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第11話『学年末序列戦結果』

「ぐすっ……」

「うん、まあ、その……、佳奈恵はよく頑張ったよ?」

「うわぁーん!」


美緒の慰めが傷口に染みたのだろう。ついに佳奈恵が泣き出した。


序列戦、それぞれのブロックで決勝まで出場した猛と佳奈恵だったが、残念な事に、そこで敗退してしまったのだ。

猛はまだいい。相手は杏果だったものの、彼女を相手に善戦していた方だ。事実最後まで、判定負けになるまで粘って戦いきったのだから。

佳奈恵も決勝まで行ったのだから誇ってもいい、と何も知らないものは思うだろう。いや、知っていたところでその気持ちに変わりはないだろうが、知っている者は佳奈恵の悔し泣きの理由がわかっていたから、そんなことは言えずにいた。


佳奈恵の決勝の相手は、考えうる限りほぼ最悪の相手、虎生だ。前期、中期と遥樹に次ぐ学年序列2位にして、学園序列入りも果たしているほどの、文字通り学年ナンバー2の強さの持ち主である。

彼の戦闘スタイルは、莉緒と同じく速度を重視した近接戦闘だ。だが、その速さは莉緒をも上回る。

加えて、先の試合で佳奈恵を見ていたらしく、彼女の能力を随分と警戒していたようだ。


そして驚くべきことに、虎生は『神話憑依』まで使って、早々に試合を決めに来た。


その状態の虎生の速さはもはや神速……学園では間違いなく断トツでトップ、自警団の中でも、その速さに適う魔導師が何人いるだろうか。

結果、決勝まで頑張ってきたというのにあえなく秒殺されたのだから、そんなものは佳奈恵でなくとも泣くだろう。……泣くかはともかく、泣きたくもなる。


ちなみに残る第一中隊のメンバーだが、相変わらず前期、中期と序列十席入りしていた莉緒、美緒、杏果、響弥は、各々のブロックで順当に最後まで勝ち残った。

リンはやはり不調が続いていたものの、最小限の肉体強化魔法を使いながら、要所要所で得意とする風属性魔術を使って強気に攻めていた。

そして順調に決勝まで勝ち上がったのだが、相手が誰かは確認するまでもなくわかっていた上に、自身の調子も相変わらず良くない。そのためか、初めから半ば諦めていた。

リンの決勝の相手は響弥。前期、中期と学年序列9位だった。魔術の素養と、動きの速さだけならリンの方が上だが、それほど大きな差があるわけでもなく、またそれ以外は殆どが響弥の方が格上だ。

その上で絶不調では勝てるわけもなく、二人の試合は5分程度、リンの意識喪失ノックダウンで幕を閉じた。


佳奈恵やリンのように、悔しい思いをしたメンバーもいたが、それでもそれぞれに強くなっているという実感は間違いなくあった。

静音は前期、中期と20位以内に入っていたし、成長した佳奈恵が相手でなければ勝ち上がっていた可能性は充分にあった。将真も猛とほぼ互角の戦いをしていた。そして対戦相手であった2人は、決勝まで勝ち進んでいる。静音と将真の実力もそれくらいあると考えられるのだ。

つまり第一中隊は、その全員が序列20位程度の強さが最低でもある、といっても過言ではない。

かつては相手が悪く敗北し、本来の実力通りで見られていなかった将真だったが、今はもうそんなことはなくなった。今回の試験は、成長が目に見えた、顕著な例だった。




そして翌日には、予定通り十席戦が行われた。

相変わらず遥樹小隊のところの紅麗は辞退し、学年序列は10位に留まった。その為、未だに学園内で彼女の真の実力を知るものは少ない。

注目の試合はあったものの、将真たちが特に気になって観ていた試合は、三位決定戦の莉緒と美緒の戦いだ。

高速で動き続けることを基本とする莉緒に対して、基本的には不動の姿勢で、相手の動きさえも止めようという美緒の戦い方。対局する戦闘スタイルの2人はある時、実力が拮抗するようになった。

それ以来、勝ち負けを繰り返しているらしく、連勝することもあれば連敗することもあると、その勝率はまちまちで、本当に五分五分の実力なのだという。

事実、前期は美緒の序列が莉緒より一つ高かったものの、中期にはひっくり返った。

ではまたこの後期の試験でひっくり返るのかというと、そこまではわからない。

話に聞いたように、ここで莉緒が二連勝、美緒が二連敗、ということもないとはいえないからだ。


試合が始まると同時に、二人は動き出した。

だがそれは、将真たちには予想できていた行動だった。

莉緒が高速でフィールドを駆け回る。莉緒が通った場所を、コンマ数秒遅れで氷の柱が地面から生えてくる。

美緒の魔法、『氷棺アイスコフィン』。魔術としても機能し、相手を氷の中に閉じ込め拘束することを目的とする魔法だ。その気になれば、封印術の代用としても使える代物でもある。

