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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第44話『的中』

嫌な予感を抱いたまま、将真たちは大急ぎで学園長室にいる柚葉の元へと駆けつけた。


ちなみに、孤児院を出る直前、将真が子供たちの目の前で驚異的なジェットスタートを切ったことは道中で責められた。

子供たちの近くで危険な真似をするな、とか、子供たちが真似をしたらどうする、だとか。

その件はとりあえず保留となったが。


学園長室の扉を、将真は蹴破るような勢いで開け放つ。それに気がついた柚葉は、吃驚した表情でこちらを見た。


「柚姉!」

「脅かすんじゃないわよ、もっと静かに入りなさい! あと遅い!」

「仕方ないだろ⁉︎ それに今急いできたんじゃん!」


都市の外で遥樹と手合わせをしていたせいで、柚葉の連絡が届くまでに時間が空いてしまったのだ。不可抗力と言うほかない。

ため息をついた柚葉が、気を取り直して伝えたのは、今回の任務の内容だった。


「単刀直入に言うわ。今回の任務だけど、美緒小隊を助けに行って欲しいの」

『っ!』

「やっぱりか……」


それは予想されていた回答だった。

詳しい話を聞くと、どうやら数日前に反応が消えたらしい。それ自体はおかしなことではない。

魔導師が持つ腕時計のような形の端末。これには特殊な施しがされていて、魔力探知で居場所を特定できるようになっている。丁度、GPSに近い機能だ。だが、将真たちの時もそうだったが、遺跡の第5階層以降に進むと、何かしらの探知妨害がかかっているのか、反応が消えるらしいのだ。

それでも、ミノタウルスを前に即座に逃げ帰ってきた将真たちは、すぐに反応が回復し探知できるようになったが、今回の美緒小隊は、そうではないらしい。


全く探知できない。つまり、今もまだ第5階層より下の階にいる。


それが順調に攻略を進めていると言うことなら問題は無いのだが、定期連絡もなく音信不通となると、不安要素の方が強い。最悪の場合、彼らの命はすでに無いものかもしれないのだ。


「こっちでも準備してるから、あなたたちもすぐに出発の準備をしてきて欲しいの。遅くてもあと1時間後にはもう一度ここにきて」

『__了解!』


事態は急を要する。場合によっては深刻だ。できるだけ出発を早めなければいけない。


「急ごう!」

「うん!」


一度、各々で解散した将真たちは、昼食をとり準備を急いで済ませて再び学園長室に戻る。その時間は40分くらいだった。


「ちゃんと早めに来れたみたいで助かったわ。それじゃあまずは、自警団本部に向かうわよ」

「自警団本部に?」

「あの、何でですか?」


わざわざ学園長室に集まったと言うのに、また移動なんて非効率的では無いだろうか。

自警団本部に用があるのならば将真たちでは行くことを許可されていないから、柚葉がついて行くのはわかるが、初めから城門前を集合場所にすればよかったのでは無いだろうか。


