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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第47話『影の正体』

剣戟と、時折衝突音、そして破壊音が頭上から聞こえてくる。

どうやら将真と猛は、かなり派手な戦闘をしているようだ。ここが地底にある遺跡だとちう事も忘れているのかもしれないが、遺跡が崩れたらどうなるか、という事に頭が回っていないのだろうか。

或いは、どちらかが一方的に攻め続けているのだろうか。




「魔王因子を、入れた……?」

「なんて事を……!」


首を傾げて理解できていない様子を見せるリン。その側で、遥樹はらしくもなく冷静さを欠いて憤慨している様子だった。

他のメンバーの反応はと言うと、遥樹に近いものがあったが、まだ全員が状況を理解し切れていないようだ。


「は、遥樹くん。魔王因子って?」

「……魔王因子って言うのは、端的にいえば魔王の細胞だよ。小さいけど、かなり強力な魔属性魔力の塊で、人体に入れると爆発的に増殖、人体を凄まじい勢いで侵食していくんだ」

「それって、将真くんの体に入ってるのとは違うの?」

「将真に宿っているのは魔王そのものだ。それに比べれば劣化版と言えるだろう。とはいえ、細胞ということは分裂して増えるんだよ。しかも魔属性だ。侵食は早い上に止められないし、場合によってはすぐに肉体が崩壊してしまう」

「えっ、それじゃあ猛くんは……」

「彼は、幸いにも無事みたいだ。あれを無事と言っていいのかはわからないけれど__」

「いやはや、まさしくその通りですぅ!」


遥樹の言葉を遮り、愉快そうに『外道』は笑みを浮かべる。


「私もどうせ死ぬものだと思っていましたよぉ。何せ、魔導師に魔王因子を馴染ませようと思ったら、まず魔力を全て抜かなければいけません。そこから魔属性魔力にある程度触れさせてから魔王因子を入れるのが通常のマッドの造り方ですぅ」

「なっ……。マッドって、改造人間って事かよ⁉︎」

「おやぁ、知らなかったのですかぁ?」


驚きの事実に声を上げる響弥。『外道』は、その様子を嘲笑しながら続ける。


「大変でしたよぉ。通常のマッドの造り方でも、必ずしも成功するわけではありません。適正と言うものがありますからねぇ。一体、マッドになろうとした者どれだけの人間が、耐え切れずに弾け飛んだ事か。それに、魔導師を生け捕りにするのは、簡単な事ではありませんしぃ、魔導師に直接魔王因子を入れる実験は、なかなか進んでなかったんですよぉ」


『外道』は、実に悔しそうに語った。

だが、その裏にある隠し切れない歓喜は容易に見て取れた。それが実験の面白さゆえか、実験の成功ゆえか。前者だった場合は、後者よりもタチが悪い。

そしてその悔しさがあった故か、今度はとても嬉しそうに、声高らかに続けた。


「ですがぁ! 彼は生き残った。魔導師に魔王因子を入れるだけという、ぞんざいに過ぎる方法だったというのに! 適正があったということなんでしょうねぇ。おかげで、本来1つに絞って実験をしていたのですが、それが2つは軽くいけそうですぅ」