だが、勿論当たらなければ意味は無い。そうして莉緒を追い続けているうちに、フィールドには何本もの氷の柱が生えていた。

障害物が増えるというのは、莉緒のように速度重視で戦う人にとっては厄介なので、結果オーライと言えなくもない。だが、美緒は少し焦ったように表情を歪め、逆に莉緒は少し笑みを浮かべた。

やはり双子の姉妹である以上、お互いのことは知っているわけで、当然美緒は、莉緒が速度重視の割に、こういった障害物が多いところでの戦闘が得意であることも知っていたのだ。


「わざわざ自分が戦いやすい環境作ってくれるなんて、ありがたいっすね!」

「そんなつもりじゃなかったんだけど」


莉緒の煽りにむすっと頬を膨らませると、指をクイッと横に振る。すると、莉緒のそばの氷柱から、枝のように氷の柱が伸びてきた。


「うわっと!」

「油断しすぎ」


隙が出来た莉緒に向けて、美緒は空かさず次の攻撃に移る。

美緒の背後に、幅十センチ近く、長さは50センチを超える氷の針が幾つも生成され、ドリルのように回転し始めた。


「『アイス・ニードル』」


高速で発射されたそれは、氷柱さえも貫いて莉緒を襲う。貫かれた莉緒の体は、血の一滴すら出るとこなく、蜃気楼のように消えてしまった。


「……『幻惑魔法』」

「その通りっすよ!」

「っ!」

「__『炎弾』!」


佳奈恵の使う詠唱魔術や詠唱魔法はコツがいる。そうでなくとも時間がかかるが故に、莉緒は一般的な魔術や魔法と同じように技の名前しか発していない。

だが、莉緒ほどの実力者が放つ攻撃だ。加えて、莉緒の『炎弾』は、ほかの魔導師が使うものとはまた違う。一味、などというものではない。後方に展開された複数の魔法陣から、幾つもの『炎弾』が時間差で降り注ぐ。

それは、美緒を攻撃すると同時に周囲の氷柱も壊していた。

美緒は、自身の目の前に氷の壁を何重かにして張り、莉緒の『炎弾』をすべて防いで見せた。


「やっぱ硬いっすねぇ。火で攻撃してるのに無傷とか、氷とは思えません」

「そう簡単に溶かされても困るけど、ね」


そう言うと、美緒は再び氷柱を莉緒に向かって生成する。

莉緒との距離が先程より近く、氷柱での攻撃を彼女の背後にも向けているから、莉緒は徐々に追いつかれていく。だが、既に捕まっていてもおかしくないのに、一向に捕まる気配がない。


「すげーな、莉緒」

「……あれ、そんな活用法があったのね」

「『あれ』?」

「そ。莉緒の足元見れば、少しはわかると思うわよ?」


言われるがままに、莉緒の足元に目を向ける。

すると、莉緒の足には、うっすらと炎のような明かりが灯っていた。

どうやら火属性魔法らしい。その名を『フレイムスパイク』。火を足に纏い、相手を蹴りつけて火傷させるなどの、所謂強化付与魔法なのだがれそれを、自身を捕まえようと足元から伸びる氷柱を、溶かすために使うとは、確かに杏果が感心するのもわかった。


このままでは埒が明かないと判断したのだろうが、莉緒の身体が突然炎に覆われる。そして次に炎が晴れた時、その装いに多少の変化があった。

制服の上から、莉緒の体格には少し大きめの羽織を羽織っていた。隠れている右目はどうなっているか分からないが、左目からは僅かに火が揺らめいている。

刀身にも、そして先程同様足にも薄らと炎が灯っている。

『神話憑依』の、第二段階発動だ。ただ神技を用いるのみでなく、僅かながら、神話をその身に降ろす。装いが変わるため、わかりやすい変化である。

その状態で、両手の小太刀を構えて、莉緒の身体が深く沈みこんだ。


「『日輪舞踏』__“六輪華”!」

「げっ……」


神技もそうだが、まさか『神話憑依』まで使うとは思っていなかった美緒が焦りを見せる。

目に負えない速さで迫る莉緒を、経験則からルートを予測して回避行動をとる。だが、あまりの速さに躱しきることは出来ず、腹部と額が莉緒の攻撃によって浅く切り裂かれ血が流れる。