「仕方ないでしょう。こっちはこっちで他にもやらなきゃいけないことがあるのよ。自警団本部に来たのは、とある装置を使うためよ」

「装置?」

「ええ。将真、あなたがここに来た時の、鏡のような魔法陣を覚えてる?」

「あー、あれか……」


忘れもしない。

柚葉が厨二病に陥ったのでは無いかと疑い、そして非現実的なことに、その魔法陣を経由してこの世界に飛んで来たのだ。忘れられるはずもない。


「それを応用して作られた魔導装置。似たようなことができる魔導は影属性にあるっちゃあるけど、こっちの方が遥かに有能よ」

「つまり?」


あくまでもったいぶる姿勢の柚葉に、少し苛立ちを覚えた将真は、低めの声で聞き返す。

柚葉は、少し得意げに胸を張って言った。


「__転送装置よ」




「……マジか」

「ボクたちの足でも1日くらいかかる距離を……」

「たったの数秒っすか……?」


柚葉に連れられるまま、一同は自警団本部の西門方面へと向かい、中に入ると地下へと向かった。

そしてそこにあったのは、淡く青色に発光する魔法陣。丁度、『裏世界こちら』に連れて来られた時の魔法陣とよく似ていた。


そして、急かされるがままにその魔法陣の上に乗り、柚葉に見送られて、将真たちは光に包まれた。


再び目を開けると、あまり見覚えのない薄暗い部屋にいた。

その部屋を出て、建物の外へと足早に向かう。

外で見た景色は、見覚えのある港。遺跡探索に向かうために乗った船がある場所だった。


「こんなのがあったのか」

「流石に私もびっくりだわ……」

「確か莉緒は転移魔法が使いたんだっけ?」


杏果の小隊も、同じように驚きを露わにしていた。静音の問いかけに、莉緒は軽く頷く。


「使えるっすよ。と言ってもあんなのは最終手段っすけどね」


莉緒小隊の遺跡探索の話は、杏果たちにもしていた。もちろん、その中で逃走方法に莉緒の転移を使った事も。

だがあれは確かに使えるとは言わない。使った時点で使用者が行動不能になる代物を、使えるなどと言えるものか。


「いやでも、影魔法の転移が使えるんでしょ? 結構すごい事だと思うけど」

「私なんて魔法の方はてんでダメ」

「お前、学年序列十席入りしてるんじゃないの⁉︎」


真那の口から出たトンデモ発言に思わず将真はツッコミを入れる。

高位序列者がまさかの魔術特化。というか、てんでダメと自己申告するとは。


「ほら、とりあえずみんな落ち着こう。早く船に乗り込んで遺跡に向かわないと」

「逆にお前やけに落ち着いてるな⁉︎」

「別に慌てるようなことではないと思うけどね」


1人だけやけに大人びた遥樹の対応は、この大事な時に適切なものなのだろうが、同時に少し怖い。


「さあ、行こうかみんな」


遥樹の先導に、各々で返事を返し後に続く。

と言ってもここでは船に乗り込むだけだが。




以前よりも早い船に乗ったために、かかった時間は5時間程度で済んだ。その代償として、中隊メンバー数人が乗り物酔いで思わず吐いたが、平気だったメンバーに引き摺られるような勢いで連れられ洞窟へと向かった。


「遥樹も、乗り物には弱かったんだな……」

「吐いてはないけどね……」


いつもより顔色が悪い遥樹。完璧に見える少年の意外な弱点が、遥樹の小隊と関わるようになってから少しずつ明らかになっていくのは、愉快でもあった。

正直今は、そんな事を考えていられるような体調でもないが。


「響弥、そろそろ大丈夫だ。自分で歩くから降ろしてくれ」

「お、もう行けそうな感じ?」

「何とかな」


このメンバーの中で、船酔いする事もなく、将真を担いでいける人物は、響弥しかいなかった。例え肉体強化をしようと、自分より大きな物を抱えて動くのは意外と負担になるのだ。