「……猛に、いったいどんな条件を突きつけた?」

「おやぁ、気になりますかぁ?」


戯けた調子の『外道』に、不愉快さが増してくる。それは何も、遥樹だけではなかった。皆それぞれ、表情を歪めている。


「答えてもいいですけどぉ、こちらの質問に答えてくれたら、考えますよぉ?」

「……テメェ、いい加減調子に乗りすぎじゃねえか⁉︎ 質問してんのはこっちだろ! それ以前に、なんで俺たちが敵と悠長にお喋りしなきゃなんねぇんだ__」


いきり立つ響弥を、遥樹は手で制して諌める。

響弥の内心は痛いほどよくわかる。遥樹ですら、今すぐこの場で斬り伏せてしまいたいと思うほどなのだから。だがそれでも、ただ怒鳴り散らすだけでは意味がないのだ。

『外道』は、天井を指差す。つられて遥樹たちも上を向く。

だが、そこには何もありはしない。聞こえてくるのは、あいも変わらずの激しい戦闘音。震動によって、パラパラと小さなかけらが降ってくる。

『外道』の問いかけは、遥樹たちの予想しなかったものだった。


「上で戦っているのは、片桐将真ですか?」

「……は?」


質問の意味が理解できなかった。

質問が簡潔すぎることや、色々と思うことはあるが、何より現状の認識を妨げたのは、『外道』が将真の名前を知っていることだった。

そして、迂闊にもそれに返答してしまったのはリンだった。


「う、うん、そうだよ……?」

「……そうか、そうか! いや実に面白いですねぇ! 面白いようにことがうまく運んでいく! むしろ怖いくらいですよぉ!」

「1人で喜んでんじゃねぇよ、今の質問の意図はなんだ⁉︎」


なおも苛立ちが治らない響弥が怒鳴り散らす。


「なぁに、簡単な事ですよぉ。彼の仲間に手を出さず、そして力を与える代わりに、私が出した条件はぁ__」


『片桐将真を、生け捕りにしろ』


「……生け捕り、だと?」

「ええ、もちろん。魔王を宿した少年。殺すわけにもいかないでしょう。そんなことをすれば、魔王様の目覚めがまた先の話になっちゃうじゃないですかぁ!」

「だから、将真を狙ってるのか……」


この分だと、おそらく魔王軍の魔族は将真の生け捕りを狙っているに違いない。将真を殺して、その器に新たな魔王を覚醒させるために。

そんな事になって仕舞えば、待つのは世界の滅亡。『3度目の終焉サード・ラグナロク』が、現実のものとなってしまう。

そんな事、させはしない。させてはならない。


「さて、そろそろお喋りも終わりにしましょうか。お前達にはせいぜい期待させてもらいますよぉ。好きなだけ、抗ってください。それが、私の実験の結果を出す事に繋がるのですからぁ」


そう言って、マッドはスッと手を上に掲げる。

すると、後ろの影のようなものが蠢きだす。それは徐々に分裂し始めた。そうして現れた多数の人影を見てようやく遥樹は気がついた。

後ろの影は、黒いローブを身に纏った、多量の人影の密集体だったという事に。

同じくそれに気がついた杏果が、青ざめて声を上げる。


「うわっ、何あれ全部魔族⁉︎」

「そうらしいわね。遥樹、何かわかる?」

「……魔属性魔力の塊に見えたのは、どうやら密集したいたから、というだけではなさそうだという事だけかな」

「……そういう事ね」

「え?」


遥樹の答えに対して、問いかけた紅麗は納得した様子だ。表情はむしろ険しくなったが、リンは2人の会話に理解が追いついていなかった。無論、紅麗の表情の変化についても、わからなかった。

そして、リンに回答したのは遥樹でも紅麗でもなく、2人の会話を聞いていた上で理解していた、莉緒だった。


「簡単な話っすよ。魔属性魔力の塊に見えたのは、単に密集していたからだけじゃなく、個体としての魔力保有量も相当なものだからって事っす」

「そ、それってかなり強いんじゃ……」

「まあ相手の強さは、高位魔族として見るべきっすね。それより、来るっすよ!」


蠢き、分散し始めた魔族を見て、莉緒が声を上げる。

その数の膨大さに、一同は圧倒された。だが、その差に違いはあれど、すぐに気を取り直して陣形を整える。

前衛は遥樹、莉緒、杏果。

中衛はリン、紅麗。

後衛は響弥、静音、真那。


「って、ちょい待て、なんで俺後衛なの⁉︎」

「君がもしもの時は静音と真那を守るんだよ! あと、君の神技の有用性も考慮してるから安心してくれ!」

「そもそも文句言ってる場合じゃないでしょうが!」


杏果の言う通り、敵は目の前まで迫っていた。

そして遂に前衛と接触する。だが、その数があまりにも多すぎた。そのため、全てを止めきれず、簡単に後ろに通してしまったのだ。


「げっ」

「数多すぎよ、こんなの!」

「くっ。紅麗、リン、頼む!」


遥樹に言われるまでもなく、2人はすでに臨戦態勢だ。

紅麗は、魔力と血を混ぜ合わせて、両手に大きな鉤爪を装備し、向かってくる敵を次々と切り裂いていく。それだけではなく、彼女の背中から生えた血の鉤爪が、紅麗の無防備なところを狙ってくる敵を薙ぎ倒していく。隙のない、高レベルな戦闘だ。

リンはいつも通り、長槍を作り出して、敵に突き立てる。その一突きは、見事敵の肩を貫通。すかさず次の相手に槍を一突きしようとして__ローブの間から、手が伸びてきた事に、リンは思わず2度驚かされる。