「ちょっと、いきなり神技使うの?」

「いきなりでもないっすよ。それに、美緒相手に手抜きしてたら勝てないっすからね!」


美緒の防御力は非常に高い。ただ守りが硬いだけでなく、拘束によって動きを封じることで、攻撃自体させないことも可能な程なのだから。

だが、捉えられなければ、結局は守りの硬さのみで戦わなくてはならない。

そうなれば、美緒の方が不利になってくる。莉緒の速さに追いつけないからだ。


仕方なく美緒は、不動の構えを辞めて、氷で薙刀を生成する。

リンの槍さばきに勝るほどの腕を持つ美緒は、薙刀をぐるぐると右手や左手、持ち替える時には背中を回してと器用なものである。

最後に右手で強く握りしめて、カァンッ! と甲高い音を立てて地面に柄を突き立てる。


(やる気充分っすね)


「__“七輪華”!」


美緒の気迫を全身で感じながら、莉緒は更に速度をあげた。

だが美緒は、先程と同じように経験則で回避行動を取りながら、更に躱し切れずに攻撃を受けるであろう場所に柄を添える。

勿論莉緒以外の生徒達は認識できていなかったが、2人が交錯すると、攻撃と防御の衝撃で甲高い音が鳴り響き、衝撃で美緒が吹き飛ばされる。

莉緒は、少し悔しそうに苦笑を浮かべた。

接触の瞬間、防がれたとわかっていたからだ。

そして事実、薙刀の柄に大きな傷を残しながらも、美緒自身には傷一つない。加えて、武器生成魔法で作られた武器は、魔力を流し込むだけで簡単に修復できるのだから、本当にノーダメージだ。


莉緒の魔力量は、序列の割に決して多くはない。その為、『神話憑依』という負担の大きいものまで持ち出している彼女は焦り始めていた。

『神気霊装』の域に達していればもう少し負担は軽減できるのだが、『神話憑依』はその未完成状態を指すものであり、負担が大きいのは、正しくない方法で無理やり力を引き出しているためなのだという。

莉緒の魔力で、既に神技を2度も使ったとあれば、あと数分がいい所。

それを自覚していたからこそ、莉緒は勝負に出ようとフィールドを駆け回る速度を、僅かにあげる。そして強く地面を蹴りつけようとしたところで、美緒がばっと手を横に振った。


「……? ……っ!?」


何をしようとしたのか分からなかった莉緒だが、すぐに何をされたのかを理解することになる。

三度神技を使おうとした瞬間、氷に足を取られたのだ。


(ちょっ、今『フレイムスパイク』の効果持続中なのに、その上で凍らせるとかマジっすか!?)


どうやらかなり強力な氷属性魔法を使ったようだ……と、そこまで思ったところで、その氷の正体に気がつく。


(ごく小規模っすけど、これは……)


「神技……を、まさかの設置型魔法として使ったっていうんすか?」

「猛でもできたんだよ? 私ができないわけがない」


(どーゆぅ意味だそりゃぁ、この野郎……!)


美緒の台詞に、観戦席の猛は殺意を振りまくが、そんな事はお構い無しだ。

僅かな時間だが、形勢逆転をなし得た美緒は、優勢となった今のうちに、神技を発動させた。


「『凍結氷獄』__“コキュートス”!」


放たれたのは、凄まじい冷気。それにより発生した霧が、勢いで拡散され、霧が通った後には凍りついたフィールドが見て取れた。

それは瞬く間に広がっていき、遂に莉緒の元まで届く。


「うそぉ!?」

「莉緒。……焦りは勿論、油断禁物、だよ」


一瞬のうちに氷漬けにされた莉緒の動きが、ピタリと止まる。

初めからこうしていれば、などとは思わない。タイミング次第では、莉緒なら属性相性的に防ぐ事が可能なのだから。

上手く隙が作れたからこそ、綺麗に決まった一手であった。


『試合終了。勝者、鬼嶋美緒』

「……よしっ」


相変わらず無表情に近い、感情に乏しい表情だったが、それでもいつもよりは、美緒の表情は嬉しそうに見えた。




後日、第一中隊は、試験終了の数日後に序列戦の結果を改めて見直してみる。


莉緒小隊は、

将真44位、リン12位、莉緒4位。


美緒小隊は、

猛18位、佳奈恵15位、美緒3位。


杏果小隊は、

響弥9位、静音42位、杏果5位。


概ね満足のいく結果となった今回の序列戦に、将真たちは喜んでいた。


だが、今後の序列戦が更に荒れることになる、などと、この頃の彼らが想像できるはずもなかった。

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