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第9話『因縁のライバル対決』

「ちょっ、将真くん正気!?」


思わず驚くリン。だが、無理もない。もう発動間近の炎弾。それも1つではなく、5つ。その中に飛び込もうというのだから、リンの驚きはむしろ当然だった。

事実、莉緒や杏果も、驚いて目を見開いている。

ところが、将真と向かい合っている猛は、僅かに驚きを見せたものの、直ぐに意識を切り替え、構わず向かってくる将真に対して炎弾を放つ。

炎弾は、見事な起動を描いて、将真の目の前まで迫ってくる。そして、直撃。

爆風がフィールドに広がる。


「まさか無策で飛び込んだんじゃないでしょうね!?」

「うーん、昔ならともかく……」

「流石に、何かしらの考えがあるんだと思う」


呆れたようにいう杏果。流石にそれはないだろうと首を傾げるリンの隣で、同じことを思っていたらしき美緒が、リンの気持ちを代弁するように呟いた。

果たして、爆煙の中から将真が飛び出してきた。


『なっ……!?』


そして、それを見た猛や観戦席の一同は絶句した。

将真は擦り傷一つない無傷だった。だが、問題はそこではない。

白髪に浅黒い肌。左肩の袖がない黒衣。右手には人のものとは思えない凶悪な爪を持っている。金の双眸が猛をしっかり捉えていた。

そう。将真はいま、『魔王』の力を顕現させた状態の姿に転身していた。

得られる力に比例するハイリスクにより、余程のことがない限り『魔王』の力は使わないと言っていたはずの代物だ。

強いていえば、侵食度合いを示す右手と呪印の侵食だが、それが最低限に抑えられていた。


いや、抑えられているというよりもこれは……。


「お前、まさかコントロールしたってのか? とても簡単にコントロール出来るもんじゃねぇぞ?」

「まあ簡単じゃないけどな、出力を最小限に抑えた状態なら使えるようになったぜ」


そう言って、冷静に地面に降り立つ将真。

猛は顔を顰める。将真がいう事が本当なら、生半可な魔術や魔法は通らない。

魔王の能力として厄介なのは、魔力の吸収だ。

魔属性魔力には、ほとんどの魔力を打ち消す特性があり、コントロールできるようになればそれを能力として自在に使えるようになる。だが、打ち消せるだけでなく魔力を吸収することもできるというのは、魔王だけに許された特権だ。