初めは、槍の一突きを手で受け止めようとする神経。そして次は、赤く硬質な皮膚で覆われた手が、槍の一突きを容易に弾き返したことだった。


「えっ⁉︎」

「__」


そして敵はそのまま直進し、リンの腕を浅く切り裂いた。


「うっ、くそ……。……っ⁉︎」


すぐに体制を立て直そうとしたリンだったが、うまく踏ん張れずにバランスを崩して尻餅をついてしまう。

切り裂かれた腕に違和感があった。傷の大きさの割には酷く痛む。そのくせ血はほとんど出ていない。

訝しんで傷口を見てみれば、傷口に血が滲んでいる。だが、やはり出血は大したことなく、青痣のような有様になっている。そして何より、麻痺したように感覚が薄い。

毒でも入れられたのだろうかと戦慄を覚えるが、相対する敵の赤い爪を見て、別の驚きへと変わる。

おそらくリンのものだろうが、彼女の血で濡れていた爪先が、即座に乾いたのだ。いや、吸収したと言うべきか。

更に驚くべき事に、先ほど肩を貫かれたはずの敵が何事もなかったかのように立ち上がった。だが、肩には確かに貫かれた痕跡が残っていて、傷一つない肌が服の破れたところから覗いていた。


「まさか……」


驚異的な再生能力に赤く硬質な皮膚。そして、血を取り込む能力。

リンは紅麗を見る。彼女が武器にする赤い鉤爪と、敵の赤く硬質な皮膚は酷似していた。


「遥樹くん!」

「どうした⁉︎」

「これ多分、全員吸血鬼だよ!」


声を張り上げて遥樹の方を振り向いて見ると、彼も同じく、傷を負っていた。傷自体は浅いが、遥樹もやはり、腕に違和感を覚えたようだ。


「……なるほど。リン、君は大丈夫かい?」

「うん、何とか」

「なら、そのままギリギリでもいい、押しとどめてくれ。紅麗!」

「私っ⁉︎」

「敵を一掃できるか⁉︎」


__いやそれは無理だと思うなー。


確かにガーゴイルより少し強く、吸血鬼の特性を使える脅威はあれど、勝てないほどの相手ではない。

だが、何せ数が数だ。これを一掃するような都合のいい策があるとは思えない。リンの内心は、他のメンバーも同じように考えたことだった。

だが。


「わかったわ。とりあえずみんなどいて!」

「えぇ⁉︎」

「出来んのかよ⁉︎」


驚きながらも、前衛の3人とリンは後退。同時に紅麗は前に出て、巨大な真紅の大剣を作り出す。


「__は、あぁぁぁぁあああっ!」


そして、吸血鬼の膂力に任せて強引にそれを振り抜いた。速いとは言えないその攻撃は、だが相手の数が多すぎたことが逆に功を奏した。密集しすぎて躱すことが出来ないのだ。

強烈な斬撃を受けた、おそらく吸血鬼であろう者たちが、大きなダメージを負って地に落ちていく。

胴体から真っ二つにされた者、四肢の何かが切断された者、衝撃波によって吹飛ばされた者。ケースは色々あったが、大量の鮮血が撒き散らされることはなかった。

先ほどリンや遥樹の血を取り込んだ敵と同様に、血と魔力で作った大剣で、根こそぎ血を抜き取って奪ったのだ。


「す、すげぇ……」

「ていうか、エグい!」

「一掃とまでは行かなかったけど」

「いや、これだけやってくれれば充分すぎるほどだよ。それに、後まだ何回か同じことができるだろう?」

「そうね、血さえあれば、この剣も好きなように修復できるし」

「……ここまでとは」


勝機が見えたところで、『外道』がぼそりと呟く。

だがその声に戦慄はあれど、絶望はない。勝機が見えたというが、それでもまたすぐに敵の絶え間ない攻撃が向かってくるのはわかっているのだ。

予想通りに向かってきた敵集団のうち先頭の一体を、遥樹が袈裟懸けにする。もちろん、彼の場合は鮮血が撒き散らされた。そして偶然にもハードが千切れる。それは、猛たちと似たような状況にあった。


その顔を見て、全員の表情に驚愕とも戦慄とも取れる表情が浮かぶ。

1番動揺したのは、紅麗だった。だがそれも無理はない。なぜなら、フードの下にあったその顔は__


「わ、私……?」


紅麗にそっくりの少女だったのだから。

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