従って、ダウンしていた将真を暫く抱えていた訳である。

将真は同年代男子と比べると背が高い方だが、響弥は更に高い。将真と比べても頭一つ分近く違う。と言うか、学年で言えば1番背が高いかもしれない。


一同は急ぎ、遺跡へと繋がる洞窟へと駆ける。

その道中に、遥樹が違和感を覚えたようで、意味深に呟く。


「……静か過ぎないか?」

「ん?」

「どう言う意味?」


その言葉に髪を引かれるように、リンや紅麗たちが振り向き、一同の足が止まる。


「いや、確か将真たちが来た時は、道中でも戦闘があったのだろう?」

「そう言えばそうだな」

「だけど、そうだったとは思えないほど、今は静かだ。君たちが嘘をついてない事を考えると……」

「順当に考えて、美緒たちが倒したんじゃない? まあ、彼女たちが何をしたところで、3日も経ってるんじゃ魔力の残滓も残ってないからわからないけど」

「その可能性は考慮しているよ。その上で静か過ぎると思ったんだ」


__そのくせ、やけに強い気配がいくつか、僕らを囲むように感じ取れるしね。

遥樹は、警戒心を強めて周囲を見渡す。生憎と今、一同は森の中にいた。その為、相手を見つけ出すのも一苦労だ。

遥樹の反応を見て、他のメンバーたちも警戒心を強める。すると、こちらの様子の変化に気がついたのか、気配が大きな動きを見せた。

かなりの速さで、こちらに向かって来たのだ。


「こっちに来るぞ!」

「ゲッ」

「うそぉ⁉︎」


響弥と杏果が声を上げる。ちょうどそんな2人の視界に、森を突き破って出て来た何かが映った。

明らかに感じ取れる攻撃の意思を前に、少し遅れながらも2人はそれぞれ持つ大きな武器を盾に、防御姿勢に入る。

ガヅンッ、と衝突音が響く。


「ぐぅっ⁉︎」

「あっ……!」


予想以上の強力な打撃。そのダメージは防御していても伝わって来た。


「杏果ちゃん! 響弥くん!」

「おい、大丈夫か⁉︎」

「イッテェ……けど、まあ何とかな。手が痺れたくらいだ」

「今のやつ、姿を完全には捉えられなかったわ。速い上に、全身を黒いローブで覆い隠してるのは気がついたんだけど……」


手首をプラプラと振る響弥の隣で、杏果は差し出されたリンの手を掴みながら起き上がり、少し悔しそうに言った。


「僕の目にも若干見えたよ。人型であることは確認できたし……」


杏果の証言を聞いた遥樹は、次に黒いローブの人影が逃げた方を見る。ただ視線を移しただけでなく、凝視するように、じっと。

その瞳は、いつもの彼とは少し違った。神々しく輝く間の瞳の中に浮かぶ、複雑な形をした十字架。

少しすると遥樹はすぐに視線を外した。


「間違いないね。相手は魔族だ」

「何でわかった……と言うより、何見てたんだ?」

「僕は聖属性魔力を有している魔導師だからね。肉体強化の応用を目に使ったのさ。完全に見極めることはできないけど、魔属性魔力を有しているのか、有していないのかは見ることができる」

「便利だな」

「……あらゆる属性を見極めることができるのならね」


将真の感嘆に対して、遥樹はらしくもなく卑屈そうに吐き捨てた。

暫く臨戦態勢をとる将真たちだったが、どうやら再びの襲撃は今の所なさそうだ。


「……よし、気を取り直して急ごう」

「おう」


遥樹の促しに応じ、将真たちは今度こそ洞窟へとすぐさま駆けつける。

そこで、美緒小隊も目にしたのであろう、恐ろしい光景が広がっていた。


「ゴァァァア!」

「うおぁっ⁉︎」

「ひぃっ!」

「なんでこんなところにガーゴイルがいるんすか⁉︎」


思わぬ再開に各々驚愕の声を上げる莉緒小隊。だが、それは何も彼女たちだけではない。授業や調べ物程度でしか遺跡の事を知らない生徒だ。なまじ知識だけが中途半端にあるため、余計に驚いているはずだ。

遺跡に出るはずのガーゴイルが、洞窟に入ってすぐに現れていることに。


「これがガーゴイルだってか⁉︎」

「随分きしょい顔してるね」

「こいつら遺跡で出るんじゃないの⁉︎」


杏果小隊も、文句を言いながら足を前に進めている。なんだかんだ言いながらも、この程度を苦にしないあたり、やはり杏果たちも実力者揃いだ。

ちなみに遥樹小隊は、始め少し驚いていたものの、殆ど動じていない。

遥樹と紅麗が、真那を守るようにして戦っているが、何故真那は戦わないのか。

その理由は、すぐにわかることとなる。


「将真さん、遺跡ってここからだとどの辺にある?」

「俺に聞かれてもな……」

「多分、位置的には遺跡のちょうど上っすよ、今の自分たちは」

「ありがとう。じゃあとりあえず離れて」


真那は軽く忠告をすると、生成した巨大な重火器を地面に突き立てる。そして__


「__発射ファイア

『っ⁉︎』


轟音と共に撒き散らされる衝撃波。爆風。そして地響き。

まともに立っていられなくなった将真たちは、その場で尻餅をついたり転んだりしたが、はじめからわかっていたらしか遥樹と紅麗は体を屈めていたためダメージはなさそうだ。2人が真那を守っていたのは、どうやらこの一撃を放つためのチャージをさせるためだったらしい。

砂埃が晴れると、底なしとしか思えないほど深く、暗い穴が下へと続いていた。


「時間短縮。こっから降りる」

「んな無茶苦茶な……」


流石、遥樹と共に戦う少女だ。規格外としか思えない。

だが、今はより早く目的地につけることに感謝だ。

1番下まで降りて見ると、どうやら遺跡の第5階層すらぶち抜いたようで、一気に第6階層へ。しかも、ミノタウルスの出現がなかったために、すぐに第7階層へと駆け下りる。


その惨状は、凄まじいものだった。


「このフロア、一体……」

「__将真くん、危ない!」

「っ__⁉︎」


第7階層の異様な様子に目を奪われていた一同は、その場所が暗いと言うこともあって、襲撃に気づくのが遅れた。

相手の進行方向からして、普通は1番前のものが狙われやすいはずなのだが、まっすぐに向かってくる人影は、相当な速度で中隊に肉薄。その合間を縫うように駆け抜け、将真に一撃、あびせようとした。

リンの呼びかけがなければ、攻撃を受けていたかもしれない。

だが、その人影は攻撃を躱されても気にすることもなく、第2撃を打ち込んでくる。

将真も咄嗟に剣を生成し、対抗する。

ガキィッ! と金属音が響き、火花が散る。その火花が一瞬、2人の顔を照らして__


「……嘘だろ?」


将真は、その顔を見た瞬間、表情を強張らせた。

おそらく、全員がその原因に気がついているに違いない。火花に照らされて露わになったその顔は。


「__猛?」


今回の任務の目標、美緒小隊の救出。その助けるべく美緒小隊の1人。

御白猛だったのだから。

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