魔王の力を最低限とはいえコントロールできるようになった将真が、まさか打ち消すだけなどという勿体無いことをするとも思えない。

先程の炎弾を受けて無傷で済んだのは、炎弾に込められた魔力を吸収してしまったからだろう。


ある程度状況が理解出来た猛は……、ニヤリと笑みを浮かべた。


「『魔王因子』があるぶん、オレのほうが有利かと思ったが、そうか。じゃあ手加減する必要性は皆無だな」

「どういう意味だそれは」


軽く見られた、と感じた将真は、少しイラッとして低い声で唸る。

だが、猛とて将真を侮るほど自惚れてはいない。ただ、自身に宿る『魔王因子』を使うのはフェアではないと思っていただけだ。

将真が『魔王』の力を使うというのなら、遠慮は皆無。『魔王因子』を手にしたことで色々と戦いの幅が広がったのだから、それを使わない手はない。


「舐めてるつもりはねぇけどな、ちゃんと構えとかねぇとお前も危ねぇぞ?」

「は?」


首を傾げる将真の前で、再び猛が炎弾を生み出す。

学習能力がないのか、と呆れることが出来たのは、ほんの一瞬のことだ。炎弾が、黒く燃え上がる、そんな一瞬の。


「な、んだそれ……」

「いくぜ、〈魔炎弾〉!」


更に生成された黒い炎弾が、将真に向かって飛んでいく。将真だけでなく、観戦席の何人かは気がついていた。

あの炎が、火属性ではなく魔属性の魔術であることに。

同属性の魔属性魔力も、吸収することは可能だ。だが、魔力の濃密さが他の属性と桁違いな為、今の将真に目の前の〈魔炎弾〉を吸収し切る力はない。

更に残念なことに、魔属性では魔属性を打ち消せない。同等の力をぶつけて相殺することは可能だが。


魔属性魔力に触れてきた将真はその事を理解していた。その対処法として、構えた剣に、魔力を纏わせていく。

漆黒に渦巻く魔力は徐々に形を成して、やがて本来の剣よりも少し刀身が伸びた黒い刃が出来上がる。


「__〈黒裂〉」


斜めに振り下ろした黒い剣が、〈魔炎弾〉を一刀両断する。〈魔炎弾〉は影響で爆発を起こしたが、その程度なら魔力の装甲で、無傷のままやり過ごせる。

そのまま駆け出すと、将真は立て続けに〈魔炎弾〉を切り伏せていった。


初めて戦った時は、火弾一つ躱す事で精一杯だった。

それを思い出すと、将真自身も、彼の戦いを見ているものも、その成長ぶりに改めて驚かされる。

そして、猛の目の前まできた将真は、上段に剣を振り上げ、息を吐くと同時に一気に振り下ろす。

初めて戦った時の武器生成魔法は、ろくな剣の形にすらならず、猛の腕を打ち付けただけで砕け散った。

それが今は、受け止めた猛の剣と競り合っても壊れない。

余り認めたくは無かったが、猛は改めて実感した。


(まだ魔導師になって一年足らずでこのレベル……。相変わらずバケモンみたいな成長速度だな、くそ!)


「__まだまだぁ!」

「なっ!?」


不意に将真が右手を話したかと思うと、空いたその手にもう一つ剣を生成し、今度は横に振り抜く。

不意を突かれた猛は、咄嗟に自身の脇腹を魔力で強化し、将真の一撃に耐える体制を整える。

思い一撃が脇腹に入り、後退させられた猛は、その場で膝を崩した。辛うじて倒れることは無かったが、剣を杖替わりにしている状態だ。


「っのやろぉ……」

「成長したのは魔力とその使い方……だけじゃないぜ。勿論戦い方だって、上手くなってるつもりだよ」


事実、今の攻撃はうまい一撃だった。

予想以上の、上方からの圧力で、両足は踏ん張るので精一杯。力が拮抗していた為に、弾くのも難しい状態で、急に圧力が緩んだかと思えば、隙だらけの横から一撃。

まだ魔導師なりたてのころの将真だったら、ここまで上手く立ち回ることは出来なかっただろう。


「もう終わり、とは言わないよな?」

「当たり前だろうが。今のは予想外の衝撃で驚いただけだ。この程度で終わるかってぇの」

「そりゃそうだ……っ!?」

『えっ!?』


将真が1歩、猛の方へと踏み出したその瞬間、地面に魔法陣が展開される。次の瞬間、火属性を帯びた魔力が爆発した。


「今の、設置型魔術!?」

「で、でも私何もしてないよっ!?」


リンが驚く隣で、その魔術を得意とする佳奈恵は更に驚いていた。

だが、莉緒たちは理解した。

成長しているのは将真だけではない。

日本の魔導師が強く、一騎当千の戦士が生まれやすいと言われるのは、多種多様な魔導戦を可能にする、一人一人の魔導師としての質の高さゆえだ。

まだ学生程度では原石だが、だからこそ、成長や飲み込みが早い。

猛は、技術を吸収したのだ。いつもすぐ側に使い手がいるのは幸運だっただろう。佳奈恵が使う様子を見て、彼女が得意とする設置型魔術を覚えたのだ。


だが、佳奈恵は見ていて驚くと同時に理解もしていた。

これならまだ、自分がやった方が高威力で使えると。

そして猛は、それを理解した上で使っていた。


(別に、佳奈恵ほど上手くは使えねぇよ。けど問題ねぇな、隙さえ作れれば充分だ)


