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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第45話『外道の肩書き』

競り合う2人。

交錯する刃は、擦れるたびに火花が僅かに散り、それが一瞬照らす顔は、やはり疑いようがない。


美緒小隊の前衛、御白猛だった。


互いに剣を弾き合い、距離を取る。


「……何してんだよ、猛っ!」

「決まってるだろ、そんな事……」


虚ろな声。

ちゃんと返答が帰って来たのが意外で驚いたが、それ以上に彼の衰弱したような、感情の乏しい声音。それが、将真たちを不安にさせる。


「そんな……」

「何が起きてるんすか……?」

「知らないわよ、そんなの……」


状況が理解できない一同。だが、彼らの理解が追いつくまで待ってくれるほど、今の猛は甘くなかった。

再び地を蹴り、将真へと斬りかかろうとする猛を、ただ1人冷静に分析していた遥樹が、焦りの表情を浮かべて叫ぶ。


「将真、気をつけるんだ! 彼は__」


「__テメェを、ぶっ殺すんだよ!」


「__魔属性魔力を有しているっ!」

『なっ⁉︎』


遥樹が伝えようとした後半部分が、猛の獰猛な叫び声と重なった。

振り下ろされる剣の一太刀を、将真もまた剣で受け止める。

驚異的なその力に、将真は完全に力負けし、後方へと吹き飛ばされ、そのまま壁に激突。あまりの衝撃に一瞬意識が飛び、肺の中の空気が全て押し出された。


「か、はっ……」

「__猛ぅ!」

「覚悟__!」


追撃をかけようとする猛に、そうはさせまいと、響弥と遥樹が斬りかかる。

だが。


「__ぅおらあぁぁぁあ!」

「ぐっ」

「何っ⁉︎」


回転をかけて、背後に迫った2人を力任せの一振りで迎撃し、吹き飛ばした。

かなりの膂力を誇る響弥と遥樹。その2人が、完全に力負けしていた。

将真ほどのダメージは受けなかったものの、2人ともうまく着地ができなかった。何より、動揺が大きかったのだ。


「冗談だろ……」

「まさか僕らが、力負けするなんてね」


響弥も遥樹も、単体で相当なパワーを持っている。それを2人同時に吹き飛ばした猛の膂力は、尋常じゃない。

おそらく遥樹が言った、魔属性魔力を有していることが関係しているのだろうが。


「あいつ、こんなに強かったっけ?」

「いやそもそも、魔属性魔力なんか持ってなかったわよ!」

「学園で魔属性魔力持ってるのは多分、紅麗と将真だけ」

「純粋な魔人だったら、おそらく日本にはいないしね」


全員が、状況を飲み込みきれずにいる。

そんな中でも遥樹は落ち着いていて大したものだが、やはり彼にも、現状を理解しきれていないようだった。


一体、猛の身に何が起きたのだろうか。

猛は、背後を振り向いて、遥樹たちを見下すような態度をとる。


「用があるのは将真こいつだけだ。テメェらはサッサと失せな。雑魚は鬱陶しいし、邪魔でしかねぇからよ」

「……御白猛。そう無理なことを言わないでもらいたいな。それともまさか君は、この戦力差で勝てるとでも言うのかい?」


将真を除く全員が、それぞれ武器を構えて臨戦態勢をとる。本来仲間である猛に刃を向けることに嫌悪感はあるものの、敵として仲間を傷つけると言うのなら、容認するわけにはいかなかった。


