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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
地下遺跡の激闘
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第41話『紅麗の回想』

女子組(子供たちと遊んでいた真那は除く)がガールズトークに花を咲かせていたその頃、2人は順調に調理を行なっていた。

と言っても、作るものはカレー。将真にとっては大したことのない、簡単なものだ。

そしてそれは、遥樹にも言える事だったらしい。


「お前、飯作れるたのか……」

「意外かい? これでも1人で生活するための能力くらいは十分に持ち合わせているとも。ただ戦うだけじゃとても生きていけないしね」

「それは言えてるな。ていうか、この野菜どこのだ? 店のじゃないよな、妙に新鮮っていうか、採れたて感があるっていうか……」

「ああ、それは孤児院の庭の小さな菜園で作ってる野菜だよ」

「そんなんあんのか⁉︎」


孤児院について特にこれといった知識がない将真は驚いてばかりだ。そんな将真を、面白そうな表情で遥樹が見ていた。


「君たちが来る前に、みんなでとったのさ。ここは僕の一家が援助している施設だからね。小さな庭とはいっても、設備は驚くほど充実してるよ。だから季節に関わらず野菜が取れるってわけさ」

「確かに、この厨房……厨房でいいのか? とにかくここも、やたら充実してるしな」


こんな立派な厨房が、本当にちゃんと使われているのだろうか。そう思うと、無駄なところにも力が入っているなと思わずにはいられない将真だった。


「でも実際驚いたぜ。お前、風間の次期当主なんて言うから、てっきりボンボン何じゃないかと思ってたんだが」

「残念ながら、僕が次期当主に決まったのは7年前だったかな。だから、生まれついての次期当主ではないよ。……以前はいたんだ。僕よりも優秀な、次期当主候補がね」


将真は、遥樹の声音の変化が気になって、振り向いて彼の表情を見る。その顔は、少し誇らしげで、そして哀しげだった。


「兄と姉がいるんだ。姉は今年、自警団に入ったばかりでね。兄は次期当主だった。今は消息不明になってるけどね。お陰で僕はあまり期待されていなかったんだ」


その言葉に、驚いて目を見開く。

学年最強、学園でも剣で彼に敵うものはいないと言われるほどの天才が期待を寄せられないほどの魔導師。

それは一体、どんな人物なのだろう。


「やっぱり、強いのか?」

「強かったよ。まだ高等部にいた頃の兄は、二年生の時点で既に学年、学園序列共に3位だった」

「マジで⁉︎」


遥樹が高等部1年生で学年トップなのだ。彼の兄が学年でトップクラスと言うのは別段おかしくはない。

だが、学園序列も同様に3位と言うのは尋常ではない。しかも、将真はさらに恐るべきことに気がついた。


「てことは何か? つまり、同じ学年に、お前の兄貴より強かった、学園トップの化け物が働いたってことか?」

「そうだよ。彼らは3人の小隊を組んでいて、自警団の小隊すら霞みかねないほどの実力を持っていたそうだ」

「スゲェな……」


素直に感心する将真を見て、遥樹は小さく吹き出した。


「何だよ?」

「まだ気がつかないみたいだね。じゃあ大きなヒントだ」

「は? ヒント?」

「うん。彼らはね、学園長の1つ年上なんだ」

「へぇ、柚姉の先輩か。……ん? あれ?」


今、凄く重要な何かをつかんだ気がする。


「……あ」

「気がついたかい?」

「あああああっ!」


思い出せそうな何かを完全に思い出した瞬間、将真は思わず包丁を放り投げた。危険極まりないが、そのことに気がつく様子もない。


「柚姉の一個上のトップ3人っていったら……!」


いつか、柚葉に聞いた話を思い出す。

そう。まだ高等部に上がったばかりの彼女には、当時学園最強と呼ばれた1つ上の先輩たちがいた。


「うん。1人は僕の兄。もう1人は、自警団の団長。そして最後の1人は__当時、学園最強の生徒と言われていた日比谷樹」

「柚姉の、恋人じゃん……!」


まだ気がつかないのか、とはよく言ったものだ。

確かに分かりづらく、また少なかったが、彼の話の中にはヒントがあったのだ。

7年前。

それは、日本都市で起きた最悪の事件。最悪と言われながらも、犠牲者はたったの1人で済んだ、悲しい事件だ。


「あの時、兄も消息を絶っていてね。もう死んでいるんじゃないかと言う意見が妥当なんだ。それで、当主に着くかがない姉に変わって、僕が次期当主と言うわけさ」

「お前も色々抱えてんのな。……ところでさ」

「うん。なんだい?」

「……なんでこんな話ししてたんだっけ?」

『……』


時計が正午を過ぎた辺りで、カレーは完成したのだった。




「私だって、初めからあいつのことが好きだったわけじゃないのよ」


むしろ初めは嫌いだった、と紅麗は言った。

紅麗が、ポツポツと語り始める。


彼女の生まれは、魔王軍側だった。

攫われた人間の母と、攫った人間の女性たちを、欲望のままに蹂躙した吸血鬼の父。その2人の間に生まれた、ハーフだった。

もちろん、紅麗と同じ境遇の子供は少なくなかったが、紅麗は特別、吸血鬼の貴族である父の血を色濃く受け継いでいた。そのため、魔王軍の実験体モルモットとして、色々な苦痛を味あわされていた。

そんなある日、それを見かねた母が、命懸けで紅麗を外の世界に逃した。

もうその時のことは詳しく覚えていないらしいが、紅麗が今もこうして生きているのは、母のおかげだったのだ。


やがて幼かった紅麗は、日本の領域に入り、自警団に捕縛される。

その後はしばらく尋問を受けていたが、紅麗の生きたいという意思と切実な懇願を、彼らは信じた。何せ、尋問の場には、自警団トップが全員揃っていた。子供の嘘など即座にバレる。だからこそ、嘘をついてはいない、ということがわかってもらえたのだ。