猛は構えると、先程将真がやった事と同じことを剣に施す。そして、爆炎の元まで肉体強化魔法を使って一気に駆け抜け、大きく横薙ぎに振った。


「『魔断』!」

「__〈黒裂〉っ!」


爆炎の中にいながら、猛の一撃が来ることを分かっていたかのような防御。

だが、将真は力負けして大きく後ろへと吹き飛ばされる。

将真は、魔力による剣の強化段階を三つに分けている。そして今将真が使っていたのは、斬撃型での最も小規模で威力の抑えられたものだ。

対して猛は、将真のそれと比べると規模こそ第一段階レベルのものだが、威力だけなら第二段階にも引けを取らないくらいの魔力が凝縮されている。

どちらの力が上かは、見ればわかるようなものだった。


「くっそ……」

「悪ぃな、次はオレの番だ」




その後、将真はもう一段階うえの〈黒断〉という技を、結局使用しなかった。

理由は簡単で、あまり命中しないからだ。

刀身が5m程に伸び、刀幅も倍ほど伸びて、大剣すら凌駕する様な大きさのそれは、あまり個人戦には向いていない。それなら個人を相手にすることに適した〈黒裂〉の方がいいと判断したのだ。


「じゃあ〈黒断〉の威力を〈黒裂〉程のサイズに留めればいいんじゃないっすか?」


というのは、いつかの莉緒の意見。

だが悲しいことに、あれだけの濃密な魔属性魔力を思った形に整えられるほど 器用ではなく、また魔導師として未熟だった。


そして〈黒断〉を使わなかった結果どうなったかは、だいたい観ているみんなの予想通りになってしまった。


『__試合終了』

「はぁ、はぁ……」

「ぜぇ、ぜぇ……」


アナウンスと同時に合図が鳴り響く。

フィールドでは、互いに寸止め状態でピタリと静止していた。

最後のこのシーンだけ見たならば、互角と思うだろうが……。


『勝者__御白猛』

「__っしゃぁ!」

「だぁぁ、チクショー!」


ガッツポーズを握る猛の前で、悔しさのあまり叫ぶ将真が、背中から仰向けで倒れた。

そして猛も、両手を膝について呼吸を整える。

最後は結局、魔導戦と言うよりは魔導師同士の剣の戦いとなっていた。

かなり激しい戦いだったが、将真が出し惜しんだ結果、猛のほうに徐々にポイントが貯まり、ほぼ互角の戦いだったというのに、将真が負けたのだった。

まあ3回戦まで勝ち上がっただけでも80位以上は確定で、ここで負けても最高で41位。悪くない順位だ。

だが将真はそれ以上に、猛に負けたのが悔しかったのだ。勝てると自惚れていたからでも、格下と侮っていたから、という訳でも勿論ない。好敵手ライバルとして負けたくなかったという、ただそれだけの事だった。


少しの間、仰向けでボーッと天井を見上げていると、不意に手を差し出される。


「……」

「ほらよ、いいからそろそろ立て」


もちろん相手は猛しか居ないわけだが、将真は意外すぎて驚きに目を見開く。

だが、それもわずかな時間だ。

差し出された手を握り、立ち上がろうと体を起こす。


「オレの勝ち、だな?」

「……ああ、そうだな、『今回は』お前の勝ちだよ」

「ほぉ……」

「なんだよ」


少しドヤ顔の猛にイラッとした将真は、一分を少し強調して敗北を認める。

瞬間、険悪になる雰囲気。

ごごごごごご……、と二人の周囲から聞こえてきそうな緊縛した状況に、杏果が大声で水を差す。


「こらぁバカ2人! さっさと上がってきなさい!」

「んだとゴラァ!」

「誰が馬鹿か!?」

「口答えすんな! いつまでそこにいるつもりよ、迷惑になるでしょうが!」

『ぐっ……』


杏果の正論に、口篭る将真と猛。ここで猛も口篭るあたり、素直になったなぁと感慨深く思う美緒。


「それに、次は別ブロックで見る試合があるでしょうが」

「あ、そういや」

「忘れるところだったな……」


呆れたような杏果の口振りに、忘れていた事を思い出す。


ここのブロックではないが、次の試合は佳奈恵対静音。


つまり、『多属性マルチタイプ』同士の、珍しい対戦カードだった。

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