だが、猛は余裕の表情で不敵に笑う。

放たれる殺気と魔力の余波は、遥樹や将真の本気すら上回るのではないかと思われる威圧感すら感じさせていた。


「__勝てるさ。今ならな」


徐々に高まっていく猛の魔力。それと同時に、大気中の魔属性魔力が濃密になっていくのが遥樹にはわかった。

幾ら魔導師と言えども、強力な魔属性魔力が充満した環境下に晒され続けるのは危険だ。

聖属性魔力を持つ遥樹と、半分魔族の紅麗は平気だろうが、他のメンバーはまず間違いなく、何かしらの影響を受けるだろう。

だからと言って、将真を見捨てるわけにもいかない。珍しく遥樹が決断しかねていたその時。


「__遥樹、行けよ」

「将真……」

「猛の目的は俺だろ。ここで全員足を止めることもない。お前なら、みんなを引っ張っていくことだったできるだろ。俺じゃ無理だしな」

「……勝てるのかい?」

「さあな。けど最低でも、時間くらいは稼いで見せるさ」


明確な否定も肯定もない返事。

だが、猛と同じように不敵な笑みを見せる将真。それを見た遥樹の判断は__


「わかった。ここは任せるよ、将真」

「……ああ、やってやる。だから、美緒と佳奈恵はお前らに頼むぜ」


遥樹と将真は、互いにアイコンタクトをとって頷く。

遥樹は将真から視線を外すとすぐに動き出し、残りのメンバーを先導して更に奥に進む。

その途中、リンが一度だけ、心配そうにこちらを振り向く。


「将真くん、気をつけてね!」

「わかってる!」

「……こっちが望んだ状況とは言え、わざわざ死ににくるなんざ、バカな所業としか思えねぇな、将真?」


猛は、一人残るという無謀な選択をした将真を、嘲笑っているようだった。

暗闇のせいで、少し先へ進んだ仲間たちがすぐに見えなくなる。

不安がないわけでない。先ほど力負けしたばかりな上に、今の猛がどうなっているのかはまるで不明だ。むしろ、不安要素しかない。

それでも。


「俺もそう簡単には負けねーよ。受けてやるからこいよ、猛__!」

「ハッ……いい度胸だなぁ__!」


挑発に乗った猛が、叫び声をあげてこちらに向かってくる。

今度は、自分たちの意思で。二人は再び、剣を切り結んだ。




遥樹たちが将真と別れて駆け出した先。第6階層のミノタウルスが出現する場所と同じような空間が、ここ第7階層にもあった。

そして、そこにあったものを見て、思わず一同は息を飲む。


「うっ……」

「こりゃヒデェ……」

「すごい臭い。鼻がおかしくなりそう……」


そこにあったのは、巨大な生物の死体だった。肉は崩れかけて、すでに中の骨が大部分見えていた。死後数日経っているのか、腐臭も凄い。

そのせいで一見わかりづらいが、この死体から何とか見て取れるシルエットは間違いない。


「龍種だね。ここまで型崩れを起こしているとはっきりとした正体がわからないけれど……」

「じゃあとりあえずファフニールって事で」

「相変わらず適当ね」


真那のその場の思いつきで、龍の死体に名前がつけられた。そんな彼女のノリに、紅麗は苦笑を浮かべた。

だが、死体とはいえこの姿を見れば、容易に予測できることがある。


「第7階層の壁に手当たり次第に付けられていた大きな爪痕は、こいつの攻撃によるものなんだね」

「あ……。そっか、そうだよね」

「言われて見ればそうね」


遥樹がようやく腑に落ちたように呟くと、同じくそれに気がついたリンと杏果が同意する。

あれだけ大きな爪痕を残したのだから、相当派手な戦闘だったのだろうが、この怪物を仕留めてしまうほどだ。いったいどれほどの実力を持つか検討もつかない。


「第7階層はまだ、最深部ではないみたいだな」

「そうだね。そしておそらく、ここからが正念場だよ」

「どういう事?」


響弥の言葉に同意を唱える遥樹。そんな彼に、紅麗が疑問を投げかける。


「ここからは、今までいろんな人たちから聞いてきた遺跡についての情報を検証して出した、僕の推察でしかないんだけど」

「そこまでやれるあんたは正直怖いくらいだけど。それで、何か思いついたの?」

「……莉緒、リン。君たちが遺跡に行った時、第5階層で遺跡の意思と戦ったと言っていたね」

「そうっすね」

「そして、遺跡を生命体に例えた」

「うん。でも、それで何かわかるの?」


リンが首をかしげる。莉緒も同じように、遥樹が言わんとしていることを理解できていないらしい。


「おそらくその例えはかなり正確なものだと思うよ。第5階層の遺跡の意思が、遺跡にとっての『脳』。そして、外敵から身を守るための『免疫ガーゴイル』。だけど、実はこれだけじゃ足りてないんだ」

