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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第52話『遺跡攻略、再開』

船から降りて、将真たちは例の遺跡がある大地へと再び足を踏み入れた。

のんびりしている時間はない。猛を助けようと思うのなら、彼が『魔王因子』に完全に侵されるまでのタイムリミットもあるからだ。


「よし、じゃあ行こうか、みんな!」

『おーっ!』


遥樹の掛け声に合わせて、意気揚々とみんなが拳を空へと突き上げる。

一同は、足早に大地を駆け抜けて行く。

魔族や魔物は、運良く近くには見当たらなかった。それでも全く接触がなかったわけではないが、このメンバーで多少魔族や魔物と交戦しようと、負ける気はしない。

ウォーミングアップがてらの魔物戦で勝利しつつ士気を高めながら、異例の組み合わせで生まれた隊は、目的の遺跡が先にある洞窟へとたどり着いた。


「よし、じゃあ作戦通り行こう。くれぐれも無茶はしないでね。特に将真と美緒と佳奈恵は」

「おう」

「りょーかい」

「わかりました」


遥樹に、名指しで念を押された3人は、それぞれ了承を示した。




後でわかった事だが、病院の名前は『日本桜第一病院』と言うらしい。

その病院で、猛の妹の話がついた後、今度は病院を出て近くの喫茶店による。

彼らはそこでようやく作戦会議を始めたのだ。


「確認するけど、第一目標は猛の救出。第二目標は『外道』の討伐だ」

「もちろん、わかってるっすよ」

「それで、誰をどこに振り当てるか何だけど、重要になってくるのは、特に消耗している4人の配置だ」

「4人?」

「そう。4人だよ」


撤退直前のあの戦いで、4人も深刻な消耗があったものがいるようで、意外そうな声をあげた将真。だが、頷いた遥樹は、将真の方を見て少し呆れ顔だ。


「自覚ないのかい? 将真はもちろんだけど、美緒と佳奈恵も。君たちは特に危ないんだよ。後は莉緒。逃げてくるときに、少し無茶させてしまったからね」

「あれくらいはどうって事ないっすよ。命かかってるんすから」

「そうだね。それでなんだけど、将真はとりあえず後衛に下がっていてほしいんだ」

「いや、悪いけど断る。俺は猛と戦わせてくれ。俺一人だけだと尚助かる」

「……はぁ⁉︎」


少し間を空けて、ついで怒りを露わにして杏果が声を上げる。立ち上がった杏果は、将真の襟首を掴んでブンブン前後に振り回した。


「あんたわかってんの⁉︎ 猛に負けて、瀕死の重傷負ったばっかでしょ⁉︎ 1人で無茶ばっか言ってんじゃないわよ!」

「それはわかってる。けど、俺の話も少し聞けよ。そして落ち着け、意外と痛い!」


あまりの衝撃に将真は思わず悲鳴をあげる。

杏果は見た目に反して怪力戦士(パワーファイター)なので、あまり乱暴に力を加えられると予想以上にダメージが大きい。ようやく解放された将真は、少し咳き込むが、それもすぐに抑える。


