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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第43話『嫌な予感』

美緒小隊が遺跡へ向かって約1週間が経っていた。

向こうからは特に音沙汰無いが、莉緒を始め、特に誰も心配していなかった。

これは皆が薄情というわけではなく、単に心配する必要がないくらいの実力が美緒たちにある故だ。


今日は休日。

先日の任務以降、莉緒小隊にとっても習慣となってしまった事がある。そして3人は今、その場所へと向かっていた。


「__あ、しょうまにいちゃんだ!」

「リンちゃんもいるー!」

「にんじゃ!」

「自分の名前忍者っすか⁉︎」


到着と同時に、外で遊んでいた子供達から熱烈な歓迎を受ける。


以前受けた、孤児院の子供たちの子守の任務。

その時に将真たちは随分と懐かれてしまったのだ。加えて、意外と良い息抜きになった事を思い出して、翌週も顔を出して見たのだが、その時もいい気分転換になった。

殺伐とした外での任務とは違い、戦争とは無縁とも思える平和なこの環境は、心安らぐものがある。

何より元気な子供たちを見ているのが楽しみになっていた。


結果、ここにくるのが習慣になりつつあった。


「やあ、今週も来てくれたんだね」

「なんて言うか、俺たちにとってももうこれが普通になりつつあるんだよな」

「まあ来てくれると助かるわ。やっぱり人数多い方が、負担も軽くなるからね」


例の如く、既にいた遥樹小隊の3人は子供達のいいおもちゃだ。特に真那は、相変わらず振り回されてばかりのようで、毎週同様に困惑していた。


「そう言えば、僕たち生徒でも遺跡の探索をしていい事になったって聞いたよ?」

「らしいな。まあ柚姉が美緒たちと妙な約束してたらしくて、そのトップバッターをあいつらに任せたらしいけど」

「君たちが行った時は結構危険だったんだろう? 第5階層以降があるって聞いたし、それってつまり高難易度任務だよね?」

「でも改めて考えて見たらそこまでやばくはなかった気がするんだよな。だから、あいつらならいけるんじゃないか? まだ連絡ないけど、どうせあの3人なら何事もなかったかのように攻略して戻ってくるって」