「足りてない?」

「そう。よく考えてみるんだ。生命が生きていくために、最も必要な器官は?」

「……あ、そっか、心臓だ!」


言われて、初めて気がついた。

だが、生命体と例えたのならばむしろ考えてしかるべきだ。心臓が重要な器官だということが、余りに当たり前すぎて、逆に頭から抜けていた。

遥樹も、リンの反応を見て肯定する。


「そう。何処かにあるはずなんだ。第5階層よりも下がある、生きた遺跡。その動力となる『心臓コア』がね」

「もしかして、それを見つけようとしてるの?」

「ああ。それで僕の推察が正しいかどうかがわかるからね__真那」

「うん、わかってる」


遥樹が静かに真那の名前を呼ぶ。それに答えた真那の様子を見て、リンはギョッとした。

先ほど、洞窟の地面をぶち抜き遺跡すら貫通させたあの一撃を、もう一度放とうとしていたのだ。しかもどうやら、遥樹がそう言うことをわかっていたらしい。

そして、真那は地面に砲身をつけ、一言。


「__発射ファイア


地震のような衝撃が、地面を揺らす。

初めからわかっていたらしい遥樹と違い、意表を突かれたかのように見えた紅麗もちゃんと身を屈めて対策していたところを見ると、そもそもこう言うことに慣れているのかもしれない、と苦笑いを浮かべるリン。

今度の一撃は、先ほどのものと比べるとだいぶ威力を落としたらしく、床を貫通した程度だ。これくらいなら他のメンバーでもできそうなのだが、なぜ真那を使ったのだろうか。


そんな思考を奥に追いやって、リンは先に穴の下へと降りた遥樹たちを追う。

第8階層。降りたそこは、七階と同じ広いエリアだった。そしてその真ん中に、不思議なものが存在した。

魔族ではない。魔物でもない。いや、生物ですらない。

そこにあったのは、硬質な見た目の水晶石だった。


「__ビンゴ」

「え? じゃあもしかして、この水晶石は……」

「そう。この遺跡の『心臓コア』だ」

「これがっすか。でも、初めて見たのに一つ感じることがあるんすけど」

「いいよ」

「……なんか、この水晶石濁ってないっすか?」


確かに、莉緒の指摘通りだ。

水晶石は確かに硬質そうな見た目ではあるが、光一つ通さず、灰色だ。実は石なのではと思わされるほどに。

そして、驚くべき事実が遥樹の口から伝えられる。


「それはそうさ。だってこの遺跡は既に『死んでいる』のだからね」

「……し、しんでいる?」

「うん。僕が検証して出した推察は、ここに来るまでに2つあるんだ」


そう言って、遥樹は指を一つ立てる。


「1つは遺跡に入る前。第5階層を超える遺跡は生きていて、『心臓コア』が存在すること」


遥樹は、次に2本目の指を立てる。


「もう1つは、ここに来る間までの出来事。無限に沸くはずのガーゴイルは、確かに凄い数だったけど増えている感じはしなかった。むしろ減っていたようにすら感じる」

「言われてみれば……」

「そうっすね」

「それに、第5階層に『ブレイン』が出てこなかったのも偶然じゃあない。第6階層でミノタウルスが出なかったのも、第7階層うえでファフニール(仮)が死滅したまま数日経っていたこともそうだ。これらは、遺跡が機能していないことを示している。つまり、死んだのだと」