「考えてみろよ。1回目に猛と遭遇した時、あいつは俺と戦うことにしか興味がなかった」

「ぶっ殺すとか言ってたっすね」

「遥樹もいたのにね」

「つまり強けりゃいいってわけ時なゃねぇのか」


紅麗の言う通り、猛は将真より強かった遥樹に目もくれなかった。つまりは、響弥の言ったことそのままだ。

猛の興味は将真にしか向いていない。将真との殺し合いを、彼は望んでいるのだ。同時に、本来の指示は生け捕りとはいえ、『外道』との取引もある。

遥樹だけでなく、他のメンバーにもまるで興味を示していた様子はなかった。


「多分、次行っても同じだと思う。だから、猛は俺がやらなきゃいけないと思ったんだよ」

「考えなしじゃないってことはわかったけど、あんた無理できる体じゃないでしょ⁉︎ 遥樹もなんか言いなさいよ!」

「……」


杏果が、憤りの矛先を遥樹へと向けた。だが、遥樹はそれを気にしたそぶりもなく、少し考え込んで沈黙する。

少し間を空けて、真剣な表情で遥樹は口を開く。


「……将真」

「ん?」

「わかってるのかい? 敵は猛1人じゃないんだ。例え君が猛をどうにか出来たとして、それで終わりじゃないんだよ?」

「……あぁ。わかってるよ。無茶するつもりはないし、残りの力全部使い切るつもりもない。次は勝てる。信じてくれ」


遥樹が言うことはよくわかる。

例え将真が猛を担当して、うまく彼を助けられたとしよう。

だが、遺跡から出ようとすれば、無数の吸血鬼とガーゴイルに加えて、名を与えられる程の実力をもつ『外道』のマッド。

猛を助けることに全力を使い切って、最後に動けません、戦えませんでは話にならない。目的を達したところで、足手纏いもいいところだ。

つまり、遥樹の要求に応えようと思うなら、力を温存した状態で猛に勝利し、先行する遥樹たちに追いつかなければいけない。

困難だが、やるしかないのだ。どの道、一対一で戦っても、遥樹ですら手を焼くであろう相手なのだから。


「……わかっているのならいいよ。任せよう」

「ちょっと遥樹⁉︎」

「……本当にいいの?」


声を上げる杏果の隣で、紅麗が怪訝そうな表情で問う。遥樹の正気を疑っているのかもしれない。

杏果の反応は正しいのだろう。

だが、将真の推測もまた、おそらく正しいのだ。

猛の力に対する執着と、将真に対する強い敵愾心は、彼のことを知っているものならば見ていればわかるほどなのだから。


「いいんだよ。将真の言う通り、猛はこちらに目もくれないだろうからね。それに、ここ数ヶ月、鍛錬の相手をしていたからわかる。同じ失敗は繰り返さないよね、将真?」

「当たり前だ。ここでミスったら全ておじゃんだからな。絶対勝つ」

「うん。本人もこう言ってることだし、猛は彼に任せよう」

「……わかったわ」


杏果は、諦めたように嘆息して、渋々了承を示した。

杏果以外は、猛の相手を将真がする、という案に関して反対はなさそうだ。猛対策はこれで終わりにしてもいいだろう。


「じゃあ後は美緒と佳奈恵、そして莉緒だ。3人は吸血鬼の大群を相手にしてほしい。ただし、美緒は迂闊に魔力を使わないこと。佳奈恵は美緒の護衛。莉緒は、近づく相手を撃退しつつ、佳奈恵と共に美緒を守ってほしい」

「美緒をそこまでガチガチに守る理由はあるんすか?」

「もちろん。吸血鬼の数からして、一体ずつ倒すのは効率が悪すぎるけど、まとめて倒そうにもそこまで効率は変わらない。その点、美緒の氷結魔術は隙がない上に強力かつ広範囲だ。これ以上に有効な手段はないと思う。ただ……」


遥樹の考えは妥当なものだった。

美緒の氷結魔術は、一方向だけでなく、全方向に効果がある。隙がないと遥樹は言ったが、まさにその通りだ。

だが、それなら尚のこと、佳奈恵や莉緒を護衛に回す必要性はないのではないか。

その疑問は、遥樹がすぐに解消してくれた。


「美緒。あと何回、氷結魔術が使える?」

「コキュートスのこと? ……多分、今の魔力量からして、良くても3回」

「うん。だいたい予想通りだったね。まあつまり、連発できるような魔力は残ってないんだ。だから、使い所は考えなくてはいけない。それに、もしかしたら、吸血鬼の大群と接触する以前で使う必要が出てくる可能性もあるからね」

「むしろ普段はアレを連発できる魔力があるってことか……。改めて考えるとヤベェな美緒!」

「今更すぎるわよ。ていうかうるさい」

「おぐぅっ」


遥樹の解説に納得を示しながら騒ぎ出す響弥。目を輝かせながら両手をぐっと握りしめる彼の脇腹を、杏果が鋭く突いて黙らせる。

とはいえ、驚いたのは将真も同じだった。

確か少し前までは、連発できなかったはずなのだが、いつの間に連発できるようになっていたのか。隠していたのか身につけたのかは知らないが、凄まじい体力、そして魔力量である。