「いや、そんなに簡単なわけないからね?」


むしろ心配しようよと紅麗が呆れたように言った。

だが事実として美緒小隊は、将真の所属する莉緒小隊よりも上だ。

隊長の強さは五分五分。問題は残りのメンバーにある。今はリンが不調だし、そうでなくても将真は魔導師としては猛に及ばない。認めるようで癪だが、彼らの実力は確かだ。

何より、強さを求める姿勢が貪欲なのだ。特に美緒と猛が。そしてそれもまた、美緒小隊が実力をあげている1つの要因とも言えるだろう。


だから、美緒小隊が負けるところなんて想像できなかった。余程のことがない限り、負けるはずがないのだ。


__やべっ、今フラグ立ったかも。


そんなはずはない。仮にしくじったとしても、引き際を見誤る事など彼らに限ってないはずだ。

どうなったところで、彼らは無事に帰ってくる。将真はそう考えている。


考え事に耽っていると、不意に遥樹が肩を叩く。


「何だよ」

「久しぶりに、手合わせしないかい?」

「……随分やる気じゃん。むしろ頼みたいところだけどさ」

「君の今の強さをある程度知っておきたくてね。少しばかり本気でやりたいから、都市外に場所を移そう」

「……わかったよ」


本気、と聞こえたのは空耳だろう。

一瞬引きつった顔を、何事もなかったかのように元に戻し、将真は1番近くにいた莉緒を呼ぶ。


「何すか?」

「ちょっと遥樹と外でてくるから、留守頼む」

「ん、了解っす。とは言え、あんまりのんびりしすぎないでくださいっすよ?」

「おう」


返事を返し、将真は先導する遥樹の後を追って都市の外に出た。




遥樹の武装は剣だが、その戦い方は主に2パターンだ。

普段は他のみんなと同様に、魔力で武器を生成している。

それだけでも、遥樹がやるだけで魔導器クラスの武器になるのだが、彼が本気でやる時のみに持ち出す武器がある。


それが、彼の持つ彼専用魔導器『擬似聖剣カリバーン』だ。


そして今、目の前でカリバーンが、恐ろしい勢いで振り下ろされる。


「ぅおあっ⁉︎」

「フッ__」

「チッ……!」


振り下ろしを紙一重で躱した将真だったが、安心する暇もなく追撃がくる。

遥樹の切り上げが直撃しそうになったところを、ギリギリのタイミングで迎撃に成功するが、体制も悪く、武器の強度は遥樹と比べるとかなり低い。魔力で武器を作ることは可能だが、それは魔導器と比べるととても脆いのだ。

結果として、武器は粉砕され、その勢いで将真は不安定な体制のままで吹き飛ばされ、受け身も取れずに地面を転がる。


「いっ……てぇ〜」

「ほら、もう少し頑張って。まさかこれで終わりなんて事はないだろう?」

「この野郎……」


遥樹の軽い挑発は、だが実力差のせいで嫌味に聞こえるほどだった。

実際、実力差は大きい。魔導師としては敵うはずもなく、魔王の力を持ってしても遥樹がその気になれば将真に勝ち目はない。

それでも、彼の言う通り、この程度で終わらせるつもりはない。そもそも、少し本気でやるためにわざわざ都市の外まで出てきたのだ。こんな体たらくで終われるはずもない。

数少ない、学年最強と本気で手合わせができるチャンスなのだ。物にすれば、さらなる成長が望める事だろう。


将真は再び剣を生成して構え直す。

その刃を、魔属性魔力が高濃度で包んでいった。やがてそれは、長く鋭い刃となる。


対する遥樹は、冷静なままだ。

手にしたカリバーンを上段に構えて、膨大な量の魔力を溜め込んでいく。


「光を束ね、生まれ出でる聖なる輝きよ。今ここに、必滅の一撃を__神技『聖剣エクスカリバー』ッ!」

「くらえっ、“黒断くろたち”!」


両者の巨大な魔力の刃が衝突。

あたりに衝撃波が散らされ、地面が捲れあがり、瓦礫となって巻き上げられる。

だが、その均衡が保たれたのはそう長い間ではなかった。

将真が、遥樹の勢いに負けたのだ。


「う、お? __おおおぉぉぉぉぉぅ⁉︎」


聖剣の一撃がすぐ目の前まで迫り__炸裂した。

瞼を閉じていても目を焼くような眩しさ。圧倒的な光のエネルギーを将真はその身に浴びた。

それでも無事だったのは、遥樹が当然、手を抜いたからだ。聖属性の神技。彼が本気だったのならタダでは済まない。

とはいえ、今一太刀を交えたのを最後に、将真の体力が尽きた。もう今回はこれ以上戦える見込みがなく、大の字になって地面に寝転がる。


「チクショー、結局負けかよ……」

「いや、でも確実に強くなってるよ。前やったときは魔導師としてじゃなかったからね」

「魔王の力使ってもお前に勝てなかったしな」

「相当なものだったけどね。その時の記憶は曖昧なんだろう?」

「そうなんだよな」


その原因はおそらく、魔王の力の使用時間と、無理に限界以上の力を引き出そうとした結果だろう。暴走したせいで、記憶は霞がかかったように不明瞭だ。

更に、負担もかなりのものだった。拘束されていた期間があったが、実際のところその拘束に意味があるのかと疑問を覚えるほど、体がピクリとしか動かなかったのだから。


やはり魔王の力は、迂闊に使っていい力ではない。


「まあ、この前暴走した君とは互角くらいだったけど、魔導師としての君はそう大したことなかったから、あの時と比べたらとても強くなっている。これは世辞なんかじゃない。事実、今回の手合わせは少し楽しめたよ」

