳しく知らないんだけどね、その終焉ラグナロクって。

そんな俺の反応を見て、莉緒がうんうんと頷く。

「わかってくれればいいんすよ。自分の身は自分で守るのが当たり前な、弱肉強食の世界っすからねここは」

「例えチーム内でも、仲間を守りきれないなんてザラだもんねー」

「え、ちょ、おいまさか……」

リンが付け足した一言に、俺は動揺せざるをえない。もしマズイ状況になったら、俺はどうすればいいんだろうか。

てか、見捨てる気満々なんじゃねぇだろうな⁉︎

そんな俺の懸念を察したのか、莉緒がカラカラと笑う。

「心配しなくても、余程イレギュラーな事態が起きない限りはちゃんと助けるから大丈夫っすよ。今回はね」

「妙に強調したなおい」

今回はね、が含みのある言い方だったため、思わず顔が引きつった。

そんな風にお喋りしている間にも、俺たちは目的地のすぐそばまで来ていた。

こんな惨状のなかで魔物とかが暴れているのに、骸の一つも無いというのは不思議な感じである。

「なあ」

「何すか?」

「例のドラゴンってどこにいんの?」

「いるって言っても目撃証言があっただけで、絶対にいるわけじゃ無いかもしれないっすよ」

「または、時間指定とかがあるのかもね」

莉緒の説明に、リンが付け足すように言う。

そういうものか、と納得しかけたその時、少し離れたところから妙な気配を感じた。

「……もしかして、来たか?」

「あー、思ってたよりも意外と数多いっすねー」

「となると、もしかしたらちょっと強いのがいるかもしれないね」

「マジかよ……」

ゲンナリしながら気配の方へと視線を向ける。程なくして、青色のドラゴンたちが現れる。その中でも一体だけ、他の個体よりも二まわりほど大きなドラゴンがいた。

「おや、アイスドラゴンっすか」

「あちゃー、面倒くさいかもねこれは」

「そうなのか?」

「まあ、ぶっちゃけ自分がいなくても何とかなるレベルっすから、取り敢えず頑張ってみてくださいー」

「は⁉︎ おい、ちょっと待てぇ!」

莉緒が、近くの廃ビルの上まで跳んだ。本当にしばらく参加する気が無いらしい。

「俺外で戦うの初めてなんだけど」

「まあ大丈夫だと思うよ」

「そうか?」

「なるようになるよ。きっとね」

俺は例の棒を、リンは長槍を油断なく構え、ドラゴンの群れを見据える。

アイスドラゴンが咆哮を上げ、それが戦闘の合図となった。

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