さて。最後に残るは、『外道』のマッドだ。


「『外道』の相手だけど、やはり単騎戦が得意なメンバーで固めようと思うんだ。それと、消耗具合を考えて、僕と杏果、後は響弥に来てもらおうと思う」

「了解したわ」

「おう、任せろ!」


指名された2人は、力強く頷く。

杏果も響弥も、やる気に満ち溢れていた。仲間を傷つけられたまま、すごすごと退却せざるを得なかったのだ。リベンジに燃えるのも不思議ではない。


「ちょっと待って」


纏まりそうだった話に、異を唱える声がして、視線がそちらに集まる。

口を開いたのは、紅麗だった。


「どうしたんだい?」

「私も少し、我儘言っていい?」

「聞くだけ聞くよ」

「……私も、『外道』との戦闘に加えて」

「君をかい?」


遥樹が意外そうな声を上げる。

紅麗は確かに強いが、むしろ彼女の力なら、吸血鬼の大群を相手取る方が適任だと思っていた。だから遥樹は、『外道』との戦いに紅麗を指名しなかった。

無論、他にも理由はあるが、主な理由はそれだ。

本当は莉緒も連れて行きたいところだったが、彼女は遺跡脱出の際にひどく消耗していた。そうなることがわかっていながら、その消耗が激しい影魔法『転移』を使ったわけだが、まだ消費した魔力は回復しきっていない。

その穴を埋めるために紅麗が入ると言うのなら、それは確かに心強いが、同時に吸血鬼の大群の方が手薄にならないか、と言う不安もある。


だが、紅麗の決意を聞いてしまっては、断れるはずもなかった。


「あの姿を見てわかった。あの子たちは、私のクローンで間違いない。もちろん驚愕したけど、今はそれ以上に怒りが強いの。どうやったかは知らないけど、私のクローンをあんなに生み出して、兵器として使い捨てる。生命(いのち)を軽視する言動、黙認してはおけない。何より私自身、『外道』を許したくない! 確実に、私の手で叩き潰したい!」

「絶対最後の私情が主な理由だろ……」

「……わかった。紅麗も連れて行くよ。僕も、吸血鬼たちを見て、憤りを覚えたものだからね。君が許せないのは、当然どころか尚更だと思うよ」


響弥の呟きは遥樹によって華麗にスルーされる。

どうやってか生み出された、紅麗のクローン。自分と同じ見た目をした者たちを、あんな悪質なことに使われれば怒り心頭でもおかしくはない。むしろ、自然な反応だろう。


ともあれ、話はようやくまとまった。


「じゃあ改めて担当をまとめよう。猛は将真が」

「おう」


将真が頷いたのを確認すると、遥樹は次の組み合わせを確認する。


「『外道』は僕と杏果と響弥と紅麗だね」

「うん」

「うしっ」

「絶対止めてやるわよ」


こちらも士気に問題はなさそうだ。


そして、恐らくは1番邪魔になるであろう吸血鬼の大群を相手にするのは。


「リン。莉緒。美緒。佳奈恵。静音。真那。吸血鬼の大群は、任せるよ」

『了解っ!』


リンたちは、口を揃えて返事をする。その声から、彼女たちの気合も十分であることは見ての通りだ。


「よし。この分担ならいける。猛も助けて、みんなで帰ってこよう!」

『おぉーっ!』




洞窟に入ってすぐに現れたのは、ガーゴイルだけではなく、『外道』が使役していると思わしき吸血鬼が何体も徘徊していた。


「ひぃっ」

「予想異常だな」

「前来た時よりすごい数だね……!」


それは当然のことだろう。

ガーゴイルの数も増えているのだから、敵の総数は必然的に増加している。

そして厄介なことに、吸血鬼一体の強さは、ガーゴイル5体を優に超える。いちいち戦っていてはキリがないだろう。

だから、ルートとしては、美緒と佳奈恵を助ける前に洞窟に開けた大きな穴から一気に攻め込む道で行く。それが最も早く、効果的だ。

ガーゴイルや吸血鬼との戦闘を必要最小限に抑えながら、目的の大穴の位置まで進撃して行く。大穴にたどり着くと、その大穴は前回とは打って変わって、ガーゴイルや吸血鬼で埋め尽くされていた。