「あー、まあ手合わせとは言わないだろうけどな。このレベルになると」


改めて周囲を見渡して、将真は引きつった笑みを浮かべた。

あちこちがひび割れ、陥没する大地。なぎ倒され、刻まれた木々。瓦礫の山。これを生み出すほどの戦闘が単なる手合わせだったら恐ろしい。

そして、その中で何事もなく立っていると言うある意味異常な光景に視線を移し、その人物を見て将真はため息を漏らした。


「……てかさ。なんで紅麗がいるんだ? 孤児院はどうした?」

「今更ね」


確かに今更だった。

何せ彼女は、初めから見ていたのだから。あの戦闘を至近距離で見ていたにも関わらず、擦り傷一つ負っていない。やはり彼女も化け物じみた魔導師だ。


「孤児院は任せてあるわよ。遥樹の悪い癖がまた出たのかと思ったけど、今回は平気みたいね」

「悪い癖って」

「あぁ、確か隠れ戦闘狂なんだっけ? 遥樹って」

「戦闘狂ってひどいな」

「はたから見たらそう見えるの」


苦笑気味に抗議する遥樹だが、その言葉には説得力があまりない。

以前将真が追われ身となったときに遥樹と対峙したときは、魔王云々小難しいことは関係なく、力試しがしたくて戦闘をふっかけてきたのだ。

理由はわからないが、時折疼いて、無性に戦いたくなるらしい。

それは分かっていたことだ。だから、そうではなく。


「紅麗さ。お前実のところ、面白そうだから見にきただけだろ」

「なーんだ、気づいてたんだ」

「やっぱりな……」


どうせそんなことだろうとは思っていたが。


久しぶりに全力を出した事で、将真も遥樹も不完全燃焼という事にはならなかった。実力差のせいで、将真はろくに動けないほど疲れているが、それでもしばらく休めば満足に動けるようになるだろう。

そんな時、紅麗の端末に通信が入った。


「……あら、リンたちが呼んでるみたい」

「お前をか?」

「私もだけど、あなたたちもよ」


紅麗の端末に送られてきたのは一通のメッセージだ。その内容は、早く戻ってこい、という旨のものだった。

時間を確認すると、かれこれ1時間くらい2人で手合わせしていた事に気がつき、流石に将真も、少し呆れた。


「そんなに長いことやってたのか……。じゃあさっさと戻るか」

「動けるかい?」

「まあ……問題ねーよ、と!」


重い体を、勢いをつけて起こして立ち上がり、大きく伸びをする。やはり少し動くのはまだ辛いが、動こうと思えば無理と言うほどではなかった。

遥樹と紅麗にペースを合わせてもらいながら、将真は可能な限り早く孤児院へと帰路に着いた。




「__で、なんでお前らがいるの」

「そう言われても」


孤児院に帰ってきた時、はじめに視界に移ったのは、やはりと言うべきか外でリンたちと戯れる子供たちの姿だった。

だが、子供たちの相手をしている人数がやけに多く感じた。そうしてよく見てみると、3人増えていた。

杏果と響弥と静音。杏果小隊が新たに加わっていたのだ。


「任務かなんかか?」

「当たらずとも遠からず、ね」

「お前ら莉緒小隊と遥樹小隊を呼びにきたんだよ。学園長が話しあるって言うからさ」

「柚姉が?」


杏果たちの話を聞くと、なんでも新しい任務が入ったらしく、しかもそれは中隊でこなすものらしい。その為に柚葉が呼んでこいと言ったらしい。


「しかし僕らが中隊か。初めての経験だな。君たちは確か、中隊のチームも作っていたよね」

「まあな。いつもは俺ら莉緒小隊とこいつら杏果小隊と、そんで今遺跡の探索に出てる美緒小隊が、ここに、加わって……」

「……将真くん?」


突然フェードアウトしていく将真を不安そうな目で見るリン。だが、将真はそれを気にしている余裕がなかった。

今回呼ばれた任務の内容に、予想がついてしまったからだ。

冗談じゃない、と焦燥を覚えながらも、将真はみんなの方を向いた。


「おい、今回の任務ってまさか……」

「え?」

「……あ」


将真の態度に、その中身を察した者もいた。

今回の任務。それはおそらく、いや間違いなく__




「__美緒小隊を、助けに行って欲しいの」

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