結局のところ、自警団トップである彼らがいたからこそ、信用されたというのが大きいだろう。


能力は、非常に高かった。

吸血鬼の貴族の子供ということもあって、日本にとっては貴重な、生まれつき魔属性魔力を有する魔導師となり得る可能性を見出された彼女は、すぐに学園へと入れられた。

だが、生徒たちは、彼女を簡単に受け入れてはくれなかった。

魔族に対して、恐怖や憎しみを覚えるものは少なくない。それが子供であるならば、むしろ当然なのかもしれない。

初め、紅麗は何もしなかった。

魔族を恐れる気持ちはわかるし、半分とはいえ自分にその血が流れているのだから仕方がない。年の割に大人びていた彼女は、初めこそそう思って耐えてきた。

次第に、子供達の残虐なやり方に耐えられなくなった紅麗は、虐げてくる生徒全員を、徹底的に叩き潰した。


「どう思われたって私の知ったことじゃない。悪いのはお前らだ」


元より荒んでいた紅麗の心は、他者を受け入れられなくなっていた。


心境の変化が起き始めたのは、中等部に上がってからのことだった。

進級してすぐに行われた序列戦。

高等部と比べるといくらか優しく、相手を必要以上に傷つけてはいけないといったルールが存在する。

だが、紅麗にそれを守るつもりはなかった。

初めの相手を叩き潰す。必要以上に叩き潰す。

他者との関わりなんてどうでもいい。自分の力を、存在を示してやる、と。


結果は惨敗だった。


指一本触れられなかった。

そして同時に、手加減されていることがありありと感じ取れた。

ムキになった紅麗が飛びかかったところをうまくいなされ、組み敷かれて首筋に手刀を押し当てられ、相手は言った。


「僕の勝ち、だね」

「〜〜〜っ!」


舐めていた、というのはあるだろう。

たが、例え舐めていようと、紅麗の強さは魔族由来のものだ。たかが中等部の生徒ごときで敵う道理はない。

敗因は単純な事だった。


相手が悪かったのだ。


現時点で高等部の生徒にすら届くほどの実力を持っている、中等部で初めて紅麗が戦った相手。

それが、風間遥樹だった。

当時の彼にはまだ子供っぽさが残っていて、少し気取ったような印象もあった。

なにより、自分をああも容易く撃退してくれた彼に対して、いい気分でいられるはずなどない。

紅麗は初め、遥樹が気に食わなくて、嫌いだった。


次第に強くなって、何度か彼と模擬戦をする機会はあった。だが、いずれも勝てたことは一度もない。多少は差が縮まったという感覚はあれど、遥樹は未だはるか高みにいるのだ。


そんなに嫌いだった相手を、とある事件をきっかけに、好きになってしまったのだ。


日本都市は結界によって守護されている。魔族の侵入を許すなど、ほとんどない。

だが、皆無ではないのだ。

ある時、魔族たちが日本都市に押しかけてきたことがある。その時に紅麗は、魔族たちに連行されそうになっていたのだ。

力を使い切ったにも関わらず、ついに力が及ぶことはなく、このまままた自分は無為な存在となることを想像すると、悔しくてしょうがなかった。

もうダメだと思った時、助けてくれたのは2人組の少年と少女。遥樹と、以前から彼についている真那だった。


彼らの助けがなければ、おそらく紅麗は日本都市にはいなかった。

感謝の念を覚えると同時に、遥樹に対して、特別な感情を抱くようになった。他者が嫌いな彼女だ。それが好きだという感情に気づくまでに、随分と時間がかかったが、今ではそれを自覚している。

彼らとつるむようになってから、楽しいことも増えた。学園生たちにも、認められるようになった。遥樹の態度や気遣いが、周りの紅麗に対する認識を変えさせたのだ。


恥ずかしくて、とても自分からでは言い出せないが。

なにより単純だとも思っていたが。

それでも、紅麗は遥樹な事が、好きになっていたのだった。




「__乙女かっ!」

「うっさいわね、恥ずかしいんだからそんなふうに言わないでくれる⁉︎」

「単純っていうか、随分簡単に落ちたもんっすね」

莉緒の感想には、リンも少なからず同意していた。聞いている側も、少し恥ずかしくなってきていた。

「遥樹くんが強くて優しいのは、多分みんな知ってるよ」

「まあ確かに、遥樹さんはルックス抜群で、余裕のある性格が女子の人気を集めてるのはわかるっすけど」

「違うから! 私、そんな適当な気持ちなわけじゃないから!」

弁明するように焦る紅麗の顔を、莉緒はニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべる。

「あぁぁ、もう良いわよ!」

怒った紅麗は、勢いよく立ち上がったかと思うと、少しの間席を離れる。

次に戻ってきた時には、二杯目のカレーが多めにつけられていて、それを紅麗がヤケクソ気味に食べ始めた。

その子供みたいな行動に、リンと莉緒は顔を見合わせてクスクスと笑う。

話を聞くのに夢中になっていたリンと莉緒は、食べていなかったカレーを口の中に運んだ。


将真と遥樹の合作カレーは、とても美味しかった。

『表世界』で自分の事は自分でやってたうえに学習能力高い将真と、一般人にできる事は大体完璧な遥樹がご飯作ったらそりゃ美味いでしょうね。料理できる男子はモテるらしいけど、僕はほとんどできないしやりません。

ちなみにリンたち女性陣は料理の心得無いんだよね。リンのみ将真に教えられて少しずつ上達してる(という設定)。

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