このまま降りるのは非常に危険だ。だが、これを撃破している余裕はない。ここを迂回して地道に降りていては時間がかかり過ぎる。


「くっそ、どうすんだこれ」

「あいつら足場にして行けば行けるんじゃないかしら」

「それにしたって数が多いなぁ……」


呻く響弥に、方法の一例を杏果があげて見たが、話を聞いていたリンは、大穴の敵の数を見ながら顔をしかめていた。


「__そんなの、簡単じゃん」


その声が聞こえた直後、凄まじい冷気が周囲を満たす。

冷気に驚かされて発生源の方を振り向くと、美緒が『コキュートス』を使っているのが見て取れた。

そして、改めて周囲を見渡すと、どこまで凍っているのか疑問を覚えるほどに、下の階層まで凍り付いていた。


「使える回数3回のうち1回。ちゃんと使いどころを見極めて使ったつもりだし、残り2回使えれば十分」

「……オッケー」


相変わらずの凄まじい威力に、思わず静音が呆然と返事をする。

結果を見届けた遥樹は、どうやら満足しているようで、頷いて足を踏み出す。


「じゃあ早いとこ降りようか」

「そうね」

「私も行く」


先行して、遥樹小隊が大穴を降りて行く。残りのメンバーも後に続いて下の階層へと降りていった。




辿り着いてすぐ、やはり何もいなかった第6階層を駆け抜けて下の階層へと下る。

第7階層の相変わらず大きく広い廊下、その中心付近。

そこに、猛が立っていた。

冷たい瞳で、将真たちを見据えていた。


「__」

「……ここからは、予定通りで行こう」

「ちょっと待って」


佳奈恵と美緒が、遥樹を呼び止める。2人は顔を合わせると、少し前に出て猛に語りかけた。


「猛、私たちもう大丈夫だよ! もう人質じゃないんだよ! だから、もうこんなことやめて、一緒に帰ろう⁉︎」

「これからみんなで、『外道』のマッドを倒しに行く。猛も、手伝って欲しい」


佳奈恵の本心。そして、2人の説得。それに対して猛は、少し表情を曇らせたが、再び冷たい表情に戻ってしまう。


「んなこたぁどうでもいいんだよ。俺は将真と戦えりゃそんでいい。他の事には興味ねぇんだよ」

「じゃあ、そこを通してもらってもいいかな? 先を急ぐ用もあるしね」

「……勝手にしろ」

「そうか。なら遠慮なく」


遥樹は、言いながら思っていた。

佳奈恵と美緒の要望で、本来は予定してなかった説得が入ったものの、猛の発言は、大方予想通りだった。


前回同様、将真と戦うことにしか目がなく、こちらに興味を向けないのであれば、将真を除いてこの先を通ることは十分に可能だ。それも戦わずして。

その事に関しては、以前から僅かながら違和感を感じていたが、ここまでの流れに、特に問題はない。

そもそも作戦で、将真が猛の相手をする事は決まっていた事なのだから。


あるとすればこの先だ。将真も、遥樹たちも。


「……じゃあ将真。ここは任せたよ」

「……ああ、任せな」


小声の遥樹の言葉に、将真はボソリと答える。

この場にいる何人が気づいているだろうか。

将真の纏う雰囲気が、急に鋭さを増した。チリチリと、殺気に似たような、肌を刺す感覚。


「将真くん。絶対、勝ってね」

「もちろん勝つ。勝って、みんなで帰るんだからな」


リンのエールに、微笑を浮かべて勝利宣言をする。

遥樹たちは、猛の横を通り過ぎてその奥へと向かって行く。最後尾についた佳奈恵と美緒が、猛の横を通り過ぎるその時。


「____」

「……え?」


猛が何かを呟いた。

おそらくたまたま、佳奈恵だけは聞き取れていたのだろう。その証拠に、佳奈恵が足を止めた事に気がついた美緒が、少し首を傾げていた。


「佳奈恵、早く」

「う、うんっ」


美緒に呼ばれて、佳奈恵もその後ろを足早に駆けてついていった。

この場に残ったのは、将真と猛の2人。猛が望んだ形になった。


「……いいじゃねぇか」

「あ?」

「やる気満々って面しやがって。前みてぇな体たらくはなさそうで安心したわ」

「……そうかよ」


やはり、猛は将真の雰囲気が変化した事に気がついていたようだ。

お互い、自然体ではあるものの、既に臨戦体制。いつ戦闘が始まってもおかしくない状態だ。


「じゃあ、さっさとやろうぜ」

「いや、少し待てよ猛」

「あぁ⁉︎」


出鼻を挫かれた猛は、思わず激昂した。だが、将真はそれには構わず、両手を少し上げて猛を制止するような格好をする。

そして。




「ちょっと、話しようぜ」

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