一度遺跡を経験していたリンと莉緒は、妙に納得の言った様子で頷いていた。

遥樹の言ったことは筋が通っている。何より、辻褄もある。おそらく、彼の予想は正解だ。

だが、なればこそ新たな問題が浮上する。いや、薄々とだが、皆既にわかっていた問題だ。それが、遥樹の説明によってより明確になっただけだ。


「じゃあ……これ、誰がやったってんだ?」


皆の心中を代弁したのは響弥だった。そして、それに対しては、遥樹も申し訳なさそうに首を振る。


「すまない。流石にそこまではまだわからないんだ」

「そっか……」


問題の浮上と不安に、一同は少し落ち込み気味になってしまう。

そこに、彼らのものではない別の声が混じって来た。


「__おやぁ、もうここまで来ていたのですか魔導師たちはぁ」


道化染みた、神経を逆なでされるような声。おどけた仕草。そこに経っていたのは、皆もよく知っている魔族だった。

魔王軍の中でも、魔導師たちに最も嫌われ、裏切り者と称される魔族。マッドだ。


「初めまして、クソガキ魔導師諸君。私はマッドであります。あぁ、でもただのマッドではありませんよぉ。『外道』の名を冠してますのでぇ」

「マッド……」

「しかも、名前持ちですって⁉︎」


紅麗が驚愕に声を上げる。

名を冠しているマッドとは、他のマッドとは違い優秀で、実力もあり、彼らを統べるものたちに認められた者を指す。

つまり、今まであって来たマッドとは少し違う。特に、危険性が。


「お前たちの目的は、大体わかりますよぉ。この2人を助けに来たんでしょう?」


『外道』がそう言うと、背後の影からずるりと抜け出すように、何かが現れた。

木製の十字架に手足を縛られた美緒と佳奈恵だった。身体中傷だらけで、顔色も悪い。ひどく衰弱している。思わずリンは口元を手で覆う。


「な、なんて事を……」

「__美緒!」


それまで冷静だった莉緒が、唐突に駆け出そうとした。美緒が帰ってこないと知っても思っていたより淡白な反応だった莉緒だったが、やはり内心は心配でしょうがなかったのだろう。

だが、その莉緒の肩を、遥樹が唐突に抑える。


「な、何するんすか!」

「待つんだ。もしかしたら今、目の前でとんでもないことが起こっている」

「何すか、とんでもないことって!」

「……背後のあれは、影じゃない。何だこれは……魔属性魔力の塊じゃないか!」

『__っ⁉︎』


遥樹が浮かべる表情が、ひどく焦っているように見えた。そんな表情でそんな事を言われては、皆が戦慄を覚えるのも無理はない。あの遥樹ですら、こんな表情を浮かべる状況なのだから。


「おや、この状況で私の後ろの存在に気付きますか。さては『神聖眼』の持ち主ですね? まあ構いません。この2人を助けたければ、どうぞ私たちを突破して下さい。無理だと思いますがねぇ」

「……助けたいのは、猛も同じなんだけどね」

「猛? あぁ、あの威勢のいいガキですかぁ。なら、あきらめる事ですねぇ、もうあいつは助かりませんからぁ」

「どういう事だ⁉︎」


響弥が怒鳴り声を上げる。その様子を、『外道』は面白そうに見下しながら、裂けそうな笑みを浮かべる。


「『魔王因子』って、知ってますか?」

「……まて。それは、まさか貴様……⁉︎」

「これだけで私が何をしたか、予想がつくんですねぇ、いやはや……非常に優秀で、愚かですねぇ!」

「は、遥樹くん、どういう事?」


下衆な笑い声を上げるマッド。話についていけないリンは、遥樹に問いかける。『魔王因子』については、若干知っているくらいなのだ。

だが、それに答えたのは、マッドだった。

嬉しそうに、声高らかに。両手を広げて。




「入れてやったんですよぉ。あの猛とかいうガキに、『魔王因子』をねぇ!」

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